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中国の「不戦而勝」戦略に勝つための処方箋 米国を中心とした対中連合でサラミスライスを許さない姿勢を
http://www.asyura2.com/16/warb17/msg/794.html
投稿者 赤かぶ 日時 2016 年 6 月 03 日 00:38:15: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

伊勢志摩サミットで採択された首脳宣言は南シナ海情勢に言及し、緊張が高まっている現状に「懸念」を示した。写真は協議に臨む各国首脳(2016年5月27日撮影)(c)AFP/Carolyn Kaster〔AFPBB News〕


中国の「不戦而勝」戦略に勝つための処方箋 米国を中心とした対中連合でサラミスライスを許さない姿勢を
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46991
2016.6.3 渡部 悦和 JBpress


 本稿は、4月20日付の拙稿「中国への見方を大きく変えた米国、日本は再評価:2030年のグローバルトレンドと日米対中国戦略」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46626)の続編である。


 前稿では元太平洋軍司令官デニス・C・ブレア大将の論文“Assertive Engagement:AN UPDATED U.S.-JAPAN STRAREGY FOR CHINA(主張する関与:最新の米国および日本の対中国戦略)”を紹介し、その中国認識と日米共通の対中国戦略「主張する関与」について紹介した。


 ブレア大将は、米国の同盟国としての日本の重要性を深く認識した上で、日米同盟関係を背景として「日米共通の対中国戦略を構築すべきである」と主張している。


 わが国にとっては非常にありがたい主張であると同時に、日本の真価が問われる厳しい主張でもある。さて、本稿ではブレア論文などを踏まえて、前稿で予告した具体的な対中国戦略についてその一端を、特に南シナ海情勢を焦点に紹介する。


1 台頭する中国への対応は米国を中心とした対中連合が基本


 中国は、海洋強国を宣言しているが、一帯一路構想などを見ると大陸国家と海洋国家の二兎を追っているように思えてならない。


 しかし、アルフレッド・セイヤー・マハンが主張するように大陸国家と海洋国家の両立は難しく、中国は大風呂敷を広げすぎてしまっているのではないかというのが筆者の評価である。


 また、中国は東シナ海と南シナ海の2正面作戦を実施している。わが国は、尖閣諸島を巡り中国と領土問題を抱えるが、東シナ海の問題は南シナ海問題と密接不可分な関係にあることを認識する必要がある。


 わが国は、東シナ海問題を巡り単独で中国と対抗する愚は避けるべきであり、米国などと協力して中国の2正面作戦を余儀なくさせ、その弱点を利用することが重要である。


 中国は、南シナ海で九段線を根拠に過大な領土要求を実施し、人工島を建設しその軍事拠点化を進め、米軍の航行の自由作戦にも抵抗するなど確かに手強い。


 手強い中国に対しては、米国でさえ単独で対応するには荷が重く、米国を中心とした対中連合(coalition)で対処することが基本戦略となる。その連合は、米国を中心として日本、オーストラリア、フィリピン、ベトナム、インドネシア、マレーシア、台湾などで構成すればいい。


 中国は、現在、経済の失速に伴う諸問題に直面しているし、権力闘争も激化している。過去の経済力、特にお金の力を利用した膨張的な対外政策は曲がり角に来ている。さらに、中国は、領土問題を抱える周辺諸国すべてと対立関係にある。


 米国を中心とする対中連合により、中国の強圧的な政策をより協調的な政策に転換させる必要がある。


 以上が筆者の基本的な認識であるが、この認識は日本政府が現在実施している諸施策と一致していると思う。


 伊勢志摩サミットにおいて、中国の強烈な反発を受けながらも東シナ海問題や南シナ海問題を討議したことに賛辞を送りたい。そして、バラク・オバマ米大統領のベトナム訪問とベトナムへの武器輸出禁止の解除は対中連合形成にとって大きな成果である。


 以下、日米共通の対中国戦略について説明する。


2 不戦而勝(戦わずして勝つ)


 本稿においては、「不戦而勝(ふせんじしょう)」(中国語で「不战而胜」)をキーワードとして、中国の強圧的な台頭にいかに対処するかを考えてみる。


 「不戦而勝」は、孫子の兵法の「戦わずして勝つ」を出典とするが、中国の専売特許ではなく、米国をはじめとして多くの国で活用されている。なぜなら、不戦而勝は各国の抑止戦略そのものであるからである。


 冷戦終結後の戦略環境では、経済的な相互依存関係などにより大国間の戦争の蓋然性が低下していると言われている。


 軍事力を使った戦争が不可能であれば、各国はいかにして自らの国益を防護し実現していくか。その方策が「戦争には至らない手段を駆使して相手を屈服させる」戦略、つまり「不戦而勝」戦略なのである。


 中国は、米国との決定的な軍事衝突を避けて、目的を達成しようとしている。現時点で、中国の軍事力が米国の軍事力よりも劣っていると認識しているからである。


 私が注意喚起したいしたい点は、中国はぶれることなく長期にわたり「不戦而勝」戦略を貫徹している点である。だから手強いのである。


 日本をはじめとする民主主義国家においては、政権が交代するたびに安全保障政策が変わり、長期にわたる一貫した安全保障政策の追求が困難である。しかし、マイケル・ピルズベリーが「100年マラソン」で指摘するように、中国は100年単位の長期的スパンで終始一貫した政策を追求してきたのである*1。


 中国は、「不戦而勝」の考えに基づき、軍事力の直接的な使用を避け、非軍事的な手段を用いて中国の国益を追求する戦略を採用している。


 その具体的な方策が、地経学(geoeconomics)、サラミ・スライス戦略(salami-slicing strategy)、「戦争には至らない準軍事的作戦」[POSOW(Paramilitary Operation Short of War)]、サイバー戦、三戦(世論戦、心理戦、法律戦)などの活用である。


 前述のブレア論文のみならず、ワシントンDCに所在する著名な安全保障関係シンクタンクの各種論文、例えばCSISとSPF USA共同の“The U.S.- Japan Alliance to 2030”、ランド研究所の“The Power to Coerce”*2(強制のためのパワー)、カーネギー国際平和基金に所属する戦略家アシュレイ・テリスの“Balancing without Containment*3”などの対中国戦略の結論も不戦而勝である。


 そもそもこれらの論文の前提が「戦争以外の方法で中国の強圧的な台頭をいかに抑止し、いかに対処するか」であるがゆえに、経済、外交などの非軍事的手段を使った活動などに焦点を当てた政策が多い。結果的に中国の「不戦而勝」と米国の「不戦而勝」の戦いの構図となっているのである。


 米国における戦争以外の方法で対中国戦略を考えるトレンドの背景には、オバマ大統領の対外政策の特徴である「世界の諸問題の解決において、まず外交などの非軍事的な手段で対処し、軍事力の使用を努めて避ける」という方針があると思う。


 このオバマ大統領の非軍事的な手段による問題解決には米国内でも賛否両論がある。


 ブレア論文をはじめとした各論文に共通するのは、オバマ大統領の対中国関与政策が軟弱すぎて効果的ではない、より強い関与政策が必要であるという主張である。


 オバマ政権7年半にわたる対中政策は、中国の「不戦而勝」戦略により、特にサイバー戦および南シナ海問題において敗退してきたというのが筆者の結論である。


 それでは今後、いかなる不戦而勝戦略をもって対処すべきかを考えてみたい。まず、ランド研究所の“The Power to Coerce”の論文を紹介しながら議論を進めていく。


*1=Michael Pillsbury、“The Hundred-year Marathon”


*2=David C. Gompert、Hans Binnendijk、The Power to Coerce、 RAND Arroyo Center


*3=Ashley J. Tellis, Balancing without Containment, Carnegie Endowment for International Peace


3 強制力(P2C)の活用(ハードでもソフトでもない第3のパワー)


 ランド研究所の“The Power to Coerce”に記述されている「目的達成のためのパワー」(下図1を参照)を見てもらいたい。


 パワーを単純に区分すると、ハードパワー(軍事力)と、ソフトパワー(文学・美術・教育などの文化、民主主義などの価値観、国家が採用する人権政策などの政策)になる。


 しかし、ランド研究所のユニークな点は、強制力(P2C:Power to Coerce、例えば経済制裁などの地経学的手段)という造語を導入した点であり、このP2Cを不戦而勝の手段として駆使しようというのである。


 米国の意思を中国に強要するために、ハードパワーである軍事力を使い戦争を実施するという選択肢はあるが、ハイリターンの可能性がある一方で、あまりにもハイリスクでハイコストであり、現時点で採用できない選択肢である。


 ソフトパワーは、ローリターンであるが、ローリスク、ローコストであり、各国において頻繁に使用されている。


 P2Cは、その中間で、ハイリターンであるが、ローリスク、ローコストで必要な時にいつでも実施できる非暴力の手段で、時に軍事力の代替となり得る。


 P2Cの手段としては、地経学的な要素が中心で、例えば経済制裁、兵器・技術の禁輸、エネルギーの供給または停止、攻撃的サイバー戦、海上阻止行動、敵の敵(Adversaries’ Opponents) に対する支援(例えば、中国と南シナ海の領有権を争うフィリピンに対する支援)などである。


 P2Cは、平時において我が意思を相手に強制することのできる有力なパワーである。
     

図1「目的達成のためのパワー」出典:The Power to Coerce


4 地経学(Geoeconomics)による対処


 ここで、P2Cの代表的な手段である地経学的手段について考えてみる。


 地経学は、地政学と共に長い歴史を持ち、国家安全保障戦略の重要な要素である。最近、地経学の重要性が再認識されているように思う。例えば、オバマ大統領が多用する経済制裁の発動(クリミアを併合したロシアに対する経済制裁)や経済制裁の解除(イラン核合意に伴う経済制裁の解除)はその典型例である。


 そして、地経学の復権を象徴するかのように、著名なシンクタンクCFR(Council on Foreign Relations:外交問題評議会)に所属するロバート・ブラックウィル(Robert D. Blackwill)とジェニファー・ハリス(Jennifer M. Harris)*4の共著で出版された“ War by Other Means(他の手段による戦争)”は読むに値する良書である。以下、“ War by Other Means”を紹介しながら対中不戦而勝戦略を考えてみる。


●地経学とは何か?


 地経学とは、「国益を増進し防護するためおよび有益な地政学的結果を得るために、経済的手段を使用することや、ある国の地政学的目標に対する他の諸国の経済的活動の効果*5」を研究する学問である。


●主要な地経学の手段


 貿易政策、投資政策、経済制裁、サイバー戦(例:中国が米国などの企業秘密を窃取するために実施しているサイバー戦による情報窃取)、経済援助、財政および金融政策、エネルギーおよび商品(commodities)を管理する国家政策(例:ロシアが欧州に対する天然ガスの供給を政治的理由により50回以上停止した)、主要な地経学的資質(例:対外投資をコントロールする能力、国内市場の規模・国内市場をコントロールする程度)


●地経学に基づく政策的処方箋


 ブラックウィルとハリスは、20もの地経学に基づく処方箋を提示しているが、主要なもののみを列挙する。


 米国の力強い経済成長、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の批准、政治的・軍事的脅威に焦点を当てた同盟国の地経学的行動、中国に対処するための長期的な地経学的政策の構築、国家が主導する地経学的なサイバー攻撃への対処である。


 以上のような地経学の政策的処方箋が平時における対中国戦略の中心になる。そして、平時から有事までを含んだ国家安全保障戦略の重要な政策になるのである。


●中国による地経学的手段の活用


 中国こそ経済力を徹底的に利用した地経学的手段を使った対外政策を行っている国家である。例えば、北朝鮮に対する経済支援(石油や食糧)は、北朝鮮の崩壊阻止や中国の影響力の保持などを狙いとしていて、朝鮮半島情勢に大きな影響を及ぼしている。


 わが国に対しても何度も経済制裁などを実施してきた。


 例えば、2001年の小泉純一郎首相の靖国神社参拝に反発して、日本車の輸入を年間40〜60%削減した。尖閣諸島における漁船衝突事件(2010年)に対する報復として、日本に対するレアアースの対日輸出制限を実施した。


 2011年には日本企業の生産拠点と技術の中国への移転を強要する為に再度レアアースを手段に使った。2012年の尖閣諸島国有化の際には、中国からの経済制裁や日本製品不買運動を受けた。


 さらに、日本の企業特に防衛産業に対するサイバー戦による情報窃取を繰り返しているが、中国によるサイバー戦はわが国にとって現在も大きな脅威となっていて対策が急務となっている。


 しかし、日本は、レアアースを武器とした中国側の攻撃に対して、代替物の開発や入手先の多様化で対応し、結果的にはその後のレアアースの暴落で中国側にも大きな損害が出た。


 また日本は、市場を中国外のベトナムなどに求めたために、中国にとってもマイナスの側面が出てきている。いずれにしろ、中国の経済力を利用した攻撃的な対外政策には、こちらも経済的要素を活用した政策で対抗しなければいけない。


●地経学に基づく具体的な対中国政策


 “ War by Other Means”と前述の各シンクタンクの対中戦略を総合して地経学に基づく具体的な対中国政策を導き出すと以下の様な政策になる。


 この政策が対中「不戦而勝戦略」の重要な要素になる。


 改めて強調するが、地経学的な政策は、日本や米国の国家安全保障戦略の核となる重要な要素であり、わが国においても政府およびNSC(国家安全保障会議)を中心として体系的かつ総合的に検討されるべきものである。


・地経学的政策に関する日米のコンセンサスの構築。日本単独ではなく、米国との協調が不可欠であり、日米のNSCなどにおける緊密な調整が不可欠である。


・強い日本経済および米国経済の維持・増進。これは地経学の基盤である。


・米国の同盟国および友好国に対する国力増強を支援[例えば、経済援助、沿岸警備隊(coast guard)の能力構築に対する支援]する。これにより中国のパワーを相殺する。


・サイバー戦能力の向上による中国のサイバー戦への実効的な対処を実施する。防御的なサイバー戦のみでは限界があり、より積極的なサイバー戦により中国のサイバー戦を抑止すべき。


・中国に対する経済制裁、特に中国のサイバー戦による情報窃取(cyber theft、cyber espionage)に対する経済制裁、WTO(世界貿易機関)の規則に違反した鉄鋼などのダンピングに対する制裁を実施する。


・中国に対する投資や技術協力を戦略的に実施する。


・中国に対して有利な経済関係を構築する。選択的にグローバリゼーション(TPPやアジアインフラ投資銀行AIIBへの関与など)を深化させ、中国が完全に市場を開放した時のみこれを受け入れる。市場を開放しなければ中国を除外する。


・中国国内の民主主義グループに対する支援を実施する。


*4=Robert D. Blackwill, Jennifer M. Harris, “War by Other Means”, Belknap Press of Harvard University Press


*5=“War by Other Means”、P20


5 中国の不戦而勝戦略=サラミ・スライス戦略にいかに対処するか?


●中国のサラミ・スライス戦略の成功


 中国の不戦而勝戦略の具体的な戦略の1つがサラミ・スライス戦略(salami-slicing strategy)であり、サラミ・スライス戦略の具体的な作戦の1つが「戦争には至らない準軍事作戦」POSOW(Paramilitary Operations Short Of War)であり、POSOWの具体的な戦術の1つがキャベツ戦術である。それぞれの戦略、作戦、戦術にいかに対処するかを考えていきたい。


 中国の不戦而勝戦略の具体的な戦略は、サラミ・スライス戦略(salami-slicing strategy)である。


 私がサラミ・スライス戦略という言葉を初めて使用したのは、2014年6月末、中華民国の国防部に招待されて国際安全保障フォーラムに参加した時であった。出典は、ロバート・ハディック(Robert Haddick)の “Salami Slicing in the South China Sea”である。


 サラミ・スライス戦略とは、1本のサラミを丸ごと一挙に盗めばすぐにばれるが、薄くスライスして盗んでいけばなかなかばれない。このように、相手の抵抗を惹起しない小さな行動を積み重ねることにより、最終目標を達成しようとする戦略である。


 南シナ海を最終的に中国の海にするために、長い時間をかけて一つひとつの成果を積み重ねてきていて、もしも米国が真面目に介入しなければ、中国の目標は達成されることになるであろう。



図2「中国の領海の主張と各国のEEZ」


 中国の南シナ海や東シナ海におけるサラミ・スライス戦略の経緯を概説する(図2参照)。


 1950年代にフランス軍の撤退に伴い中国がパラセル諸島(西沙諸島)の半分を占拠、米軍のベトナム撤退に伴い75年ベトナム軍との戦いに勝利しパラセル諸島全域を支配、80年代に在ベトナムソ連軍縮小に伴いスプラトリー諸島(南沙諸島)に進出。


 1988年スプラトリー諸島6か所を占領、在フィリピン米軍撤退に伴い95年フィリピンのミスチーフ礁を占拠、2012年にスカボロー礁において中国船とフィリピン沿岸監視船の睨み合いの末にフィリピンが撤退し、中国がスカボロー礁を事実上支配。


 2014年からスプラトリー諸島で大規模な人工島を建設、2015年から2016年にかけて人工島の軍事拠点化(3000メートル級の滑走路の建設、対艦ミサイルや地対空ミサイルの配備など)を進めている。


 これらの事実の一つひとつがスライスされたサラミの一片であり、60年以上をかけて中国の南シナ海の聖域化が進行しているのである。


 人工島については、中国のみが構築しているのではなくて、図3が示すように各国が建設しているが、その規模と機能が圧倒的に違うのである。3000メートル級の滑走路を保有することによりいかなる航空機でも離発着可能となるし、港湾の整備により大型艦艇の利用も可能となる。




図4 「南シナ海における海上監視距離」出典:AMTI、CSIS


 図4を見てもらいたい*6。各国の航空機がスプラトリー諸島の滑走路を使用した場合の飛行半径である。中国は、ファイアリー・クロス礁の滑走路を洋上監視機Y-8Xが使用したとして1000マイル、爆撃機H-6Gが使用したとして3500マイルの戦闘半径を有する。


 また、戦闘機J-11の場合は870マイルの戦闘半径を有する。人工島を利用して何が可能かを以下に数点列挙する。


・洋上監視機Y-8X、レーダー設置などによる海上監視能力の向上が期待できる。


・やがて対艦ミサイル及び対空ミサイルを配備することによりA2/AD能力の向上が期待できる。


・戦闘機部隊の訓練基地とし活用する(日本の硫黄島と同じ)。


・中国が海の万里の長城と呼ぶ海底監視網の構築の作業拠点として活用できる。


●中国のサラミ・スライス戦略への対処要領


・米国が、中国に対して越えてはいけない線(レッドライン)を明確に引き、レッドラインを越えると軍事行動を辞さないことを外交などを通じ中国に警告し続けることが重要である。


 レッドラインの設定と相手がレッドラインを越えた時の軍事行動の決意がないと、中国のサラミ・スライス戦略を打破することはできない。


 中国の狙いは、人工島を領土、その周辺12カイリを領海、その上空を領空であると主張し、その主張を軍事力で強制することである。結果的に南シナ海の大部分が中国の領海やEEZになってしまう。


 米軍のみならずすべての国家の艦船や航空機が航行の自由および飛行の自由を制限される事態になる。


 このような事態は絶対に避けるべきである。中国が尖閣諸島周辺の日本の領海内に侵入をしつこく繰り返しているが、その行動を我々も見習うべきである。


 米国が設定すべき南シナ海におけるレッドラインは、「FONOPを実施する米軍の艦艇や航空機に対する中国PLAによる攻撃」である。FONOPに対する軍事力をもってする攻撃だけは絶対に許してはいけない。


 結論として、米海軍は、航行の自由作戦FONOPを頻繁にしつこく継続することが重要である。


 オバマ大統領は、東シナ海や南シナ海におけるFONOPに関する権限を米海軍に完全に分権し、過度の統制を加えるべきではない。米海軍の行動に連携して海上自衛隊やオーストラリア海軍もFONOPを実施すると一層効果的である。


・東シナ海におけるレッドラインは、「航空機による領空侵犯および尖閣諸島への上陸」である。絶対にこの2つを許してはいけない。


・さらに、米国を中心として米国の同盟国(日本、オーストラリア、韓国、フィリピン、タイ)と友好国(インドやASEAN=東南アジア諸国連合など)で連合を形成し中国の地域覇権を抑止するべきである。


・紛争当事国であるフィリピン、ベトナム、インドネシア、マレーシアなどの対処能力の向上である。当事国自身の自助努力を前提として、日米はこれらの諸国の能力構築に協力すべきである。


・日米は、南シナ海の領土及びEEZ問題全ての多国間による解決をサポートすべきである。この行動は、中国を除くすべての関係国の支持を得なければいけない。多国間での解決は、国際規準に則った合理的な解決のための努力であるが、中国をさらに孤立させることになろう。


・日米は、伝統的な共同演習、ISR(情報・監視・偵察)を十分な頻度と規模で実施すべきである。その行動は、前例となり権利を確立することになる。


・米国は、国連海洋法条約(UNCLOS)を批准すべきである。米国はUNCLOS批准国でないために中国に十分に反対できてない。


*6=この図では台湾のP-3Cがスプラトリー諸島のItu Aba 島の滑走路を使用したら1549マイルを監視できるとしている



図5「中国のキャベツ戦術」出典:渡部作成


6 中国の「準軍事組織による戦争に至らない作戦」への対処


 中国は、サラミ・スライス戦略の一手段としてPOSOW(Paramilitary Operations Short Of War) *7(準軍事組織による戦争に至らない作戦)を南シナ海やわが国周辺海域で多用している。


 POSOWの特徴は、軍事組織であるPLAN(人民解放軍海軍)を直接使用しないで、非軍事組織(海上民兵=武装した漁民、海洋調査船)および準軍事組織(中国の沿岸警備隊である海警局)を使用して目的を達成する点にある。


 図5「中国のキャベツ戦術」を見てもらいたい。中国が得意なキャベツ戦術では、以下のような戦術がとられている。


@武装した漁民が乗った漁船で攻撃目標(例えば、フィリピンの漁船、奪取したい島)を取り囲む。


A漁船や海洋調査船の保護を名目に海警局の舟艇が漁船の周りを取り囲む、しばしば相手国の沿岸警備部隊の舟艇の活動を妨害する。


BPLAN(人民解放軍海軍)が海警局の舟艇の外側で、特に相手国の海軍艦艇を警戒監視する。


 中国のPOSOWは日米に対して極めて効果的な作戦である。POSOWは、日米の法的不備をついた作戦である。軍事組織でない漁船や海警局の舟艇に対する直接的な対応が取れない。


 最近の実例を紹介する。


 米太平洋艦隊司令官のスコット・スウィフト大将によると、航行の自由作戦を実施した昨年10月のイージス艦ラッセンと今年1月のイージス艦カーティス・ウィルバーの周辺に海上民兵が乗った船が近寄ってきて、両艦艇を取り囲んだという。


 当然ながら漁船の周辺にはPLANの艦艇がいた。2014年5月、中国が西沙諸島で石油掘削リグをベトナムとの調整なく設置した際にも、キャベツ戦術を活用した。


 それでは、キャベツ戦術をはじめとする中国のPOSOWにいかに対処するか。


 最も重要なことは、紛争当事国であるフィリピン、ベトナム、インドネシア、マレーシアなどの対処能力の向上である。


 海軍・空軍、沿岸監視部隊の能力向上などの当事国の自助努力を前提として、日米はこれらの諸国の能力構築に協力すべきである。日本のフィリピンやベトナムに対する海上保安庁の中古船舶の譲渡や売却は有力な案であるし、共同訓練による能力向上に寄与することも重要である。


*7=Mohan Malik, “America and China’s Dangerous Game of Geopolitical Poker”, The National Interest, June 18, 2014


結言


 ワシントンD.C.所在の著名なシンクタンクの提言には、オバマ政権の南シナ海などにおける対外政策があまりにも中国に対して寛容すぎたことへの批判が背景にあり、各シンクタンクの対策は中国に対し厳しいものである。


 私は、オバマ大統領の広島訪問時のスピーチに代表される高邁な人格には敬意を表する者であるが、南シナ海問題に対する米国大統領としての言動や決心には問題があると思っている。


 中国の南シナ海での強圧的行動に対するオバマ大統領の姿勢は、中国に対する配慮が強調され過ぎ、同盟国の懸念や不信感を引き起こしてきた。


 例えば、2014年4月の東アジア訪問における日本やフィリピンにおけるオバマ大統領の言動が典型的であるが、オバマ大統領はフィリピンにおいて、「我々の目標は、中国に対抗しようというものでも、中国を封じ込めようというものでもない。我々の目標は、国際的なルールや基準を尊重することであり、それは海洋における論争にも適用される。そして、我々は、国家間の論争において特定の立場に立たない」と発言している。


 彼の領土問題で中立的であろうとする態度が中国を大胆な行動に駆り立ててきた側面がある。南シナ海の中国の領有権の主張は南シナ海の大部分に及び、周辺諸国の排他的経済水域(EEZ)の大部分を侵害する形になっている。中国の主張がいいかに荒唐無稽であるかが分かる。


 シカゴ大学のミアシャイマー教授は、大国間の勢力均衡において、相手国に明確なレッドラインを明示することの重要性を指摘している。南シナ海や東シナ海におけるレッドラインの設定と中国がレッドライを越えた時の断固たる軍事力の発揮は極めて重要である。


 このレッドラインの設定に関してオバマ大統領は、2013年8月、シリアによる化学兵器の使用はレッドラインを越えるものであると軍事的介入を警告しておきながら、最終的には軍事力の使用を断念してしまい、米国の威信を失墜してしまった。


 二度と同じ過ちをアジアにおいて犯してもらいたくはない。


 結論として、中国に対する不戦而勝戦略の重要な要素が、米国を中心とした対中国連合の構築であり、地経学的手段の活用(経済制裁、経済援助など)、中国のサラミ・スライス戦略に対するレッドラインの設定とレッドラインを越えた場合の軍事力の使用を中国へ明示すること、南シナ海におけるFONOPの継続的かつ頻繁な実施による航行の自由の確保である。


 冒頭で言及したデニス・ブレア大将は、日米同盟関係を背景として日米共通の対中国戦略を構築すべきであると主張している。


 アジアの安全保障を考えた場合、日米同盟が核となって、米国の同盟国や友好国との連携のもとに中国の強圧的な台頭に対処しなければいけないと改めて思うのである。


 

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コメント
 
1. 2016年6月04日 14:23:14 : aQq0UGoaxY : pNHEWTkf6T8[203]
渡部悦和 JBpress
略歴:愛媛県出身
1978年(昭和53年)3月:東京大学工学部を卒業、一般幹部候補生(U)として入隊
(78幹候、防大22期相当。同期の東大卒生に、中川義章がいる。)
1989年(昭和64年)1月1日:3等陸佐に昇任、外務省出向
1991年(平成3年)〜1993年(平成5年):ドイツ連邦軍指揮幕僚大学校留学
1992年(平成4年)7月:2等陸佐に昇任
1997年(平成9年)1月:1等陸佐に昇任
2000年(平成12年)8月:第28普通科連隊長兼函館駐屯地司令
2002年(平成14年)3月:陸上幕僚監部人事部補任課長

在任間、イラク人道復興支援における佐藤正久先遣隊長らの人選を行った。

2003年(平成15年)
7月:陸将補に昇任
12月:第3師団副師団長兼千僧駐屯地司令。京都府丹波町で発生した鳥インフルエンザ事案に関し出動・指揮。

2005年(平成17年)7月28日:東部方面総監部幕僚副長
2006年(平成18年)8月4日:自衛隊東京地方協力本部長
2007年(平成19年)9月1日:防衛研究所副所長
2008年(平成20年)3月24日:陸上幕僚監部装備部長
2009年(平成21年)7月21日:陸将に昇任、第31代第2師団長に就任
2010年(平成22年)7月26日:陸上幕僚副長
2011年(平成23年)8月5日:第36代東部方面総監
2013年(平成25年)8月22日:退官
12月21日:富士通システム統合研究所に再就職(研究所長)

2015年(平成27年)6月:ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー

誰に飼われているか、わかるね。


2. 2016年6月04日 14:40:42 : aQq0UGoaxY : pNHEWTkf6T8[204]
戦前、領土拡大した日本に対して米国は経済制裁から始めた。

米国はイランやロシアにしたように、なぜ中国に経済制裁をしないのかな?
心配しなくても、キッシンジャーが生きている間は、米国と中国は仲良しですよ。


3. 2016年6月04日 21:44:39 : 694ENOyseM : Q4rH_gqACJI[15]
こいつ無能だな。この駄文を1/10にまとめろ。次に、戦略上、中国と結ぶべきかアメリカと結ぶべきか中立すべきか、いずれが上策かを検討しろ。それをせずアメリカありきの屁理屈は無価値だから聞く耳を持たない。

4. 2016年6月05日 12:38:19 : vblrLO78Lg : NTi3gp3gh4M[3]
>>2
経済的結びつきの強さの違いかな。
何かと言いながらハイテク品の輸出対象だろう。
今制裁するとアメリカ企業が困る。

逆に中国が技術的に自立してきてアメリカや日本の部品を必要としなくなってきた場合は危険になるかも。


5. 2016年6月06日 13:12:21 : Q8ccK8e33w : Hfo3R5VixsQ[11]
オーストラリアもフィリピンもベトナムもAIIBに加盟しております。

加盟していないのは日米のみ。包囲したつもりが逆に包囲されている。米国以外で加盟していないのは実質日本だけ。

孤立しつつあるのは安倍日本だけかも。


6. 2016年6月07日 04:15:46 : DAdQVB1TQ6 : OJ@WA6D3PUU[4]
富士通に喰わせてもらってるってことだな。
富士通は防衛省から巨額の仕事をもらってる。
その見返りとして用済みの自衛官を雇う。
別に仕事をしてもしなくてもいい。
暇つぶしに発表した駄文。
アメリカが引くと言ってるのにどこがやるんだW。
日本がやるのか、
そこらへんはっきりしてからモノ言えや。
センズリ論文だなこりゃ

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