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アメリカ国防総省の本部庁舎(通称「ペンタゴン」)〔PHOTO〕gettyimages
AI搭載「スマート兵器」に舵を切る米国防総省と、シリコンバレーの憂鬱
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48682
2016年05月19日(木) 小林 雅一 ITトレンド・セレクト 現代ビジネス
米国防総省がAI(人工知能)をベースに、軍事技術の抜本的改革を図っている。この分野で世界をリードするシリコンバレー、つまりハイテク・IT業界と連携し、スマート兵器の開発競争でロシアや中国を一気に引き離そうとしている。
●"Pentagon Turns to Silicon Valley for Edge in Artificial Intelligence" The New York Times, MAY 11, 2016
■従来の軍事技術をチャラに
上の記事によれば、米国防総省は今回の兵器改革を「3度目の清算(Third Offset)」と呼んでいる。ここでは「offset」を「清算」と訳したが、もっと俗な言葉で言うと「チャラにする」という意味だ。
中国やロシアが、従来型の兵器開発で米国を激しく追い上げるなか、米国としては、そのように長年積み上げられた従来技術をいっそチャラにする。そして全く新種のスマート兵器へと飛び移ることで、ライバルたちとの差を一気に広げたいという意味だ。
「3度目」という言葉からも分かるように、過去にそうした軍事技術の清算は2度あった。1度目は1940〜50年代にかけて進められた核兵器の開発。これを手にしたことによって、米国は当時、ソ連を中心とする東側諸国が確立した軍事的優位性を一気にひっくり返すことができた。
ただし、ソ連も後に核兵器を開発したことで、結局は元の木阿弥になったことは敢えて断るまでもない。また、当時、本当にソ連など共産圏の兵力が米国を上回っていたのかどうかも分からない。それは、あくまで冒頭のNYT記事で紹介された「米国側の言い分」である。
2度目の清算は、1970〜80年代にかけて進められた軍事技術の効率化。これによって米国は、より小規模な兵力で、数に勝る兵力を持つソ連など東側諸国に対抗できるようになったという(これもまた、当時、本当にそういう状況であったのかどうかは分からない。同じく、冒頭の記事で紹介された米国側の言い分に過ぎない)。
■シリコンバレーは軍需予算で成長した
そして3度目の(軍事技術の)清算となる今回は、AIを搭載した「スマート兵器」の開発となるわけだが、そこでは過去2度の清算とは根本的に異なる点があるという。それはシリコンバレーで開発された民生技術が、国防総省の主導する軍需技術を追い抜いてしまったということだ。
より具体的に言うと、こうだ。少なくとも「第1、2回目の清算」が進められた1950〜80年代までは、先端技術の開発ではDARPA(米国防高等研究計画局)に代表される軍事機関の方が、民間企業をリードしてきた。当時は、もともと軍需用に開発された先端技術が、民間企業へと移転していくような流れだった。
たとえば「レーダー」、その部品となる「半導体(集積回路)」、あるいは「インターネット」など、いずれも当初は軍需技術として開発されたものが後に民生技術に転用され、やがて一大産業を形成していった(「インターネットはもともと軍需技術ではなかった」という見方もあるが、少なくとも1960年代にDARPAが中心になって開発したネットワーク技術に端を発していることだけは間違いない)。
また、研究開発の予算面でも、軍需の優位性は明白だった。そもそもシリコンバレーが米国を代表するハイテク産業の集積地帯に成長したのは、国防総省から流れ込んだ巨額の軍事予算のお陰という見方さえある。
昨今、大きな注目を浴びているAIにしても同様で、少なくとも1950〜80年代にかけては軍事予算を軸に研究開発が進められてきた。
■軍需技術の優位性が崩れる
こうした軍需側の優位性が、1990年代のインターネット・ブームを境に逆転した。当時のマイクロソフトやインテルの隆盛、これに続くグーグルの登場、さらにはアップルの復活などを経て、彼ら民間企業の蓄えた技術力は軍需技術を追い越してしまった。
特に最近の急激なAI技術の発達において大きな役割を果たしたのは、グーグルやIBM、マイクロソフト、フェイスブックなど、(IBMを除けば)軍需色の薄いシリコンバレーのハイテク・IT企業である。
これを受け、今回、3度目となる軍事技術の清算では、国防総省の方からハイテク・IT企業の方に歩み寄る姿勢を見せている。国防総省は昨年、シリコンバレーに「Defence Innovation Unit Experiment facility(DIU:国防刷新ユニット実験施設)という拠点を設け、AIを中心とするスマート兵器の研究開発においてハイテク・IT企業との連携を模索している。
シリコンバレーの中心都市サンノゼの風景〔PHOTO〕gettyimages
国防総省はまた、西のシリコンバレーと並ぶ東のハイテク産業集積地であるボストン/ケンブリッジ地域(MITやハーバード大学があることで有名)にも、DIUと同様の拠点を設置する予定だ。単に民間企業と協力するだけでなく、積極的に彼らと人材交流を図ったり、地元の大学から優秀な理工系学生を採用するのが狙いと見られている。
ただし、民生技術のエンジニアや理工系の学生らが、果たして兵器開発に関心を示すかどうかは不透明だ。特にAIの研究開発では今、シリコンバレーのハイテク・IT企業が優秀な人材を鵜の目鷹の目で探し求めており、彼らには当然のごとく高額な給与が提示される。
また「自ら標的を決めるミサイル」や「誤爆の危険性があるドローン」など、AIを搭載した自律的兵器には人道・倫理面での非難が集中している。民生技術を研究してきたエンジニアや学生らが、敢えて兵器の研究開発に転向するには、相当強い動機が必要となるだろう。
かつては国防総省に育てられたシリコンバレーだが、今となって彼らがその恩に報いてくれるとは限らない。
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