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豪シドニー入港した海上自衛隊のそうりゅう型潜水艦「はくりゅう」(2016年4月15日撮影、資料写真)。(c)AFP/PETER PARKS〔AFPBB News〕
素人には歯が立たなかった国際武器取引マーケット 「そうりゅう」落選、政府主導方式では同じことの繰り返しに
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46768
2016.5.5 北村 淳 JBpress
オーストラリア史上最大の武器取引として注目を浴びていたオーストラリア海軍次期潜水艦選定作業の結論が出た。オーストラリア政府はフランスの「ショートフィン・バラクーダ」(製造はDCNS:造船役務局)の採用を決定し、日本の「そうりゅう」(三菱重工・川崎重工)は“落選”した。
■崩れ去った安倍政権の目論見
「防衛装備移転三原則」を打ち出して武器輸出禁止方針から大きく舵を切った安倍政権にとっては、「そうりゅう」のオーストラリアへの輸出(厳密には「そうりゅう」をベースにした新型潜水艦の日豪共同開発)の目論見が潰えた打撃は深刻なものと考えられる(採用されれば取引額は4兆円を上回るはずだった)。
しかし、いくら安倍政権の都合(そしてアメリカの圧力)で、武器輸出を解禁したとはいえ、そして、いくら「そうりゅう」が技術的には優れた性能を誇る潜水艦であることは誰の目にも明らかであったとはいえ、これまで武器を本格的に輸出したことのない日本が国際武器移転市場に参加することは至難の技である。そのことを明確に示したのが今回のオーストラリアへの潜水艦売り込みであったと言えよう。
ショートフィン・バラクーダの完成予想図(出所:DCNS)
■落選は中国の策謀のせい!?
日本のメディアの多くは、またアメリカの一部メディアなどでも、オーストラリア政府が日本の潜水艦を採用しなかった理由の1つとして、中国政府の働きかけがあったと指摘している。
確かに「中国との外交関係が悪化することによって、豪中経済関係にもダメージが生ずる」といったような中国側の脅しに同調したオーストラリア国内勢力が存在したことは事実である。また、中国国営メディアなどは、日本からの潜水艦導入は中豪関係にとりマイナスに働きかねないことを繰り返し警告していた。
そして、次期潜水艦決定直前にターンブル豪首相一行が中国を訪問した際にも、中国側は歴史認識問題などを引き合いに出して、日本の潜水艦を採用して日本との軍事同盟関係強化を推し進めることはオーストラリアにとって極めて得策でない旨を相当強くねじ込んでいたことも事実である。
しかし、そのような中国の政治的圧力が「そうりゅう」落選の最大の要因であったと考えるのは、誤りと言えよう。
■“業界”では当初より「そうりゅう」は劣勢だった
オーストラリアの次期潜水艦選定問題に関しては本コラムでも何度か取り上げた。その際、本コラムでは、日本で言われているようには、あるいは日本政府が期待しているようには「オーストラリアへの潜水艦輸出は、武器輸出を解禁した日本にとって国際武器市場への華々しいデビューとはなり得ない」との懐疑的論調を紹介した。
筆者の耳には国際武器取引に関与している人々のそうした論調が直接聞こえてきていた。伏魔殿(ダーティービジネスの殿堂)のような国際武器マーケットの“住人”である潜水艦取引のエキスパートたちの間では、安倍政権が主導して潜水艦の共同開発を強く推進し始め、フランスとドイツとの三つ巴が始まった当初から、「フランスが筆頭候補、やや遅れてドイツ、そして日本は選考過程のお客様」と言った解釈が常識的な見方であった。
もちろん、前オーストラリア首相であるアボッツ氏が日本からの導入を強く支持していた時期には、「そうりゅう」の可能性がゼロというわけではなかった。しかしながら国際武器取引にも詳しい何名かの米退役軍人たちは、「アボッツ首相や安倍首相といった政治家の意向で、12隻もの潜水艦、それも4兆円以上という破格の武器取引が決定してしまうほどこの“業界”は甘いものではない」と口を揃える。
「そもそも潜水艦に限らずほとんどの武器には公開市場価格など存在しない。だからこそ、素人にはうかがい知れないマーケットの原理が存在し、莫大な金が行き来し、あらゆる手段が用いられるのだ」
■狼狽した日本の政治家たち
「そうりゅう」の落選が決定した直後に、アメリカのシンクタンク「CSIS」を訪れた元防衛大臣の小野寺五典氏や元外務大臣の前原誠司氏などに直接話を聞いたアメリカの研究者は次のように語っている。
「日本の元大臣たちは日本の潜水艦が選定されなかったことについて大変失望していた。彼らは、オーストラリアをはじめとする諸国との同盟関係を強化するために武器輸出解禁に踏み切ったのに、功を奏さなかったと残念がっていた。
また、オーストラリア政府(アボッツ前政権)から日本政府に『ぜひとも日本はオーストラリアの次期潜水艦選定過程に名乗りをあげてほしい』と依頼してきたのに、日本が選ばれなかったのは極めて遺憾だ、と悔しがっていた」
日本の元大臣たちと会った米国の研究者は“クリーン”な世界にいる学者であるが、この話を聞いた国際武器取引のエキスパートたちは次のように語っている。
「日本の政治家がこのように語っていること自体が、そもそも日本政府主導の武器売り込みが素人すぎたことを物語っている」
「日本の政治家やメディアなどは、安倍政権の強い後押しがあり、アボッツ首相も支持しており、なによりも『そうりゅう』は技術的にも優れているから採用されるに違いない、と考えていたのだろう。その思考構造そのものが敗因だったのだ」
■冷静だったメーカー幹部
一方、やはり“落選”直後に、日本の潜水艦メーカー幹部たちと食事を共にしたというイギリスの大学教授(戦争学)は次のように語る。
「日本の政治家たちと違って、メーカーのビジネスマンたちは、それほど失望感をあらわにしていなかった。というよりは、彼らはオーストラリアへの潜水艦売り込みに商業的なリスクを感じていたようで、そのために商業的側面での売り込み工作への効果的な関与を控えていたのではないか、という感触を得た」
この話を聞いた“業界”のエキスパートは次のように漏らした。
「実は、選考過程で日本のメーカが提示していた提案書があまりに貧弱なのに驚いていた。だが、この話を聞いて、やはりメーカーとしては商業的見込みの低い売り込み工作にはあまり乗り気でなかったことを再確認することができた。
要するに、日本やオーストラリアの一部政治家たちが大騒ぎをして『そうりゅう』の売り込み工作に奔走していたのであって、それは“ど素人”による空回りに過ぎなかったということだ」
■政府主導方式など役に立たない
実は今回取り上げたような“結果論”と同様な情報は、すでに選考過程中にも“伏魔殿の業界関係者”たちによって囁かれていた。
そして、本コラム「決定間近、オーストラリアは日本の潜水艦を選ぶのか」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46571)でも指摘したように、日本政府が中国脅威論と日豪同盟論を振りかざして積極的な潜水艦売り込みを図れば図るほど、オーストラリア政府が「そうりゅう」を採用する可能性が(実際にはもともと高くはなかったのであるが)ゼロへと近づいていたのである。
日本政府は、P-1対潜哨戒機に続いて「そうりゅう」の輸出工作が惨めな結果に陥った最大の原因は、国際武器取引にはズブの素人に過ぎない日本の政治家や官僚が主導する方針にあったことを受け入れるべきである。
P-1哨戒機のイギリスへの売り込みは「門前払い」だった(写真 海上自衛隊)
そして本気で「防衛装備移転三原則」を推進するのならば、官邸主導にせよ官僚主導にせよ“素人主導”では「防衛装備」を海外市場に売り込む(商業的見返りがある形で)ことなど、いつまで経っても到底覚束ないことを自覚して、政府主導方式に取って代わる抜本的な戦略を打ち立てる必要がある。
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