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『フォーリン・アフェアーズ リポート』2016 No.4
P.16〜20
豪潜水艦調達と日独仏の競争 ― アメリカは誠実な仲介者を
ジョナサン・D・キャバリー
ウッドロー・ウィルソン・センター フェロー
同盟諸国に「中国の拡大主義に抵抗する試みを強化するように」と働きかけてきたアメリカにとって、オーストラリアが新型の潜水艦を導入するのは歓迎できるニュースだろう。フランスやドイツにとって、共同開発・生産契約を受注できれば、重要で魅力的なディールになる。日本にとっては、契約を受注することはさらに大きな意義がある。契約を受注すれば、日豪のインフォーマルな同盟関係が強化され、中国を封じ込める上で大きな価値をもつからだ。アメリカ政府もこの見方を受け入れ、水面下では日本が契約を受注するのが好ましいと考えているようだ。しかし、前回の潜水艦調達をめぐって大きな失敗を犯したオーストラリアが今回求めている基準はかなり高く、日独仏のいずれにとっても、これを満たすのは容易ではない。重要なのは、軍事予算を押し潰すことなく、必要とする潜水艦をオーストラリアが調達できるかどうかであり、アメリカはその調達をめぐる「誠実な仲介者」の役割を心がけるべきだろう。
■豪の次期潜水艦選定
次期潜水艦12隻を共同開発・生産するというキャンベラの最近の決定は、オーストラリアの外交政策だけでなく、アジアの地域政治を今後半世紀にわたって規定することになるだろう。当然、開発・生産契約の受注を望むフランス、ドイツ、日本だけでなく、アメリカと中国という地域大国、そして自国の安全保障の未来を心配する周辺諸国は、オーストラリアが共同開発相手を選ぶプロセスを、固唾をのんで見守ることになる。
次期潜水艦を導入すれば、オーストラリアは領海をより効果的に防衛し、マラッカ海峡や南シナ海のような、遠くの戦略ポイントにもパワーを投射できるようになる。最近の豪国防白書は「(潜水艦による)将来の作戦行動は、北アジアの安全保障、そしてオーストラリアの貿易を支える遠大な海岸線のコミュニケーションの防衛に貢献する」と指摘している。
オーストラリアを含む同盟諸国に「中国の拡大主義に抵抗する試みを強化するように」と働きかけてきたアメリカにとって、これは歓迎できるニュースだろう。すでにかなりの軍事輸出を行っているフランスとドイツにとっても、オーストラリアの次期潜水艦の契約を受注できれば、重要で魅力的なディールになる。一方、地域的な現状維持という大義を共有したいと考え、第二次世界大戦後初めて武器輸出の機会を模索している日本にとっては、契約を受注することはさらに大きな意義がある。
この流れがオーストラリアにとって最大の貿易パートナーである中国の不興を買うのではないかと懸念する分析もあるが、アメリカとオーストラリアの外交専門家たちは、最近のウォールストリートジャーナルの論説記事からも明らかにように、必ずしも日本の潜水艦能力を前提とする判断ではないにせよ、日本が共同開発・生産契約を受注することを強く支持している。
日本が契約を受注すれば、オーストラリアとのインフォーマルな同盟関係が強化され、中国を封じ込める上で大きな価値をもつからだ。アメリカ政府もこの見方を受け入れ、日本が契約を受注するのが好ましいと考えているようだ。もちろん中国は、「日本オプション」に強く反対している。
■必要とされる膨大なコスト
こうした捉え方はメディアには好都合かもしれない。しかし、「アマチュアは戦略を、プロはロジスティックスを語る」という軍事的格言もある。
何よりも、潜水艦は兵器であり、(その調達によって)財政を破綻させずに、長距離をカバーできる破壊力(あるいは抑止力)を備えていなければならない。したがって、価格、パフォーマンス、生産スケジュールが重要な鍵を握る。最近の豪国防白書は、12隻の潜水艦隊を設計・建造するのに必要なコストは500億オーストラリアドル(370億米ドル)を超えると試算しており、その後の活動とメンテに、さらに1000億オーストラリアドル(750億米ドル)が必要になるとしている。
これがオーストラリアにとって、どれほど膨大な支出であるかを理解するために、アメリカのF35統合打撃戦闘機(JSF)の生産計画を考えてみよう。ウインスロー・ウイーラー(国防情報センター・ストラウス軍事改革プロジェクトディレクター)がその底なしの開発・生産コストゆえに「ペンタゴンを食い潰すジェット」と呼んだJSF計2443機分の価格は4000億ドルとされる。これは米国防総省の年間予算の約3分の2に相当する。一方、オーストラリアの潜水艦12隻の調達コストは、2015〜16年の国防支出の1.5倍と想定されている。つまり、オーストラリアの次期潜水艦用の予算は、アメリカの次期戦闘機以上に、国防予算を食い潰す危険が大きいということになる。
潜水艦は複雑な工業製品で、しかもオーストラリアが求めている基準はかなり高い。この国の地理的広がり、広範な領域に及ぶ利益、パトロール予定の海域が本国からかなり離れているために、長距離をスピーディに航行し、目的地に到着すると同時に作戦行動を実施する能力が求められている。
■競い合う日独仏とアメリカの立場
オーストラリアはすでに、次期潜水艦にアメリカの戦闘システム、そして、これまでのライバル国の潜水艦が搭載したことのない重量級の魚雷を搭載することを決めている。一方(日独仏による)提案のすべては、高度なテクノロジーを集積したもので、契約の受注を望む企業は、キッチンのリフォームの業者同様に、そのリスクを控えめに描写し、言葉巧みに売り込もうとしている。
フランスは、(オーストラリアの意向で、得意とする)原子力潜水艦ではなく、ディーゼル型の通常動力による推進システムを提案せざるを得なくなり、ドイツも(オーストラリアの意向を満たすには)既存の214型潜水艦のサイズを倍にしなければならい。一方、日本はこれまで主要な兵器を輸出したことはなく、ましてや、外国で兵器を生産したことはない。(オーストラリア南部に雇用をもたらすために、キャンベラは国内での潜水艦建造を条件としている)。
一方、オーストラリアとしては、前回の調達契約がうまくいかなかっただけに、次期潜水艦の調達には慎重にならざるを得ない。現在のコリンズ級潜水艦は、より小型のスウェーデンの潜水艦のデザインを改良してオーストラリアで建造されたが、これは、国防調達サークルの大失敗だつたとみなされている。予算内に収まらなかったばかりか、生産は遅れ、不備の多い戦闘システムを最終的に入れ替えざるを得なくなった。効率に欠けるライフサイクルのメンテ計画にも悩まされた。現状のオーストラリア海軍の潜水艦隊では、海洋での活動期間のベンチマークさえクリアーできない。
それだけに今回は、野心的なパフォーマンス基準を妥当な投資で実現し、調達を大幅な遅延なく、ほぼ計画通りに達成することをキャンベラは重視せざるを得ない。特定国のデザインを他国のそれよりも好ましいと判断することの地政学的利益やコストは、それほど大きくはないし、アメリカの戦闘システムを搭載すれば、いずれにせよ、オーストラリアはアメリカの太平洋戦略に歩み寄ることになる。
アメリカが、戦略を理由にオーストラリアに特定の圧力をかけていないのは、この理由からだ。アメリカとしては、(特定国への発注を働きかけるよりも)オーストラリアがその軍事的必要性にフィットする潜水艦を選ぶのを助ける「誠実な仲介者」として振る舞う方がはるかに好ましい。
完全とは言えないが、軍備調達の技術的側面にうまく対処できる組織はペンタゴンをおいて他にない。実際、アメリカの軍艦の設計・建造・保守・管理(及び戦闘システムの開発)を担当する米海軍・海洋システム司令部には、オーストラリアの国防総省全体を上回るスタッフが働いている。アメリカのこうした分析能力を利用すれば、もっとも能力が高くリスクを抑え込んだ設計の潜水艦をキャンベラが選ぶのを間違いなく助けられるはずだ。
これまでもアメリカはそうした支援を提供したことがある。1980年代、イスラエルは、アメリカのF16に相当する能力をもつラビ戦闘機の試作を試みた。小規模な航空産業しかもたない小国にとって、これはかつてない試みだった。
コストの肥大化に悩まされたイスラエルにべンタゴンが協力し、イスラエル国防省プログラム分析部の5倍規模の暫定(分析)チームが立ち上げられた。事実を前提に、ラビジェット計画の問題点を一つずつ潰していった暫定チームは、技術的前提の非現実性、そして生産コストが過小評価されていると結論づけた。これらはイスラエルの能力では具体的に特定できないポイントだった。
■誠実な仲介者
より高い価値をもつ次期潜水艦の調達に専念し、ワシントンが日本の提案をアメリカが支持しているかのような態度をとるのを避ければ、日本同様にアメリカの重要な同盟国であるフランスやドイツを苛立たせずに済むし、中国でさえも、アメリカは公平な立場をとったと最終的に考えるようになるかもしれない。
アジアの地域国家にとって、潜水艦はその海洋戦略に不可欠な一部だ。中国は2020年までに、能力面でのバラツキはあるとしても、潜水艦70隻を保有していると考えられる。アメリカは、現状で57隻の攻撃型潜水艦を保有しているが、その数は(引退などによって)2028年までに41隻へと減少する。当然、オーストラリア海軍の潜水艦艦隊の完成が遅れたり、数が減らされたりすれば、西太平洋における海洋の戦略バランスは変化する。
だからこそ、軍事予算を押し潰すことなく、必要とする潜水艦をオーストラリアが(タイムリーに)調達(開発・生産)することは極めて重要だ。太平洋の軍事同盟を口先で強化しても、それを支える軍事力なしでは意味はないのだから。●
Jonathan D. Cavaerley ウッドロー・ウイルソン・センターフェロー、マサチューセッツ工科大学リサーチアソシエート(安全保障研究)。米海軍の潜水艦士官、ノースウエスタン大学助教授(海軍エンジーテリング)などを経て、現職。
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