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CIAの秘密戦争 マーク・マゼッティ著
水面下のテロとの戦いに迫る
終了まで1年を切ったオバマ政権は、イラク撤退、慎重なシリア政策、軍事費削減に見られるように、一般的には軍事介入に後ろ向きの政権と解釈されがちだ。だが、戦争には表には出ない水面下の「影の戦争」がある。本書は、米中央情報局(CIA)が見えない戦争の主役になっている現状を米紙記者が丹念な取材で明らかにしたものだ。
転機は9.11テロだった。冷戦終焉(しゅうえん)で下降線を辿(たど)っていたCIAの予算と権限が、対テロ戦争で増大された。フォード大統領によって禁じられていた暗殺も認められるようになった。テロを事前に防ぐことが、インテリジェンス(諜報(ちょうほう))の蓄積なしには不可能である以上、CIAの権限拡大は必然だったかもしれない。
しかし、著者は深刻な弊害について問題を提起する。CIAが諜報の枠を超えて、軍事行動の当事者となっている実態だ。国防総省との縄張り争いのエスカレートは、軍事と諜報の相乗りを加速させている。
本書が明かす内容で衝撃なのは、無人機ドローンを用いた攻撃が頻繁に行われていることだ。「標的分析官が殺害の対象者を正確に把握していなくてもミサイル攻撃する許可」をCIAはホワイトハウスから得ているという。ドローン攻撃は対象が「疑わしい行動」をとったかで判断される。「戦闘可能な男」と見なされれば攻撃は合法となる。パキスタンでのドローン攻撃で「民間人は殺害していない」とオバマ政権が主張できる根拠がここにあったと著者は述べる。
伝統的な戦闘員と民間人の定義が通用しない時代に、いつのまにか突入している。旧来の戦争倫理がドローン攻撃に対応できるのか。本書はそうした問いへの挑戦状でもある。オバマ政権は、米兵の死傷報道で支持率が急降下する法則をイラク戦争で学んだが、軍事攻撃は極秘であれば「戦争」と定義されないことも裏の真実だった。
ビンラディン殺害作戦の記録としての価値も本書にはある。作戦はCIAのものとして遂行され、同局パネッタ長官が責任者だった。クリントン国務長官が行き過ぎたドローン攻撃に対して、駐パキスタン大使の承認が必要として牽制(けんせい)したのに対して、「間違っている」とパネッタ氏が反論するシーンは鮮烈だ。
反戦論者の印象が強いオバマ大統領がCIAのドローン攻撃を追認する一方、安全保障ではタカ派とされがちなクリントン氏が外交的手続き論を尊重していた様子は、オバマ政権内の興味深い裏側も浮き彫りにしている。
原題=THE WAY OF THE KNIFE
(池田美紀訳、早川書房・2200円)
▼著者は74年米国生まれ。米ニューヨーク・タイムズ紙記者。
《評》北海道大学准教授
渡辺 将人
[日経新聞4月17日朝刊P.21]
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