http://www.asyura2.com/16/warb17/msg/455.html
Tweet |
佐藤優直伝! ロシア発の「ある奇妙な報道」から、北朝鮮の核開発を読む
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48270
2016年04月01日(金) 社会人のための「教養」講座 週刊現代 :現代ビジネス
■「太陽に着陸した」の意味
日本人は学校で教わりませんが、海外のエリートが必ず会得している「教養」があります。それは「アナロジー(類比)」、「メタファー(暗喩)」、そして「アレゴリー(寓話)」というものです。
これらの考え方は、実は国際情勢を読み解くうえで非常に重要です。というのも、国際社会では、しばしば重要な情報が、暗喩や寓話のかたちでそれとなく発信されることがあるからです。
具体例を挙げましょう。
〈北朝鮮の宇宙飛行士が、太陽に着陸〉
こんな見出しの記事がネット上で話題になったのは、'14年11月のことです。内容は、「北朝鮮の17歳の宇宙飛行士が太陽への着陸に成功し、無事地球に戻ってきた」という、きわめて荒唐無稽なものでした。
このニュースを紹介したのは「ロシアの声」というウェブサイトです。このサイトは、現在は「スプートニク」という名前に変わっていますが、一言で言えばロシア対外情報局(旧KGB)がバックについた、ロシア国営のニュースサイト。ですから、このサイトが何の意味もない情報を発信することはあり得ません。
最初この記事を見たとき、私も「何だろう?」と思いましたが、後から「こういうことだったのか」と分かった。きっかけは連載第1回(「金正恩の思考回路をどう読み解くか」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48109)でも触れた、1月6日に北朝鮮が実施したと発表した「水爆実験」です。
以前にもお話ししたとおり、この実験は明らかに疑わしいものでした。水爆は原爆の数百倍以上の破壊力があるので、本当に実験をしたら分かるはずですし、北朝鮮は、水爆が搭載できるミサイルも爆撃機も持っていません。
では、こうした事実を踏まえて、「北朝鮮が太陽に着陸」という奇妙な報道を、どう読み解くか。
私は、「太陽」が水爆開発に必要な核融合技術のアレゴリー、つまり寓話だったのではないかと考えています。
太陽が燃えているのは、水素の核融合によってです。「太陽に到達した」というのは、おそらく「核融合実験に着手した」、あるいは「成功した」ということの言い換えなのでしょう。ロシアはこうして、北朝鮮の水爆開発について示唆したわけです。
なぜ北朝鮮が、このことを自ら発信しなかったかというと、制裁を恐れたせいでしょう。'14年11月時点では、まだイランの核開発をめぐる国際合意もありませんでした。そうした中で、北朝鮮が「水爆製造に着手した」と声明を出せば、北朝鮮がますます孤立したことは間違いありません。
国際社会では、核に関しては性悪説に立つのが基本で、どんなに技術力の低い国であろうと、その国の指導者が「核兵器を開発している」と明言すれば、必ずIAEA(国際原子力機関)の査察受け入れを要求されます。
また一方で、核兵器を製造する能力を持つ国が、いくら「核兵器を作るつもりはない」と言っても、決して信用しません。北朝鮮やイランは前者で、日本は後者です。
北朝鮮は、アメリカ本土にも届く長距離弾道ミサイルの開発を進めている。現在のところ、グアムとハワイの中間あたりまで射程に収めています。いずれは、アメリカの西海岸まで到達するようになるでしょう。
しかも3月9日には、北朝鮮は「弾道ミサイルに搭載可能な核弾頭の小型化に成功した」とも発表しました。もし北朝鮮が、アメリカ本土まで届く核ミサイルの開発に成功すれば、アメリカは、ヒラリー政権であろうがトランプ政権であろうが、北朝鮮の核施設を躊躇なく空爆するはずです。
もし米軍が北朝鮮を攻撃するとなれば、その爆撃機は青森県の三沢基地から飛び立つでしょう。すると、三沢をはじめとする日本の米軍基地は、テロの標的になるかもしれません。
ですから、日本にとって北朝鮮の動勢をウォッチすることはとても重要なのです。ただし、どこまでやったらアメリカを本気で怒らせてしまうのかについては、北朝鮮もよく分かっているはずだと思います。
■韓国のひそかな野望
余談ですが、実はわれわれ日本人も、核に関しては国際社会の強い監視下におかれています。
'11年3月11日、東日本大震災と福島第一原発事故が起きたとき、すぐにIAEAの調査団が福島に駆けつけました。この際、調査団は事故を調査するとともに、日本がプルトニウムを悪用していないかについても徹底的に調べているのです。
さて、北朝鮮の「水爆実験」の報を受けて、真に日本が警戒すべきは韓国の動向だということは、第1回でも触れました。
韓国の与党幹部が「われわれも核を持つべきだ」と発言して注目された直後、韓国の有力紙・朝鮮日報は、「核開発論は韓国の国益を損なう可能性がある」と大々的に報じています。それほど韓国国内に、不穏な空気があるということです。北朝鮮の砲撃で韓国人4人が死亡した、'10年の延坪島砲撃事件のときでさえ、核武装論までは出てきませんでした。
実は韓国は、朴槿恵大統領の父親・朴正煕大統領の時代、ひそかに核開発に取り組んでいましたが、アメリカの圧力で止めた経緯があります。
また私自身、外務省に務めていた頃、韓国の外交官と接して、彼らが北朝鮮の核開発に誇りのようなものを抱いていると感じたことがありました。「国際社会から制裁を受け、鎖国状態にもかかわらず、自力で核兵器を開発した。やはりわが民族は優秀だ」といった意識です。
韓国には、日本の六ヶ所村のようなプルトニウム抽出施設はありません。ですから韓国は、「われわれもプルトニウム抽出ができる施設が欲しい」と、アメリカに水面下で何度もかけあっています。しかし、こういう背景があるので、アメリカは絶対に認めようとしないのです。
今回は紙幅が尽きてしまいました。次回は、国際情勢の分析だけでなく、ビジネスの世界で「アレゴリー」の発想をどう生かすことができるかについてお話しします。
「週刊現代」2016年3月26日・4月2日合併号より
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。