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朝鮮人民軍を視察する金正恩第一書記。北朝鮮の国営朝鮮中央通信(KCNA)配信(撮影日不明、2016年3月11日配信、資料写真)。(c)AFP/KCNA/KNS〔AFPBB News〕
金正恩は側近に殺される?米研究者がリアルに予測 「米韓は突発事態に備えよ」と提言
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46452
2016.3.30 古森 義久 JBpress
ワシントンの北朝鮮研究専門家の間で、「金正恩第一書記の暗殺」という突然の事態に備えるよう米韓両国に提言する論文が話題を集めている。
発端は、韓国系の若手研究者が金書記の暗殺の可能性を4種類の具体的なシナリオとして描いたことだった。その内容が米国の論壇で広く提起され、論議を呼ぶようになった。
論議の出発点となったのは、米国の朝鮮半島研究学者らが発表の場とする学術誌「朝鮮研究国際ジャーナル」の最新号に掲載された「金正恩暗殺の可能性に備える」という論文だった。筆者は韓国系の若手研究者で、ワシントンのジョージタウン大学の大学院に籍をおくスンミン・チョ氏である。
チョ氏は、北朝鮮内部の不安定要因を考えると金書記の暗殺という可能性が十分にあり得ること、米韓両政府はその可能性に対応する行動指針などを決める必要があることを指摘していた。そのうえでチョ氏は、実際に起こりうる金書記暗殺の4種類のシナリオを提示した。
すると3月23日、ワシントンで最大級の経済系シンクタンク「ピーターソン国際経済研究所」の北朝鮮研究部門が、それらのシナリオを「金正恩暗殺」という報告書で紹介した。同経済研究所はワシントンの政策形成の専門家たちの間で強い影響力を持つため、「暗殺シナリオ」は広範な注視を集めるようになったのである。
■歴史上の「暗殺」の4タイプ
「金正恩暗殺」は仮定に仮定を重ねた推測ではあるものの、いかにも物騒に響く。だがこの論文では、米韓当局が金書記を暗殺するという設定ではなく、北朝鮮の内部でそうした動きが自発的かつ突発的に発生するという想定を立てている。
チョ論文が描く4種類の暗殺シナリオは以下のとおりである。いずれも歴史上の実例を紹介し、北朝鮮で類似の動きが起きる可能性を指摘している。
(1)ヴァルキューレ型
「ヴァルキューレ」とは、1944年に未遂に終わったヒトラー暗殺計画とその後の反乱鎮圧計画の名称である(ヴァキューレは本来は北欧神話の女神の名前)。当時、ドイツの軍高官や政治家たちの複数のメンバーは、準備に長い時間をかけてヒトラー暗殺を計画し、ヒトラー排除後の国内態勢の構築案も具体的に決めていた。北朝鮮でも同様に、上層部の人民軍幹部や労働党幹部の集団が行動を起こすというシナリオである。
(2)ブルータス型
古代ローマの皇帝シーザーを、腹心だった元老議員のブルータスら数人が暗殺した事件が原型となる。この型は(1)に比べ、参加者の人数はずっと少ない。事前の準備期間も短く、事後の計画もほとんどない。北朝鮮では、金書記の側近の数人が行動を起こすというシナリオとなる。
(3)オズワルド型
1963年11月、リ―・ハーヴェイ・オズワルドは当時のジョン・F・ケネディ米国大統領を狙撃して暗殺した。ケネディとは直接的には接触のなかった人間が、公共の場に出てきたケネディを単独で撃って殺した。北朝鮮の場合だと、単に金書記の抹殺だけが目的となる。その後の政治態勢などへの考慮はない。
(4)金載圭型
1979年10月、韓国の朴正煕大統領は秘密の宴会場で数人で会食していたとき、旧友かつ腹心だった金載圭(キム・ジェギュ)KCIA(韓国中央情報部)部長に銃殺された。金部長は大統領から国内治安維持の不備について厳しく叱責されたことを恨み、単独行動に出たのである。暗殺後の政治態勢への準備はほとんどなかった。北朝鮮でも、金書記の側近によるこの種の行動が考えられる。
■韓国と米国の速やかな介入が必要に
チョ氏はこの中で現実に起こる可能性としては(4)の「金載圭型」が最も高いという。その理由としては、金政権の上層部には相互不信が広がっており複数の幹部による共謀は秘密を守り続けることが難しい点、一般国民に対する監視が徹底している北朝鮮では公共の場でのテロ行動がきわめて難しい点、政権や軍から遠い距離にある人間には武器の調達が困難な点、などが挙げられるという。
チョ氏はそのうえで、金書記の側近の1人が単独行動に出る「金載圭型」暗殺の場合、事後の混乱がとくに大きくなり、韓国と米国の敏速で大胆な介入が必要になると強調する。この種の暗殺後には必ず「権力の真空」が生まれる。そこに米韓両国が介入して、北朝鮮情勢を米韓側に有利に動かせるのだという。チョ氏は、その種の介入がなければ、北朝鮮は内部の混乱をきわめ、内戦さえも起きかねない、と警告していた。
この論文を広く紹介した「ピーターソン国際経済研究所」の北朝鮮研究部門の代表マーカス・ノーランド氏は、チョイ論文の指摘は適切であると評する。そして、実際に暗殺が起きた場合には、米韓両国が中国と協議、連携することも欠かせないと強調していた。
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