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北朝鮮空軍の訓練を視察する金正恩第1書記(撮影日不明、2016年2月21日配信、資料写真)。(c)AFP/KCNA via KNS〔AFPBB News〕
今のままでは撃ち込まれ放題の日本のミサイル防衛 北朝鮮への抑止力は発揮されず、ましてや中国が相手では?
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46399
2016.3.24 北村 淳 JBpress
3月18日、北朝鮮は弾道ミサイル「ノドン」と思われるミサイルを2発発射した。1発は空中爆発したが、1発は800キロメートルほど飛翔して日本海に着弾した。
かねてより北朝鮮の弾道ミサイルに対して警戒を強化していた日本政府は、ノドン発射以前の3月16日に自衛隊に対して「破壊措置命令」を発し、イージス駆逐艦は日本に向かってくる弾道ミサイルに対する迎撃態勢を開始していた。
ただし、防衛省を中心とする20キロメートル圏内を防衛するPAC-3防空ミサイルシステムが配備されたのはノドン発射後であった。
防衛省に設置されたPAC-3の迎撃範囲
■弾道ミサイル防衛システムに抑止効果はあるか
北朝鮮は、今回のノドン発射に先立つ3月10日に、短距離弾道ミサイル「スカッドC」と思われる弾道ミサイル2発を、やはり日本海に打ち込んでいる。いずれの弾道ミサイル発射も、3月7日より韓国で始まった米韓合同軍事演習に対抗するデモンストレーションであることは間違いない。
ただし、スカッドCとノドンは威嚇する相手が異なるとみるべきである。最大射程距離が600キロメートルとされているスカッドCは韓国に対する威嚇と考えられる。一方、最大射程距離が1300キロメートルとみられているノドン(あるいは最大射程距離が1500キロメートルまで延長されたノドン-2)の場合は、アメリカに出撃拠点を提供している日本への威嚇と考えられる。
もちろん北朝鮮は、自衛隊と在日米軍が弾道ミサイル防衛システムを保有していることは百も承知である。
日本の国土と日本海、それに東シナ海は、アメリカ主導のもとで日本技術陣も参加して開発を進めてきた「弾道ミサイル防衛システム」(BMD)が、世界でも最もふんだんに配備されている地域である。
例えば海上自衛隊は、弾道ミサイル防衛システム(イージスBMD)を搭載した「こんごう」型駆逐艦を4隻運用しており、2隻の「あたご」型駆逐艦にもイージスBMDを搭載する改修作業が進められている。また、航空自衛隊は弾道ミサイル防衛用のPAC-3地対空ミサイルシステム(PAC-3)を最大18カ所に展開できる能力がある。
自衛隊に加えて、横須賀を本拠地とする米海軍第7艦隊はイージスBMDを搭載する巡洋艦と駆逐艦を合わせて6隻保有しており、嘉手納基地にはアメリカ陸軍がPAC-3部隊を展開させている。このほか、青森県車力と京都府経ヶ岬には、米軍の強力な弾道ミサイル防衛用レーダー(X-バンド・レーダー)が設置されている。
このように、北朝鮮と中国という弾道ミサイル保有国を睨んで、世界でもトップクラスの密度で弾道ミサイル防衛システムが配備されているのが日本周辺地域ということになる。
それにもかかわらず、北朝鮮は日本海に向けてスカッドやノドンまで発射している。その上、アメリカ領域攻撃用の長距離弾道ミサイルの試射すら実施しかねない状況だ。
ということは、いくら日本やアメリカが莫大な資金を投入してBMDの配備を進めてきても(イージスBMDやPAC-3それに日本が導入するであろうTHHADといったBMDは超高額兵器の代表格である)、北朝鮮に対する抑止効果は生じていないと考えざるをえない。
■中国への抑止効果はなおさら期待できない
北朝鮮が日本をミサイル攻撃する場合に用いられる弾道ミサイルは、スカッド-Cを改良したスカッド-Dとノドンならびにノドン-2である。最大射程距離が700キロメートルのスカッド-Dの場合、岡山県から長崎県にいたる中国地方と九州北部が攻撃圏に入る。最大射程距離が1300〜1500キロメートルのノドン、ノドン-2ならば、日本全土が攻撃可能だ。
朝鮮人民軍は、それらの対日攻撃用弾道ミサイルを150〜200基程度保有しており、地上移動式発射装置(TEL)もスカッド用、ノドン用それぞれ50両以上は保有しているのが確認されている。したがって理論上は、北朝鮮は少なくとも100発の各種弾道ミサイルを日本に対して連射できる攻撃能力を保有していることになる。
朝鮮人民軍の対日攻撃用弾道ミサイルの射程圏
そして、このような朝鮮人民軍による対日ミサイル攻撃能力を質・量ともにはるかに上回るのが、中国人民解放軍である。
人民解放軍ロケット軍(旧第二砲兵隊)は、最大射程距離2000キロメートル以上の対日攻撃用東風21丙型(DF-21C)弾道ミサイルを少なくとも100基以上は保有している。また、沖縄を中心とした南西諸島を射程圏に収めている台湾攻撃用の東風15型(DF-15)弾道ミサイルは1000基以上も保有している。DF-21CやDF-15の命中精度をはじめとする各種性能は、北朝鮮のスカッドやノドンとは比較にならないほど高性能である。
中国人民解放軍は、弾道ミサイルに加えて長距離巡航ミサイルの開発と大量生産に力を注いでいる。とりわけ、日本攻撃用の長距離巡航ミサイルは次から次へと誕生しており、人民解放軍ロケット軍は地上移動式発射装置(TEL)から発射して日本全域を攻撃できる東海10型(DH-10)巡航ミサイルを数百基と、TEL(1両から3基のDH-10を発射)を少なくとも100両以上は保有している。
また、DH-10の海軍バージョンは中国海軍駆逐艦や攻撃原潜からも発射され、やはり日本全土を射程圏に収めている。さらに中国空軍爆撃機や中国海軍ミサイル爆撃機からも長剣10型(CJ-10)巡航ミサイルによって、日本全域を攻撃することが可能である。このように、中国人民解放軍は、北朝鮮軍とは比較にならないほど強力な対日ミサイル攻撃能力を保有している。
中国人民解放軍対日攻撃図
ところが、こうした中国軍の長距離巡航ミサイル攻撃に対しては、BMDのような専用対抗手段は現時点では完成していない。
つまり、自衛隊や在日米軍が手にしている各種BMDは、北朝鮮からの対日攻撃に対して以上に、中国からの対日攻撃に対して弱体なのだ。したがって、自衛隊や在日米軍が大金をかけて配備を進めている各種BMDは、中国に対してほとんど抑止効果を発揮していないと考えておくのが自然である。
■常時迎撃態勢とBMDの補強が必要
このように北朝鮮や中国の対日ミサイル攻撃に対して、自衛隊の虎の子のBMDによる抑止が効いていないということは、弾道ミサイルや長距離巡航ミサイルが日本に対する奇襲先制攻撃に用いられる可能性が高いことを意味している。
したがって、北朝鮮や中国が対日攻撃用の弾道ミサイルを保有している限りは、BMDによる常時迎撃体制を維持している必要がある。
奇襲攻撃はいつ実施されるか分からないし、そのような先制攻撃でなくとも、人民軍や人民解放軍内部での反乱分子や錯乱状態に陥った指揮官の命令で勝手に発射されるといった“事故”の可能性も想定しなければならない。
ということは、ロケット発射テストやミサイルの試射などの兆候を探知した場合に慌てて「破壊措置命令」を下しているようでは遅すぎる。せっかくイージスBMDやPAC-3を保有しているのであるから、原則として常時「破壊措置命令」が下命された状態にしておき、少なくとも戦略要地には常時PAC-3が展開されていなければ、全く抑止効果は生まれない。
もっとも、敵が弾道ミサイルを発射して初めて機能するBMDだけでは、抑止効果を生むことは困難であるとアメリカ自身も考えている。実際に、アメリカにとってのBMDは、核抑止能力はじめ先制攻撃能力や報復攻撃能力などと組み合わせて用いられるものであり、イージスBMDやPAC-3はそのまた一部の構成要素に過ぎない。また、そもそも長距離巡航ミサイルに対する専用防衛システムは日本にもアメリカにも存在しない。
したがって今の日本に欠かせない対応は、北朝鮮や中国による対日長射程ミサイル攻撃の可能性に対して常時警戒態勢を維持するとともに、BMDを補強するなんらかの抑止力を手にすることなのである(参照:拙著『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』講談社)。
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