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[政策ズームイン]海の忍者・そうりゅう型潜水艦 磨く隠密性
深く長く静かに 乗員、音に細心の注意
政府がオーストラリアに売り込みを図る海上自衛隊のそうりゅう型潜水艦。原子力潜水艦ではない「通常型」の中では、海中を深く、長く、静かに潜航する性能への評価は高い。隠密性は「海の忍者」と呼ばれる潜水艦の重要な要素。実力の背景と課題を探った。(田島如生)
2015年12月9日、三菱重工業の神戸造船所。工員がマスク型の防具をかざし、火花から目を守りながら鋼材をつなぎ合わせる作業に打ち込む。潜水艦建造にかかわる溶接工を育てる実習所だ。ごく一部の社員しか立ち入れないという。
高度な溶接カギ
溶接技術が「機密の宝庫」という潜水艦の性能に直結するからだ。深く潜れば潜るほど敵から見つかりにくくなるが、それだけ船体にかかる水圧も強まる。溶接が不十分だと水圧に負けて亀裂が入る恐れがある。
そうりゅう型は強い水圧に耐えるよう硬くて割れにくい特殊な鋼材を使う。隙間なく溶接するには高い技術が求められ、一人前の溶接工を育てるのに5〜10年かかるという。中谷元・防衛相は「世界一のレベル」と胸を張る。
海中を潜り続ける「水中持続力」も強みという。AIP(非大気依存推進)機関を備えたスターリングエンジンも搭載し、大気中の酸素を取り込まずにエンジンをまわして発電。給気筒を海面に出して大気を取り込むディーゼルエンジンに比べ「敵に見つかるリスクが小さい」(海自幹部)。
船体に吸音材や反射板を張り巡らし、艦内からの音漏れを防ぎ、ソナー(水中音波探知機)で探知できないよう徹底。艦内と電子ケーブルでつなぐ「非貫通式」と呼ぶ潜望鏡も備える。とらえた画像を一瞬でデジタル化して再生できる。潜望鏡を海面に出す時間を短くし、潜水艦の場所を特定されるリスクを減らす。
約65人の乗組員も音を立てないよう「涙ぐましい努力」をしている。艦長経験のある海自幹部によると、海水から生活用水などを造る装置は「音が出るので極力使わない」。シャワーの利用は3日に1回。洗濯機もほぼ使わず、任務ごとに下着などの着替えをたくさん持ち込むという。いまのところ女性はいない。
大きいほど敵に見つかりやすくなるため艦内は狭く最低限の設備しかない。艦長以外の乗組員は3段式ベッドで寝起きする。6時間ずつ3交代制で任務にあたる。会話はひそひそ声で、トイレのドアもそっと閉めるほどの徹底ぶり。艦内の音をソナーなどで探知されないようにするためだ。
楽しみは食事
乗組員になるには特別な適性検査がある。任務が1、2カ月に及ぶことがあり、協調性や忍耐強さが欠かせない。外界と接触を断たれ過酷な日々が続く中、せめてもの楽しみという意味もあり充実しているのが食事。航行時に艦内に大量に持ち込んだ冷凍の肉や野菜をふんだんに使い「とんかつや焼き魚など地上と同じ料理を味わえる」という。
金曜の昼はおきまりの「海軍カレー」だ。スパイスや野菜のだしを駆使し前日からじっくりと煮込む。これが楽しみで睡眠中でも起きてくる乗組員も。同じメニューは曜日感覚を失わないようにする狙いもある。
四方を海に囲まれる日本は、警戒監視に不可欠とみて潜水艦を国産化し、潜航時の深さや長さを向上させてきた。海自トップの武居智久海上幕僚長は「潜水艦は日進月歩で技術が向上している。今後も水中持続力と静粛性の向上に取り組む」と気を引き締める。
安全保障コンサルティング、太平洋技術監理LLPの山内敏秀理事は「完成の域に達していない」と指摘する。潜航時に海水を取り込む装置の音の抑制や、軽量で音漏れ防止効果の大きい吸音材の開発を能力向上の優先課題にあげる。
防衛装備庁は15年度、鉛蓄電池より容量が大きく、長時間潜航につながるリチウムイオン電池を搭載した新型艦の建造に取りかかった。艦艇装備研究所は吸音材の配置見直しなどで探知されにくくする研究を進める。隠密性をより高める取り組みに終点はない。
豪潜水艦の受注、独仏がライバル
オーストラリアの潜水艦の選定手続きには日本、ドイツ、フランスが名乗りを上げた。原子力に比べ危険性が低いディーゼルエンジン型で、現行の3300トンを4千トンに大型化し隻数も6から8〜12に増やす。武器システムは米製を採用する方向。中国へのけん制とみられ、日本は同タイプの採用で日米豪の一体運用がしやすくなるのを利点に売り込む。
4千トン級のそうりゅう型6隻を建造、運用している実績も強み。弱点は武器輸出の経験不足で、防衛装備庁幹部は「海外での調査や販売力を早急に身につけないと」と語る。
[日経新聞1月31日朝刊P.]
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