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安倍政権が抱える意外な「弱点」〜構造的改革はしばらく先送りか 2017年の日本政治を占う
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50643
2017.01.07 待鳥 聡史 京都大学大学院法学研究科教授 現代ビジネス
■安定する与党、低迷する野党
自民党・公明党の連立へと政権が交代したのは、2012年12月のことであった。以来丸4年が経ち、その間に13年参議院選挙、14年衆議院選挙、そして16年参議院選挙と3回の国政選挙があり、いずれも与党が勝利を収めた。
連立与党は衆議院で3分の2の勢力を確保し、参議院でも13年以降は過半数を占めるようになった。首相は一貫して安倍晋三であり、同じく官房長官を続ける菅義偉の在任日数は、16年7月に歴代最長に達した。
他方で、野党第一党の民主党は政権を失ってから党勢が回復せず、維新の党の合流によって16年3月には民進党と名称を変えた。その直後、夏の参議院選挙では共産党を含む野党共闘を推し進めたが、支持率などで自民党に大きく水を開けられた状態が続いている。
15年の安保法制反対運動以降、抵抗野党路線がとられており、社会経済に関して与党への代替案を示すための基軸は見つけられていないように思われる。
安定する与党と低迷する野党──。この明瞭な構図の下で、安倍政権は堅固な基盤を維持している。小選挙区制中心の選挙制度の下では、大政党の公認候補になることが当選にとって決定的な意味を持つため、党執行部(党首を筆頭とする幹部)の影響力が大きくなる。
その分だけ執行部の責任も重大になるのだが、高い内閣支持率が保たれ、連続して国政選挙に勝つという結果を残すことによって、首相に対する与党内からの異論が出にくい状態を作り出すことに成功している。
そこに官邸主導、安倍一強といわれる政策決定過程が現出したことは、当然であった。安倍政権に対して批判的な立場からは、外交・安全保障分野を中心に保守派の首相が唱える「危ない政策」が次々に決まってしまうとの懸念が提起されている。
だが、批判する人々が考えるほど「危ない政策」なのかという議論は措くとしても、政策の決まり方という観点からは、これほど堅固な基盤を持つ政権が目指す政策を推進できないとすれば、その方が問題であるというべきであろう。
このような基調と比較した場合に、2016年に顕在化したのは、むしろ内政における安倍政権の意外な「突破力の弱さ」ではなかっただろうか。
■最後の「矢」はどこへ?
政権発足直後に掲げられたアベノミクスの「3本の矢」のうち、財政出動と金融緩和については早々に打ち出され、有権者の間に広範な期待と支持を生み出した。
有権者が選挙において重視する争点は経済であることが一般的で、13年参議院選挙、14年衆議院選挙での勝利は、この期待によるところが大きかったと考えられる。
ところが、もう1つの「矢」となるはずだった成長戦略が、なかなか軌道に乗れずにいる。
元来、財政出動と金融緩和によって短期的な景気刺激とデフレからの脱出を図り、好ましい景気循環が生まれたところで社会経済の構造的な変革を含む成長戦略を実行に移す、というのがアベノミクスの青写真であった。
構造的な変革である以上、家計や中小企業、小規模農家といった弱者を含む各経済主体に、それまでに慣れ親しんだ行動や、その根底にある将来期待を改めてもらう必要がある。
たとえば、妻が専業主婦で家事全般を担い、夫が働いて稼いだ金で子供を含めた一家が生活するという家族のあり方、どれだけの付加価値があったかではなく何時間働いたかで測られる労働のあり方、さらには週末や繁忙期だけ家族で作業を行い、出荷先の開拓などは農協にお任せといった小規模農家のあり方を、忍びないことは百も承知で、日本の経済を長期的に成長できる体質にするために変えてみる、というのがその本質である。
当然ながら、マイナスの影響を受ける人々、反対する人々も少なくないであろう。有権者の広範な支持を集め、国会で圧倒的多数を占め続けられるような政策では、そもそもないのである。
それは同時に、家庭に縛られて能力を発揮できずにいた女性、成果が挙がっているのに報われていない労働者、意欲ある農家や新規に農業を始めようとする人々に、チャンスを与えることにもつながるはずであった。実際にそうであるかはともかく、日本の社会と経済の未来はここにかかっている、という人もいる。
規制や税制の改革は、日本社会に暮らす人々の行動にとっての誘因を変化させ、このような構造的な変革を実現するために、政府が用いることのできる重要な手段である。環太平洋経済連携協定(TPP)への積極的な対応も、同じく構造的変革の手段としての側面を持っていた。
衆参両院で過半数を確保している安倍政権は、負担を強いられる人も少なくない政策であっても、必要だと判断すれば決定し、実行に移すことが可能である。賛否が分かれる困難な政策にも果敢に取り組み、その評価については選挙で正面から受けて立つというのが、長期安定政権としての責務であろう。
だが実際には、2017年度に向けた税制改革における配偶者控除の扱いに典型的に見られたように、制度の大きな変化がもたらす悪影響が、東京都議選などを含む次回の主要選挙でのマイナスにつながるという判断が勝る場面が多くなっている(その背景には、政権の帰趨に影響を与えかねない選挙が多すぎるという日本政治の制度的課題があるが、小論の主旨からは外れるので論じない)。
TPPがアメリカ新政権の方針転換によって発効困難になるといった不運もあったが、社会経済の構造的な変革には目処が立たないまま、財政悪化やマイナス金利の悪影響などが気になる状況になりつつある。
■「2020年以降」を見据えた議論を
外交面での安定もあり、安倍政権に対する支持率は高い水準を保っている。日本の経済力などから考えて、米中関係の急激な悪化やEUの崩壊といった国際政治経済の大規模な変動を伴う不測の事態が生じない限り、2020年の東京オリンピックまでは現状維持が可能であろう。
政治の世界は「一寸先は闇」であり、現状分析を任務とする政治学者の将来展望はまず当たらないのだが、安倍政権や与党が近い将来に危機に陥るとは思われない。
年内に衆議院の解散総選挙が行われる可能性は小さくないにしても、そこで政権交代が焦点になるとは考えづらい。野党は安倍政権に対する有効な攻め手を見いだせないまま、逆に与党が憲法改正などに踏み込むこともなく、全体として2017年の日本政治は引き続き現状維持ムードの強い展開になるであろう。構造的な変革は引き続き先送りされる可能性が高いのではないか。
だが、目先の権力維持や政権批判を繰り返していれば済む時期が、永遠に続けられるわけではない。少子高齢化と人口減少の加速によって、日本の社会と経済がはっきりと下り坂に差しかかりつつあることも間違いない。
そのことを無視するのか、あるいは何らかの大胆な対応に踏み出すのか。踏み出すとすれば、どのような方向性になるのか。与野党双方において、「2020年以降」を見据えた骨太な将来構想が提示され、それをめぐる議論が始まる1年であってほしいと願う。
代議制民主主義はもはや過去の政治制度なのか。 民意と政治家の緊張関係から、その本質を問い直す
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