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「社会保障」「地方再生」失敗の轍を抜けるには 人口減少時代のウソ/ホント 日本が沈み切る前に、打つべき手を考える賢人
http://www.asyura2.com/16/senkyo218/msg/256.html
投稿者 軽毛 日時 2016 年 12 月 27 日 00:38:46: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

「社会保障」「地方再生」失敗の轍を抜けるには

人口減少時代のウソ/ホント

日本が沈み切る前に、打つべき手を考える賢人会議(前編)
2016年12月26日(月)
森田 朗、崎谷 実穂
 識者5人による「賢人会議」をお届けする。「少子化」「超高齢化」時代における「社会保障」「地域再生」はいかにあるべきか。日本労働組合総連合会会長の神津里季生氏、東京大学 政策ビジョン研究センター特任研究員の藤田正美氏、一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事の木下斉氏、個人投資家で作家の山本一郎氏が、森田朗所長率いる国立社会保障・人口問題研究所に集い、現実を直視しながら、「次の一手」を探る。その前編。

(写真=鈴木愛子、以下同)
森田:皆さん、お忙しい中、社人研(国立社会保障・人口問題研究所)にお集まりいただき、ありがとうございます。今回は識者の皆さんと一緒に、人口減少時代の社会保障と地方再生のあり方について考えていきたいと思います。では山本さん、進行をお願いします。

勝った政党が改革を進めるべき

山本:恐縮です。ではまず「民意」を確認するという意味で、少々遡りますが、7月の参議院選挙の振り返りからいきたいと思います。獲得議席は自民党・公明党あわせて70、野党は全体で51、民進党単独では32議席でした。民進党を支持する立場であった労働組合の中央団体「連合」として、神津会長は選挙結果をどう見られましたか?

神津:安倍(晋三)総理を支持しているというよりも、他の選択肢がないから自民党に投票した国民が多かったのだろう、と感じました。このことは、世論調査でも明らかになっています。投票率も54.7%と、依然として史上4番目の低さにとどまりました。


神津 里季生(こうづ・りきお)日本労働組合総連合会 会長
山本:野党側は共闘体制で挑みましたが、国民の支持を大きく広げるには至りませんでしたね。

神津:メディア的に言えば共闘だったかもしれませんが、実情としてはそうではありません。民進党を軸に統一名簿をつくる構想も、途中で断念せざるを得なかった。積極的に政策でまとまって、国民の目から見て投票してみようと思ってもらえる選択肢にはなれませんでした。

山本:この選挙で特徴的だったのは、各種メディアでの「投票先を決める時に重視する政策は?」というアンケートの結果において、概ね「年金・医療などの社会保障」が「景気・雇用対策」を抜いてトップになったことです。これは注目すべき変化だと思うのですが、森田先生、いかがでしょうか。

森田:社会保障は現在、国民の大きな心配事となっています。でも選挙の場では、これまであまり表立って扱ってこなかった。2011年、2013年の選挙では与野党ともあえて争点から外しましたよね。当時の野田(佳彦)首相も、安倍首相も、社会保障の財源問題を解決するためには消費税を上げざるを得ないと知っていたけれど、先送りしてそれ以外の争点で戦いました。


森田 朗(もりた・あきら)国立社会保障・人口問題研究所 所長
山本:2012年に制定された社会保障制度改革推進法は、どうなっているのでしょうか。社会保障と税の一体改革を進めますよ、という方針はもう決まっているんですよね?

森田:そう、本来は勝った政党がこの改革を進めるべきです。でも虎の尾を踏みたくないから、逃げ腰になっているのかなという感じですね。社人研では、昨年の国勢調査に基づいた人口推計をやっています。そしてそれに基づいて、年金の再計算をする。それを踏まえて、政策もまた変わってくるのかどうなのか、注視しています。

地方消滅で一番打撃を受けるのは


山本一郎(やまもと・いちろう)個人投資家・作家
山本:ここ数年、自民党の勢力が強くなっていますよね。また、比較的若年層が自民党を支持しています。いまの安倍政権や自民党の政策がいいかどうかは別として、野党側の経済政策がうまく浸透せず比較対象になれないのが問題なのではないかと。

神津:民主党政権時に掲げたものも含めて、民進党もやはり分配に力を入れています。それは大事なことだと思います。この20年間、経済格差は開くばかりです。下を上に引き上げていくことが急務だということに間違いありません。同時に、従来構造だけで物事を考えてはいけないとも考えています。以前、安倍総理がアベノミクスの効果として、倒産件数が減っていると話していました。たしかに、東京商工リサーチの調べによると、2015年の企業倒産は25年ぶりに9000件を下回りました。しかし、その裏には2万5000件以上の休廃業・解散があるんです。後継者がいなかったり、業績がジリ貧になったりして、事業継続を断念している中小企業がたくさんある。ただ事業の延命をはかるのではなく、もっと生産性の高いところに集約を図るなど、将来を予測して時代に対応していかないといけません。

山本:後継者が不足して事業継承が困難、といった話は地方経済の維持・発展において大問題なのではないでしょうか。地域政策系の業務に携わり、地方創生の現場を日々目の当たりにしている木下さんから見て、地方の政治はどうなっていると思いますか?


木下 斉(きのした・ひとし)一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事
木下:いわゆる「地方消滅」で一番打撃を受けるのは、実は政治家と行政マンなんですよね。これはある種の“不都合な真実”です。一般住民からすると、より広域行政化することでサービスを維持したり、移住する先にサポートをまわしてもらったりするほうが合理的だと感じている。そういう声もよく聞きます。でも地域を再編すると、政治家・行政マンの仕事がなくなる。だから、今の行政区をいかに守るか、議会などの行政組織をいかに維持するか、という方向に政策が展開されてしまう。既存のシステムを維持するために予算が割かれてしまうわけです。

山本:本末転倒と言うかなんというか……。

木下:若い人ほど移動が容易だから、過疎地域を見捨ててどんどん都市圏に若者が集まっています。そして人が少なくなればなるほど、残された人の仕事のほとんどが行政関連、そして所得のほとんどが年金という状況に。市場や産業はなくなります。若い人にとっては、ある種の利権的なヒエラルキーに入らないと、地方の過疎地域にはブラックな仕事しかない。その状況も、さらに移住を加速していくというスパイラルになっていると思います。

人口急減時代の新ルールとは

山本:地方の自治体を再々編するという話も出てきていますよね。

木下:うーん、市町村再編、都道府県再編に関しての話は、道州制に味噌がついてしまったこともあり、若干タブー視されているように感じますね。行政機構を再編して、社会保障や地域の維持にかかるコストを見直そうという話は、本筋として今、熱心に議論されていません。

山本:現状に汲々としていて、あまり長い目では現実を直視しないようにしている、ということでしょうか。とはいえ、人口減少で地方が消滅しかねないというのは、実際に起こっていることです。それについて、政策シンクネットのエディターであり、長年政治や社会の問題にジャーナリストとして向き合ってきた藤田さんはどう思われますか?

藤田:先日、森田先生ともお話ししたのですが、もう日本の人口はこれから、フリーフォールのように落ちていくんですよね。日本の人口の推移を歴史的に見てみると、平安初期には約550万人だった人口が、江戸時代直前には1200万人を超え、1872年(明治5年)から急激に増加の角度が上がり、2010年には1億2806万人に達します。そこがピークだった。社人研によると、2060年には8474万人、2100年には4959万人にまで減ると推計されています。私たちはもう、分水嶺を過ぎてしまったんです。でも、そこに危機感を覚えている政治家はどれくらいいるでしょうか。


藤田正美(ふじた・まさよし)東京大学 政策ビジョン研究センター 特任研究員
山本:数字として知っていても、これが身近なことだと深刻に捉えている人はあまりいなさそうです。

藤田:人口が減るというのは、社会のルールが変わるということなんです。人口が増えている時代は、毎年大きくなるパイを仲良く分け合えばよかった。今年はうちがもらったから、来年はあなたのところね、と調整することができたんです。ところが人口、国力、何もかもが減っていく時代は、ぶんどったもん勝ち。今年もらえなかったら、もうこの先ずっともらえないかもしれない。オールオアナッシングなんです。このルールが変わったということは、認識されていません。それには、メディアにも責任があります。メディアが強く発信し、周知していかなければいけない事実だと思います。

山本:新しいルール、制度を政策面から考えていく必要がありますね。でも、今の自民党のやり方のままだと、解決される気がしません。

生産した上でしか、分配はできない

森田:政治家の認識が甘いという点もあると思いますが、次の選挙で勝ちたいと考えると、わかっていても改革案を進められないのではないでしょうか。ヨーロッパでは、政策の内容から投票先を決めるということが当たり前におこなわれています。それは、比例代表が中心になっているから。党として長期的にこういう政策を進めます、それがいいと思ったら投票してください、と言える。でも日本のように、選挙で当選するかは個人の責任、となるとなかなか具体的な政策を打ち出すのは難しいですよね。

山本:そうすると、国民の機嫌をうかがうような主張ばかりになってしまいます。例えば年金生活者の生活を直撃する消費税増税なんかは、こわくて言い出せませんよね。

森田:どうして日本の選挙はそうなったのか。ひとつはソ連が崩壊していった1990年あたりでイデオロギーがなくなり、拠りどころになるような思想や哲学が政治の世界から消えてしまったからです。昔はわりとわかりやすくて、社会主義、労働者重視の政策を社民党が代表していて、自由主義で自由市場を広げていきたい人、つまり自営業や起業家の政策は自民党が代表していた。どちらにするか、という選択の余地があった。今は、どの党の候補も同じことを言いますよね。特に政治思想がないから、みんな「豊かで明るくて美しい国をつくりたい」みたいなことを言う(笑)。

山本:衰退していく日本をうまく回していくための新しい政治思想が、今はまだ出てきていません。右肩上がりを前提にしたような制度改革から次の時代にマッチした枠組みができないまま停滞しているような感じです。

藤田:民進党の蓮舫代表が、参院本会議で「批判から提案へ」のスローガンに従って、22回も「提案」と言ったと。でも、何を提案するかが見えてこないんですよね。


木下:政治家は、決断が仕事なんですよね。国民は、政治や行政は何かを生み出す存在ではないと理解しないといけません。打ち出の小槌のように、求めれば何でも出してくれる存在ではない。自分たちが払ったお金や、生産したものの上でしか、物事は分配できないんです。それは、私達も意識すべきことだと思っています。でも、なんとなく生きていれば幸せになれた時代があったから、意識がなかなか変わらない。

山本:高度成長期の弊害ですね。

「地方から海外へ」の視点を

木下:商店街のおじいちゃんが言うのは、朝ちゃんと起きて店を開いて、博打もせず、女遊びもせず、まじめにやっていればつぶれる店なんて昔は一軒もなかった、ということ。物がない時代は、物を仕入れれば売れた。いかに卸の人と仲良くなって、物を仕入れるかが商売だとされていた。マーケティングなんかいらなかったんです。でも今は、朝から真面目に店を開いていても、つぶれる店はつぶれます。物がありすぎて売れない時代に変わってしまった。自分たちが生きる環境が変化していることを認識しないと。

山本:稼げないから若い人の賃金も上がらない、結婚できない、子どもも育てられない。そして、最終的には少子化に結びついていく。これはどうしたらいいのでしょうか。

木下:地方で言えば、都市中心部に集約して、効率性を上げれば都市的生活が営めるという方向に持っていくことでしょうね。それをやりながら、同時に農林水産業では小泉進次郎さんなども推進するような、農林改革を進めていく。ここで一番カギになるのは、地方がやってきた空港などのインフラ投資を、輸出産業の基幹として使うこと。


山本:例えばどういうことでしょう。

木下:北海道の紋別のカニは、底引き網などで大量に獲って、福井などより格安の値段でかに料理店などの店舗に売ってきたんです。でも、今後は国内での薄利多売ではやっていけません。そこで、国外市場に打って出る。地方で活用されてない空港を利用し、空輸して他の国で新鮮なまま売れば、もっと単価を引き上げられ、少ない漁獲量でも収益が上がるかもしれないんです。今までそういう発想がなかった。空港経営の見直しは、農林水産業の改革と一体で説明すると、事業の可能性がすごくあります。

山本:地方の特産品を商品化して価値を高め、高額で買ってくれるところへ捌いて稼ぐという方向に、ようやく目が向き始めたんですね。

プロジェクトファイナンスができない地方銀行

山本:ここ数年、地銀の再編が増えていますよね。木下さんの目から見た、地方の金融政策、経済政策はいかがですか。

木下:自民党の地方向けの政策メッセージについては、地方でも正当な競争をうながすなど、納得するものが多いと感じています。でも出て来る政策パッケージが昔のままだから、執行部分は疑問符がつきますね。実情として、地方には過剰なほどいろいろな資産があるんです。交通でいえば、空港や新幹線の駅など、国、地方が持っているだけでも570兆くらいの資産が地方都市にある。お城などの観光資産も財務省が持っていたりする。それを民間に開放して活用できるかどうか。

山本:交通インフラは、先程のお話のように、農林水産業の改革と一緒に活用が進めばいいですよね。

木下:はい。そして、金融も地方特有の問題がやっぱりあるんです。それは、地方で新しいプロジェクトを立ち上げるときに、融資の要となるプロジェクトファイナンスをちゃんとやれる、いわゆる「担保」をとらずに事業の収入を元に審査して融資できる銀行が各県に、ないこと。

山本:それはきついですね……。


木下:エクイティをどれくらい積んでほしいといったことは、本来銀行側から提案してほしいところです。でも、そういう試算や決断ができる銀行職員がなかなかいない。土地などを担保にしない限り貸せません、の一点張りなんです。東北のプロジェクトでどうにも融資してくれる銀行が見つからず、プロジェクトファイナンスができる部隊がある中国地方の銀行に相談してようやく融資が決定されたケースさえあります。このミスマッチが地域の差をさらに加速しています。

収益があがっているからこそ、売る

森田:昔は土地などの担保の価値で、お金を動かすのが当たり前でした。その考えが抜けず、担保の価値がなくなったときに、どうやってお金を使っていくか見立てをする力が銀行についていないんですね。これは都市部の住宅問題にも通じる話かもしれません。


山本:といいますと?

森田:昔のマンション購入のパターンは、老朽化したら階数を増やして増床し、その部分を売ることで建て替え費用をだすというモデルだった。でも物件自体の価値が下がり、建て替えができなくなっているマンションがたくさん出てきています。これから首都圏で起こる住宅問題は、賃貸よりも分譲マンションで悲惨なことになるのではないでしょうか。

山本:なるほど、そうかもしれません。実際、人口が流入する首都圏の中央区、港区、千代田区以外では、土地を寄せて地上げしてもデベロッパーが仕入れず駐車場のままになっているところがゴロゴロあります。

森田:日本は100年以上続いている株式会社が約2万6000社あり、創業200年を迎えている企業が約1200社あると。世界全体でみると、創業200年を超える会社の40%以上が日本に存在しているんだそうです。一方、アメリカは企業の新陳代謝が激しい。これは、資産に対する考えかたの違いが如実に表れています。IBMがレノボにThinkPad事業を売った時に、日本人は「収益が上がっているのになぜ売るのか」と言う人が多かった。

山本:でも、IBMとしては、「収益が上がっている今だからこそ、売るべきだ」と考えているわけですよね。

森田:その通り。でもこの発想は、日本になかなかないですよね。むしろ日本では、マイナスになるまで持ちこたえようとする傾向がある。どちらがいいという問題ではありませんが、不良資産は早めに処分するという方向に考えを切り替えていかないと、これから先は厳しいのではないでしょうか。

人口拡大期の仕組みが縮小期に齟齬

山本:「マイナスになるまで持ちこたえようとする」は、あらゆる場面で起きている現象ですね。地方の助成事業も、今は不採算になっているものが多いのでは?

木下:残念ながら、ほとんど不採算ですね…。日本の問題は、もともと人口の拡大期に制定された法律が、国の縮小期になってもそのまま残ってしまっていることで起きている不具合が多発しています。地方でいうと、拡大期は助けになっていた国の支援が、今は重荷を作ることになっている。100億円支援した結果、それから20年かけて地元に500億円の負担が生じる、なんてことも。助成金をもらうと、短期的には収入が上がっているようにみえるけれど、それで施設を建てた場合、維持費で毎年どんどんお金が出ていき、長期修繕が必要になったときには資金は底をついている。かつての右肩上がりなら良かったものの、既に我々が迎えている縮小期に合わせた制度になっていないのが、本来的な問題だと考えています。

藤田:それは個人事業主、起業家にも起こりうることですね。特に今問題だと考えているのは、銀行の融資のあり方です。実際に、大手企業を辞めて本屋を立ち上げた人から相談を受けたことがあります。その人は、もう自分もそろそろいい年になってきたので、本屋を誰かに引き継ぎたいと考えた。でも、見つからないんです。なぜなら、その社長は銀行から融資を受けるときに個人保証をしているから。後継者となると、その人にも銀行は個人保証を要求する。そこでみんな躊躇してしまうんです。


山本:日本の場合は、次の世代に生産性のある事業を引き継げるシステムになっていないんですね。地方の企業において、事業継承が上手くいかないケースは多くあるでしょう。

森田:いま、地方で大きな雇用を生んでいるのは、医療介護関係ですよね。たしかに医療介護を充実していけば、雇用も増えるし、住んでいる高齢者も助かる。でもそうした、社会保障医療のもとのお金は、稼いだお金じゃないんです。これを忘れてはいけません。右から左にまわってくるお金をベースにして、雇用が増えているという状況。そうするとだんだん原資となっている年金が減っていけば、医療保険が破綻し、結局、医療介護サービスももたなくなる。本来なら、稼いだお金をまわすべきなんですよね。そこにはある程度の人口や産業の集積、集約がないと難しい。

昔栄えた地方の工業都市ほど惨状が待っている

木下:今の地方で大変なのは、昔はある程度人口や産業が集積していた都市なんです。企業が建てた工場の固定資産税や、栄えていた事業に関連する従業者から税金を集めていた自治体ほど一気に厳しくなっている。北九州市は、まさにその先進例です。

山本:過疎地が高齢化で困っているという話はメディアでもよくピックアップされますが、じつは地方でリアルに大変なのはかつて栄えた工業都市なんですね。

木下:はい。北九州市では、1979年の約107万人をピークに、2005年には100万人を割って、2007年以降は毎年平均4000人ほどの減少が続いて、2014年には約96万人になりました。そうするとさまざまなインフラが余り、維持も困難になる。たくさんの工場によって支えられていた労働環境や社会保障も細くなり、会社も面倒を見きれずスタッフを非正規雇用化していく。北九州市の小倉地区では、実情に合わせた「縮小社会型」の再生計画を実行して少しずつ、雇用が増えているのですが、全体としては今後も減っていくと考えられます。

藤田:規模はもっと小さいですが、2006年に破綻した北海道の夕張市も、もとは炭鉱の町として栄えていましたよね。

木下:夕張については、自治体破産法をもっと真剣に検討すべき契機だったと思います。このケースで一番こわいのは、破綻当時の353億円の赤字を、今後ずっと夕張に住む人が返済し続けないといけないことです。要は自治体はリセットが許されない仕組みなんですよね。つぶれないというのは表向きはいいことのように聞こえるけれど、個人で言えば、おじいちゃんがつくった借金を孫も返し続けているようなもの。どこかでリセットできる仕組みをつくらないと、この問題はなかなか解決しないでしょう。

山本:それはもう、人口減少が宿命づけられている日本社会の中で、活力を維持しながらどううまく撤退するかということですよね。日本はもう、勝つために闘うのではなく、撤退戦で被害を少なくする方法を考える段階にきています。そのグランドデザインはどこから手を付ければいいのでしょうか。

森田:残すところと残さないところをはっきり線引し、撤退プランと育成プランに分けて対応することですね。でもそれが、なかなか政治的にできない。北九州市もその他の都市も、これ以上、人口が増える可能性はない。だったらある程度の規模の都市を活かし、まわりを縮小していくしかありません。そういうかたちで対応せざるをえないと理解してもらうのは、なかなか難しいことです。私自身も以前、市町村合併に関わったことがあります。そのときに、ABCDEという5つの自治体を合併したら、一番大きなAだけ栄えてほかが衰退する、だから嫌だという意見があった。でも合併しなかったら、BCDEも、そしてAも、すべてが衰退するんです。感情的に抵抗があるのはわかりますが、理屈を説明して理解してもらうしかないのかなと。

規制強化ではなく、何かが起こった時に対処すればいい

神津:やはり何か一つ成功モデルをつくって、徐々に普及させるしかないと思います。日本人は「みんな一緒なら大丈夫」と思いすぎるところがあるのではないでしょうか。東日本大震災ではあんなに大きな被害があったのに、みんなで肩寄せあって生きていこうと、その場を乗り切った。それはすばらしいことです。でも、みんなで普通に生活できるんだから大丈夫と安心して、社会を変える変化にはあまり向かわなかった。社会保障問題もそうです。社会保障に関心が集まっていることは確かですが、本当に危機感があるかというとそうではない。政党選びの争点にはなってないし、投票率も低い。このままでなんとかなるんじゃないか、と思っているんですよね。


山本:現状維持を好む傾向はありますよね。稼ぎが減ってしまっても、新しい稼ぎ方を見つけるというよりは、それでなんとか生活していこうとする。その結果、苦労は分かち合われてもみんなジリ貧になってしまう。

藤田:「爆買い」で中国人が日本に押し寄せた時に、政府もマーケットもみんな喜びましたよね。それは、稼ぐ方法が降って湧いたから。それは一時期の幻想だったということがわかるのですが、今の時代、何をするにも日本のマーケットだけだとどうにもなりません。この先事業を拡大するならば、海外に目を向けることは必須です。そのとき政府の規制は基本的に邪魔になります。

山本:そうですね。

藤田:今まで日本では、問題が起こる前に早手回しに抑えようとしていました。それが規制の強化につながっていた。これからは、考え方をガラッと変えることが必要です。事前に防ぐのではなく、問題が起こってから対処すればいいというふうに切り替えていかないと。それと同時に、変えなければいけないものがあります。それは、何か問題が起こった時に「政府は何をしていたのか」と責める考えかた。政府は基本的に静観していて、問題が起こったら対処するというものだと認識を変える。ここはメディアも気をつけるべきですね。

神津:雇用においても、考え方、風土を変えなければいけないところはたくさんあります。今年の春闘では、中小の要求が大手を上回れないという固定概念は終わりにしよう、と呼びかけました。大手追随、大手準拠からの脱却を特に強く言ったんです。

山本:それは大事な観点ですね。中小企業でも成長力のある活気づいたところはたくさんあります。

神津:大手企業をトップとするヒエラルキーは、中小企業の経営者の頭の中にも根強くあります。長いものには巻かれたほうがいいと考えて、価格や条件をちゃんと交渉できない。大手の発注者の言いなりになってしまうんです。そして、これは中央と地方にも当てはまる図式ですよね。中央政府の言うことを聞いておけば、最後は助けてくれるだろうと思ってしまう。そうではなく、地方にも同じだけ主張する権利がある、自主性を持って動いていかなければいけない、ということを発信していかなければと思います。

(次回へ続く)

(構成=崎谷実穂)

このコラムについて

人口減少時代のウソ/ホント
私たちが生きるのは人口減少時代だ。かつての人口増加時代と同じようにはいかない。それは分かっている…はずだが、しかし、具体的にどうなるのか、何が起きるのか、明確な絵図を把握しないまま、私たちは進んでいる。このあたりで、しっかり「現実」をつかんでおこう。リアルなデータを基に、「待ったなしの明日」を知ること。それが「何をすべきか」を知るための道だ。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/275866/121200011/



「撤退戦だが、負けない」新たなプランが必要だ

人口減少時代のウソ/ホント

日本が沈み切る前に、打つべき手を考える賢人会議(後編)
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コメント
 
1. 2016年12月27日 02:25:09 : 0JFWqaUiq2 : i1dQ9OkWYyM[7]

「愚人会議」だろう。

 賢い人は自分で、「賢人」と言うかい。

 恥かしい奴らだ、アー恥知らずの愚人の井戸端会議か、

 こんなアホウがいいギャラ取ってるんだ。


2. 2016年12月27日 08:16:00 : F2230ndbwE : N_t1ziYiq68[75]
1さんに賛成

「賢人会議」は自称ですか、他称ですか? このネーミングだけで中身が下らないことは読まずともわかる。

ソクラテスでも自分を「賢人」とは言わなかったのに。

賢い人は「賢人会議」なんかに参加せんだろう。


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