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4島返還など不可能。プーチン来日の各紙報道でわかった「絶望」
http://www.mag2.com/p/news/231544
2016.12.19 まぐまぐニュース
去る12月15日、ロシアのプーチン大統領が来日し、山口県長門市で安倍首相と日露首脳会談を行いました。今回の首脳会談で北方領土問題の進展を期待していた安倍政権ですが、いざ蓋を開けてみると、進展どころか「後退」さえ感じさせるほど厳しい内容を突きつけられていたようです。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』の著者でジャーナリストの内田誠さんは、プーチン氏来日から一夜明けた16日の新聞各紙の報道内容を分析。そこから見えたのは、安倍政権には4島どころか2島の返還さえ実現できる力などないという現実でした。
■プーチン来日と長門での日露首脳会談を、新聞各紙はどう報じたか
【ラインナップ】
◆1面トップの見出しから……。
《朝日》…「共同経済活動「率直に議論」」
《読売》…「4島「特別な制度」協議」
《毎日》…「日露交渉入り合意」
《東京》…「オスプレイ事故 自民党内からも懸念」
◆解説面の見出しから……。
《朝日》…「共同経済活動 着地点は」
《読売》…「領土 譲れぬ日露」
《毎日》…「日露「共存」道険し」
《東京》…「主題 領土か経済か」
テーマは、プーチン来日と長門での日露首脳会談を、各紙はどう報じたか、です。
■基本的な報道内容
来日したプーチン大統領と安倍総理は、山口県長門市の温泉旅館で、会談を行い、北方領土での共同経済活動実施に向け、事務レベル協議開始で合意。会見した安倍氏は、「特別な制度のもと」での共同経済活動について話し合ったと強調したが、具体的な内容には触れなかった。
■着地点が見えない
【朝日】は1面トップに2面の「時時刻刻」、4面には首相発言全文を掲載する。見出しを並べておく。
共同経済活動「率直に議論」
首相「特別な制度下で」
共同経済活動 着地点は
どちらの法律で?ずれ残る
ロシア側「領土 議論の余地ない」
■uttiiの眼
来日直前に「領土問題は議論の余地がない」ことを《読売》のインタビューで表明しているプーチン氏が、来日して別のことを言うだろうか。《朝日》が解説記事の見出しに書いているように、どんな「着地点」があり得るのか、少なくとも楽観的ではいられまい。
初日の首脳会談、とくに後半の「2人だけの」会談で、総理が北方四島の元島民から預かった手紙を手渡し、ロシア語の1枚についてはその場で読んでもらったというような、ウェットな内容を首相自身が会見で明らかにしている。しかし、こうした“感情”に訴える手法が通用する相手とも思えず、既に決定的な対立が浮かんできている。
北方領土での共同経済活動について、ロシア側のウシャコフ大統領補佐官は「詳細な折衝を開始するよう指示する」との一見前向きな姿勢を公表したが、案の定というか、「ロシアの法律に基づいて行われる」と付け加えていて、これに対する日本側は「特別な制度とは、ロシアの法制下ではやらないということだ」と強調。《朝日》も「早くも双方のつばぜり合いが始まっている」と嘆息している。
「時時刻刻」後半は、領土問題でロシアが態度を硬化させた経緯について書いている。それによれば、安倍氏が、プーチン氏は日米同盟に理解があると勘違いをしてしまい、谷内正太郎国家安全保障局長も、北方領土に米軍基地を置く可能性があることを認めてしまった、このことの影響を甘く見ていた…というようなことが書かれている。
要は、北方領土の一部であっても返還する(ないしは引き渡す)ためには、日本が米国との軍事同盟を抜け出し、ロシアとの間に友好的な雰囲気と相応しい法的関係を作り上げることが必要だということ。おタクがアメリカの属国である以上、今、実効支配している場所をくれてやるなんてあり得ないでしょ、と言われているのだ。
加えて、原油の減産合意による価格の上昇、プーチン氏を褒めちぎる米国トランプ新大統領の登場などで、経済的にも政治的にも、日本との関係改善を急ぐ必要は全く無い現今の情勢、というわけだ。
やはり、安倍政権に北方領土返還を成し遂げる力はないということだろう。
■プーチン氏も恐れる世論の反発
【読売】はフルスペックでの対応。1面トップに2面、3面は解説記事「スキャナー」、4面は与野党の反応、9面国際面、11面経済面、14面15面は見開きで「日露首脳会談」の大特集、34面と35面の社会面にも長門市民の反応、元島民の声。見出しを拾う。
4島「特別な制度」協議
プーチン氏来日、首脳会談
共同経済活動で
事務レベルで議論 合意
プーチン氏 また遅刻
領土 譲れぬ日露
首相「元島民の思い胸に」
支援「食い逃げ」に懸念
プーチン氏強硬 共同経済活動「主権下」要求
与党 北方領「前進を期待」
野党「目に見える成果を」
安保対話「重要」で一致
中露国境 解決に40年
「今は特別なパートナー」
経済協力 具体化へ協議
追加協力の可能性
領土交渉 思惑交錯
安倍首相 信頼築き進展図る
プーチン大統領 経済最優先譲らず
「先行返還」容認広がる
島の返還 糸口は
湯の街会談 和やかに
沿道市民 歓迎と期待
■uttiiの眼
膨大な記事を「日露首脳会談」に捧げている《読売》だが、大半は提灯行列のようなものに見えてくる。肝心の、領土問題における成果が見通せない。別に、《読売》のせいではないだろうが。
そして、会談後に起こる出来事に対するリアリティは、見出しで言えば「支援「食い逃げ」に懸念」というあたりに見受けられる。この「懸念」の主は、自民党内の声ということだ。
解説記事「スキャナー」には、両首脳が対座して2人とも満面の笑みを見せているモノクロ写真が掲載されていて、安倍氏の方はいささか笑いすぎとも思える表情を見せている。しかし、記事の中身は、笑っていられるようなものではない。「共同経済活動や人的往来の拡大で合意し、領土問題を含む平和条約交渉の進展につなげる」というのが首相の描いた戦略なのだが、「これまでのところ、経済協力の議論が先行」しており、そのことに対し、自民党内から「またしてもロシアに「食い逃げ」されるのではないか」と懸念する声が出ているという。どうにも品のない表現だが、実際、このような危機感を抱くことは理解できる。安倍政権が領土交渉を通じて得るはずだった“果実”とはほど遠いものだからだ。
共同経済活動はロシアの主権下で行うというロシア側の姿勢の背景を、《読売》は、ロシアの国内事情に求めている。いわく、このところのプーチン氏は、クリミア併合で愛国主義を盛り上げ、高支持率につなげていることを考えれば、領土問題で対外的に柔軟な姿勢を見せてしまえば世論の反発は必至、「プーチン氏の求心力も低下しかねない」という訳だ。
《読売》のこの見方に《朝日》の見方を併せ考えれば、ロシアにとって、2島を引き渡す、ないし、返還することなど、国内外の諸情勢を観ればまったくあり得ないことだと言ってよいだろう。
■首脳会談の「疲れ」
【毎日】は1面トップに2面記事、3面解説記事「クローズアップ」、そして社会面に関連記事。見出しを以下に。
共同経済活動 日露交渉入り合意
首相「特別な制度」主張
元島民の訪問拡充
遅刻常習プーチン大統領
日露「共存」道険し
法適用 食い違い
露 対日関係を利用
多極化世界 存在感発揮へ
プーチン氏は日本好き?
柔道黒帯 領土「引き分け」発言
遠い島影 募る望郷
亡き母に伝えたい
我々には時間がない 元島民、大統領に手紙
■uttiiの眼
「クローズアップ」は、ロシア側の頑なな姿勢、親露姿勢が明確なトランプ氏の米大統領選勝利などによって、「領土問題の解決は厳しさを増している」とする。一見和やかな会談冒頭のやりとりにも、そうした問題の影が伸びてきているようだ。
安倍氏が「ここの温泉は疲れが取れます。首脳会談の疲れが完全に取れると約束します」と笑顔で呼びかけたのに対し、プーチン氏は「温泉は楽しみ」と述べる一方、「一番いいのは疲れないこと」と語って笑いを誘ったという。《毎日》は、「難しい領土交渉は避けたい」と日本側をけん制したとも受け取れると書いている。だが、その体(てい)で行くのならば、そもそも安倍氏が「首脳会談の疲れ」と言ったのは、「領土問題で厳しいやりとりをすることになるぞ」という含意だったということも、併せて書いておくべきだったのではないか。
■首脳会談開催場所の政治学
【東京】は1面左肩。因みにトップはオスプレイ事故。その他、日露首脳会談関連は2面の解説記事「核心」で、3面にも及ぶ。あとは6面に会談要旨。見出しを以下に。
北方領土「1対1で95分」
共同経済活動 首相「特別制度で」
主題 領土か経済か
互いの思惑 綱引き
食い違う「共同経済活動」
「日ロの特別な制度」「ロシアの法の下で」
「2+2」再開一致
米の反発 招く可能性
■uttiiの眼
2面の「核心」には、首脳会談をどこで開催するかについての、“開催地の政治学”のようなものが展開されていて興味深い。
日本側は長門会議で領土問題をじっくり話し合って詰め、「長門宣言」の形で結実させたいと考えていた。しかし、ロシア側は長門会議が決まった後も《東京》開催にこだわり、日本側もその要求を受けて東京会議が実現。東京では日ロの経済団体関係者が集まる「日露ビジネス対話」が同時並行で開かれる。350人に上るロシアの訪問団はプーチン訪日に合わせて編成されたものだという。「東京会議」は文字通り、経済一色となることだろう。
長門は「領土」、東京は「経済」。こんな棲み分けの構図だが、実は、この棲み分け、完全ではなかったようだ。長門会議ではなるほど領土問題が話し合われたが、夕食会では先端技術など8項目の経済協力プランについて進捗状況が話されている。「長門」にも“経済”が紛れ込んだ。
これだけ見れば、日本側が経済協力を餌にして領土問題での進展を目指したのに対して、ロシア側はその逆。領土問題を餌にして経済協力を勝ち取ることを目指していたことが分かる。プーチン訪問団は、全体として見れば、“経済使節団”ということになるか。
image by: Semen Lixodeev / Shutterstock.com
『uttiiの電子版ウォッチ』2016/12/16号より一部抜粋
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