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トランプの方がマシ 日本はアベクロと財務省に殺される
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2016年12月12日 日刊ゲンダイ 文字お越し
言動に比べ政策はマトモなトランプ(C)AP
いやはや驚いた。安倍首相の経済ブレーンが堂々の転向宣言である。
店頭に並んだばかりの月刊誌「文芸春秋」新年特別号に、米エール大名誉教授の浜田宏一氏(80)が「『アベノミクス』私は考え直した」と題した手記を発表。その内容は衝撃的だ。
これまで提唱してきた〈市場の通貨供給量を増やせばインフレを起こすことが出来る、という考え方〉だけでは経済効果はあがらないと反省し、金融緩和とセットで〈政府支出や減税などによる財政政策〉を打ち出すべきだと訴えている。
浜田氏は現在も内閣官房参与で、アベノミクスの提唱者のひとり。つまり「生みの親」がアベノミクスの限界をついに認めざるを得なくなったわけだ。
限界に気づくのがあまりにも遅すぎるのだが、浜田氏の転向の引き金は、彼にとって2つの不都合な真実だ。1つは、米大統領選でトランプが勝つまでの1年間、日本の金利がいくら下がっても円安にならなかったこと。2つ目は、日銀が今年1月に導入したマイナス金利の効果がさっぱり出ないことである。
「金融政策はなぜ効かないのか」という浜田氏の疑問に答えを与えたのが、米プリンストン大のクリストファー・シムズ教授の分析である。ノーベル経済学賞受賞者で、計量経済学の世界的権威であるシムズ氏は今年8月、“世界の中央銀行のお祭り”「ジャクソンホール会議」で、次のように報告した。
中央銀行が量的緩和で貨幣量を増やしても、同時に政府が財政赤字を減らそうとして増税を行えば、インフレにはならず、デフレになってしまう――。14年4月の消費増税以降、長期化する日本経済停滞の理由をズバリ言い当てていた。
■“宮殿”だけを見て民の暮らしは後回し
シムズ氏の主張に「ハッ」とさせられたことで、浜田氏は積極財政論者に生まれ変わったようだ。
天下の愚策、アベノミクスをけしかけた安倍のブレーンが「今さらナンだ」という気もするが、「君子は豹変す」と、いい意味で評価できる面もある。手記では、とりあえずマトモな主張を掲げているからだ。
すでに400兆円近くに膨れ上がった企業の内部留保については〈従業員の賃金に還元せず、株主への配当も増やさない、投資にも回さない。(中略)動かさないお金は何も生み出しません〉と問題視、こう提案する。
〈留保した利益を投資に回した企業を減税する、あるいは内部留保そのものに課税するなど、財政政策で工夫すれば良い〉
さらなる消費税アップについても、〈予定されている次回の引き上げも、旅人の行き先に見える黒雲のように、国民に不安を与えて消費を控えさせています〉と慎重論を唱え、〈一時的に政府に赤字が出ても、国民が消費を増やし、経済が潤えば、お金は税収として戻ってくる〉と財政出動をとことん呼びかける。
宮殿が荒れ果てても、年貢を免除して民の暮らしを豊かにすることを優先させた仁徳天皇の逸話を例に挙げ、財政規律を重んじてばかりの財務省を〈“宮殿”だけ見るような財務省の考え方は一面的だ〉と批判的につづった文書は、痛快でさえある。
今さらナンだ!(エール大・浜田宏一名誉教授)/(C)日刊ゲンダイ
脱デフレには豊かな国民生活が第一
金融政策万能論者の集まりである「リフレ派」の重鎮で、安倍の知恵袋の浜田氏が、ここまで開き直って積極的な財政出動と減税策を呼びかけたのだ。さあ、安倍政権も大胆な財政政策に打って出るのかと思いきや、そんなムードは微塵も感じさせない。
自公与党が先日まとめた来年度の税制改正大綱も、しみったれた政策のオンパレードだ。安倍が「女性の社会進出を促す」と息巻いていた所得税改革は配偶者控除の見直しにとどまり、いわゆる「103万円の壁」を「150万円」に引き上げただけ。パート主婦に社会保険料の支払い義務が生じる「年収130万円の壁」は依然として残る。安倍の言う「女性を輝かせる」には不十分で、大胆な財政政策には程遠い。
ビールは減税、ワインは増税などツジツマ合わせの「酒税改正」は相変わらずの庶民イジメ。割を食うのは、量販店の激安セールで発泡酒や第3のビール、安価な輸入ワインを買いだめし、つつましやかに晩酌を楽しむオジサンたちだ。積極財政で消費を促すどころか、庶民の暮らしに新たな負担を与え、消費の足を引っ張ろうとするなんて愚の骨頂である。
その伝でいけば、米国のトランプ次期大統領の方がマトモもマトモ、大マトモである。
大統領選中から向こう10年間で1兆ドル(約115兆円)規模のインフラ投資を主張。老朽化の激しい橋やガタガタのハイウエーを造り直すことで雇用を生み出し、民間投資も刺激する考えだ。大規模な財政出動に加え、大幅減税にも積極的で、個人所得税の最高税率を39.6%から33%に引き下げ。法人税率も35%から15%へと大幅に下げ、設備投資を促す方針を打ち出している。
日本のメディアでは、言動の危うさばかりクローズアップされがちだが、世界のマーケットはトランプ流の大胆な財政出動を好感し、NYダウは連日、過去最高値を更新し続けている。暴言大統領の経済政策は就任前から、きっちり成果を挙げているのだ。
■失政の責任を負わなければ景気好転は夢の夢
経済アナリストの菊池英博氏は「次期大統領の実体経済重視の方針は、非常に評価できます」と言ってこう続けた。
「米国では過去30年、新自由主義がはびこり、市場万能的な金融政策によって一握りの層に国家の富が集中してしまった。この間の実質所得の伸び率が、物価上昇率を上回ったのは最富裕層の1%のみ。99%は没落し、凄まじい経済格差が生まれ、“分裂国家”となったのです。トランプ氏は『金融政策だけでは経済はうまくいかない。実体経済を良くしなければ雇用も投資も生まれない』と語っています。新自由主義の過ちに気付いており、国民を豊かにしなければ景気も良くならないという至極当然の発想の持ち主。今後も『財政主導』を掲げていく方針です」
財政出動の重要性は日本も米国も変わらない。安倍政権はなぜ、トランプを見習って大型財政出動と大規模減税に打って出ないのか。筑波大名誉教授の小林弥六氏(経済学)の見立てはこうだ。
「量的緩和の出口に向かっている米FRBと違って、黒田日銀の異次元緩和は出口戦略を一切描けず深みにはまっています。無軌道な金融緩和によって、中央銀行が国家の財政赤字を補填する『財政ファイナンス』状態に陥り、大規模な財政出動は不可能となってしまった。アベノミクスの大失敗は経済政策の選択肢を狭め、まさに自分のクビを絞める結果を招いています。もはや打つ手ナシです」
前出の菊池英博氏は、「文芸春秋の手記は“引かれ者の小唄”。負け惜しみに過ぎません」と、東大の同期生である浜田氏にこう苦言を呈す。
「約4年前のスタート時からアベノミクスの大失敗はハッキリしていたのに、今さら『考え直す』とはどういう了見なのか。経済失政の犠牲者は日本国民です。浜田氏はアベノミクスを提唱して国民生活に大損害を与えたことを素直に詫び、ただちに辞任すべきです。失政の責任を誰も負わなければ、アベノミクスの大失敗が延々と続くことになる。この体制下ではデフレからの脱却なんて夢の夢。永遠に不可能になってしまいます」
無能首相と黒田日銀、財務省の負のトライアングルが仕切る限り、日本経済は破壊と自滅に追い込まれることになる。
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