年金財政安定狙う 2016年11月26日 2016年11月25日の衆院厚生労働委員会で可決された年金改革関連法案は、公的年金の給付額改訂に新たなルールを設けることが柱だ。民進党は高齢者の年金減額につながる「年金カット法案」だと批判したが、政府・与党は「現役世代の負担を抑え、年金財政の安定や将来の年金水準確保につながるものだ」と強調している。 現役世代の負担抑制 年金改革関連法案 安倍首相は2016年11月25日の衆院厚生労働委員会で、「年金は簡単に給付を上げて保険料を下げるなんてことはできない。保険料と税金があって初めて給付がある」と述べ、新ルールに理解を求めた。 年金改革関連法案の柱である新ルールは、 @少子高齢化の進行に合わせて年金支給水準を抑制する「マクロ経済スライド」の強化策(2018年4月施行) A賃金や物価の変動に合わせて年金支給額を増減する「賃金・物価スライド」の見直し(2021年4月施行) の2つだ。 民進党が強く批判したのは「賃金・物価スライド」の見直しだ。高齢者が受給している年金は原則として毎年の物価に応じて増減する。年金改革関連法案はこれに加え、現役世代の賃金が下がった時には、下げ幅に合わせて年金額を引き下げるルールが盛り込まれた。物価が上がっても、賃金が下がれば年金は減額される。 民進党は「物価と賃金の低い方に合わせて年金額を変える年金カット法案だ」(井坂信彦衆院議員)と、年金減額に批判の矛先を向けた。これに対し、与党は「野党のレッテル貼りだ。カットではなく確保、将来世代の年金を確保する法案だ」(自民党の山下貴司衆院議員)と主張し、将来世代のための施策だと訴えた。 年金改革関連法案審議では、新ルールに基づく年金額の試算のあり方も論点となった。 厚労省は審議に先立ち、民進党の要求に応じる形で試算を公表。仮に新ルールが2005年から実施されていたら、「今の年金額は3%減り、将来世代の受給額は7%増える」とした。これに対し、民進党は「7%も増えるなんてあり得ない」と試算のやり直しを要求したが、政府側は「経済前提がどうなるか全く分からない」(塩崎厚労相)として応じなかった。 僕たちの年金 僕らの年金は僕らで守る。こんな合言葉を掲げ、慶大商学部3年の小池豪太さん(20)らが2016年7月から、政治家や年金受給者らにインタビューを重ねた。2016年11月26日に都内で開かれる「ユース年金学会」で発表される。 学生らは考えた。少子高齢化の進行に応じて給付水準を自動的に調整する「マクロ経済スライド」という仕組みがある。デフレ下では実施が制限され、「これが完全に実施されれば、僕らの年金水準は守れるはずだ」と。 そこで、受給者らを束ねる「全日本自治体退職者会」など3団体に、どうして完全実施に反対するのか質問した。 「年金の名目額を下回る調整をしないことは導入時からの約束だった」 「基礎年金だけで生活する人には厳しい問題だ」 高齢者の言い分に耳を傾ける学生に、ある受給者はこう声をかけた。 「年金問題は、1つの羊羹(ようかん)を今の高齢者と将来の高齢者でどう切り分けるかに似ている。双方が制度をきちんと理解し、話し合ったほうがいい」 最後は肩を並べて記念撮影するほど意気投合し、学生らは「高齢者との間で大切なのは『対立』ではなく、『対話』だ」と語った。 さて、今国会で審議中の年金改革関連法案はどうだろう。年金改革関連法案には現役世代の賃金下落を年金額に反映させるなどの新ルールが盛り込まれた。学生らが主張する「マクロ経済スライド完全実施」には及ばないが、将来の世代のためのものだ。学生らは「新ルールは当然実施すべきだ。孫の給料が減っても、祖父母がごちそうを食べるようなもの」と口を揃える。 この年金改革関連法案を「年金カット法案」と呼ぶ民進党にも厳しい視線を注ぐ。「国民の不安を煽るのが政治家の仕事なのか」。当を得た指摘だ。 そもそも<年金制度改革法案で将来の年金が『3割カット』>などという民進党の言説は誤解と悪意に満ちたもので全く不適当。こんな議論をやってたら、何時間やっても同じだ。民進党の支持率が上がるわけではない。 年金改革法案の新ルールを民進党は「年金カット法案」と指摘するが、それは的外れだ。新ルールでは現役世代の賃金が上昇すれば年金支給額は少なくともカットはされないと想定されるからだ。 新ルールを悪意を込めて「年金カット法案」と決めつける民進党こそ「おごり、上から目線、国民はどうせ分からないという姿勢」ではないのか。 年金改革関連法案を「年金カット法案」と呼ぶ民進党、「国民の不安を煽るのが政治家の仕事なのか」。 新ルールは当然実施すべきだ。現行ルールは孫の給料が減っても、祖父母がごちそうを食べるようなもの。
*年金改革関連法案のポイント ・施行時期2017年4月(法案提出時の「2016年10月」から修正) 厚生年金の適用拡大(従業員500人以下の企業でも、労使の合意があれば短時間労働者も加入できる) ・施行時期2017年10月(一部は公布後3カ月以内) 年金積立金管理運用行政法人(GPIF)の組織などの見直し(合議制の経営委員会設置など) ・施行時期2018年4月 年金支給額の伸びを物価・賃金の上昇分より抑制する「マクロ経済スライド」の機能強化 ・施行時期2019年4月 自営業者ら国民年金加入者について、産前産後の保険料を免除 ・施行時期2021年4月 物価や現役世代の賃金に合わせて年金支給額を見直す「賃金・物価スライド」の徹底 *マクロ経済スライド 2004年の改革で導入され、少子高齢化の進行に合わせて年金支給水準を抑制する仕組み。デフレ下では実施しないルールがあり、実施は2015年度の1回だけ。このため給付抑制が遅れ、給付水準が相対的に上昇した。2009年の財政検証で指摘され、デフレ下での実施も検討されたが、政府・与党は高齢者の生活に配慮し、今回の見直しにとどめた経緯がある。 *年金の「賃金・物価スライド」の新旧ルールのイメージ 現行ルール ・物価マイナス0.5%、賃金マイナス1.0%⇒年金マイナス0.5% ・物価プラス0.5%、賃金マイナス0.5%⇒年金±0% 新ルール ・物価マイナス0.5%、賃金マイナス1.0%⇒年金マイナス1.0% ・物価プラス0.5%、賃金マイナス0.5%⇒年金マイナス0.5%
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