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トランプ以後の世界 金子勝慶應義塾大教授、悪夢の予言 アベノミクスは「戦時経済」に移行する!
http://mainichibooks.com/sundaymainichi/column/2016/12/04/post-1266.html
サンデー毎日 2016年12月 4日号
倉重篤郎 サンデー時評
トランプ以後、日本経済はどうなるのか。アベノミクスの弊害は庶民の暮らしをいかに直撃するのか。金融恐慌、リーマンショック......過去、経済危機を何度も言い当ててきた慶應大教授・金子勝氏(64)が、悪夢が現実となる時代を「予言」する―――。(一部敬称略)
▼欧米では2大政党制が崩壊、極右が台頭
▼日銀は債務超過、不動産バブル崩壊
トランプショックの余韻が残る中、トランプ米次期大統領で世界がどう変わるのか。それが日本の政治経済、とりわけアベノミクスに何をもたらすのかについて、金子勝慶應大教授に聞いた。
なぜ、金子氏か。理由は二つある。一つは、金子氏が自任するその「悪魔の予言者」ぶりからである。別に金子氏に尻尾(しっぽ)と角が生えているわけではない。時代の節目に氏が見立てた経済悲観シナリオがこれまで何回も的中してきた、という実績に基づくものだ。
北海道拓殖銀行、山一證券破綻に代表される1990年代後半の金融恐慌的状況について、不良債権処理の失敗から早々とそれを言い当て、2008年のリーマン・ショックでも、それに至る米国の住宅バブル崩壊段階から警鐘を鳴らしていた人物だ。今回のインタビューでもその悪魔ぶりをいかんなく発揮していただいた。
もう一つは、金子氏には半年前(5月1日号)にもこの欄でインタビュー、アベノミクスについては、日本を取り戻すどころか売り渡す政策であること、異次元金融緩和という麻薬的政策が日本経済に本来備わっていた行き過ぎを抑える制御機能をマヒさせたこと、結果、日本を後戻りのできない長期衰退に導くであろう、との見通しを語ってもらった。
その内容に読者からの反響が多かったこともあり、その後10人の識者からアベノミクスの限界と問題点について聞くシリーズものを連載し、『日本の死に至る病 アベノミクスの罪と罰』という本も出版した。現在の局面は、トランプ下のアベノミクスを再度斬っていただく時期だと考えた。
まずは、トランプ勝利をどう見ましたか?
「グローバリゼーションの帰結として、新秩序が生まれるのではなく、むしろ欧米の2大政党制の溶解が始まった、との印象だ」
2大政党制の溶解?
「米民主党は、基本的にニューディール連合で自動車、鉄などの労組、つまり製造業利害を代弁してきたが、クリントンの2期目で変質した。ゴールドマン・サックスのルービンを財務長官に迎え入れたことに象徴される一連の金融規制緩和と、ゴア副大統領の情報スーパーハイウェイ構想によって、金融、情報帝国として米国を再興、それがグローバリゼーションの流れを加速した。
ヒラリーはそのウォール街・新産業エリートの代弁者で、サンダースのような旧来型地盤を代表するリベラルな再分配要求派との間で分裂した」
「米共和党も小さな政府と自由貿易という本来の主張ができなくなった。トランプはプアホワイト(貧しい白人)の支持をバックにむしろ米民主党の基盤に食い込み、大きな政府や保護主義を訴えた。グローバリズムの結果、国民各層の諸利害が分裂し、2大政党が過去のようにそれをうまく統合できなくなっている」
◇世界中で強いナショナリズムの動き
英国のEU離脱の時と似ていると?
「あの時も英保守党の7割は離脱賛成の一方で、首相を含め首脳陣は離脱反対だった。地域密着の陣笠(じんがさ)議員が賛成、ロンドンのトップエリートは反対との構図だ。英国でも2大政党が民意の吸収、統合に失敗していた」
「つまり、ウォール街でもロンドンでも、金融エリートとそれにつながった政治家は、社会の末端で何が起きているか、グローバル化の進展で格差と分断がどこまで深刻に進んでいるか、わかっていなかった、ということだ。EU離脱? トランプ当選? そんな馬鹿な投票するわけない、とたかをくくっていた」
EU離脱もトランプ現象もグローバリズムが生みの親だと。とすれば、その先に何が見通せるか。
「危険なのは、グローバリズムに対する反対が単純なポピュリズムやナショナリズムに昇華され、激しい移民排斥になることだろう。トランプ勝利とEU離脱をきっかけに、欧州でも次々に極右政党が台頭してくる可能性が高い。オランダ自由党、デンマーク国民党、仏国民戦線とすでにその兆候が出ている」
その世界の潮流は安倍晋三政権にはどう波及する?
「安倍右寄り政治に対するブレーキが利かなくなってくる。安倍さんが、歴史認識問題で中韓を材料に煽(あお)りたてる古いタイプのナショナリズムに踏み込み切れなかったのは、安倍さんの自制心というより米国の牽制(けんせい)によるものだった。それがなくなると、トランプと変な意味で共鳴し、強いナショナリスティックな動きに出てくる可能性もある」
どんな形で跳ね返る?
「後ほど述べるが、20年の東京五輪前に世界的な経済危機が発生する可能性がある。日本はアベノミクスですべての経済政策を使い果たしているので、ナショナリズムで対処するしかない。例えば、五輪の成功と安全なる開催を金科玉条にして、IS、テロリズム対策で共謀罪を成立させようとか、憲法に緊急事態条項を盛り込もう、といった動きに出る。経済危機の実態を隠し、五輪ナショナリズム的な方向に国民意識を持っていこうとする可能性がある。それが一番リアルなシナリオと思う」
そこでアベノミクスについて聞きたい。半年前に比べて、何がどう変わったのか。
「量的緩和によるカネのばらまきが止まらず、ますますパンとサーカスの時代となっている。日銀は異端審問所と化し異論を排除、手術しなければいけないのにモルヒネを打ちまくっている状態だ。家での安楽死を選ぶ路線に入っている」
9月にはその日銀が総括的検証を発表した。
「アベノミクスの破綻が明らかになったのに、黒田(東彦(はるひこ)総裁)さんは居座り、誰も責任を追及しない。問題はマイナス金利の弊害が出ながらも、失敗を認めないために、量的緩和約80兆円もズルズル続けざるを得ないことだ。悪いシナリオがいくつか起こりうる」
◇五輪前に世界経済危機が発生
例えば?
「第一に、マイナス金利の弊害で日銀が債務超過に陥る可能性がある。マイナス金利ということは、満期時より高い価格で国債を取引することだから、売る政府側には都合がいいが、買い取る日銀側からすると償却のたびに損失が出る。その損失がすでに10兆円弱というから、日銀の自己資本(7・2兆円)、引当金(2・7兆円)に対しほぼ見合う状態となっている。短期債ほどマイナス金利の幅が大きく、ここ2、3年で満期がやってくる。債務超過状態に陥った日銀が発行する日銀券とは一体何なんだという問題に直面する」
「お金(日銀券)には、単なる交換手段ではなく債務証書の機能がある。それを裏書きするのは政府と日銀への信用だ。それが崩れると、ロシアのルーブル危機(1998年)のようになり、通貨が紙くずと化す。潜在的にはそういう危険な領域に入るということだ」
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