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二大知性が徹底討論「トランプをなめると、ひどい目にあう」 世界の力関係が激変する
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50240
2016.11.23 佐藤 優,山内 昌之 週刊現代 :現代ビジネス
■世界の力関係が激変する
佐藤 11月10日、沖縄の翁長雄志県知事は会見でトランプの当選について、「期待しつつ注視したい」と述べました。翁長知事は来年2月にワシントン訪問を予定していますが、そこでトランプとぜひ会いたいと考えているのです。当選からわずか1日で、トランプが日本の外交戦略に大きな影響を与えていることが明らかになっています。
日露関係にも変化が現れるでしょう。トランプの政策によって、アメリカが「世界の警察」の位置から去れば、北方領土交渉は、安倍総理にとっていい方向に向かうと思います。
山内 マイケル・フリンというアメリカの元国防情報局長が今年、日本に来たときに、日露接近に理解を示す発言をしていたようです。彼はトランプ外交のブレーンですが、北方領土問題をめぐる、現在の日露交渉を否定しなかったというのです。こうした発言に見られる通り、トランプの登場によって、日露関係、米露関係は変化するでしょう。
もちろん、他国との関係や安全保障政策についても、構図が変化してきます。しかし、日本の知米派やメディアは、依然として、日米安全保障条約からすべてを説く古典的な世界観に立っている。
そもそも、日本でトランプ大統領の当選を予見できた人はほとんどいませんでした。
佐藤 トランプは、非常にしたたかで有能な人物であるにもかかわらず、あたかも無能な人物であるかのように描かれてきたことが原因でしょう。
これは、日本でトランプに「二重のバイアス」がかかっていたからだと思います。ひとつは、「トランプに勝ってほしくない」というバイアスです。
山内 日本の多くのメディアはそう思っていたでしょうね。
佐藤 もうひとつは、日本が、ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズ、CNNなどアメリカのエスタブリッシュされたメディア、そしてシンクタンクを経由して情報を得ていたということ。彼らは「反トランプ」のバイアスを持っていますから、それが影響しています。
つまり日本人は、「クリントンに勝ってほしい」と思っていた勢力とばかり接していた。それは、既存の秩序が続くことを望む人々、つまり、ウォール・ストリートの金融資本、アメリカの大手メディア、EU諸国、韓国などです。
一方でトランプを歓迎するのは、既存の秩序を変更したいと願う国々。ロシア、中国、北朝鮮などです。日本にはそうした国の言語へのアクセスを持つ人々が少ないがゆえに、トランプが愚鈍な候補であるかのようにカリカチュアライズ(戯画化)されてしまったのです。
日露関係は大転換を遂げる〔PHOTO〕gettyimages
■あの暴言は戦略だった
山内 大筋でそうだと思います。しかし実際はトランプは決して愚鈍というわけではなく、着実にアメリカ人の心をとらえていました。
彼は、アメリカの発展の歴史の主流にいた白人の中間層や、貧困に落ち込んだ労働者層の怒りを適切にすくいあげた。こうした層は、これまで不満を溜めてはいたものの、選挙に向かうことはありませんでした。今回、トランプがそうした思いの「はけ口」となったと思います。
佐藤 まさにそういう構図だったと思います。
山内 トランプは、自分の支持者が親近感を抱くような卑語や俗語を交え、人種差別など過激な表現を駆使し、彼らの不満を一気に取り込みました。同時に、イスラム教徒の存在を否定するような「本音」も歓迎された。
アメリカのエリートというのは、本音と建て前を使い分けます。これまでは、エスタブリッシュメントの間で、「人種差別的な発言をしない」といった建て前が維持されてきましたが、今回の選挙では、この建て前、そしてそれを重視するエリート層が完全に否定されてしまったのです。
山内 1980年代に、アラン・ブルームという哲学者が、『アメリカン・マインドの終焉』という本を書き、アメリカ人の良識が失われていると指摘しましたが、今回の選挙は「第二のアメリカン・マインドの終焉」と呼ぶべき事態ではないでしょうか。トランプは旧時代の終焉の空気を肌で感じていたのでしょう。
佐藤 「第二のアメリカン・マインドの終焉」、事態を的確に表したことばですね。
マルクスの用語を使えば、トランプを支持した人々は、「ルンペンプロレタリアート(ルンプロ)」と呼べると思います。マルクスは、ルンプロが政治勢力として組織されないがゆえに、彼らを評価していませんでしたが、マルクスの時代から150年以上が経ち、21世紀になって、トランプはこうした層の声を取り込み、勝利を勝ち取ったということです。
山内 なるほど、いまのアメリカでもたしかに「ルンプロ」という言い方もできますね。
佐藤 多くの人は健忘症にかかっているようですが、そもそもトランプは長年にわたってテレビ番組の人気司会者だった人物です。キャスターとして「人を集める」方法はよく知っていたでしょう。彼は日本で言えば、タモリさんと所ジョージさんを足したような存在。民衆の心をつかむ方法を知っているのです。
山内 言葉の選び方や説得の仕方には、キャスター出身ならではの力がありましたね。
佐藤 しかもそれは、大統領選で勝ち上がるための戦略的な「芝居」だったとも考えられるから恐ろしいのです。トランプは日本の政治家にたとえるなら、田中角栄元総理のような圧倒的カリスマがあるタイプではなく、竹下登元総理のような人物です。
それに彼は、選挙が終わった瞬間、態度を完全に「切り替え」ていたでしょう。「ヒラリー候補から電話が来た」と彼女を称え、「アメリカ全体で団結しよう」などとそれまでとうってかわった発言でした。彼が、実は戦略的に暴言を吐いていたことが見て取れます。
山内 トランプの選挙戦終盤の動きも非常にクレバーだったと思います。民主党の支持が強いとされる州にも、積極的に入って最後まで訴えを続けました。そうした州が選挙戦を左右すると理解していたのでしょう。そして実際にそこで多数の票を獲得しています。
■「アメリカ第一主義」の真意
佐藤 加えて、宣伝も上手でした。これは池上彰さんがおっしゃっていたことですが、トランプは「看板」をうまく利用しました。ハイウェイの脇に、「リベラルなメディアを信用するな」と大書した看板を設置したのです。
地方の裕福ではない白人は、インターネットは使いませんが、車には必ず乗ります。そうした層へ訴える意志があったのです。インターネットが選挙の結果を左右するという「インターネット神話」に惑わされず、自分の支持層を的確に見極めていました。
山内 一方でクリントンは、これまでの古典的な定石にのっとって、共和党が強力な地盤を持つ州には、積極的に向かおうとはせず、票を勝ち取ることができなかった。
自分に対する支持の規模を見誤っていた節もあります。クリントンは世論調査に頼っていましたが、その測定効果は落ちている。調査は基本的に、家の固定電話にかかってきますが、トランプの支持者となるような層は、そもそも携帯電話しか持っていなかったりする。クリントン陣営は、そうした「隠れトランプ支持者」に気付かなかったのです。
つけ加えて言えば、大手メディアも同じ罠にはまっていた。既成メディアの力の衰退を見せつけられた選挙戦でもありましたね。
佐藤 はい。クリントンに関しては、健康面の不安という弱みもありました。疲労によって声が出なくなる、体調不良から膝をついてしまうといった姿を公衆にさらけ出すまいとして、精力的に動くことができなかった面があります。
山内 今回、クリントンには不甲斐ないものがありましたね。
佐藤 そうですね。クリントンは私的なアドレスで機密を含むメールをやり取りしていた問題でFBIから捜査を受けましたが、このときも、戦略不足が目につきました。
これは、小沢(一郎)氏が検察に捜査された、「小沢事件」と構図が似ています。検察は小沢氏の問題に手を突っ込もうとしたところ、強い妨害を受けて、「小沢を総理にしてはならない」という意識を強め、逆に捜査を厳しくしました。
今回の場合も、FBIがクリントンのメール問題は看過できないとして捜査に着手したら、妨害を受けたのでしょう。そこで、FBIは「クリントンが大統領になっては困る」と思い、わざと大統領選直前で捜査を打ち切った。国民からは「オバマ政権が圧力をかけた」と見られます。
山内 それだけ、いまのアメリカはクリントンを受け入れられなかったということですね。「弱者の味方のふりをしても、本当は大企業から大金を受け取っているのでは?」「本音ではイスラム主義に不満があるんだろ?」と思われてしまう。言い換えれば、どうしても発言に「ウソっぽさ」が出てしまうんです。
山内 繰り返しになりますが、その点、トランプはハッキリと「アメリカ第一主義」という本音を口にして支持されました。
しかし、この「アメリカ第一主義」の思想は、日本では少し誤解されていると思います。まるでアメリカが、トップの国として、自国の理念を「輸出」するために外に出ていくものだと思われていますが、そうではない。むしろ、不必要な介入は行わないという方向に進むと思います。
トランプタワーは成功の象〔PHOTO〕gettyimages徴
■「善と悪」の時代は終わる
佐藤 そのとおりですね。「アメリカファースト」と言うと、「アメリカがトップに立つ」と思われそうですが、むしろ反対。中国は「中国ファースト」で、ロシアは「ロシアファースト」で、それぞれの国が自分の領分でやっていこうという発想なのです。
これがこのまま進むと、「棲み分け」的な世界が出現してくると思います。アメリカはアメリカで、中国は中国で独自の文化圏をつくっていくという考え方です。
山内 そして、アメリカは「世界の警察」の位置から外れていく、と。
佐藤 私が「アメリカファースト」という言葉を考える際に重視するのは、ラインホルド・ニーバーという神学者です。
ニーバーは『光の子と闇の子』という著作のなかで、「善と悪」の二項対立的な世界観を提示し、アメリカの指導者層に影響を与えてきました。つまり、アメリカが「光」「善」の側にたち、「闇」を駆逐しなければならないという発想です。
振り返れば、第二次大戦以降のアメリカではその「闇」の位置に、ファシズムや日本の軍国主義、共産主義やソ連、イラク、イランなどが入ってきました。つまり、アメリカが「世界の警察」として世界に影響力を及ぼさなければならないという発想の源に、ニーバーの思想があるのです。
山内 そう。実際、ケネディ、カーター、ブッシュ、オバマをはじめとする戦後の歴代アメリカ大統領たちは、ニーバーに言及してきました。
佐藤 はい。しかし、トランプはそれに言及していない。これは、山内先生がおっしゃる通り、アメリカが「世界の警察」から退却していくということを示していると思うのです。不必要なことには干渉しない、自国の利益に関わらないことには手を出さない、と。
そもそも、1941年12月7日、すなわち太平洋戦争の開戦直前までのアメリカは、こうした「不必要なことには干渉しない」という態度を取ってきたのです。アメリカにとって、この75年間こそが異常な状況だったと言えます。
山内 その意味で、2016年11月8日の大統領選は、アメリカ史と世界史を画する日づけとして、将来振り返られるかもしれません。
いずれにせよ、冒頭に述べた通り、これまでとは外交の論理が変化することは明らかです。
佐藤 そうですね。すでにこれだけの影響がでているのですから。
山内 何よりトランプは、プーチン大統領に好感を抱いています。トランプがビジネスマン時代に、プーチンが自らトランプに手紙を出し、トランプ側も公の場で彼のリーダーシップを讃えています。
しかもビジネスでのつながりもある。トランプは不動産、ホテルの運営、ゼネコンなどで稼いでいますが、こうしたビジネスをロシアで展開するにあたって手を組んできた、アゼルバイジャンのアガラロフ親子という富豪は、モスクワの権力筋とも強いつながりがあります。
佐藤 こうしたなかで、日本も、これまでのままの外交姿勢をとってはいられない。新たなルールに見合うだけのインテリジェンスを身に付ける必要があります。
「週刊現代」2016年11月26日号よ
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