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この国の年金制度はもう限界? 与野党はいつまで茶番劇を続けるのか いったい誰のための政治なのか
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50265
2016.11.22 町田 徹 経済ジャーナリスト 現代ビジネス
■年金をめぐる与野党の茶番
国民が受け取る年金額を減らす「マクロ経済スライド」強化や、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の組織見直しを盛り込んだ「国民年金法等改正案」(以下、年金法案)を巡って、与野党が茶番を繰り広げている。
政府・与党が、将来の年金額激減のリスクを伏せて、「制度の持続」に必要な改正だと虚ろな大義を掲げれば、対する野党は、年金の世代間の公平を無視。同法を「年金カット法案」と呼び、受給者の不安を煽る、という具合だ。客観的に見れば、双方が無責任な我田引水の議論をしていることは明らかだろう。
むしろ、歴代政権がこれまで約束してきた「十分な額」の年金を放棄する以外に、「年金」制度を維持する方策がないことを率直に情報開示すべきである。そして、老後の暮らしを守るために自助努力する必要性が増している事実を明らかにすることこそ、国政を担う政治家に期待される役割ではないだろうか。
日本の年金制度は、“お役人商法”のリゾート施設経営が失敗して巨額の積立金を食い潰した「グリーンピア」問題や、ずさんな年金の記録管理が問題になった「消えた年金」騒動の反省から、2004年に「100年安心」のキャッチフレーズを掲げて抜本的な制度改革を目指した。だが、ほとんどはかけ声倒れで、客観的評価は地を這うような低空飛行らしい。
その深刻な実態を明かにしたのが、米、カナダ系のコンサルティング会社「マーサー」が先月末公表した『グローバル年金指数ランキング』だ。それによると、日本の年金は、調査対象になった27カ国との国際比較で26位と、前年調査(25カ国中23位)より3ランク後退した。
前年は日本より下位だった韓国とインドに抜かれたほか、今年から加わったマレーシアの後塵を拝した。日本より下位は、今回から対象になった最下位アルゼンチンだけという状況だ。トップは5年連続デンマークで、オランダ(2位)、オーストラリア(3位)、フィンランド(4位)、スェーデン(5位)が上位に顔を出している。
グローバル年金指数ランキングは、年金制度関連の取り組みを指数化、それを合算して算出する。老後の生活に十分な公的年金が支払われるか(十分性)、給付に必要な政府債務が妥当な水準に収まっているか(持続性)、制度見直しが円滑に行われる仕組みがあり、透明性が担保されているか(健全性)などが主な調査対象という。
マーサーはリリースで、あえて日本の評価が低いことに言及して、「年金給付による所得代替率が低いこと」「少子高齢化に伴い高齢者人口割合が増加していること」「平均余命の増加により公的年金の期待支給期間が長くなっていること」「さらには政府債務残高が大きいこと」などを原因とした。
■票狙いのご都合主義
それでは、日本の公的年金の現状と、政府・国会の対応を確認してみよう。制度のベースは「賦課方式」と呼ばれるもので、現役世代が払った保険料を、その時点の年金受給者(高齢者)に対する支払いに充てる仕組みだ。
保険料は、2004年の制度改正で、2017年までに国民年金の保険料を月額1万6900円、厚生年金の保険料率を18.30%に引き上げるものの、その後は保険料収入の範囲内に給付を抑えることで、保険料は上げないことになっている。天井知らずで保険料が上がり続けて、現役世代の生活を脅かすことがないようにという配慮とされている。
2004年の制度改正では、受給者が給付水準の突然かつ大幅な引き下げに戸惑う事態が起きないように、冒頭で触れた「マクロ経済スライド」が初めて導入された。あわせて現役時代の所得の何割に相当する年金が貰えるかを示す「所得代替率」で、当時の59%から50%近くまで下げる方針も明確にした。
ところが、歴代の政権で政治的配慮が働いた。実際にマクロ経済スライドが発動されたのは2015年の一度限りだ。年金受給者の票を狙ったご都合主義が罷り通ってきたのである。積み立てておくべき資金のバラマキによって、直近の所得代替率は62.7%に跳ね上がった。
■審議時間が足りない
今春の通常国会に提出されて継続審議となっている年金法案は、その第一のポイントを、「マクロ経済スライド」の強化に置いたものだ。物価が下落する景気後退期は支給額を削らない代わりに、物価上昇局面で複数年分まとめて年金額を抑えることにした。実施は18年度からである。
第2には、「賃金・物価スライド」を見直す。従来は賃金が物価より下がった場合、年金額を据え置くか、物価に合わせた改定にとどめてきた。が、21年度からは賃金変動に合わせて年金額を減らすことにする。
これにより物価が上がっても賃金が下がれば、年金額が減る仕組みに変わる。マクロ経済スライドと賃金・物価スライドの問題については、後で詳述したい。
年金法案には、このほか、GPIFのガバナンス改革のため合議制の経営委員会を新設することが盛り込まれた。
新聞によると、本稿執筆段階(11月21日未明)では、自民、公明両党が今週末(同25日)の衆院厚生労働委員会における採決を目指している。これに対し、民進党など野党は「審議時間が足りない」と徹底的に抗う構えで、与野党の攻防激化は必至だ。その行方は国会の会期延長問題にも影響を及ぼすという。
■誰のための年金?
客観的に見ると、与野党のいずれもが自説をもっともらしく見せかけるため、重要なポイントを無視した主張を展開していると言わざるを得ない。
その最たるものが、自、公政権だけでなく、民主党政権時代も含めて、年金受給者層の支持を失うことを恐れて、マクロ経済スライドを先送りし続け、将来のために積み立てておくべき給付原資を先食いしてきたことだ。
所得代替率を62.7%に押し上げてしまった問題は、将来、年金を受給する世代の立場からみれば、これほど酷い話はない。
野党は、自らの政権担当時代の行いを省みることなく、年金法案を「年金カット法案」と呼び、給付額の削減をいたずらに強調、受給者の怒りや不安を煽る論陣を張っている。
長きにわたって政権を担当してきた今の政府・与党には、その分長くマクロ経済スライドを先送りし、貴重な給付原資を大盤振る舞いしてしまった責任がある。
そのうえ、年金法案は、「世代間の公平性を確保し、年金制度を持続可能にする」(安倍晋三首相)とだけ答弁しており、生活費がかさむ物価上昇期であっても賃金次第で過酷な給付カットを行う過酷な一面を隠ぺいしていると批判されてもおかしくないはずだ。
与野党がそろって、マーサーが指摘した「透明性の確保」で大きな問題を抱えているのである。
また、今回の年金法案で、GPIF改革の具体策として、合議制経営委員会の新設を打ち出したことも、国民の懸念に応える対応とは言えない。
そもそもGPIFへの最大の懸念は、年金の原資になる積立金の運用で、過大なリスクを取っているのではないかというものだ。実際、昨2015度年(年間)に5兆3098億円の巨額損失を出したのに続き、今2016年度も第1四半期(4〜6月)だけで5兆2342億円と膨大な損失を計上した。
その背景に、前年(2014年)秋に、運用の基本ポートフォリオ(資産構成割合)を見直して、国内株式の全体に占める割合を12%から25%に倍増するという大胆な投資戦略の変更があったことは見逃せない。
■膨らみ続ける損失
長期の資金運用が必要という点で、GPIFとよく似た投資戦略が求められる生命保険会社と比較してみよう。
日本最大の生命保険会社である日本生命の運用のポートフォリオ(2016年3月末、一般勘定のみ)は国内株式の割合が15.5%、また、生保界で伝統的にアグレッシブな運用戦略をとることで知られる大同生命(同、同)が同6.3%と、いずれもGPIFのそれを大きく下回っている。この比較から、GPIFの国内株式投資偏重は明らかだろう。
GPIFの株式運用には、「アベノミクスの象徴とされた日本株高の演出には有効だった」「政治的には成功だ」といった意見が多い。が、国民の大切な年金の積立金の運用としては、いびつなポートフォリオ戦略が災いしただけでない。
市場でGPIFの買いを見越して先回りして買っておき、GPIFが実際に買い出動した際に高値で売り抜ける動きを誘発するお間抜けな投資戦略だったとされている。いびつで、お間抜けゆえに、損失が大きく膨らんだと言うのである。
GPIF改革で求められるのは、単なるガバナンス強化策ではない。積立金の運用で政治的成功が優先されるようなことがないように、政府からの独立性の確保や運用のプロと呼べる人材の確保が重要なのだ。ところが、年金法案には、そうした改革がまったく含まれていない。
■過去のツケをどう払うのか
前述したように日本の公的年金制度は賦課方式が基本だが、給付原資の確保には2つの補完策が講じられている。国庫(税金)による補填と、納付された資金を運用するファンド(積立金)からの取り崩しである。
このうち国庫補填は、2009年度から基礎年金についてそれまでの3分の1から2分の1(厚生年金は2割程度)に引き上げられた。
もうひとつの運用は、「100年安心」プランで、高齢化がピークを迎えるまでに健全な運用で積立金を積み増しておき、高齢化のピーク後は積立金の取り崩しで給付原資の減少を補いながら、99年間を乗り切る青写真になっている。厚生労働省によると、「100年後には給付1年分に減らすまで取り崩さないと制度を存続できない」見通しという。
過去の失敗のツケが溜りに溜まった日本の年金制度は、マーサーが指摘したように十分な公的年金の支払いを望むべくもない。これまで述べてきたように、給付に必要な水準で政府債務をコントロールしていくことも容易とは言えない。
それだけに、制度に対する国民の信頼の維持には、機動的な制度の見直しと透明性の確保が欠かせない。さもないと、いつ国民の信頼が失われ、制度離れが起きても不思議はないのだ。
仮に公的年金制度の存続というミッションに成功することができても、その給付額だけでは老後の暮らしを賄えないケースが続出する可能性も高い。
言い換えれば、一人一人が自助努力によって年金では賄いきれない老後資金の確保をすることも不可欠なのだ。そうした実情を積極的に周知し、国民の対応を促すことも、与野党の政治家の課題のはずである。
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