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経済成長率だけでなく出生率も、ドイツ>日本
上野泰也のエコノミック・ソナー
日本は歴史的な分岐点に直面している
2016年11月22日(火)
上野 泰也
2016年5月、独ベルリンで日独首脳会談をした折の安倍晋三首相とドイツのメルケル首相。日本がドイツから学ぶべきことはたくさんある。(写真:picture alliance/アフロ)
人口減少や少子高齢化のニュースに慣れてしまった日本人
半年ほど前の話になるが、5月5日の「こどもの日」の前日に総務省はこども(15歳未満)の人口推計結果(2016年4月1日現在)を発表し、これを新聞各紙が5日の朝刊で報じた。2016年の数字は1605万人(前年比▲15万人)。1982年から35年連続の減少で、比較可能な1950年以降の最少を更新した。総人口に占めるこどもの比率は12.6%(同▲0.1%ポイント)で、こちらはなんと42年連続の低下である。ドイツを下回り、主要国の中で最も低い水準になってしまった。
毎年こうしたニュースが流れてくるため、人々は目新しさを感じなくなり、悪い意味で慣れてしまっているのではないだろうか。半ば無感覚になり危機感が出にくくなっているように、筆者には見える。
その後、総務省は10月26日に、2015年に実施された国勢調査の確定値を公表した。総人口(日本に住んでいる外国人を含む)は10月1日時点で1億2709万4745人となり、5年前の前回調査から約96万人減少。国勢調査としては1920年の調査開始以来、初めて減少に転じた。年齢別の内訳では、75歳以上が1612万人になり、14歳以下の子ども(1588万人)を初めて上回るという、日本の歴史上で分岐点となるに違いない変化があった。
日本経済新聞の翌10月27日朝刊の記事は、今回の国勢調査の結果が日本人に突きつけている諸問題を、的確に指摘していた。筆者のコメントを交えつつ、概観してみよう。
人口減により日本経済は「地盤沈下」しつつある
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2010年の前回国勢調査で初めて減少に転じた日本人に限った人口は、今回1億2428万人となり、107万人減少した。出生数が死亡数を下回る自然減が原因。一方、外国人労働者の増加などで日本に在住する外国人は10万人増の175万人と過去最高を更新した。しかし、107万人減少する中で、その10分の1未満の10万人しか「穴埋め」がなされていないというのだから、実に深刻な事態である。人口面から日本経済は着実に「地盤沈下」しつつある。
総人口の世界での順位は10位で、5年前から変わらなかった。だが、11位のメキシコと数はほぼ並んだ。ベストテンから陥落寸前である。しかも、2010年から2015年までに人口が減ったのは、上位20カ国では日本だけだった。
75歳以上の人口は1985年時点では471万人だったが、30年間で3.4倍に増加した。同じ期間に14歳以下は4割減っており、少子高齢化に歯止めがかからない。14歳以下の人口割合は12.6%になった。日本と同様に少子高齢化が問題化しているイタリア(13.7%)やドイツ(12.9%)を下回って、世界最低水準まで低下している。
世帯数は、ひとり暮らしの増加で5344万世帯となり、過去最高を更新した。単独世帯は34.6%を占め、男性では25〜29歳、女性では80〜84歳が最も多い。男女65歳以上の6人に1人がひとり暮らしで、高齢世帯の孤独死など、社会問題の一因になっている。
ドイツの人口関連ニュースは日本と対照的
こうした人口面の暗いニュースばかりが流れてくる日本と対照的なのが、近年のドイツである。今年に入ってから筆者が目にしたドイツの人口関連ニュースを、時系列で追ってみよう。
■【1月29日】 ドイツ連邦統計局は、2015年のドイツの人口が8190万人で、死亡数を上回る移民の流入を背景に23年ぶりの大幅増加になったという推定値を発表した。
■【3月21日】 ドイツ連邦統計局は、外国人の移住に関する暫定統計を発表した。それによると、2015年にドイツに流入した外国人は200万人弱、ドイツから流出した外国人は約86万人で、流入超過幅は114万人に達した(建国以来の最多)。2014年は57万7000人の流入超過だった。2013~2014年に流入した外国人の大半は中東欧や債務危機国などEUの出身で、一時的な滞在が主だったが、2015年は保護を求める難民が大勢を占めた。
■【8月26日】 ドイツ連邦統計局は、人口に関する暫定統計を発表した。それによると、2015年末時点の人口(居住者数)は前年から98万人弱増えて(前年比+1.2%)8218万人弱になった。中東からの難民急増が主因で、増加幅は2014年の43万人から2倍以上に拡大した。ドイツ国籍の人口は7350万人に微減。一方、外国籍を持つ居住者は870万人に増加した。居住者100人当たりに占める外国人の比率は前年の9.3%から10.5%に上昇した。
■【9月16日】 ドイツ連邦統計局は、2015年の抽出調査の結果を発表した。ドイツ国籍取得者やその子孫も含む国内の移民系住民は前年比+4.4%で、1712万人弱(過去最高)。移民系住民が全人口に占める割合は21.0%に上昇した。
■【10月17日】 ドイツ連邦統計局は2015年の合計特殊出生率が1.50に上昇したと発表した(正確には15〜44歳で1.499、15〜49歳で1.502)。これは1982年以来、33年ぶりの水準で、上昇は4年連続である<図表1>。
■図表1:日本とドイツの合計特殊出生率(15〜49歳)
(出所)厚生労働省、独連邦統計局
1994年には1.24まで下がっていたが、政府が講じた少子化対策の効果に加え、近年は移民・難民の増加を背景に外国籍女性の出生率が急上昇しており、全体を押し上げる力になっている。2015年のドイツの人口は8218万人に増加した(前年比+1.2%)<図表2>。
■図表2:ドイツの合計特殊出生率 国籍別(15〜49歳)
(出所)独連邦統計局
一方、日本では、2005年に記録した1.26をボトムにして合計特殊出生率(15〜49歳が対象)が近年上昇しており(経済状況好転や「団塊ジュニア」世代の出産増が主因とみられる)、2015年は1.46になった(2年ぶりの上昇)。
だが、日本の合計特殊出生率は2年連続でドイツを下回っている。移民・難民を含めた外国人の受け入れに消極的であることなど、安倍晋三内閣が実行している人口対策が踏み込み不足であることの表れだと、筆者は受け止めている。また、国勢調査の関連ですでに述べたように、日本の総人口は着実に減少している。
移民・難民の受け入れについても冷静に考えるべき
難民の受け入れ過多に対してドイツ国民が不満を強めた結果、メルケル首相の支持率・求心力が低下し、右派政党がこのところ台頭しているのは紛れもない事実である。
しかし、だからといって移民・難民の受け入れは拒絶すべきだという結論に日本人が飛び付くのは、筆者としてはいただけない。「たくさん食べて経済成長や出生率上昇といった果実を得てきている」ドイツ人が一時的に食べ過ぎて消化不良を起こしていることと、「食わず嫌い」を変えられずに人口減・少子高齢化を事実上放置して経済の趨勢的な衰退に歯止めをかけられない日本。ここは両国の違いを冷静に把握し、認識すべきだろう。
ドイツから学ぶことがある
伊勢志摩サミットが開催された際には、議長国の日本(安倍首相)がドイツ(メルケル首相)を説得して財政支出を増やさせるべきだという声が、日本の政府内のみならず民間エコノミストからも出ていた。
だが、経済成長率でも(最新のIMF<国際通貨基金>世界経済見通しで2016年の実質GDPはドイツが前年比+1.7%、日本が同+0.5%)、財政健全化でも(ドイツの2015年の財政収支は1990年両独統合以来最高の黒字となったが、日本は慢性的な赤字)、日本は明らかにドイツに劣っている。また、ドイツにおける労働者の有給休暇取得率の高さと国民生活のゆとりは、以前にこのコラムで取り上げた(2016年8月23日配信「日本人の『有給休暇の消化率』が極めて低い理由」)。
どうやら話はまったく逆で、「日本はドイツの良好なパフォーマンスから学ぶべきだ」というのが正しいのではないか。筆者の長年の友人であるドイツ人ジャーナリストも先日、それに近いことを口にしていた。
このコラムについて
上野泰也のエコノミック・ソナー
景気の流れが今後、どう変わっていくのか?先行きを占うのはなかなか難しい。だが、予兆はどこかに必ず現れてくるもの。その小さな変化を見逃さず、確かな情報をキャッチし、いかに分析して将来に備えるか?著名エコノミストの上野泰也氏が独自の視点と勘所を披露しながら、経済の行く末を読み解いていく。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/111800069/
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