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「「なぜ安倍政権はこれほど勝ち続けるのか?」誰でも知っている理由ならこんな特集は組まれない:内田樹氏」
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2016/11/18 晴耕雨読
https://twitter.com/levinassien
トランプは何を考えているのか、という問いを聞いているうちにふと「ゼウクシスとパラシオスの話」を思い出しました。
二人の画家がどれほど写実的に静物を描けるかを競った話です。
ゼウクシスの描いた葡萄の房はあまりに写実的であったので、小鳥が啄みに来たほどでした。
勝ち誇ったゼウクシスが振り返ると、パラシオスの絵には覆いがかかっていて絵が見えません。
ゼウクシスは「はやく覆いをはずして絵をみせてくれ」と言いました。
そのとき勝負が決まりました。
パラシオスは「絵を覆う布」を写実的に描いていたのです。
ゼウクシスは鳥を騙し、パラシオスは画家を騙した。
トランプに向かって人びとは「あなたは本当は何を考えているのか?その覆いをはずして下の絵を見せて欲しい」と懇願しています。
このとき勝負はもう決まっています。
トランプはおそらく「自分が現実的に何ものであるかを隠蔽する仕方」において最も現実的な人物だからです。
ある媒体に「安倍政権はなぜ勝ち続けるのか?」について寄稿しました。
だいぶ前に書いたものなので、「トランプ大統領」以後のことについての追記を含めてブログで公開しておきます。
AERAの原稿だん。
「トランプとアメリカの民主制」について。
トクヴィルの『アメリカの民主制』から身にしみる箇所を引用しました。
トクヴィルはアメリカ訪問のときにときのアンドリュー・ジャクソン大統領に面会して、その知性と品性の欠如に仰天しました。
そしてこう書いております。
「ジャクソン将軍は、アメリカの人々が統領としていただくべく二度えらんだ人物であるが、その性格は粗暴で、能力は中程度である。
彼の全経歴に、自由な人民を治めるために必要な資質を証明するものは何もない。
」にもかかわらずアメリカは繁栄しておりました。
トクヴィルは理由をこう分析しました。
アメリカの民主制は「有権者がしばしば誤った人物を統治者に選ぶ」ことを勘定に入れてそれが及ぼす被害を最小化するように惰性が強く働くように制度設計されています。
大統領が「正しい政策」を提案しても「間違った政策」を提案しても、国民の同意を得られなければ実行できません。
オバマ大統領が核廃絶を訴え、国民皆保険を訴えても、アメリカ国民は同意しませんでした。
たとえ「合理的な政策」でも民意の支持がなければ実行できない。
同じ理由で「非合理な政策」を実施するためにも民意の支持が必要です。
大統領は任期の間全権を委任されたとはアメリカの民主制は考えないのです。
引続きある週刊誌からの寄稿依頼で「トランプと世界」について。
グローバル化の痙攣的加速と人口減少という二つの「前代未聞」に遭遇して「何が起きているのかわからなくなってしまった」人たちが「諸悪の根源さえ摘抉すれば原初の清浄が回復される」という「懐かしいストーリー」にすがりついた、と。
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https://t.co/7mowhZCCVP
2016.11.15
なぜ安倍政権は勝ち続けるのか?
「なぜ安倍政権はこれほど勝ち続けるのか?」
その理由はとりあえず周知されていない。誰でも知っている理由なら、こんな特集は組まれない。
ふつう政権の支持率が高いのは(政権発足時の「ご祝儀」を除くと)善政の恩沢に現に国民が浴しているからである。
だが、安倍政権はそうではない。
経済政策は失敗した。隣国との緊張緩和は見るべき成果を上げていない。沖縄の基地問題は解決の糸口が見えない。安保法案の審議では国会軽視と反立憲主義の態度が露呈した。五輪計画や福島原発や豊洲移転問題では日本の官僚機構全体のガバナンスと倫理の欠如があきらかになっている。どれも政権末期の徴候である。にもかかわらず政権は高い支持率を保持している。その根拠は何なのか?
一番簡単なのは、「日本人は政策の適否を判断できないほど愚鈍になった」という解釈である。
たしかに話は簡単になるが、先がない。
国民の過半が愚鈍であるなら、こんな特集もこんな文章も何の意味も持たないからだ。だとしたら、問いの次数を一つ上げるしかない。「日本人はこの政権を支持することでどのようなメリットを得ているのか?」である。
世論調査によれば、政権支持理由のトップは「他に適任者がいないから」である。
だが、現実には「他にどのような政権担当者が適切か?」という問いは誰も立てていない。いずれ支持率が急落して「ポスト安倍」がメディアの話題になればメディアは「人気投票」を行うだろうけれど、今は話題になっていない。
私の解釈はこうだ。国益が損なわれ、国民が日々損害を被っているにもかかわらず、「トップをすげ代えろ」という声が上がらないのは、総理大臣の適格性を最終的に判断しているのは「自分たちではない」と国民が思っているからである。
残念ながら、日本において、統治者の適格性を判断しているのは有権者ではない。
私たちは自分たちの選挙区から議員を選ぶことはできる。でも、統治者を選ぶことはできない。
日本の指導者を最終的に決めるのはアメリカである。
私たちが誰を選んでも、ホワイトハウスが「不適格」と判断すれば、政権には就けないし、就けても短命に終わる。そのことを国民は知っている。知っているけれど、知らないふりをしている。それを認めてしまうと、日本は主権国家ではなく、アメリカの属国であるという事実を直視しなければならなくなるからである。
2013年にアメリカの映画監督のオリバー・ストーンが広島で講演をして、「日本はアメリカの属国、衛星国である」と述べた。だから日本の統治者の任免権は事実上アメリカ大統領が保持している、と。
日本のメディアはこの発言を報道しなかった。違うと思うなら反論すればいい。だが、「日本はアメリカの属国ではない」と述べたメディアは一つもなかった。
オーストラリアの政治学者ガバン・マコーマックは『属国』で、日本は属国というより「傀儡国家」だと書いた。ジョン・ダワーとの共著『転換期の日本へ』でも、同じことを指摘した。だが、メディアはそのような意見が国際社会では当然のように行き来している事実そのものを組織的に黙殺している。
日本の総理大臣は「宗主国アメリカの属国の代官」である。実質的な任免権はホワイトハウスが握っている。もちろん、内政干渉になるから、任免の作業は「アウトソーシング」されている。アメリカの指示は日米合同委員会や年次改革要望書を通じて開示され、それを忠実に実行しているのは与党政治家と官僚とメディアである。そういう仕組みで日本が統治されていることを国民はもう知っている。知っているけれど、知らないふりをしている。
「他に適任者がいない」というのはアメリカの判断である。
安倍晋三は日本の国益よりもアメリカの国益を優先的に配慮してくれる「理想の統治者」である。だからアメリカがそう評価するのは当たり前である。そして、日本国民の多くはアメリカの判断の方が日本人自身の主観的な政権評価よりも現実的でありかつ適切であると信じている。
マッカーサーの時代からそのマインドは少しも変わっていない。
「追記」
ただ、アメリカの大統領がドナルド・トランプに交替したことで、「宗主国の代官」にどのようなタイプの政治家を選好するかについての判断基準がこの後変わる可能性はある。
これまで、「属国の代官」の適不適を事実上判断していたのはアーミテイジたち「ジャパン・ハンドラー」であった。
トランプのホワイトハウスの「新しい住人たち」は巨大な「日本利権」をひさしく貪っていた「ジャパン・ハンドラー」たちから取り上げようとするだろう。
「ジャパン・ハンドラー」たちのお気に入りであった日本の与党政治家たちはこれから新たに「オーディション」を受けなければならない。
明日11月17日に安倍首相はトランプを西側首脳として最も早く表敬訪問をするが、これは「属国の代官」である以上当然のことであり、これは安倍首相にとっては「新しい主人」による「オーディション」に相当する。
トランプが「虫が好かない」という判断を下す可能性はある(トランプの人間的好悪について誰が確定的な予測を立てられるだろう)。
そういう「残念な結果」になった場合、日本では与党政治家も官僚もメディアも「アメリカに好かれない政治家は日本の首相に不適である」と(はじめはおずおずと、そのうち猛々しく)言い始めるだろう。
そして、そうなることを彼らだって(望んではいないが)一応心のどこかで覚悟はしているのである。
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