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World Energy Watch
グリーンビジネスでの成長を持ち出す蓮舫代表の勘違い度
2016/11/16
山本隆三 (常葉大学経営学部教授)
2008年の大統領選時に、オバマ大統領は環境ビジネスによる経済成長と雇用創出を大きく打ち出した。500万人の雇用創出、2015年に100万台の電気自動車などが目標だったが、実現はしなかった。2期目のオバマ大統領が打ち出したのは、シェール革命による競争力のあるエネルギー価格を基にした輸出振興だった。
大統領選に破れたクリントン候補も、5億枚の太陽光パネル設置などの再生可能エネルギー振興策を持ち出していたが、最大の目的は気候変動対策のため二酸化炭素の排出量を削減することだった。シェール革命のおかげでエネルギーコストが減少している米国では、製造業が成長し雇用を増やしている。グリーンビジネスによる雇用創出を持ち出すほど再エネ事業の雇用者は伸びてはいない。
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トランプ新大統領は気候変動問題には冷淡であり、再エネ振興策、グリーンビジネスには全く関心はない。関心事は化石燃料の生産を増加させる政策を実施し、90%に達した米国のエネルギー自給率を100%にすることだ。結果、エネルギーコストは下落し、米国の製造業はさらに競争力を増すことになるだろう。
再エネに大きく舵を切り、2022年の脱原発を決定しているドイツでも、グリーンビジネスによる成長との話は聞かれなくなった。いま、ドイツ政府が腐心しているのは、輸出産業に影響が出ないように電気料金を設定することであり、再エネ導入のスピードをコントロールすることだ。欧州では、太陽光パネル設置業者などの雇用を守るため安価な中国製パネルの輸入を求める声すら出ている。欧州製パネルメーカーは中国メーカーの前に完全に敗れ去った。
環境ビジネスで大きな成長と雇用を作り出すのが難しいことは、欧米諸国で実証されたと言っていいが、そんななか、環境ビジネスでの成長を打ち出し周回遅れの政策を提案する、時代を全く読めない政治家がいる。民進党代表の蓮舫氏だ。大丈夫か? 民進党。
政策の理解力がないのは伝統か
11月6日付朝日新聞(電子版)によると、蓮舫代表は民進党の滋賀支部の会合で、原発と再エネについて次の発言をしている「原発の増設、あるいは新設はしない。その代わりに、再生エネルギーをどんどん進めようではないか。これが産業になる。成長戦略になる。雇用を生む。金が域内、国内、県内で動く仕組みをつくろうではないか」。
一度は、環境ビジネスによる成長を打ち出した米国もドイツも、いまの最大の関心事はエネルギーコスト、電気料金を競争力のあるレベルに保つことだ。再エネ産業ではなく成長の原動力である輸出産業が最も大切なのだ。デフレ圧力に加え電気料金の上昇もあり停滞が続く日本の製造業を尻目に、米国もドイツも製造業と輸出産業の成長が続いている。図-1が日米独の製造業の付加価値額推移を示している。
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ドイツの製造業が好調な理由は、再エネの賦課金をほぼ免除されている企業が2300を超え、欧州一と言われる競争力のある産業用電気料金が輸出企業に提供されていることにある。全消費量の20%以上を占める需要家が賦課金を免除されているため、他の消費者の負担額が増加しているが、それでも輸出産業の競争力を維持するとのドイツ政府の政策だ。賦課金を免除されている企業数は年々増加を続けている。
気候変動問題への対応のため米国もドイツも太陽光、風力発電の導入を行なっているが、それにより経済成長あるいは雇用を作り出すことが最大の狙いではない。太陽光パネル、陸上風力発電設備などは新興国の製品に価格競争力があり、先進国が担えるのは付加価値額が大きくない自国での設置作業、販売だけと分かってきたからだ。雇用の増加を担う製造業に競争力のある電気料金を提供するほうが重要だ。
2005年には、世界の太陽光モジュールの製造シェアは、日本が50%強、欧州が30%弱、合わせて80%あった。中国は数パーセントのシェアだった。その後の2010年と15年の太陽電池製造大手10社が表-1に示されている。15年にはシャープも京セラも消えた。ドイツQセルズは韓国企業に買収され、かろうじて韓国企業Hanwhaグループとして残っている。2015年の世界シェアは中国・台湾メーカーに押さえられ、日本と欧州は合わせて10%もない。
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欧米諸国は、電気自動車、蓄電技術などでは中国、韓国、日本と競って技術開発に注力しているが、これは再エネビジネスというより、既存産業の強化、新技術開発の側面が強い。
そんななかでの、蓮舫代表の発言の背景にある政策の理解力には首を捻らざるを得ないが、菅直人元首相も、欧州諸国が再エネの固定価格買い取り制度(FIT)の縮小を模索している最中に、新たにFITを始めるという周回遅れの政策導入をおこなっている。政策の研究も経済への影響の分析も十分に行わずに、適当なことを発言するのは民主党時代からの伝統なのかもしれない。
再エネ政策に悩みを深めるドイツ
主要国のなかで最も早く1990年にFITを開始したドイツは、2000年に買い取り価格の大幅引き上げを行い、太陽光と風力発電設備の導入量は大きく伸びた。結果、買い取り額を負担する電気料金の大きな値上げを招くこととなり、2010年には負担額は、今の日本のレベルとほぼ同じになった。
買い取り額抑制のために、ドイツ政府は買い取り額の減額、卸市場での電力の売却額にプレミアムを支払う制度の導入、100kW以上の設備へのFIT廃止などを行った。結果、太陽光パネルの導入量は大きく減少したが、それでも図-2の通り、電気料金への賦課金額は上昇を続け2017年の負担額は1kWh当たり6.88ユーロセント(約8円)と見込まれることになった。賦課金額だけで米国ワシントン州の産業用電気料金、4.23米セント(4.4円)を大きく上回り、ルイジアナ州の家庭用電気料金9.43セント(9.9円)に迫るレベルだ。
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再エネ設備の導入量は、図-3の通り推移しているが、ここでドイツ政府を悩ますことが電気料金以外にもでてきた。最近急増している北海に設置されている洋上風力による発電量だ。
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図-4の通り風力設備からの発電量は増加している。
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電力の大需要地である南部の工業地帯に送電されるべき電力だが、南部に送る送電線の建設が遅れているため送れなくなってきたのだ。電力が勝手に隣国のポーランド、チェコなどに流れることが発生するようになった。このため、ドイツ政府は、再エネの料金抑制を目的に導入量への上限を設けた新たな政策を、2017年1月から導入する。
小規模の太陽光(750kW以下)、バイオマス(150kW以下)発電設備を除き、再エネ設備からの電力を入札方式で購入することにしたのだ。2025年に再エネのシェアを40%から45%にするとの2014年に設定された目標は変えないものの、送電線の能力に合わせた年間の設備の導入を図るため導入量に上限が設けられることになった。また、買い取り額も、競争入札の結果抑制される見込みだ。
中国に助けを求める太陽光関連事業者
ドイツを始め欧州主要国は、電気料金を抑制するために再エネ支援制度を相次いで見直した。結果、欧州における太陽光発電設備導入量は激減することになった。2011年、12年には、それぞれ800万kW近くあったドイツの太陽光設備導入量は、15年には150万kWまで落ち込んでいる。スペインでは新規導入量がほぼゼロになってしまった。この設備の落ち込みにより影響を受ける欧州の雇用者数は12万人だ。困った太陽光パネルの設置業者などは中国に助けを求めることになった。
欧州委員会(EC)は、2012年から13年にかけ中国製パネルを不当廉売容疑で調査し、2013年夏から課税を行うことをほぼ決めた。これに対し、中国政府は不当廉売容疑で欧州製ワインの調査を開始し、報復することを匂わせた。中国政府の報復を恐れたECは結局、課税を見送り、最低価格と輸入数量を設けることで中国メーカーと合意したが、この制度は来年3月に見直されることになっている。欧州の設置業者などは安価な中国製パネルが輸入されれば、欧州での太陽光パネル設置量は増えると考え、最低価格制度の廃止を訴えている。
既に、業界団体と400社を超える企業がECに嘆願書を提出している。ECが輸入の最低価格を設けても上記にて触れた通り、欧州の太陽光パネル製造業者は中国企業に対しシェアを失い続け、生き残ることはできなかった。シャープに代表される日本のパネル製造事業者も同じ状況にある。もはや、製造事業者への配慮は不要になったが、安価な中国製が導入されれば、FITなどの制度による支援がなくても欧州での太陽光発電設備導入量が再度増加するかは不透明だ。
再エネの雇用効果は限定的
クリントンは米国を21世紀のクリーンエネルギー大国にすると大統領選で主張していたが、既に米国は再エネ大国だ。風力発電設備は中国に次ぎ世界2位7500万kW、太陽光は世界4位2600万kWだ。全発電設備量の約10%を占めるまでになっている。再エネ導入が急速に進んだ背景には、投資税額控除による連邦レベルの支援政策に加え、地方政府の支援があった。
業界団体によると、風力関係の雇用8万8000人、太陽光関係21万9000人だ。太陽光関係雇用の内訳とその伸びは表-2の通りだ。合計すると2010年の9万4000人が21万9000人に倍増以上になっている。
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しかし、2010年から15年にかけて、建設関係の雇用は552万人が645万に増え、製造業は1153万人が1232万人に増えている。太陽光関係の雇用の増加率は大きいものの、雇用数の増加でみると、ほとんど影響を与えていない。絶対数では、石油・ガスなどの鉱業に携わる雇用者数の増加のほうが多い。
気候変動問題への取り組みに熱心なクリントンは、石炭火力の減少を進めるクリーンパワープランの強化を謳い、シェールガス・オイルの生産に用いられる爆砕法についても否定的な立場を取った。政策綱領では炭素税も打ち出した。しかし、再エネの雇用数が大きく伸びていない状況で、化石燃料の生産に後ろ向きの姿勢を取り、再エネビジネス支援を打ち出しても、有権者へのアピール力はなかっただろう。
トランプで変わる米国のエネルギービジネス
2009年には、オバマ大統領の気候変動政策を支持する経営者グループが出したューヨークタイムズ紙の広告に名を連ねたトランプは、2012年には気候変動は米国の競争力を奪うため中国が作り出したでっち上げと主張し立場を180度変える。再エネ導入には否定的であり、太陽光発電はコストが高く、風力発電は景観上問題としている。大統領選では米国のエネルギー自給率を100%にすると掲げ、化石燃料、特に石炭支援を打ち出していた。そのためか、ペンシルべニア、オハイオ、ウエストバージニア州など、ほとんどの産炭州でトランプが勝利を収めた。
トランプは、就任して直ぐに行うことにパリ協定からの離脱をあげており、これは実行されることになるだろう。また、気候変動問題に取り組む国連機関への拠出金の停止も実行する可能性がある。現在行われている連邦政府レベルでの再エネ支援策、投資税額控除についても見直すのではとの報道もあるが、共和党議員の地元で再エネに携わっている企業もあることから、一挙に再エネ支援策を打ち切ることはないとの見方もある。
石炭をはじめとした化石燃料への支援策が導入されることになるだろうが、石炭生産が増加するかどうかは不透明だ。石炭生産が減少している大きな理由は、シェール革命により価格が下落した天然ガスとの競争に敗れていることであり、市場を重視する共和党の立場から打ち出せる支援策は多くないように思える。
日本経済にとって大切なことは何か
再エネで先頭を切ったドイツ、再エネから化石燃料に舵を切る米国。どちらの国も重視しているのは、産業の競争力を維持、強化することだ。再エネによる経済成長、あるいは雇用創出を大きな目標としていないことは明らかだ。日本経済にとって大切なことも経済成長を支えるエネルギーコスト、電気料金だ。
そんななかで、再エネにより経済成長が図れると考えている蓮舫代表は、今一度経済政策とエネルギー政策を考えたほうがよい。日本国民にとっては、時代を読めない政党が政権についていないことは救いだが。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8220
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