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「超」入門 失敗の本質――日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ
【特別寄稿4】 2016年11月11日 鈴木博毅
なぜ日本人は「空気」に左右されるのか?
旧日本軍から豊洲問題まで、組織を陰で支配するもの
築地市場の豊洲移転問題で再び注目を集める、日本の組織を支配する「空気」の存在。戦時中における旧日本軍の意思決定から、東日本大震災の対応、東芝の粉飾決算など、私たちのメンタリティは今も変わっていない。なぜ、日本人は同じ失敗を繰り返すのか?なぜ日本企業は変われないのか?14万部のベストセラーとなった『「超」入門 失敗の本質』の著者が、日本的組織のジレンマを読み解く。
2011年の東日本大震災時の東電や政府の対応、三菱自動車のデータ偽装、東芝の粉飾決算、築地市場の豊洲移転問題……。近年、首を大きくかしげたくなる問題が日本社会で次々に発覚しています。
そして、これらの問題はどこか「既視感」を覚えるものばかりです。今も昔も結局、日本のメンタリティは変わっていないように思えます。日本社会、ひいては日本人に共通するある精神性が、こうした問題を繰り返し引き起こしているのではないでしょうか。
なぜ、日本人は同じ失敗を繰り返すのでしょうか?そして、なぜ日本企業は変われないのでしょうか。
巨大組織の東京都庁が改めて示した
「日本的組織」の病魔
この夏から秋にかけて多くの人の注目を集めた問題がありました。築地市場の豊洲移転問題です。老朽化、過密状態の改善を理由とした築地市場の移転は、本来は多くのプラスを生み出すために計画されたはずでした。
ところが豊洲の予定地にベンゼン、ヒ素などの土壌汚染が判明し、その対策として計画されたはずの盛り土が実際にはされていないことが発覚してしまったのです。
今年の8月から就任した小池新都知事は、この問題とその対処について次のように語りました。
「土壌汚染対策を担当する土木部門と建物管理を担当する建築部門が縦割りで連携不足で、(中央卸売市場の責任者の)市場長など管理部門のチェックもなされていなかった。答弁は前の答弁をそのまま活用した。ホームページには誤った概念図をそのまま使用し、誰も気付かなかった」(日本経済新聞、9/30より)
「業務を把握すべき立場の歴代の市場長は盛り土をしないと知らずに決裁してきた。今回の事態を招いた最も大きな要因は責任感の欠如だ。組織運営システムの問題だ『都庁は伏魔殿でした』と評論家のように言っているわけにはいかない」(同前)
東京都は計画段階で、約40ヘクタールの豊洲新市場予定地を4122地点にわたり詳細に調査しています(地盤面から深さ50センチメートルの土壌と地下水)。
「調査の結果、人の健康への影響の観点から設定されている環境基準を超える地点は、土壌または地下水で1475地点(36パーセント)でした。このうち1000倍以上の汚染物質が検出されたのは、土壌で2地点、地下水で13地点であり、敷地全体に高濃度の汚染が広がっていないことが分かりました」(東京都中央卸売市場ホームページより)
これだけの事前調査をもとに決定された対策が、すべてきちんと行なわれていれば、豊洲市場への移転は大きな問題にならなかったのではないでしょうか。しかし対策である盛り土をしない、という決定がなぜか都政の中で段階的に承認されてしまいます。土壌の浄化対策を前提とした移転計画なのに、その前提を実施せずに建設が進んだのです。
「一連の流れのなかで盛り土をしないことが段階的に固まっていったと考えられる。ここが問題だが、いつ誰がという点をピンポイントで指し示すのはなかなか難しい。それぞれの段階で、流れや空気のなかで進んで。それぞれの段階で責務が生じるものと考える」(日本経済新聞、9/30より)
大規模な調査が行なわれ、土壌浄化の実証実験までされています。にもかかわらず豊洲新市場への移転はトラブルに見舞われています。この現状は残念ながら、盛り土をしない決定を承認した都庁と行政自身が生み出してしまった問題といえるのではないでしょうか。
小池都知事が指摘した「空気の影響力」
一連の問題点にメスをいれた小池新知事は、座右の書として『失敗の本質』を挙げています。書籍『失敗の本質』は1984年に出版され、日本的組織論の名著として現代まで読み継がれ、累計で70万部を突破するロングセラーとなっています。
小池氏は記者会見で「流れや空気のなかで進んで」と発言しています。なんとなく、そちらの結論(盛り土をしない)に引っ張られていった状況を表現しているのでしょう。
一般に、私たちが「空気」という言葉を使うとき、何らかの形で拘束・歯止めをかけられた状態を指すことが多いようです。「あの場の空気ではとても反論できなかった」など。今回の問題に限らず、「空気」で物事がゆがめられていくことに、私たち日本人は長年うんざりしているのも正直なところではないでしょうか。
有名な山本七平氏の著作に、『「空気」の研究』(初版1977年)という書があります。山本氏は多くの日本人論の著作を残していますが、日本が一面焼け野原となった太平洋戦争も「空気の支配」によって引き起こされたとしています。
「それは非常に強固でほぼ絶対的な支配力をもつ「判断の基準」であり、それに抵抗する者を異端として、『抗空気罪』で社会的に葬るほどの力を持つ超能力であることは明らかである」(『「空気」の研究』より)
「戦艦大和の出撃などは“空気”決定のほんの一例にすぎず、太平洋戦争そのものが、否、その前の日華事変の発端と対処の仕方が、すべて“空気”決定なのである。だが公害問題への対処、日中国交回復時の現象などを見ていくと、“空気”決定は、これからもわれわれを拘束しつづけ、全く同じ運命にわれわれを追い込むかもしれぬ」(同前)
日本の敗戦は1945年であり、すでに71年前のはるか昔の出来事です。にもかかわらず、現在も「日本人と空気」の問題は未解決であり、豊洲問題に限らずいろいろな社会問題で、失敗を生んだ空気がいまだ注目され、様々な議論・解説がされているのです。
「空気」が蔓延した
旧日本軍の「失敗の本質」との共通点
「空気」が生み出されると、一体何が起こり始めるか。責任の所在は段階的に見えなくなり、「なんとなく」一つの流れが生み出されていく。やがて「ここでは問題の本質を検討しない」という暗黙の了解が作られていくのです。
旧日本軍でよく引き合いに出される、インパール作戦という失敗があります。ビルマからインド北部に侵攻する作戦でしたが、計画段階で武器食糧の補給が不可能という指摘がありながら無謀にも実行されました(結果、大惨敗で防衛線が崩壊した)。
成り立たない作戦のため参謀を含めた多くの部下が止めるも無視されました。上司の河辺方面軍司令官が、作戦の提唱者である牟田口司令官(第十五軍)の努力を見てこの作戦を支援したために、ついに決行されました。
「第十五軍の薄井補給参謀が補給問題にとても責任が持てないと答えたのに対して、牟田口司令官が立ち上がって「なあに、心配はいらん、敵に遭遇したら銃口を空にむけて三発打つと、敵は降伏する約束になっとる」と自信ありげに述べたという」(『失敗の本質』より)
つまり、武器弾薬・食糧の問題を真剣に検討せずに、「もう決定した作戦だから」と実行されたのです。作戦遂行の前提条件を、空気で押し切って無視している組織の姿が71年前にもあるのです。
【「空気が醸成される」悪影響の構造】
「ここでは補給困難を検討しない」
※前提条件の必要性を、あえて検討することを放棄していることに注目
組織の誰かが「ここではそれを検討しない」、という意図を進めると、それに迎合する人たちのグループが形成されるようになります。それは、組織内で利害を同じくする側の場合もあれば、迎合することで得をする立場に引き上げられた人の場合もあります。初期段階では、この空気は冷静な現実をぶつけることで、崩すことも可能です。しかし、「空気に迎合する人間」が増えると、今度は同調圧力が高まります。
あのときの日本軍はどうなっていったのか。
「第十五軍幕僚の間に存在した慎重論は、もはや軍司令官に直接伝えられることはなかった。何をいっても無理だというムードが、第十五軍司令部をつつんでいた」(『失敗の本質』より)
インパールに侵攻することで、インド北部からの英軍の攻撃を阻止しようとした作戦は、無謀な指揮官に先導されたことで大敗北に終わります。結果として、日本軍の占領していたビルマの防衛線そのものが崩壊することになったのです。
つじつまが合わないときに現れる、
恐るべき「空気」とは?
旧日本軍は、インパール作戦のように計画段階で必要不可欠とされた前提条件を、実施の段階までのプロセスで一切無視することが何度かありました(牟田口司令官は、武器弾薬がなければ石を拾って投げて戦えと訓示した)。
弾薬や食糧の補給という現実的な問題を解決できないとき、日本軍ではより勇ましい(無謀な積極論)構想が躍り出てきて、重要な詳細を無視させました。
牟田口司令官は、第一五軍司令部を訪れた稲田正純南方軍総参謀副長に、「アッサム州かベンガル州で死なせてくれ」(『失敗の本質』より)と語っています。
もう一つは、「空気」を押し切るために間違った正論が飛び出してくることです。牟田口司令官は、インパール作戦に関連した日本軍の部隊がビルマ方面の基地から国境付近までの進出を遅らせていると「あいつらは敵が怖いから前線に来ないのだ」という主旨の非難をします。ところは現場部隊を指揮する側からすれば、武器弾薬と食糧調達の目途がついていないのだから、部隊を先へ進められないのは(部隊運営上)当然のことでした。
悪しき形で使われる空気は、本質的な事項を検討させない圧力をかけていくことに使われています。長期的な方針もないのにいきなり遠大な目標を掲げたり、いっけん正論に見える(実際は誤っている)議論をぶつけてくることで、現実問題を無視させる。
このような空気は、旧日本軍の敗北だけでなく、戦後多くの大企業のビジネス不祥事でも指摘されています。いまだに私たち日本人は、悪しき空気に騙され続けているのです。
悪しき空気をつくる3つの要因と、
正しい方向転換をはかる4つの要素
悪しき空気が醸成される要因には、「人の問題(人事制度)」、組織全体で適用されている「評価基準の問題」などが指摘されています。しかし、建設が進んでしまった豊洲新市場では、「サンクコスト」のジレンマも今後急速に問題視されていくことになるでしょう(すでに移転延期費用については、メディアで指摘され始めています)。
拙著『「超」入門失敗の本質』では、過ちを認めるプロジェクトの正しい方向転換を妨げる4つの要素を列挙しています。
(1)多くの犠牲を払ったプロジェクトという現実(サンクコスト)
(2)未解決の心理的苦しさから安易に逃げようとする意識
(3)建設的な議論を封じる誤った人事評価制度
(4)「こうであって欲しい」という幻想を共有すること
サンクコスト(Sunk Cost)は、日本語では埋没費用といわれます。すでに投下してしまい、回収が不可能になった費用のことを差します。プロジェクトを途中まで進めて、それを万一中止したときには、それまでの費用は回収することができなくなります。
一方で、サンクコストを意識することでさらに大きな失敗を生み出す例も多いものです。典型的な事例は、1960年代終わりに計画された超音速旅客機のコンコルドです。開発費用が当初見込みを大幅に超過することが、プロジェクトの実施後に判明し、さらに大型旅客機に需要がシフトしたことで、「計画よりも売れないことがほぼ確定」してしまいます。
このようなマイナスが途中で判明したにもかかわらず、計画は継続されました。それはサンクコストを惜しいと考えてしまったからです。
「極めて否定的な結論を「否定して」計画は続行されました。膨大な追加資金が投入され、たった一六機を国営航空会社向けに納入後、一九七六年には製造中止になりました(途中で指摘された通り売れなかった)」(『「超」入門失敗の本質』より)
築地移転の問題で例えるなら、すでに投下してしまった建設費用や移転延期費用を惜しむことで、汚染土壌に何ら対策を施さないで豊洲への移転が強行されてしまうことでしょう。このような行動は、「汚染土壌になにもせずとも、将来にわたって問題は発生しないだろう」という、こうあって欲しいという共同幻想があれば成り立ちます(ただし、この賭けの結果は未来にしか判明しない上に、調査結果からも分が悪い)。
もちろん、様々な選択肢があり、同時に築地の移転問題は重い決断です。一つ言えるのは、食品を扱う卸売市場として、信頼を高めた形での決着が理想だということです。
そのためにあえて、汚染土壌の対策に追加的な高額費用がかかるとも、移転を実施するべきか否かです。築地市場は東京を含めた関東の台所として長く機能し、国内・海外からもその食の美味しさを求めて多くの観光客が集まっています。
安倍政権も、海外からのインバウンド(訪日旅行客の需要)を観光政策として重視しており、日本の食の魅力は大切な要素の一つのはずです。食の魅力は美味しさとともに安全性や信頼性にあり、それを高めることも市場移転の重要課題のはずです。
誤った空気を助長する共同幻想に左右されず、市場移転問題を解決できるのか。小池新都知事の手腕次第で、単に行政組織だけでなく、ビジネスパーソンにとっても良い手本になるか、新たな悪い見本となってしまうか。その決断と対策にかかっているといえそうです。
http://diamond.jp/articles/print/107121
ニュース3面鏡
2016年11月11日 高山善文
外国人介護士は介護現場の「救世主」にはならない
10月下旬、衆院本会議で可決された「出入国管理・難民認定法改正案」は、日本の介護福祉士の国家資格を持つ外国人を対象に、「介護」職としての在留資格を新設した。それに加え、働きながら技術を学ぶ「外国人技能実習制度」の対象職種に「介護」を新たに加えることとした。参院での審議を経て今国会で成立する見通しである。世間には「これで深刻な介護現場の人材不足が解消される」との楽観論もある。しかし、介護現場の実態は厳しく、今回のケースで外国人介護士に門戸が開放されても、そう簡単には事態は改善しない。(ティー・オー・エス株式会社代表取締役、福祉・介護コンサルタント 高山善文)
日本の介護現場に
外国人が就労
「ニッポンに行きたい人、手を挙げて!」――。
先生が日本語でそう質問すると、「ハイ!」教室にいるほとんどの生徒が勢いよく手を挙げた。EPA(経済連携協定)が署名される前年、フィリピンにある看護学校で見た光景である。
あれから8年――。
今度は、「技能実習」という制度を使い、外国人が海を渡って日本の介護現場に来ることになる。
言うまでもなく日本は国内の労働人口が減少する中、空前の人手不足である。とりわけ介護現場の人手不足は待ったなしの状況だ。
これまで外国人は、日本に留学・滞在して「介護福祉士」の国家資格を取得しても、在留資格に「介護」に該当する在留資格が存在しなかったため、介護職として就労できなかった。
今回、10月25日の衆院本会議にて賛成多数で可決された「出入国管理・難民認定法改正案」は、日本の介護福祉士の国家資格を持つ外国人を対象に、「介護」職としての在留資格を新設するものだ。また、働きながら技術を学ぶ「外国人技能実習制度」の対象職種に「介護」を新たに加えることとした。参院での審議を経て今国会で成立する見通しである。
日本で外国人が滞在し、働くためには、「在留資格」という日本に滞在するための資格を取得することが必要だ。入管法という法律で27種類の資格が定められており、入国管理局において厳しく管理されている。
すでに日本の介護現場で
働いている外国人とは
在留資格には「就労を目的として滞在」、「就労以外の目的で滞在」、「身分又は地位に基づく者」と類型化されており、資格によって日本に滞在できる期間が定められている。
現在、日本において働いている外国人は約90万人おり、そのうち介護現場で働ける外国人は、EPA(経済連携協定)でインドネシア、フィリピン、ベトナムから来日した外国人看護・介護士となっている。
それ以外で私たちが介護現場で目にする外国人は、日本の永住者、日系人等の定住者、日本人の配偶者を持つ者、留学生である。ただ、利用者にとって本人がなんの在留資格を持ちながら働いているかはわからない。
出所:厚生労働省 拡大画像表示
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介護職員で多いのは
在日外国人や日系人
日本において在留資格で働いている外国人のうち、数が多いのは、定住者(主に日系人)、永住者、日本人の配偶者等である。その中でも特にフィリピン人は、大家族の中で育ち小さいころからみんなの面倒をみて働き者であり、介護との親和性が高いというイメージがある。
ある通信会社はフィリピンと日本の国際通信事業で培った在日フィリピン人ネットワークを活用し、在日フィリピン人に対してホームヘルパー(初任者研修)の研修を行い、介護施設に人材紹介や派遣を行っている。彼女らの多くは「日本人の配偶者等」という在留資格を持っているため就労制限はなく、日本人とほぼ同じように働ける。そして読み書きは苦手な人が多いものの、日常会話は問題ない人が多い。
ある人材会社は、日系人であるフィリピン人を現地でリクルーティングし、フィリピンの医科大学と提携し、日本語教育、介護実技の教育を現地で行い、日系フィリピン人専門の人材派遣・紹介を行っている。派遣先は主に病院であり、看護助手の業務が多いという。日系人も、1990年の入管法の改正によって就労活動にも制限のない在留資格が与えられており、合法的に外国人労働者として働ける。
フィリピン以外の国でも全国の介護施設の中では外国人を介護職員として受け入れているところも多く、その大半は日本に永住・定住する在日外国人、日系人である。
日本語学校の
留学生が介護現場に
さらに、介護現場で働く外国人で最近増加しているのは、「留学生」だ。独立行政法人 日本学生支援機構(JASSO)が公表した「外国人留学生在籍状況調査結果」によると、2015年に日本で学ぶ留学生は初めて20万人を突破した。国別では中国、ベトナム、ネパール、韓国だ。顕著なのは、中国人留学生が、韓国人留学生が年々減少する中、ベトナム人留学生、ネパール人留学生が増加している。
留学生は学業が本業なので本来は働くことができないが、入国管理局から「資格外活動許可」を受ければ原則として週28時間以内で働くことが可能である。人手不足を商機と見た日本語学校では、特に人手不足が顕著な介護業界をターゲットとして、この28時間を利用して、介護施設を「働く場所」として紹介している(ただ、基本的に留学生の場合、アルバイト先は選ぶことができるので介護職以外の給料が高いほうに行くことも多い)。
ある日本語学校では、「日本語学校」〜「介護福祉士養成校」〜「介護施設」といった一連の流れを作り、留学希望者と介護施設等に提案を始めた。学生の費用を介護施設等が奨学金のような形で負担し、将来の人材不足を担うといったスキームだ。「介護」の在留資格創設を見越しての動きである。
実際、日本介護福祉士養成施設協会がまとめた、今年4月1日現在の介護福祉士養成校の報告書によると、今春から外国人留学生が増加している。例年留学生は、全国で20人程度だったが、今年4月1日の調査では257人に増え、全入学者の3.5%を占めるまでになった(外国人留学生の内訳はベトナム人114人、中国人53人、ネパール人35人、フィリピン人28人、ほか27人)。
そもそも技能実習制度に
介護職は適切なのか
技能実習生制度は、国際貢献のため開発途上国等の外国人を日本で一定期間受け入れ、職場での実習を通じて技能、技術、知識を移転する制度のことである。技能実習の在留資格を取得している外国人は16万人を超えている。繊維・衣服関係、機械、食品関係等の業務についている。従来は、人に対して行ってきていないものに対して今回、対人サービスである介護を追加職種にする。
技能実習制度については、多くの意見がある。中でも反対意見の多くは、技能実習制度自体の仕組みの欠陥についてである。アメリカ国務省の年次報告書においても、技能実習生制度は研修という名のもとに単純労働を行わせ、奴隷的に労働者を使っていると指摘されている。
そもそも技能実習制度は、技能移転を目的としたものであり、従来対人サービスは行っておらず、今回、介護は対人サービスとして初めて門戸が開かれることになる。介護は単純労働でなく、コミュニケーションを含めた高度な専門職である。このことを技能実習生に任せても良いのであろうか、といった議論も根強い。
外国人技能実習生の
行方不明者数は年間3000人超
EPA(経済連携協定)に加えて技能実習生、介護福祉士の在留資格創設と介護職種に外国人人材が多数流入してくることが予想される(送り出し機関、国内の人材紹介会社等がかなり活発に営業を推進して)が、当然リスクも考えられる。
なかでも、一番大きな課題は「失踪」と「帰国」であろう。失踪については、公益財団法人国際研修協力機構(JITCO)が公表している資料によると、外国人技能実習生の失踪者は、2013年度から2015年度の累積で9000人を超えている。
本国への帰国については、雇用側としてはある程度の期間は就業してもらえると期待していたが、家族、結婚等の理由で帰国してしまうものだ。せっかく手塩にかけて育て、資格取得をしても帰国してしまうケースが実際にEPA(経済連携協定)においても出ている。
将来的に介護は
ベトナム人が担うか
ベトナムからは既にEPA(経済連携協定)によって看護師・介護士の受け入れが始まっている。平成28年度時点で、看護師候補者53名、介護福祉士候補者417名が入国している。さらに、留学生では3万8882人(平成27年)、技能実習生においては毎月1000人以上の実習生が入国している。
今年3月、在ベトナム日本国大使館と在ホーチミン日本国総領事館、国際交流基金ベトナム日本文化センターは、教育訓練省との間で、ベトナムの初等・中等教育に日本語を「第1外国語」として導入することに合意した。ベトナムでは民間の日本語学校も増加しており、今後日本語ができるベトナム人が増加していくと考えられる。
こうした動きをみていると、日本の介護現場ではベトナム人が介護を担っている日が来る日は近いと思うのだ。
外国人介護士は
「救世主」にはなりえない
現場の管理者は介護の仕事を行いたくて入職してくる職員が少なくなっていることに危機感を募らせている。しかも、人材不足のため、日本人でも指示通りにできない職員が増えているのが実情だ。
ある特別養護老人ホームでは、正職員が採用できず、日勤を非常勤職員、人材派遣職員で回し、正職員は夜勤専門となっている。この施設では新人の教育を非常勤職員や人材派遣職員が行っている。このような人手不足の介護施設に、外国人労働者が入職してきても、OJTができるのだろうか。とてもではないが、そんな余裕がないのが現状だ。確かに一部の法人では、EPAでも行っているように外国人専門部署を創設し、トップ自ら陣頭指揮をとり、外国人の教育を行っている施設もある。しかしながら、大多数の中小事業者は自分たちのことで精いっぱいなのだ。
ましてや、相手は異国に来ている外国人である。「暗黙知」が異なる分、日本人以上に丁寧な業務フォローと精神的ケアが必要で、私たちが常識だと思っていることも、彼ら彼女らには通用しないこともある。再度、繰り返すが、今の介護現場では、日本人の雇用管理で手一杯だ。介護職員を人員数だけの配置と考えているなら外国人介護士は救世主とはなりえないと思うのだ。
アジア諸国は今後、急速な高齢化が進む。外国人人材の争奪戦は必ず近い将来起こりうる。外国人介護士が日本に定着してもらうためには、短期間の労働力を当てにするのではなく、移民政策も含め外国人が働きやすい仕組みと環境を整える必要と、私たちが現実を直視する勇気が必要だ。
そうしなければ他国に人材が流れてしまうことは明白だ。
http://diamond.jp/articles/print/107563
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