http://www.asyura2.com/16/senkyo215/msg/704.html
Tweet |
エコロジーフロント
豊洲市場の土壌汚染問題、健康被害はあるのか
「基準値超え」と「炎上」の見方をリスク評価の専門家に聞く
2016年11月10日(木)
相馬 隆宏、半沢 智
東京都は11月1日、豊洲市場の施設の下に盛り土をせずに地下空間を設けたことについて、「いつ、誰が、決めたのか」という意思決定のプロセスを検証した報告書を公表した。決定に関わったとされる責任者を特定し、今後、対処を検討するという。11月7日に予定されていた豊洲市場への移転が延期されたことによって、導入済みの設備のリース料の支払いなど市場業者への補償も急務になっている。
「立ち止まって考えるべき」──。小池百合子知事が選挙期間中にこう発言して以来、豊洲市場の移転問題が混沌としている。8月に移転延期を決定した後、豊洲市場の主要施設の下に、都の「専門家会議」が提案した土壌汚染対策の「盛り土」がされずに地下空間が設けられていたことが発覚した。今回、公表した報告書は、この経緯に関して詳しく調べたものだ。さらに、土壌汚染対策法の指針に基づいて実施されている地下水のモニタリング調査で、環境基準を超えるベンゼンとヒ素が検出された。
豊洲市場の移転問題が膨らむ中、市場関係者や消費者が最も気にかけているのは、「食の安全」だろう。「安全性に問題はないのか」。日経エコロジーは、環境リスクに詳しい専門家らに取材した。以下、2人のインタビューを紹介する。
築地市場からの移転が延期となった豊洲市場(写真=東京都中央卸売市場)
「摂取経路」と「量」の議論を
まず1人目は、化学物質などの環境リスク評価で知られる産業技術総合研究所名誉フェローの中西準子氏である。
産業技術総合研究所 名誉フェロー
中西 準子氏
──豊洲市場の安全性をどう評価している。
中西:土壌汚染は急激な健康リスクがあるというものではない。一番大事なのは、土壌汚染が存在するということではなく、土壌に含まれている有害物質が人の体に入る経路があるのかどうか、入ったとしてどれくらいの量なのかということ。それなのに、それらについて議論しないまま、地下水からベンゼンやヒ素が検出されたと大騒ぎしていること自体が大きな問題だ。
──見つかった有害物質による健康への影響は。
中西:豊洲市場は地下水を使って魚を洗ったり、調理したりするわけではないので有害物質が体内に入る可能性は低い。土壌汚染対策として、摂取経路をきれいな土やコンクリートなどで遮断する方法がある。地下に盛り土がされていなかったことが問題になっているが、建屋の床のコンクリートで遮断されている。
東京都の公表資料によれば、表面の土壌を掘削し、洗浄や加熱処理した上で戻したり、地下水に汚染があれば浄化して排水したりするなど十分な対策を取っているといえる。有害物質があったとしても拡散していくような状況は考えにくい。
地下水の水質管理のための「環境基準」は、毎日2lの水を70年間飲み続けた場合に健康被害が出ることを防ぐための「飲料水基準」と同じに設定している。飲むわけでもない水に含まれる物質が、その値を一時的に超えたからといって慌てる必要はない。もし常に基準を超えるような状態になれば、そのときに原因を突き止めて対策を打てばいい。
──基準値超えが続いたらどうすればいいのか。
中西:対策としては、汚染されている土壌を取り除くか、土壌はそのままにして地下水を管理するかの2つがある。地下水の管理というのは、人が飲まないようにしたり、水をきれいにしたりすることだ。ただ、日本では費用のかかる掘削除去の方を選ぶケースが多い。
これからの環境対策は費用についてしっかり考えないといけない。過度な対策は余計なエネルギーを使うことが往々にしてあり、新たな環境問題を引き起こしかねない。リスクの大きさと対策の効果を調べてコストパフォーマンスを高めることが、本当の意味での環境対策ではないか。
ゼロリスクを求めるのは不可能
続いて、リスク心理学に詳しい京都大学大学院教授の藤井聡氏に豊洲市場を巡る騒動について聞いた。
──豊洲市場の移転問題が、連日、テレビや新聞で報道されている。
内閣官房参与 京都大学大学院教授
藤井 聡氏
藤井:今の状況をみていると、客観的な技術の議論がなく、不安が一人歩きしていると感じる。
技術的に考えて、盛り土をせずに地下ピットを設けたことが安全性で問題になるとは考えにくい。一般的に地下水は、土壌を通じて地上に上がってくるリスクがある。地下ピットは地下水を遮蔽する役割を果たし、土壌から水を抜く排水システムが正常に動作すれば、地下水が地上へ出るリスクはさらに小さくなる。
──なぜ、不安が世間を覆ってしまったのか。
藤井:発端は、7月に実施された東京都知事選挙だろう。豊洲市場問題は、選挙において争点の1つになった。小池百合子氏と東京都という戦いの構図が作られ、マスメディアもこの問題に飛びついた。小池新都知事は当選直後、「確認して結論を出す」と宣言した。その後、豊洲市場で地下ピットの存在が発覚すると、マスメディアと世論は「やはり出たか」という心理になる。
人間は、自分の考えの辻つまを合わせようとする。これまで「隠蔽」「基準値超」などと報道し続けていたマスメディアは、冷静に考えたら問題なかったと前言撤回をしにくい。連日の報道によって、安全性を非難し続けてきた市民も、振り上げた拳の下ろしどころがなくなっている。こうなると、わずかな問題点を探し出し、それを責め立てるという行為に及ぶ。これが人間の心理だ。
──不安を払拭するために、今後どのような対策をとるべきか。
藤井:いったん何かのリスクが気になりだしたら、些細なことで大騒ぎしてしまうのは、リスク心理学という学問の中でよく知られている事実だ。過剰にリスクに怯え、絶対に達成できない「ゼロリスク」を求めてしまう。こうなると、冷静な技術論はなかなか耳に届かない。しかし、100%安全というのは何に対してもあり得ない。風評被害が残ることが心配だ。
今は、報道が過熱して「炎上」している状態だ。東京都は、落ち着いた時期を見計らい、地下ピットの安全性や基準値の意味など、技術的な根拠に基づいた説明をすべきだ。
健康リスクの冷静な検証必要
中西氏と藤井氏によれば、豊洲市場の安全性について現時点で深刻なリスクは考えにくいという。その根拠として挙げているのが、盛り土はないものの既に十分な土壌汚染対策が講じられており、検出された有害物質の濃度は直ちに人の健康に被害を及ぼすレベルではないというものだ。
都は現在、詳細を調査中ということもあり、安全性に関して明言していない。なぜ盛り土がされなかったのかという意思決定のプロセスが曖昧な点ばかりに目が向き、国民は安心できないでいる。この状態が長引けば、「豊洲には問題がある」といった風評被害が広がりかねない。
インターリスク総研事業リスクマネジメント部環境・社会グループマネジャー・主任研究員の原口真氏は、「盛り土がない現在の状態でどの程度のリスクがあるのか検証する必要がある」と言う。
莫大な費用をかけて建設した施設が使われなかったり、豊洲の食品が飲食店や小売店で扱われにくくなったりするようなことがあれば、国にとって大きな損失になるとの指摘もある。築地市場の跡地には東京五輪関連の道路が建設される予定で、豊洲市場への移転が滞れば、五輪の開催にも影響を及ぼしかねない。
豊洲市場の安全性について、都は早急に技術的な観点から健康被害のリスクを検証し、国民に説明することが求められている。
このコラムについて
エコロジーフロント
企業の環境対応や持続的な成長のための方策、エネルギーの利用や活用についての専門誌「日経エコロジー」の編集部が最新情報を発信する。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/230270/110900035/
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK215掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。