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トランプ米大統領でも、在日米軍撤退は「あり得ない」…日本経済好況の可能性
http://biz-journal.jp/2016/11/post_17142.html
2016.11.10 文=田中秀臣/上武大学ビジネス情報学部教授 Business Journal
米大統領選は8日、投開票され、共和党のドナルド・トランプ氏(70)が民主党のヒラリー・クリントン前国務長官(69)を破り、第45代大統領に就任することが確定した。
筆者はあるアイドルのライブ後の握手会で、顔見知りでもあったそのアイドルに「トランプが勝ったよ」と言ったら、「え〜、まずいじゃないですか。トランプさん、日本嫌いなんでしょ?」という反応が返ってきた。
「トランプ次期大統領は日本が嫌い」という印象は、かなり一般的かもしれない。日本を含む同盟国との軍事関係を経済面から見直し、在日米軍の経済的負担を日本が担わなければ、米軍撤退、そして日本の核兵器保有を容認するというものがその引き金だろう。おそらく政治的に過度に偏りがなければ、この「日米安保放棄」とも取れる発言は、「日本に冷たい」と感じる人が多いのではないか。
ただ、このトランプ氏の発言に、日本的左派と、政治的には逆の右派の一部が、脊髄反射的に賛意を表明したことも思い出しておく必要があるだろう。もっとも日本的左派の人たちは、核兵器保有ではなく、憲法9条が在日米軍の代わりになると信仰している点が、一部右派の人とは違うようだ。
客観的に判断する限り、単純に経済的負担だけを理由に在日米軍が日本から去っていくことはまずない。なぜならそれは、米国の東アジアや太平洋の安全保障政策を大幅に縮小し、対中国・対ロシアなどを含めたかなり割高で、また不透明な賭けに出ることを意味しているからだ。なんの「緩衝地域」もなく、海洋進出政策を活発化させる中国と向かい合うリスクをあえて取ることにもなる。
■米軍の日本撤退の可能性は低い
そもそも客観的にみて、すでに日本は在日米軍の駐留経費の過半を負担している。2016年予算でも防衛省関連だけで約5400億円の巨額であり、その負担率は70%を超える高率である。韓国、ドイツ、イタリア、イギリスなどに比べてもその何倍、何十倍の負担額であり、負担率も米国の同盟諸国のなかでダントツの一位である。いいかえると、トランプ氏にいわれるまでもなく、今まで日本は米国から軍事的に「見捨てられる」可能性が起きないように、自国で在日米軍のコストを大きく引き受けてきたことになる。
もちろん、この政府予算に現れないコストもある。たとえば、現在も政治問題化している沖縄などでの在日米軍に関するコストも無視できない。武田康裕氏と武藤功氏(共に防衛大学校教授)の著作『コストを試算!日米同盟解体』(毎日新聞社)によると、沖縄の米軍基地が存在しないときに、跡地利用などで経済効果が1兆6000億円超も生まれるという。
これは、それだけの金額を日本は現時点で無駄にしているといえる。これを「機会費用」という。また、政治的・社会的な摩擦も当然に経済評価が可能な部分があり、実際にはさらに機会費用は膨らむ。
米軍が日本から撤退することは、米国からみれば軍事的な公共支出の削減につながり、経済面だけをみればメリットのほうが大きいだろう。一方の日本にとっては、米国がそのメリットのさらなる拡大を狙って、たとえば駐留経費負担の増額や、全額負担を政治的に迫ってくる可能性はある。
ただ、政治的・社会的コストをあえて無視すれば、予算的な規模ではたかだか2000億円を超える程度であり、金額的には限定されたものだ。もっとも、そのような要求をトランプ次期政権が要求してくれば、日本国内で政治的・社会的な問題化は避けられないだろう。
以上から、米軍が日本から撤退する可能性は低いが、日本に対し駐留経費のよりいっそうの負担増を迫る可能性はあるだろう。ちなみに日本への核兵器保有許容だが、おそらく日本から在日米軍がいなくなれば、トランプ氏にいわれるまでもなく、国論が二分するかたちで核兵器保有が争点化することは必至である。
■TPPは失効か
さて、TPP(環太平洋経済連携協定)についてはどうだろうか。
トランプ氏が選挙期間中に首尾一貫して話題にしていたのが、保護主義的傾向と不法移民対策だった。前者はすでに衰退産業化している国内製造業部門の雇用を維持するための発言である。そして今回の選挙結果が、その人々の熱い支持を受けたものだけに、保護主義的な立場をおいそれと変更することはないだろう。
そのため、TPPの発効は事実上頓挫したとみていい。TPPの再交渉で製造業の「延命」を図るという方策もあるが、現段階では不透明であり、トランプ政権誕生の経緯を考えれば希望は限りなく小さい。米国との自由貿易をめぐる二国間交渉も、今後苦戦を強いられそうだ。保護主義的であると同時に、重商主義(貿易の利益がゼロサムであるという発想)が、どうもトランプ氏には濃厚に思える。このあたりは、実際に政権が動き出して、しばらく注視していく必要がある。
ただ筆者の私見では、それほど過度の保護主義に傾斜することはなく、ましてや戦前のブロック経済化のような方向になる事態はあり得ないだろう。TPPが政治的犠牲に捧げられるかたちで終わる程度ではないか。それでも「自由貿易圏」の構築からいうと大きな痛手だろう。
最後に、トランプ新大統領の経済政策が日本に与える影響は、どうだろうか。
トランプショックが癒えないままでは、まさにトランプ経済効果は日本には最悪のようにも映る。株価は大きく暴落し、また円高が加速した。
ただ、トランプの経済政策は、実際にはかなり緩和・拡大路線であるように思える。勝利演説では、ケインズ的な機動的財政政策としてインフラ投資を中心に行うと発言している。そして共和党候補としては異例なほど、雇用の創出に力点が置かれている。まるでニューディール政策の表明にも思えた。
また、金融政策については、トランプ氏のFRB(米連邦政制度理事会)の低金利政策批判が有名になっているが、筆者は深刻な影響はないと考える。なぜなら、先の積極的な財政政策の財源を、トランプ氏は国債の借り換えに求めている。それならば低金利維持、つまり金融緩和は必要条件である。むしろ急速な金利引き上げには、反対するかもしれない。
さらにいえば、現状のFRBの引き締めスタンスの転換を求めるかもしれない。ここは今後の注目点であり、筆者の読みが当たれば、トランプ政権はむしろ(保護主義志向という点を除けば)日本のアベノミクスと似た積極的な金融政策と財政政策の組み合わせを志向する、欧米の伝統的なリベラル政策に近似するかもしれない。もし仮にトランプ政権がこのようなリフレ政策的なものを採用し、米国経済が好況になれば、それによって世界経済、ひいては日本経済にも益するところ大だろう。
もちろん、これはひとつの可能性にしかすぎない。現時点をみれば、トランプショックが甚大である。日本政府は、トランプ次期政権がどうするかを傍観視するだけではなく、今まさに積極的な経済政策に動くべきだ。
(文=田中秀臣/上武大学ビジネス情報学部教授)
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