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小泉進次郎氏は日本経済の救世主になれるか
ドッジ・ラインに学ぶ「財政リセット」の知恵
2016.10.28(金) 池田 信夫
自民党の農林水産業骨太方針策定PTであいさつする小泉進次郎農林部会長(資料写真、写真:日刊スポーツ/アフロ)
安倍政権の中期財政計画は2020年度までしかなく、長期的に財政をどう健全化するのか不明だが、その構想らしきものがやっと出てきた。10月26日、自民党の小泉進次郎氏ら若手議員20人でつくる「2020年以降の経済財政構想小委員会」が「人生100年時代の社会保障へ」という提言を発表した。
小泉氏は小委員会の事務局長になり、4月に「レールからの解放」という方針を打ち出したが、今回の提言はそれを具体化したものだ。この小委員会は党の正式機関ではないが、小泉氏は未来の首相候補とも目されている。彼は財政と社会保障を救うことができるだろうか?
限界に来た安倍政権のバラマキ財政
海外から来た人は、東京を見て「日本経済は悪い悪いというが、渋谷の町は世界のどこにもないほどにぎわっている。どこが悪いのか分からない」という。たしかに成長率は安倍政権で年平均0.8%に低下したのに、日本経済について危機感はほとんどない。
それは人々が将来世代から「前借り」しているためだ。日本の政府債務は1100兆円といわれるが、これは政府のバランスシートに載っているオンバランスの債務だけだ。これとは別に社会保障特別会計で向こう30年に払う約束をしているオフバランスの債務は、純債務ベースで約1600兆円ある(鈴木亘氏の推計)。
つまり政府部門全体でみると、純債務ベースでも2200兆円以上の債務がある。このうち特別会計の赤字を「社会保障関係費」と称して一般会計から毎年30兆円以上、穴埋めしている。いわば国民は1人2000万円以上のゲタをはいているから、豊かにみえるだけだ。
1949年にGHQ(連合国軍総司令部)経済顧問として来日したジョセフ・ドッジは「日本経済は統制経済とアメリカの経済援助という2本の竹馬に乗っているだけだ」と評したが、今の日本経済はそれよりはるかに高い竹馬に乗っているのだ。
国民の乗った「竹馬」をいかに外すか
この末期的な財政と社会保障を改革するために、小泉委員会の打ち出した方針は目新しいものではない。報道によれば、主な項目は次のようなものだ。
・企業の厚生年金や健康保険を非正規労働者に拡大
・解雇規制の見直し
・年金支給開始年齢の引き上げ
このうち「厚生年金や健康保険を非正規労働者に拡大」は逆だ。社会保険料は企業の人件費に含まれているので、その分だけ労働者の手取りは減る。これを後払いする社会保障システムが労働者を会社に縛りつけているので、社会保険料の企業負担は廃止することが望ましい。
解雇規制や年金支給開始年齢は提言としては昔からあるが、実現していない。安倍内閣のような安定政権でもできなかった改革を実現するには、ほとんど革命ともいうべき転換が必要だ。それは普通の民主国家では政権交代で行われるが、日本の野党は自民党以上のバラマキ福祉なので期待できない。
国民の乗っている竹馬を外すのは、普通の政策ではできない。転倒する人が大量に出て、日本経済が短期的には大混乱になるからだ。問題はそれを超える長期的な国益のために決断し、実行できる指導者がいるかどうかだ。
それができる数少ない政治家が小泉氏だろう。彼の父は不良債権で行き詰まった日本経済のどん底に登場し、それを直接処理して日本経済を救った。大不況の最中に緊縮財政を組む非常識な財政運営で成長率は上がり、株価は2.5倍になったのだ。
進次郎氏の直面する問題は、父より1桁大きい。銀行の不良債権は最終的に100兆円程度だったが、財政の不良債務はその20倍以上なので、同じ方法では処理できない。不良債権を処理しても企業が倒産するだけだが、国家は倒産(債務不履行)できないからだ。
「小さな政府」への転換は避けられない
ではどうするか。1つの方法は、多くの経済学者が予想するインフレ税である。『21世紀の資本』の著者トマ・ピケティも指摘するように、今の日本に近いのは第2次大戦後のイギリスだが、その債務の多くは終戦直後のインフレで帳消しにした。
たとえば年率7%のインフレを10年続ければ、実質債務は半減する。これが最もありそうな結末だが、7%でコントロールできるとは限らない。円安とあいまって加速度的なインフレ・スパイラルになると、日本経済が崩壊する。
もう1つはドッジの実施したドッジ・ラインと同じ緊縮財政である。その柱は、次の3本だった。
・特別会計も含む総予算の均衡
・すべての補助金を一般会計に計上して全廃
・復興金融金庫の新規融資を停止
今でいうと社会保障関係費を廃止して年金を保険料だけでまかない、農業補助金だけでなく租税特別措置などの「隠れた補助金」も廃止し、日銀の金融緩和もやめる以上の荒療治だ。このため激しいデフレが起こり、企業倒産が激増したが、池田勇人蔵相はGHQの権威を借りて決行した。
ドッジ・ラインの歴史的な評価はわかれる。現代のマクロ経済学で考えると、緊縮財政と金融引き締めというポリシーミックスは危険で、小泉政権のように金融緩和で財政再建を支援したほうがいい。
ただ緊縮財政の「痛み」は短期的には避けられないので、それを超えて何を実現するかという長期的な目標設定が重要だ。それは終戦直後にはハイパーインフレを終息させることだったが、今は将来世代に希望をもたせることだ。今の極端に不平等な社会保障では、若者は絶望するしかない。
ドッジ・ラインが成功したのは、GHQという政府を超える外圧があったからだ。これには後日談があり、来日したばかりのドッジが日本の竹馬を知っていたとは思われないので、ドッジ・ラインの筋書きは池田蔵相の秘書官だった宮沢喜一が書いたのではないか、と野口悠紀雄氏は推測している(『戦後経済史』)。
いずれにせよ1950年に統制経済は終わり、日本は普通の資本主義になって高度成長の軌道に乗った。もちろん今の日本にドッジと同じ政策は必要ないが、自民党の国家社会主義をリセットして「小さな政府」に転換することは避けられない。それには当時のような外圧が必要かもしれない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48253
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