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北方四島のひとつである色丹島(「Wikipedia」より/Vitold Muratov)
北方領土返還は「ない」…米国の意向受け60年間進展なし、露側の二島返還を封殺
http://biz-journal.jp/2016/10/post_16911.html
2016.10.17 文=粟野仁雄/ジャーナリスト Business Journal
「平和条約締結後に歯舞群島と色丹島を日本に引き渡す」――。
1956年の日ソ共同宣言から60年。節目の年となる今年、12月に山口県で安倍晋三首相がロシアのプーチン大統領と会談することで、北方領土返還への期待が高まっている。返還は本当にあるのか。
メディアは盛んに特集を組む。テレビ番組『クローズアップ現代プラス 急接近!日本とロシア交渉の内幕に迫る』(NHK/9月14日放送)は「極秘文書を入手した」としていたが日本側の経済協力の内容ばかり、ロシアからの島の返還については言及されなかった。
また、9月16日放送の『プライムニュース』(BSフジ)の特集では、ゲストの袴田茂樹新潟県立大学政策研究センター教授は、返還に否定的な見方を示した。支持率が低迷していたプーチン大統領はクリミア併合で領土を拡大して「強いロシア」を打ち出し、一挙に支持が高めたため、領土を失うようなことをするはずがないとの主旨。
筆者も同感であるが、袴田氏の対談相手だった飯島勲内閣官房参与は妙に楽観的で「日本の帰属を認めた上、しばらく実効支配はロシアということも考えられる」などとし、「沖縄だって返還された」と話した。だが、米国軍が軍事基地として駐留し戦後四半世紀を経て返還された沖縄と、70年以上もロシアの一般住民が住み続ける北方領土とでは、まるで違う。島が故郷のロシア住民を追い出せば、プーチン氏は大統領の椅子から滑り落ちる可能性もある。
9日1日付朝日新聞は、北方四島のひとつである色丹島の現状を報じる特集を組んだ。よく読むと、「現地に入った朝日新聞ウラジオストク支局の助手の情報を元に」とある。助手はロシア人だろう。日本人記者は現地に入っていないと推察される。ロシア側のビザを取って島に入ると、「日本固有の領土を外国と認めることになる」と外務省から睨まれるのだ。
■マスコミの現地取材は進まず
戦後、北方領土に最初に足を踏み入れたマスコミは北海道新聞の記者である。ビザを取っていた。90年元日の新聞で「世紀の特ダネ」として報じ、同紙は外務省記者クラブの出入り禁止処分となったが、情報筋によると、実は当時外務省欧亜局のソ連課長だった東郷和彦氏が同紙の潜入に助力していたといわれている。
道新の快挙は92年に始まった「ビザなし交流」の直前である。その頃、ピースボートなども現地入りした。しかし2009年に札幌テレビ(STV)がビザで択捉島に入ると、外務省や北海道知事が抗議を申し入れ、同社は謝罪した。
以後、マスコミによる北方四島の現地取材は鳴りを潜めた。筆者は90年代初め、サハリン残留日本人の取材などで札幌のロシア領事館の副領事と親しかった。彼は「北方領土に大した秘密はありません。ロシア人はあんなに遅れた場所を、経済発展した日本人には見せたくないんです」と話していた。当時、サハリンを訪れると戦中時代のままじゃないかと思うほどインフラ整備は遅れており、「ましてや北方四島は」と思うとその言葉もうなずけた。
95年、政治家として島に初めて入ったのは鈴木宗男氏だ。その時、旧島民が墓に桜を植えようと苗を持って行ったため、ロシア側が検疫を求めた。外務省の随行員が「検疫は外国と認めることになる」と拒否したことから「なんで旧島民の想いを踏みにじるんだ」と怒った鈴木氏と言い争いになった。
■旧ソ連、一時は二島の返還を実行か
北方領土問題は「国益」の名のもと、根室市に多い旧島民まで本音を封殺されてきた歴史がある。北方四島に生まれ育ち親の墓などがあった旧島民について戦後、旧ソ連が人道的見地としてパスポート、ビザなしの墓参を認めていた。
ところが76年のミグ25戦闘機の亡命で日ソ関係が悪化しソ連がパスポートを求めたため、政府は86年に再開されるまで10年間、北方墓参を中止させた。当時でも旧島民の多くは高齢だ。「パスポートだろうがビザだろうが俺の目が黒いうちに墓参りくらいさせてくれ」の本音は封じられた。色丹や歯舞の出身者も国後、択捉の出身者に遠慮もあり二島返還を言いにくい。最近の根室取材では「国賊みたいに言われるだろうけど、島は要らんから漁業権だけ返してほしい」と吐露する旧島民二世の漁協幹部に出会った。
筆者は通信社時代、サハリン生まれで戦後シベリアに抑留されロシア女性と結婚し、旧ソ連の漁業公団職員となった佐藤宏氏(故人)から「59年12月に色丹、歯舞を視察したら、住民がほとんど引っ越していた」と直接聞き、特ダネとして配信した。旧ソ連は二島の返還を準備していた。佐藤氏の証言は目撃談だが、サハリン州公文書館に通い詰めたある学者は「ロシア住民が歯舞、色丹から引き揚げたという文書がある」と話す。
そこまで進展していたはずの北方領土問題。しかし日ソ接近を嫌う米国の意向を受けた日本政府は「四島返還が国是」として止まってしまった。二島返還論者を国賊扱いする政府は「四島返還」(90年に一括の文字を削除した)のお題目を唱え続け、何も得られなかった。その間、田中角栄氏とブレジネフ氏(73年)、橋本龍太郎氏とエリツィン氏(97年)、森喜朗氏とプーチン氏(14年)など、返還を期待させた首脳会談(森氏は会談当時は元首相)こそあれ、基本的に「成果なし」をあったかのように喧伝してきた歴史だ。
安倍内閣では「歯舞」も読めない女性大臣が北方対策担当大臣だった。政府筋やマスコミがいかに盛り上げようとも「パフォーマンス首相」には期待しない。
(文=粟野仁雄/ジャーナリスト)
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