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[税制こう変えよう]
(上)所得再分配 機能高めよ OECD事務次長 玉木林太郎氏
自民党税制調査会は2017年度の税制改正で、専業主婦を優遇する配偶者控除の見直しを柱とする所得税改革を議論する。経済成長に向け税制のどこをどう変えるべきか。専門家らに聞く。
――欧州各国では1990年代後半から00年代にかけて所得税改革が進みました。
「80年代から90年代半ばごろまでは、所得税は課税ベースを広げて所得が高いほど税負担が上がる累進の税率を平らにするフラット化が主流だった。英国のサッチャー元首相や米国のレーガン元大統領の取り組みが有名だ。だが、高失業率と所得格差拡大で90年代末から欧州各国は所得再分配を強める改革に切り替えた」
狭い課税ベース
――日本の置かれた状況はどうですか。
「94年改正でフラット化に大きく踏み込んだ。その後は所得税の大きな改正がなく、欧州で起きた税制改革の潮流に後れを取っている。日本は社会保険料の負担が重い一方、料率は所得に関係なく一定だ。所得税も高所得者ほど税の軽減効果が高い所得控除方式を採用している。この結果、低所得者ほど税と社会保険料の負担率が高まっている。配偶者控除も含め、所得税改革に今すぐ取りかかるべきだ」
――具体的にどのような改革が必要ですか。
「日本は給与所得控除や公的年金等控除などの所得控除が大きいため課税ベースが狭すぎる。課税対象は個人所得の半分以下にすぎない。配偶者控除は女性が就労調整する原因となるため社会進出の妨げといわれているが、それだけでなく所得控除のため高所得者の恩恵が相対的に大きい」
「オランダの01年税制改革が参考になる。所得控除から、年収に関係なく同じ税額を控除する税額控除方式に切り替える大改革をした。貧困層が多い若年層に手をさしのべる狙いだ。日本も様々な所得控除の仕組みを税額控除に切り替えることで課税ベースを広げながら、所得再分配の機能を高める必要がある」
――なぜ所得再分配が成長に必要なのですか。
「経済協力開発機構(OECD)が14年に所得格差と経済成長の関係について調査した。所得格差を示す『ジニ係数』が上昇すると成長率が下がり、国民の能力開発に非常に大きなマイナス要因として働くという結果だった。所得格差は教育を受ける機会が偏る教育格差につながり、格差固定をもたらす。日本の相対的貧困率はOECDの中でも上から6番目と高い」
環境税も検討を
――日本では世代間の格差も広がっています。
「世代間の公平という点でいえば、年金受給者に手厚い控除を与えている公的年金等控除も見直しが必要だ。高齢者が少なく働くことも想定していなかった60年代の制度設計のままだ。ドイツは日本の公的年金等控除にあたる制度を無くすべく検討を進めている」
――税制全体で日本に必要なことは何ですか。
「環境先進国を目指しているのに二酸化炭素(CO2)の排出量などに課す環境税を導入していない。産業構造を変えるための税制であり、導入を真剣に考えるべきだ。90年代にスウェーデンが導入し各国に広がっている。日本のガソリンへの課税額はOECDの中で低い水準だ」
たまき・りんたろう 76年(昭51年)旧大蔵省へ。財務官を経て、11年8月から経済協力開発機構(OECD)事務次長。OECDで主に税制・金融・財政分野を総括し、各国の制度を分析、提言をまとめている。62歳。
[日経新聞9月14日朝刊P.5]
(中)若年層、税額控除で活力 日本総研副理事長(スウェーデン経済の専門家) 湯元健治氏
――スウェーデンの税制は経済成長にも寄与していると評価されています。
「所得税の地方税は特徴的だ。日本は一律10%だが、スウェーデンは自治体によって28〜34%まで幅がある。日本は社会保障財源は消費税としているが、個別の自治体が地方税でまかなう。住民が社会保障を充実してほしいと言えば、税率を1%単位で上げる。受益と負担の関係が明確だ」
「日本は社会保障などの行政サービスがほぼ全国一律で画一的だが、スウェーデンは課税自主権を地方に移し、国税分は国防や外交など国が本来やるべき行政サービスに充てている」
所得控除を多用
――国の所得税はどうですか。
「日本は社会保障制度を通じて格差を是正しているが、高齢者に恩恵が偏って若者が割を食っている。所得税は税率の高い高所得者ほど税軽減の効果が大きい所得控除を多用している。配偶者控除は年収1千万円を超えるような高所得者の専業主婦ほど税負担が軽くなる。(基礎控除と給与所得控除で課税されない)『103万円の壁』があるといわれるが、家計が厳しい主婦は103万円に関係なく働いている」
「若年層の非正規雇用が増えて結婚対象となる男性の年収が減った結果、非婚化が進んでいる。働く機会ができるだけ平等に与えられ、努力に応じて稼げるようになって初めて少子高齢化を跳ね返せる経済の活力が生まれる。そういう税制改革ができるかが試金石だ。基礎控除や扶養控除、公的年金等控除などに用いている所得控除を税額控除に切り替えるべきだ」
技能磨く誘因に
――所得再配分だけでは経済成長に限界があります。
「全ての低所得者に配るのではなく、働いて能力を高め、さらに稼ぐという誘因をつくらないといけない。英国では子どもの数と働いている時間によって税額控除の額が変動する。スウェーデンでは低所得者への税額控除は一定時間働き、さらに技能を磨こうとする人に適用するのが前提だ。やる気さえあれば大学や大学院、職業訓練所に誰でも国費で通える。年功序列はなく転職しないと年収も上がらない」
「スウェーデンでは同一労働同一賃金の概念が1970年代に確立していた。2000年代には男性と女性が育児休業を半分ずつとると税額控除を上乗せするインセンティブ税制も導入した。就労を促して国民に税金を払ってもらうために国は様々な支援を講じる。配偶者控除見直しは一歩だが、それだけでは改革の理想型とはいえない」
――労働、社会保障政策などとのポリシーミックスがカギを握ります。
「格差是正といって金を使うだけでは財政が持たない。スウェーデンではしっかり働かない人は社会保障の恩恵にあずかれない。例えば失業保険は失職後1年近くたつとどんどん減っていく。職業安定所から仕事を紹介されて、3回断ると失業保険は停止する」
「生活保護や手厚い子育て支援を受けた女性にも働いてもらう代わりに、非正規も正規も同じ賃金を払う。社会保障や働き方改革を同時に実行して初めてスウェーデンのような経済活力が生まれる」
ゆもと・けんじ 80年(昭55年)住友銀行へ。日本総合研究所に移り、07年に内閣府で経済財政分析担当の審議官。税制や社会保障などの分野を研究。北欧の制度に精通し、主著に「スウェーデン・パラドックス」。59歳。
[日経新聞9月15日朝刊P.]
[税制こう変えよう]
(下)法人税、課税ベース広く ゴールドマン・サックス証券 キャシー・松井氏
立地優位性劣る
――投資家の立場から税制のどこを見直すべきだと思いますか。
「法人税率がここ数年、低下傾向にあることは評価している。ただようやく競争相手の国々と比べられる領域に入った段階で、まだ十分とは言えない。政府は対日直接投資を促しているが、今の税率ではまだ企業立地の優位性で見劣りする。地方ごとに法人課税の税率に優遇措置を設けて競争を促すといったことも検討してよいと思う」
「アベノミクスが始まって企業部門が保有するキャッシュは増えたが、家計部門などにはまだ十分に流れていない。企業の余剰キャッシュが賃金や設備投資に回れば経済の好循環は実現できる。コーポレートガバナンス(企業統治)を巡って株主から改革圧力が増していることは投資家として心強い。韓国が導入している内部留保課税を日本も導入するのか、という問い合わせが投資家から多く寄せられている」
――所得税改革の議論をどうみていますか。
「税負担は公平なほうがいい。配偶者控除など昔の制度を維持した結果、税制の中で非効率な部分が多く残っている。税は人間の行動にインセンティブ(誘因)を与えるもので、ゼロから見直せば経済活動にも大きな影響を及ぼすことができる。働けるのに働いていない人にどのように労働のインセンティブを与えるかに期待している」
「国内総生産(GDP)を左右するのは資本、人材、生産性の3つだ。資本、生産性が一定で労働投入が減れば潜在成長率はどんどん下がる。配偶者控除の廃止などで女性の社会進出を後押しすれば所得が増え、消費が刺激される」
適切な課税を
――税の非効率さというのは具体的にどこですか。
「日本は他の先進国に比べ、経済規模に対する税収の割合が小さい。妥当な水準がどこかは分からないが、課税ベースが狭いという点は個人的に以前から問題に感じていた。最近になって税と社会保障の共通番号(マイナンバー)が導入されたが、納税者番号がなかったことは先進国では例外的で、海外の人に話すと99.9%驚かれる。一方、日本には約9億もの銀行口座がある。マイナンバーの導入で今まで本当に適切に課税できていたかどうかが徐々に分かってくるのではないか」
「法人課税では、国内企業の7割が法人税を払っておらず、先進国の中で極端に高い割合だ。政治的な難しさはあるが、課税ベースのあり方を真剣に見直すべきだ」
――課税ベース見直しは反発も大きそうです。
「税金を払っていない人や企業が払うことになり、目先は当然ネガティブな影響が出る。ただ、中長期的に課税の公平性を高めることが国としてはより重要だ」
「海外の投資家が必ず問い合わせてくるのが日本の財政赤字の問題だ。日本はGDP比でみた負債が他国より圧倒的に多い。財政再建に魔法のような解決策はなく、税収を増やすか歳出を切るしかない。課税ベースを広げつつ、将来的にマイナンバーで個人の所得の水準などがある程度分かれば、社会保障、医療などの歳出をより効率的にできるようになるだろう」
1994(平6)年、ゴールドマン・サックス証券入社。2015年から同社副会長を務め現在、アジア部門を統括。女性が経済を盛り上げる「ウーマノミクス」の概念を広めたことで知られ、女性の就労環境向上を訴えている。51歳。
飛田臨太郎、杉本耕太郎が担当しました。
[日経新聞9月16日朝刊P.5]
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