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NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』番組サイトより
朝ドラ『とと姉ちゃん』を、本家「暮しの手帖」が痛烈批判! 花森安治の反権力精神を描かないのは冒涜だ
http://lite-ra.com/2016/09/post-2566.html
2016.09.17. 『とと姉ちゃん』を「暮しの手帖」が批判 リテラ
10月1日で最終回を控えるNHK連続ドラマ『とと姉ちゃん』。スタートから毎週連続して視聴率20%以上をキープする快進撃が続いているが、ここに来て「ドラマと事実とはあまりに違う」という批判が噴出している。
ドラマのモデルとなった当の「暮しの手帖」(暮しの手帖社)からも、『とと姉ちゃん』についてこんな声明が出された。
<現在ドラマでは、あるメーカーと『あなたの暮し』が対立関係として描かれています。自社製品の評価が低いことに激怒したメーカーの社長から、常子たちは数々の嫌がらせを受けます。
一方、実際の商品テストでは、大手メーカーはテストの結果を前向きに捉え、性能の改善へ繫げることが多かったそうです。こうしたメーカーの努力の甲斐もあり、メイドインジャパンの製品の質は次第に向上していきました>(暮しの手帖社facebookより)
ドラマで大きなモチーフとなっている「商品試験」について、「実際の商品テストでは」とその差異を強調したのだ。
また「暮しの手帖」現編集長・澤田康彦氏も、ネットサイト「enter trainmento staion」インタビューで
<大前提として、あれは事実を元にしたフィクションです。古くからの『暮しの手帖』の読者からは『全然違う、指摘しないの』という声をいただくこともあります>
と、「暮しの手帖」編集部にもドラマについて苦情が届いていることを明かしている。
そして最も痛烈だったのが「週刊朝日」(朝日新聞出版社)9月23日号に掲載された「暮しの手帖」元編集者小榑雅章氏(78)からの“告発”だ。
小榑氏は名物編集長だった花森安治氏に18年間師授した愛弟子でもあるが、ドラマと事実の相違点についていくつもの具体例を示し異議を唱えている。例えば花森氏をモチーフした唐沢寿明演じる花山伊佐次と高畑充希演じる小橋常子のモデル大橋鎮子氏の関係は「花森さんの指示のもと、走り回っていた編集部の一人」であり、実際の花森氏はスカートなど履いたことはなく、また「商品テスト」での企業の嫌がらせもなかった――などだ。
確かにこれらの指摘は関係者にとっては重要なものだろう。とはいえドラマはあくまでフィクションであり、史実とドラマの設定や展開が多少違うことは珍しい話ではない。だがドラマにはフィクションとしても看過できない根本的な欠落、問題があった。それが戦争責任と公害という2つの問題だ。
小榑氏は、公害問題についてこう語っている。
「あの時代は公害問題が出てきて、人々の生活が脅かされていました。『暮らしの手帖』では、食品色素の危険性も指摘しました。当時は、食品にいろんな色素が入っており、それが体に害がある恐れがあるにもかわらず、国は黙認していました。編集部でアイスキャンディーを何百本も検査した結果、4本に1本の割合で大腸菌が検出されたこともありました。食品公害という言葉を作ったのは『暮しの手帖』なのです」(前出「週刊朝日」より)
しかしドラマでは食品公害については一切触れられることはなかったのだ。
そして、それ以上に小榑氏が譲れないと憤るのが、花森氏の戦争責任についてだ。
確かに花森氏は日中戦争で徴兵され旧満州で従軍し、除隊の後は大政翼賛会実践宣伝局に勤務し、“進め!一億火の玉だ!”などの戦意高揚のポスター制作に携わった。そのためドラマではその戦争責任を反省して「暮しの手帖」を創刊したことになっているが、小榑氏によれば実際の花森氏の思いは別のものだったという。
「僕は自分に戦争責任があるとは思っていない。だからこそ、暮らしの手帖を始めたのだ。(略)なぜあんな戦争が起こったのか、だれが起こしたのか。その根本の総括を抜きにして、僕を血祭りにあげてそれでお終いというのでは、肝心の問題が霧散無償してしまうではないか」
ドラマのようにわかりやすい“戦争責任”というストーリーではなく、その根本を問う。そして「お国のために」と騙されたことで「国とはなんだ」を問い続けたという花森。そして、その答えこそ「庶民の生活」だった。
「庶民が集まって、国がある。国があって庶民があるのではない。(略)国にも企業にも騙されない、しっかりと見極める人々を増やして行く、それが暮しの手帖の使命だ」
花森はあくまで庶民の立場に立ち、国家や企業と闘った反権力ジャーナリストだった。
ところがドラマではこうした視点は一切ない。こうした数々の問題について小榑氏はNHKの担当者に「“わかりやすいストーリー”でやるのであれば、『協力できない』」と伝え、一部設定が変更されたこともあったが、その後は出版指導としてドラマテロップに連ねていた自身の名前を途中から抜いてしまったほどだ。
そう考えると花森のスカート装着問題や、常子と花山の関係、商品テストの反響など細かい差異を関係者や「暮しの手帖」古参読者が指摘する背景には、花森の本質というべき“反権力”という根本的思想が描かれていないことへのフラストレーション、批判が内在していたといえる。
その証拠に『とと姉ちゃん』でプロデューサーを務める落合将氏が「Yahoo!個人」インタビューで「暮らしの手帖」を“モデル”ではなくあくまで“モチーフ”にしたとしてこんな発言をしている。
<――花山のモチーフになった花森安治さんに忠実に描いてしまうと彼の思想的なことが入らざるを得なくなりますよね。
落合 そこは正直、微妙です。花森さんはわりと反権力的な方で、政治や政府にも一家言があったとされている。そこを朝ドラでストレートにやるにはなかなかハードルがある>
ドラマにしておきながら「花森安治の思想は正直、微妙」って……。だったらなぜモチーフにしたのかと問いたくなるが、要するにそもそもNHKは花森の反権力というジャーナリストとしての思想を描くつもりなど毛頭なかったのだ。
こうした経緯を踏まえた上で小榑氏が指摘するのが花森、そして「暮しの手帖」のジャーナリズムとしての姿勢だ。
小榑氏は「権力の番人」というジャーナリズムの基本について“中立はない”としてこう断言している。
「当時、『暮しの手帖』には中立というものがなかった。庶民の立場に立って、こうなってはいけないと思うから発言する。『ジャーナリストは命がけなんだ』『牢獄に入ってもよい覚悟があるか』と花森さんによく言われました」
“ジャーナリズムに中立などない”。確かにこの小榑氏はあまりに重要な指摘だ。
とくに安倍政権発足以来、公平性や中立といった言葉を権力が恣意的に解釈することにより、日本のメディア、ジャーナリズムはそれに屈し、萎縮や自粛を繰り返してきた。
たとえば14年に『NEWS23』(TBS系)内で安倍晋三首相はアベノミクスに懐疑的な声をあげる街頭インタビューを「意見を意図的に選んでいる」と批判し、その直後には衆議院解散にあわせて自民党から各テレビ局に公正・中立報道を求める文書を送りつけてきた。その後も『報道ステーション』(テレビ朝日)のアベノミクスに関する放送への注意文書送付。15年2月から3月にかけては『報道ステーション』古賀茂明氏の「I am not Abe」発言に対する圧力問題もあった。また今年2月には高市早苗総務相が「政治的に公平ではない放送をするなら電波を停止する」と言及する言論弾圧事件も起こっている。
これらは全て“権力批判は公正・中立ではない”という権力からの不当な圧力だった。そしてここで利用されたのが放送法第1条の「不偏不党」と4条「政治的公平」との文言だ。
しかし放送法とは本来、放送局を取り締まる法律ではない。表現の自由や民主主義の実現のために定められたもので、むしろ政府などの公権力が放送に圧力をかけないように定めた法律だ。さらに言えば公正・中立を判断するのは、権力ではなく視聴者や国民だ。
ところが現在の日本メディアは、こうした正論さえも封印し、なんら対抗手段も講じないまま、その軍門に落ちてしまっている。
こうしたメディア状況に対し小榑氏はさらに鋭く切り込んでいる。
「今のメディアは『〜ではなかろうか』とか、『○○先生はこういう』とか、談話でしか言わないわけでしょ。こうした中立的な報道は、事実を報道しないことに等しい。例えば今の時代、われわれは本気でもう一度、戦争する覚悟があるのか、兵隊になってもいいのか。そこまで突き詰めていかないといけないのですが、そこがいい加減だからいけない。誰のために、何がしたいのか、徹底的に突き詰めて考える。今のジャーナリズムにはその気概がない」
そもそもジャーナリズムの役割は権力のチェックであり、政治家の腐敗や暴走を暴くことだ。そこに公権力からの介入など本来あってはならないし、権力報道、ジャーナリズムに公平中立などあり得ない。
しかし「暮しの手帖」のジャーナリズムの心髄をNHKがドラマで表現するなどと期待するほうが間違っていたのかもしれない。なにしろNHK会長は最高権力者である安倍首相のお友だちであり「政府が右といえば右」といったトンデモ人物であり、さらに岩田明子記者や島田解説委員らは他メデイアの幹部たちと同じく監視の対象であるはずの安倍首相と会食を繰り返し、閣僚スキャンダルを黙殺するなど露骨に安倍政権寄りの政治報道を展開し“安倍サマのNHK”と揶揄されているほどなのだから。
それにしても、ドラマのなかですら権力批判を描くことがタブー化するとは、この国の言論状況はいよいよ末期状態だ。
(伊勢崎馨)
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