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ロシア極東ウラジオストクで日露首脳会談に臨み、握手を交わす安倍晋三首相(中央左)とロシアのウラジーミル・プーチン大統領(2016年9月2日撮影)〔AFPBB News〕
動き出す日ロ経済協力、領土は安倍の胆力次第 「プーチンはロシアの田中角栄」と認識すべし
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47887
2016.9.16 高濱 賛 JBpress
日ロ関係が何やら動き出した。
9月2日にロシア極東のウラジオストクで行われた安倍晋三首相とウラジーミル・プーチン大統領の会談。それを受けて11月にペルーで行われるアジア太平洋経済両力会議(SPEC)の際の再会談、そして12月のプーチン大統領の訪日(安倍首相の地元山口県長門での会談)と矢継ぎ早に行われる予定だ。
今年6月に安倍首相とウラジミール・プーチン大統領との間で合意した「新たなアプローチ」、つまり安倍首相が提案した「経済協力8項目プラン」で、領土交渉も経済協力もやりましょう、というアプローチを年内に具現化しようというわけだ。
「経済協力8項目プラン」とは、5月の安倍・プーチン会談で安倍首相が打ち出したプランだ。これをロシアが受け入れ合意した。
日本がロシアの石油・ガスなどエネルギー生産能力拡充、産業の多角化・生産性向上、ベンチャー企業支援、先端技術協力などの面で協力。
ロシアはこれに対して、極東地域の産業振興のために港湾・水産加工施設や空港整備をする、ひいては日本企業のロシア極東への進出が促進される、というわけだ。
領土問題がなければ、隣国同士の取り決めとしてはごく当たり前の話だ。
だが、安倍首相の思惑は――。
<北方領土問題と日ロ経済協力の関連性を極力薄めて、極東ロシアの資源開発・通商で日ロが協力関係を強化する。その一方で領土問題解決の糸口を探る。国後、択捉の日本への帰属をロシア側に認めさせ、その延長線上に日ロ平和条約締結への道筋を作る>
一方のプーチン大統領の思惑は――。
<ロ日は歴史的な突破口を開くチャンスだ。ロ日平和条約も大事だが、その前提になっていた領土問題を日本が取りあえず脇に置いてというのであれば、ロ日済協力は領土交渉とは切り離して、独立した作業としてやろうじゃないか。領土と経済協力を切り離すというのが、安倍の言う『新しいアプローチ』の哲学だとわれわれは理解している>
■米国は最初から領土問題解決には懐疑的
ところで、日ロにとって気になる米国は日ロの急接近をどう見ているのだろうか。対ロ疑心暗鬼に陥っている米国が同盟国・日本と何かやらかそうとしている点では内心穏やかでないことは確かだ。
クリミア併合やウクライナ危機で「力による現状変更」を強硬に推し進めるロシア。米国とロシアは今や冷戦終結後、最悪の関係にある。
米国はロシアが「法の支配」という普遍の価値観を変えようとしていると反発、米主導でG7による対ロ金融制裁を強めている。特に15年間、政権の座について強力なリーダーシップを確立しているプーチン大統領への警戒心には並々ならぬものがある。
その米国は、対アジア重視政策を推進してきた。狙いは対中包囲網の構築にあるのだが、返す刀でロシアのアジア進出ににらみを利かす意図がある。米主要シンクタンクのアジア専門家はこう指摘している。
「そこで最重要なのが、同盟国・日本の存在だ。確かに同盟国だからと言って日米の国益がすべて合致するわけではない。その最たるものが領土問題だ。日本にとっての北方領土帰属問題は主権に絡む外交事案だが、『力による現状変更』を露骨に進めるロシアと日本が無条件で経済協力することには米国は強い警戒心を抱いている」
米国の本音について、元米国務省高官の1人はこう解説している。
「米政府が国務省報道官発言で明確にしたのは2点、1つはロシアによるクリミア併合に対する米政府の基本的スタンス、つまり国際法を無視した現状変更は許せないという立場には変わらない」
「2つ目は、日本が北方領土問題でロシアと2国間で話し合うことについては米国としては何ら問題はない(being comfortable)と考えているという点」
「ただ、領土問題で言えば、たとえロシアが交渉に乗るふりを見せても直ちに解決策が出てくるわけはないし、安倍の真意を疑う者が少なくない。現に日本国民の70%は領土問題解決に懐疑的だ。安倍・プーチン会談で領土問題の解決策を見い出せると考えている者は、米国務省内にはまずいない」
■米国民の対ロ感情は真っ二つ
日ロ関係はちょっと脇に置いて、米国人はロシアについてどう思っているのだろう。
ギャラップ調査(8年3月3日)によれば、米国人が最も好感を持っているベスト5は、カナダ、英国、ドイツ、日本、イスラエル。最も嫌いなベスト5はイラン、北朝鮮、パレスチナ、イラク、アフガニスタン。好感度と非好感度が拮抗している国がロシア(好感度48%、非好感度46%)と中国(同42%、55%)だ。
ロシアは冷戦終結後、民主化の道を歩み、1998年には先進主要国会議(G8)にも仲間入りたにもかかわらず(2014年除名)、現在は国内では言論・人権弾圧、国外ではクリミア併合など「力による現状変更」政策が半分の米国人の目には「好ましからざる国家」と映っている。
その一方で芸術文化を通じたロシア民族への憧れもある。
ロシア研究の権威、ステファン・コーヘン・プリンストン大学名誉教授はそうした米国人の対ロシア観についてこう指摘している。
「ひとえにプーチンを悪の権化(Demonized)のように書き立てた米メディアの影響を受けて彼は悪者になってしまった。発端はプーチンのウクライナ介入だった。米メディアはウクライナの歴史文化も知らないまま、民主化という言葉を金科玉条にしてウクライナ内戦を報道した」
「ウクライナに住むものは地域によって親欧派と親ロ派〈東南部)とに分裂している。民主化から間もないために親欧派は選挙で選んだ大統領をクーデターで追い出した。プーチンはその大統領を守ろうとした。ところが米メディアはこれを反民主的と見た」
「プーチンは過去15年の間に国内外の事案でロシアにとっては多くの業績を残した。これに対してその間米大統領だったビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマの外交は散々だった。米メディアのアンチ・プーチン報道はその反動になっている」
コーヘン名誉教授に近いことを言っているのは、ドナルド・トランプ共和党大統領候補なのは、極めて興味深い。
トランプ氏は「今のロシアの政治システムでプーチンは我が国の今の大統領よりもずっとリーダー然としている。IS(イスラム国)を打ちのめすにはプーチンと同盟関係を結ぶのが役立つ」とプーチンを持ち上げている。
■モスクワ駐在6年の米記者の「裸のプーチン」
ここで紹介する「The New Tsar: The Rise and Reign of Vladimir Putin」(新ロシア皇帝:ウラジミール・プーチンの栄達と統治)は、その意味では「素顔のプーチン」を米読者に紹介する最初の本と言えるかもしれない。
もっとも筆者は、ニューヨーク・タイムズのモスクワ支局長として6年間滞在、激動のロシア情勢をつぶさに見、報道してきたベテラン記者、スティーブン・マイサーズ氏。
ある意味では「ネガティブなプーチン」像を拡散してきた張本人だ。
筆者は、プーチン大統領がレニングラード(現在サンクトペテルブルグ)の機械技師として鉄道車両工場に働く父とロシア正教教徒の母親との末っ子に生まれ、やがて燃えるような愛国心を抱いて、激動のロシア社会の中でのし上がっていくサクセスストーリーを膨大な史料とインタビューとで描いている。
6年間のモスクワ生活も伊達には過ごしていない。
■プーチン哲学の原点は「2つの出来事」
「新ロシア皇帝」の政治哲学を形成する発端は2つの出来事だった。
1つは、ティーンエージャーの時に見た映画「盾と刀」だった。第2次大戦中、ドイツ軍を相手に諜報活動を続けるソ連国家保安委員会(KGB)諜報部員たちの活躍を描いたものだった。
その映画を見終えてウラジーミル少年は大きくなったら絶対にKGB諜報部員になって祖国のために役立ちたいと固く誓った。少年にとってはまさにロシア版ジェームス・ボンドだった。
事実、14歳時、彼はレニングラードのKGB支部を訪ねてどうすれば諜報部員になれるか、問いただしている。その後レニングラード大学法学部を出ると、迷うことなくKGBに就職する。
もう1つの出来事は、KGB部員として1985年、東ドイツのドレスデンに派遣され、90年まで諜報活動を行っていたときに起った。89年11月9日、ベルリンの壁が崩壊した。その報道は世界中を駆け巡った。
ドレスデンのKGB支部ビルには東ドイツ市民が続々と詰めかけ、包囲し始めた。暴徒化した市民にKGB機密文書を押収されことを案じた彼は、玄関前に立って、「この建物の中にはソ連軍兵士たちが待機している。入ると射殺されるぞ」と流暢なドイツ語で叫んだ。
ソ連軍兵士などはいなかった。モスクワの本部に兵士の派遣を要請する電話を入れたが、応答はなかった。「Moscow is silence」(モスクワは沈黙するだけだった)。
その時、彼は思った。「ロシアにはイヴァン4世(異称「雷帝」=Ivan the Terrible)やスターリンのような強い指導者が必要だ」。
筆者は「プーチンはおそらくその強い指導者に自分がなるんだという強い信念をこのとき固めたに違いない」と記している。
■「義理と人情」に篤い「ロシア型田中角栄」
KGB時代に培った情報収集能力と分析力はその後、地方自治、中央政官界でのし上がるプーチン氏にとっては大いに役立った。
筆者はプーチン大統領の政治手法についてこんな指摘をしている。
「プーチンが我々に与える威圧感は単なるポーズなのか、あるいは本当の脅威なのか。その政治手法は迷路のように入り組んだロシア独特の複雑なスタイル(Complexities of Byzantine governing style)にある」
プーチンは、最初に仕えたレニングラード市長のアナトリ―・サブチャーク、ロシア大統領府総務局長のパーヴエル・ボロジン、大統領のボリス・エリツィンらとの人脈を作っていく。
絆は日本流に言えば、「義理と人情」。世話になった人たちには、その時々の役得を利用した特権・便宜供与で恩を返していく。
米シンクタンクに籍を置いている日本人のロシア研究者の1人はこう言い切る。
「米国の研究者とも話しているのだが、プーチンは出自なども含め、その人心掌握術や上昇志向努力にはかっての田中角栄総理大臣を彷彿させるところがある」
本書には、こんなエピソードが書かれている。
恩義を感じていた上司のエリツィン大統領がマネーロンダリング疑惑で政敵の子分だった検事総長に追及されたことがある。当時大統領府第1副長官だったプーチンはこの検事総長の女性スキャンダルを暴いて、マスコミを動かして失脚させ、エリツィン追い落としクーデターを未然に防いだ。
プーチンはこれで、エリツィンから絶大なる信頼を勝ち得た。その後第1副首相、首相、そして大統領代行、大統領へとばく進する出世街道を可能にした陰にはエリツィンの強力な後押しがあったとされる。
それに応えるかのようにプーチンが大統領代行になって最初に署名したのは大統領経験者およびその一族に不逮捕・不起訴特権を与える大統領令だった。脛に傷あるエリツィンの引退後の生活を保障することを念頭に入れた措置だったことは十分想像できる。
その一方で、自分に盾突くものは容赦しなかった。
かってエリツィン政権と癒着し、国有財産を私物化していた新興財閥「オリガルヒ」に対しては財政再建の名目でその脱税・横領などで逮捕。傘下にあったメディアを廃刊に追いやった。
プーチン政権を批判する人物が次々と不審な死を遂げたのもこの頃だった。欧米ではプーチンの強権主義に批判が強まっていた。
筆者はモスクワ特派員だった頃、プーチン大統領が外国人ジャーナリストを集めた席でこう言うのを書き留めている。
「ロシアはまだ遅れた国だ。ロシア人は君たちのお国で皆が民主主義を謳歌するようにはいかない。我々ロシア人が民主主義を楽しめるようになるにはまだ時間がかかる」
プーチンの側近は、ロシア民主主義を「管理された民主主義」(Managed Democracy)だと説明したという。その言い分はまさに中国の習近平国家主席が言っている「中国式民主主義」と相通じるものだ。
筆者はプーチン大統領についてこうも指摘する。
「国の歴史や地理はリーダーである個人が作り上げるという。その意味ではプーチンのようなリーダーは21世紀のヨーロッパにはいない」
「ポーカーフェイスで何を考えているか分からないような爬虫類的な風貌。その時々に手に入れている地位・ポストの役得を巧みに使い、身贔屓と縁者贔屓が織りなす複雑なシステムを作り上げる。それを自らの政治的目標に達成のために機能させる」
■ロシア経済を底上げすれば、北方領土は返すのか
日ロの「経済協力8項目のプラン」ではエネルギーだけでなく、医療や都市インフラ、中小企業、ロシア極東地域の振興に日本が協力することでロシア経済の底上げを手伝うということになる。
そのことが日本が主張してきた北方領土帰属にどう結びつくのか。ウリュカエフ経済発展相はインタビューでこう言っている。
「経済は基礎だ。経済が信頼を作り出す。経済の基礎の上に信頼が築かれれば政治的なリーダーは、よく考えた決断をすることができる。経済は経済以上の意味、人道的な意味も、また2国間関係の意味も持つ」
「政治的なリーダー」とはプーチン大統領のことだろう。その彼が「よく考えた決断」をするということ、とは何か。それが北方領土の日本への帰属を保障するものなのか、どうか。首脳同士の主導で行われる交渉ごとだけに霧に包まれた部分だらけだ。
「新ロシア皇帝」との取引を決断した安倍首相には、まさに田中角栄宰相なみのコンピューター的計算力と決断力が不可欠なことは言うまでもない。
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