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ポスト安倍睨む石破茂氏 「政策論争を避けるのは無責任」 注目の人 直撃インタビュー
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/189465
2016年9月12日 日刊ゲンダイ
言うべきことは言わないといけない(C)日刊ゲンダイ
8月の内閣改造で地方創生相を退任、政権に距離を置いた石破茂氏。「ポスト安倍」を睨んで、力を蓄えるとみられている。最近は総裁任期の延長論に異論を唱えるなど、徐々に踏み込んだ発言が増えてきた。直撃したら、「国民のための政策論争ならば大いに行うべき、避けるべきではない」と、強い決意だった。
――閣外に出て1カ月。見える景色や自身の意識に変化はありましたか。
今は自由民主党総務という役職なんです。総務会の副会長は経験ありますが、平場で物を言える普通の総務は議員30年で初めて。総務会は自民党独特の組織で、最高意思決定機関です。そこで意見を言えるのはいいなあ、と思っています。
――地方創生相を退任する直前の会見で「自民党は多様な意見があることが大事。そのために自分がすべきことは何かという思いはある」と発言されました。実際、今の自民党は多様な意見がなく、一色に見えます。
自民党は特定の勢力ではなく、幅広い国民を代表しているので、多様な意見を反映した党であるべきだと思います。もし、今の自民党本部において、あまり議論が展開されないとすれば、それは健全なことではありません。「この道しかない。逆らうやつは手討ちだぞ」って、そんな感じなんでしょうか。もちろん、政権の足を引っ張るとか、政策の邪魔をするということではない。むしろ政策を国民にご理解いただくためにも、言うべきことは言わないといけないと思っています。
――多様な意見があるのが自民党の良き伝統だったはずです。
かつての三角大福中(三木・田中・大平・福田・中曽根)は派閥の闘争ではあったけれど、みな総理になって立派な業績を残された。安竹宮(安倍・竹下・宮沢)も権力闘争はあったけれど、政策論争が中心でした。国民は党内抗争は嫌うけれど、政策を戦わせることは決して嫌わない。国家国民のための議論を避けるのは、むしろ国民に対する責任を果たしていないことになります。
――どうして意見が出にくくなってしまったのか。
私は小選挙区論者です。党の公約と違うことを言ってはいけないという選挙制度にしたかったので、その意味では小選挙区制度は今でも正しかったと思っています。一方で、小泉純一郎先生などは、小選挙区になると執行部の力が強くなりすぎると懸念しておられた。公認権も選挙応援のサジ加減もポストも執行部が握れば、イエスマンばかりになる、と。それも正しかったと言えるのかもしれません。
■小泉さんは敵対する人も登用した
――小選挙区制の弊害ですか。党に逆らえば公認もポストも与えない。まさに今そんな感じです。
だけど、そうとも限らないと思うんです。例えば、私の初入閣は当選5回時の防衛庁長官で、小泉内閣でした。入閣要請の電話を受けた際は本当に驚きました。というのも、先ほどの選挙制度でもそうですが、私は小泉さんとは常に敵対する立場だったからです。小泉VS橋本の総裁選では「小泉さんのような人を総理にしてはいけない」と言っていたほどですから。つまり小泉さんは、自分に逆らおうが何だろうが関係なくポストを決めた。当時、有事法制や自衛隊のイラク派遣の可能性もあったので、「石破だ」ということだったそうです。今度の(安倍内閣の)人事でも、適材適所を相当考えられたんじゃないでしょうか。信賞必罰だ、参院選で勝てなかった選挙区の人は大臣から外すということで、遠藤五輪担当相(山形)が退任した、などと言う人もいましたが、本当のところはわかりません。でもそうではないと信じています。
小池・若狭両氏にシンパシ―(C)日刊ゲンダイ
「次」を考えることは国民に対する責任
――自民党が多様性を取り戻すためにも、石破さんは「ポスト安倍」を目指すのですね。
一度でいいから大臣になれればと思っていましたから、10回当選し、閣僚を6年、党役員を4年もやったのは正直できすぎです。だからむしろ総理など考えるな、分をわきまえろ、という思いもあります。しかし、未来永劫続く政権はない。任期延長はともかくとして、いつかは次がくる。当選期数を重ね、ましてや政策集団の長として名乗りを上げた者が「次」を考えることは、国民に対する責任でしょう。そのために自分なりに納得のできる政策を、スローガンではなく、法律までセットにしてまずは自民党の有権者に問いたいと思っています。
――政権構想ですね。政策といえば、例えば経済。アベノミクスはいまだ道半ばなのでしょうか?
大胆な金融緩和は、やはり安倍さんでなければできなかったと思います。金融緩和を行い、日銀が国債を大量に買えば、民間金融機関にお金はたくさん流れます。円の発行が増えれば、円安に誘導されます。その作用として株も上がった。だけどこれは、いつまでも続けられるものではない。大胆な金融緩和や機動的な財政出動は、経済の失速を回避する猶予期間をつくるためだった。今後、金融機関に積み上がったお金をどうやって設備投資に回すのか、老後資金が不安だと思っている人たちの金融資産をどのように消費に回すのか。猶予期間のうちに、具体的な解を出し続けていかなければならないでしょうね。私は、潜在的な成長力があるのは地方だと思っています。
――しかし、安倍政権では地方創生が、1億総活躍になり、いまは働き方改革です。地方創生はどこへ行ってしまったのでしょう。
地方創生は引き続き重要な課題です。1億総活躍も、働き方改革も、いわば地方創生の延長線上にある政策の具体化ですから。幹事長の時、安倍さんに「最重要政策の地方創生をあなたに任せたい」と言われ、大臣をお引き受けした。ところが、1年経ったら、1億総活躍だと言う。「何なんだ、これは」と正直思いましたよ。でも、地方版総合戦略を真面目につくった自治体がたくさんある中で、後戻りしないところまではやりたいと、もう1年続けさせていただきました。それはそれで意味があったと思っています。
――地方の潜在力ってどんなことでしょう。
地方特有の農業、漁業、林業、サービス業を含む観光業にはまだまだ成長の伸びしろがあると思います。大臣だった2年間で、目いっぱい、地方を回りました。それでも全国1718市町村のうち250くらいしか行けませんでしたが、「こんな知らない町があった」「こんなに人が来ているんだ」という発見がたくさんありました。
■小池都知事は「ねえさん」
――ところで、自民党都連と戦って当選した小池都知事について、どうご覧になっていますか。
彼女はあらゆる意味において天才的です。兵庫から東京に選挙区を替えて、刺客として殴り込むなんて、普通の人にはできませんよ。国会議員歴は私の方が長いのですが、彼女は5つ年上なので「ねえさん」って呼んでいます。自民党が野党に転落した際、私が政調会長で彼女は総務会長だった。その後、私が予算委員会の筆頭理事、彼女が次席理事になり、「今月はどの大臣の首を取ろうか」って相談しながら、民主党政権に対峙してきた。つらいことを一緒にやったという同志意識がありますね。
――自民党としては小池都知事とどう向き合うべきなのか。
都民の圧倒的な支持を受け当選したのです。自民党はそれに寄り添わないといけない。迎合するという意味ではありませんよ。小池さんは自民党の政権奪還に貢献した功労者です。好き嫌いは個人の勝手だけど、正当に評価されていい。
――小池さんを応援した若狭議員については? 衆院東京10区の補欠選挙に出馬することを表明しました。
若狭さんは同じグループ(石破派)ですけど、非常にクリアな人です。法律的な思考もでき、特捜部の検事でしたから正義感も強い。何より、変に永田町に染まっていないので、国民の感覚に近い。そもそも都民に圧倒的に支持された小池さんを応援したことが反党行為なのでしょうか。たとえそうだとしても、6日に二階幹事長が「厳重注意」したことでけじめはついたのではないでしょうか。補選に出れば、若狭さんは当選の可能性が高い。私は自民党公認にしたらいいのではないかと思います。
(聞き手=本紙・小塚かおる)
▽いしば・しげる 1957年生まれ。鳥取県出身。慶大法卒。79年三井銀行(現三井住友銀行)入行。86年衆院選で全国最年少(28歳)初当選。防衛相、農相、政調会長、幹事長など要職を歴任。8月の内閣改造で地方創生相を退任した。鳥取1区選出。当選10回。水月会(石破派)会長。
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