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9月8日(木) ドイツの経験は何を教えているか
http://igajin.blog.so-net.ne.jp/2016-09-08
ドイツでは基本法を60回も改正しています。だから、一回も改正していない日本は異常だという意見があります。
しかし、このドイツの憲法改正は、私の言う「改憲」であって、「壊憲」ではありません。9月6日のブログ「民進党の代表選挙と憲法問題への対応をどう見るか」で紹介したように、「基本法79条は、人間の尊厳の不可侵、民主的な法治国家、国民主権、州による連邦主義などに触れることは許されていない、と規定」されていますから、これらを破壊する「壊憲」は許されないからです。
日本国憲法には、このような形で明確に「壊憲」を禁ずる条項はありません。しかし、前文や各条項を通じて国民主権、平和主義、基本的人権の尊重などの原則が定められています。
これが、一般に「憲法の三大原理」として知られているものです。憲法の条文を書き換えることは許されるが、ドイツ基本法79条の規定と同様、このような原理に「触れることは許されていない」と言うべきでしょう。
これが改憲に当たっての基本的な立場であり、国政に携わる者すべてが共有しなければならない原則にほかなりません。したがって、憲法審査会をはじめとした今後の憲法論議の前提として「憲法の三大原理に触れることは許されない」という原則を確認し、与野党間で申し合わせるべきでしょう。
このように、ドイツでは60回も改正されている基本法ですが、その原理に反する改正は行われていません。すなわち、「壊憲」は一度もないということになります。
しかし、そのドイツであっても、それに近いことが行われたことがあり、その過ちは今も大きな傷跡としてドイツの人々を苦しめています。このドイツが犯した過ちとそれがもたらした負の教訓を、日本の私たちもしっかりと学ぶ必要があるように思います。
というのは、ドイツでは基本法で軍の出動は北大西洋条約機構(NATO)同盟国の「防衛」などに限られると規定され、NATO域外では活動できないと解釈されてきたにもかかわらず、その解釈を変えて中東地域に出動させてしまったからです。これはドイツの人々にとって、痛恨の過ちでした。
このような解釈変更の契機となったのは、1991年の湾岸戦争でした。ドイツが派兵しないことに、米国から強い批判が噴出したのです。
自衛隊を派遣しなかったために、「一国平和主義ではないのか」という批判を浴びた日本と同様の事態が生まれたわけです。しかも、ナチスによるユダヤ人の虐殺という負の歴史を持つドイツは、「イスラエルに対する特別な責任がある」としてイスラエル周辺地域への出兵を決め、反戦平和から出発した野党の90年連合・緑の党でさえ「派遣の成功が中東和平プロセスを前進させる」として賛成に回りました。
このようななかで1994年、基本法の番人であったはずのドイツ憲法裁判所は連邦議会の事前承認を条件に域外派兵を認めてしまいました。その2年後の99年にドイツ軍はユーゴスラビア空爆に参加し、NATOや欧州連合(EU)、国連の活動範囲内で十数カ国に派兵を積み重ね、特にアフガニスタンでは2002年から国際治安支援部隊(ISAF)に毎年4000〜5000人を派兵しました。
長年、集団的自衛権の行使を認めていなかったにもかかわらず過去の最高判決を持ち出して解釈を変え、内閣法制局のお墨付けをもらって閣議決定を行い、安保法を制定して海外派兵を可能にしてしまった安倍内閣と、うり二つでありませんか。「平和の党」の看板を掲げていた公明党が「部分的なら」ということで容認に回ってしまったところもそっくりです。
ドイツでも戦闘行為への参加には世論の反発が強かったと言います。そのため、当時のシュレーダー政権は米軍などの後方支援のほか、治安維持と復興支援を目的とするISAFに参加を限定しました。
しかし、現地では戦闘の前線と後方の区別があいまいで、独国際政治安全保障研究所のマルクス・カイム国際安全保障部長は「ドイツ兵の多くは後方支援部隊にいながら死亡した。戦闘現場と後方支援の現場を分けられるとい考え方は、幻想だ」と指摘しています。ISAFに加わった元独軍上級曹長のペーター・ヘメレさんは「平和貢献のつもりだったが、私が立っていたのは戦場でした」と話しており、この時点で兵士55人が死亡、わかっているだけでPTSD(心的外傷後ストレス障害)の患者が431人となるなどの深刻な結果をもたらしていました。
これがドイツの経験であり、これから日本が向かおうとしている未来の姿です。ドイツではすでに実行され、多くの犠牲者が出てしまいました。
日本ではこれからですから、今ならまだ間に合います。このようなおぞましい未来を招き寄せてもよいのか、そのような間違いを繰り返すための「壊憲」を許してもよいのかが、いま私たちに問われています。
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