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大過失を除去しない判断はより大きな大過失ー(植草一秀氏)
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30th Aug 2016 市村 悦延 · @hellotomhanks
東京都知事に就任した小池百合子氏が築地市場の豊洲への移転を延期する方針を固めたと報じられている。
築地市場の移転は11月7日に予定されていたが、土壌および水質汚染の問題、
新市場の施設構造の不具合が指摘されており、問題を抱えたまま、
移転が強行されるのかどうかが焦点となっていた。
見切り発車での移転強行を避けたことは正しい選択であり、この点は評価できる。
しかし、一時的に時期を先延ばしするだけで、本質的な問題を解決しないのなら意味はない。
単なるガス抜きになってしまう。
大きな問題が三つある。
第一の根本問題が土壌汚染問題だ。
豊洲市場が使用する土地の大半は東京ガスのガス製造工場があった場所で、
土壌が汚染されているという問題が表面化したのは20年近くも前のことだ。
ガス工場の跡地であり、
もともと発がん性の指摘されるベンゼンなどの有害物質が存在するとの疑念が強かった。
1998年の土壌調査開始以降、規制基準値を上回る有害物質の存在が確認されてきた。
その後、東京都が移転を正式決定したあと、土壌対策が完了したとされてきたが、
再調査が実施されると、再び規制基準をはるかに上回る汚染が確認されてきた。
ベンゼンやシアン化合物だけでなく、ヒ素、水銀、六価クロム、カドミウムなどの極めて危険な物質が
規制基準値を上回る濃度で存在することが確認されてきた。
市民が直接摂取する食品を取り扱う市場の地下に、
このような有害物質が存在することが許されるわけがない。
第二の問題は、新市場の建屋構造が市場の機能を完全に損なう恐れが高いことだ。
とりわけ問題視されているのが輸送用車両から物資を搬出入する間口が狭く設計されていることだ。
より多くの車両を搬入させるためにトラック後部と搬出入口を接する設計になっているが、
通常はトラックの側面を開口して搬出入を行う。搬出入に伴う時間を節約するためである。
生鮮魚介類を扱う市場であるから、時間短縮が生命線になるが、この本質を見落とした設計は致命的である。
また、各フロアの床の荷重限度が低く設計されており、物資の取扱いが不可能になることだ。
フォークリフトが行き交うフロアであるため、十分な荷重強度が必要であるが、これも確保されていない。
第三の問題は、仲卸業者を中心とする魚食文化の知識と、人的ネットワークが破壊されることである。
豊洲移転問題について建築の専門家として批判している『マンガ建築考』の森山高至氏が
ブログでこの問題の詳細を精力的に記述されている。
築地市場の豊洲移転が不可能な理由N
http://ameblo.jp/mori-arch-econo/entry-12189744690.html
このシリーズ記事の12回目に次の記述がある。
http://ameblo.jp/mori-arch-econo/entry-12185531559.html
「日本の食文化を支えているのは、仲卸さんを中心とする魚食文化の知識と、人的ネットワークなんです!
だから、漁業生産者も卸会社も仲卸業者もスーパーや小売り、割烹、居酒屋、飲食店、最終消費者は
仲違いしてはいけません。
豊洲の問題で互いが喧嘩してはいけません。
このネットワークの循環が切れたときに、日本の食文化は死にます。
それを断ち切り続けてきたのが、
たかが数年前に見識も品性も低い一部の政治家と一部議員と不動産屋と建築屋による豊洲計画なんです。」
新市場の店舗が用いる水は、海から汲み上げて濾過した海水である。
その海水が汚染されているとすれば、市民の健康に重大な影響が生じることは疑いようがない。
また、卸売棟と仲卸売棟とは道路で隔てられており、
両者は地下の通路=アンダーパスで接続されているが、その構造があまりにも脆弱なのである。
東京の首都高速道路は1964年の東京五輪に合わせて整備されたものだが、
放射状に広がる片側2車線の道路がすべて合流する中央の環状線が片側2車線で建設された。
これが恒常的な大渋滞の元凶になることは、小学生でも分かる問題だった。
ところが、その建設を強行したために、その後の回収のコストは膨大なものになった。
長い視野で、十分に検討を加えて、万全を期して設計、建設、竣工する。
当たり前のことができないのだ。
場当たり的な対応で見切り発車せず、根本的な対応を考えるべきだ。
目先の計算で進むことが、結局はより大きな損失を生み出すのである。
この問題について、政治戦略・戦術の視点から移転強行を主張する元地方自治体首長がいるが、
これこそまさに本末転倒の発想、思考回路である。
政治家の行動の基本は、
「主権者への奉仕」
であって、
「自分自身の政治的成果の獲得」
ではない。
「主権者にとって何がベストであるのか」
を判断、行動の基準に置くべきであって、
「自分自身の利益にとって何がベストであるのか」
を基軸に置く考え方は根本的に間違っている。
豊洲移転問題は、そもそも出発点に於ける誤りが原点にある。
そもそも深刻な土壌汚染が存在する場所に生鮮食料品の市場を移転することに、判断の誤りがあった。
土壌対策で解決可能な問題と、土壌汚染で解決不能な問題がある。
福島第一原発の跡地に魚市場を建設する構想が浮かび上がったとして、
それを推進するのか、断念するのかを判断する必要がある。
さすがに、現在の状況で、魚市場建設を推進するべしとする者はいないだろうが、
豊洲問題の原点はこの部分にある。
豊洲用地の場合、汚染は土壌にとどまらず地下水にまで達しており、
除去した場所に汚染地下水が流れ込み再汚染されてしまう。
巨額の土壌対策を講じてきたにもかかわらず、問題が解消しないのは、
危険物質の塊である土壌そのものを除去しない限り問題解決が不可能であることを意味している。
その見極めこそ何よりも大事なことであった。
もう一つの問題は、構造上の問題だ。
築地市場を閉鎖して、新たに新市場を建設するのなら、
すべての問題を根本的に解決するベストなものを構築するべきであることは当然だ。
米国のハイウェイ建設は1920年代に基本が整備されたものであるが、
モータリゼーションの将来を見据えた壮大な計画と設計の下に建設されたものである。
この長期の視点と未来を見誤らない判断が重要なのだ。
日本の道路に比べて米国のハイウェイははるかに安価な造りであり、簡素なものだが、
基本設計の確かさは日本を寄せ付けない。
五輪競技場にしても、当初計画から予算が激しく膨張してきたが、
全体像をしっかりと描けない人々がこのような大事業を担当することの恐ろしさを示す事例である。
ものごとで一番大事なのは、最初の設計である。
最初の設計すら確かなものであるなら、その後の修正は微小なものにとどまる。
ところが、最初の設計が不安定、不確かなものであれば、
その上にいかに膨大な費用を投じたところで価値あるものは建造されない。
まさに砂上の楼閣になる。
豊洲の場合は、有害物質の上の欠陥構造物である。
しかしながら、ひとたび移転を強行すれば、引き返すことはできなくなる。
代用施設が存在しなければ、それをそのまま使うしかなくなるのだ。
半年間、時間を置けばよいという類の問題ではない。
築地市場を最低5年間は代用できるよう、築地市場利用継続の抜本策を打つのが先決である。
築地の老朽化は深刻であり、移転を前提に更新投資さえ行われていない。
そのための弊害が顕在化してくるだろう。
豊洲の問題解決には時間と費用がかかる。
その再精査を早急に行ない、豊洲断念を含めた判断を早急に得る必要がある。
相当の長期間、築地を継続使用する必要があるから、築地利用継続の財政措置を早急に策定するべきだ。
壮大な無駄が発生しているが、その無駄があるからということを理由に、移転を強行すれば、
より大きなつけが将来に回る。
ここは、
「急がば回れ」
である。
豊洲の問題は弥縫策で対応できる次元の問題ではない。
その判断を誤りなくできるのかどうか。
それが新知事に求められる最大の責務である。
東京五輪は、経費を圧縮することに全精力を注ぐ。
同時に、東京招致返上についても早急に適切判断することが求められるが、
この対応よりも、豊洲問題の方が扱いは困難である。
しかし、困難だから目をつぶって問題を握りつぶすというのは、
政治家として、「自己の利益」のために「主権者の利益」を踏みにじるというものである。
豊洲問題については、ゼロベースで、白紙撤回を含めた判断を示さなければならない。
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