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安倍首相が憲法改正論議で狙う「民進党の分裂」
http://diamond.jp/articles/-/100257
2016年8月30日 上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長] ダイヤモンド・オンライン
リオデジャネイロ・オリンピック閉会式のリオから東京への引継ぎセレモニーで、安倍晋三首相が任天堂のゲームキャラクター・スーパーマリオになって登場した。この型破りな演出には国内外で賛否両論が出たが、少なくとも「日本の顔は安倍首相」であり、「東京五輪を仕切るのは安倍首相」という強烈なアピールが含まれていたのは言うまでもない。首相は、2018年9月に満了となる自民党総裁の任期延長を完全に視野に入れているのだ(本連載第138回・p4 http://diamond.jp/articles/-/98279?page=4)。
■国民は、安倍首相が憲法改正を進めることを理解した上で改憲勢力に3分の2の議席を与えた
7月10日に投開票された参院選で、改憲を目指す勢力が衆参両院で3分の2の議席を占めた。これは、戦後70年の日本政治において、自民党一党支配下で「万年野党」が最低限の目標としていたものが、初めて崩れたことを意味する。その意味で、「野党共闘は一定の成果を上げた」とどんなに強弁しようとも、野党が戦後最悪の大惨敗を喫したことは明らかだ(第136回http://diamond.jp/articles/-/95843)。
また、野党は「安倍首相は、憲法改正を参院選の争点にしていなかった」とも強弁している。だから、改憲を進めることには民主的な正統性がないというのだ。確かに、首相は選挙中に「改正する条文が定まっていない」などと述べて、街頭演説で憲法改正に触れず、争点化を明らかに避けていた。
しかし野党は、安倍首相が2013年7月の参院選と2014年12月の衆院戦後で、いずれも安全保障政策などを「争点隠し」しながら、選挙後に「白紙委任」を得たかのように推進したことを厳しく批判していた(第64回http://diamond.jp/articles/-/39118、第96回http://diamond.jp/articles/-/63830)。選挙戦ではしつこく「安倍首相は選挙後、憲法改正を推進する」と訴えていたのだ。
だから、国民が「選挙後に憲法改正が政治課題として浮上する」ということを知らずに投票したなどということはありえない。むしろ国民は、そのことをよく理解した上で、安倍政権を国政選挙で4連勝させた。国民が、憲法改正の国民投票発議が可能となる衆参両院3分の2の議席を与えたのだ。野党は、この厳然たる事実を受け入れるべきである。
■改憲勢力は「同床異夢」 9条改正を目指すのは自民党だけ
しかし、改憲勢力が3分の2を占めたからといって、現実的には、憲法改正の発議はすぐには始まらないだろう。なぜなら、改憲勢力の主張は、実はバラバラだからだ。自民党は、野党時代の2012年4月に「日本国憲法改正草案」(PDFhttps://jimin.ncss.nifty.com/pdf/pamphlet/kenpou_qa.pdf)を発表している。その中心が、「憲法9条改正」であることはいうまでもない。しかし、日本維新の会は一院制、道州制などを中心とする統治機構改革・地方分権、そして教育の機会均等のための改憲を主張しているが、9条改正には慎重な構えを見せている(第69回http://diamond.jp/articles/-/42967)。
また、連立与党内でも、公明党が9条改正に慎重な姿勢を崩していない。公明党は「加憲」の立場をとっている。「加憲」とは、平和憲法の原則を守りながら、時代の進展に伴い、憲法制定当時に制定していなかった事態が生じて、それに対処する必要が生じる時に、新しい考え方・価値観を憲法に加えるという考え方だ。
要するに、改憲派といっても「同床異夢」で、安倍首相がやりたい「9条改正」については、発議に必要な3分の2にはるかに及ばないのが現実なのだ。それでも、首相は改憲について「わが党の案をベースにしながら、衆参両院の3分の2を構築していく。それがまさに政治の技術だ」と意欲を示している。首相の言う「政治の技術」とはなんであろうか。
■安倍首相は改憲で一枚岩でない民進党の分裂を狙う
具体的には、民進党の中に手を突っ込んで、分裂を狙うことである。民進党内部が、改憲に関して決して一枚岩でないことは、よく知られていることだ。民主党政権期に外交や安全保障問題で、「普天間基地移設問題」(前連載第50回http://diamond.jp/articles/-/8284)「尖閣諸島沖の日本領海に侵入した中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突事故」(前連載第59回http://diamond.jp/articles/-/9609)など、非常に難しい判断を迫られる政治課題に直面した経験を持っている議員がいるのだ。安保法制11法案すべてを「違憲」だと考えていない議員も少なくない。なにより「旧維新の党」は安保法制の国会審議の際、 「集団的自衛権の限定的行使容認」自体には賛成だった。つまり「違憲」ではないと考えていたのだ(第111回http://diamond.jp/articles/-/75457)。
安保法制の攻防で、安倍首相の対応に怒り狂って対立姿勢を強めてしまい、共産党との「野党共闘」に走ったので忘れられてしまっているが、民進党には保守的な思想信条を持つ議員が少なくないということだ。
9月に行われる民進党代表選では、「野党共闘の基本的な枠組みを維持する」という、岡田克也代表が敷いた路線を大枠で踏襲すると表明している蓮舫代表代行が幅広く支持を集めている。党内主流派は、蓮舫氏の「無投票当選」を目指していた。しかし、前原誠司元外相が、代表選出馬を正式に表明した。
前原元外相は、野党共闘について「次は政権選択の選挙であり、内政や外交、安全保障などの考えの違うところと組むのは野合だ」と述べて、否定的な考えを示した。そして、改憲について、党内議論の結論に従う考えを示す一方で、「9条そのものが立憲主義の観点に立てば、最も不安定な条文だ」と述べている。
また、党内には政界再編を志向し、何度も政党を分裂させてきた「壊し屋」江田憲司氏がグループを形成している(第119回http://diamond.jp/articles/-/82070)。彼らは代表選では、蓮舫氏と前原氏を両天秤にかけて、キャスティングボートを握る狙いだといわれる。だが、基本的に保守派であり、蓮舫氏有利とされる代表選の結果によっては、民進党を「壊し」にかかる可能性を否定できない。
安倍首相が、民進党の保守派に近づいて分断を狙いつつ、「民進党の保守派を加えれば、9条改正が可能だ」と公明党、日本維新の会を牽制することは十分考えられるシナリオだ。今後、憲法調査会を舞台に、様々な条項の改正について幅広く議論されることになるだろう。安倍首相は、一挙に9条改正を狙うのではなく、しばらくは「政治的駆け引き」をしながら、9条改正の可能性を探る展開になるだろう。
■首相は「総裁任期延長」のために金融財政政策を徹底的に行う
憲法改正を「政局」を見ながらゆっくりと進めていくとなると、時間がかかる。安倍首相の自民党総裁任期満了である2018年9月までの改憲は、事実上困難になるということだ。つまり、悲願である9条改正まで首相自らの手で行うとなると、「総裁任期延長」が必要となる。
しかし、国論を二分している改憲を理由に総裁任期を延長できる状況にはない。「東京五輪は安倍首相で」という機運を作るしかない。それには、経済状況をなにがなんでも維持する必要があるだろう。
安倍首相は、「この道しかない」と、アベノミクスを更に進めていくことを明言している。事業規模28兆円超の経済対策を決定し、2016年度に2.4兆円の発行を予定している40年債を数千億円上積みし、それを日銀が市場を通じて買い入れる検討を始めている。政府・日銀が一体となって金融・財政政策を徹底的に行うという強い姿勢を示している。
一方で、「痛みを伴う」成長戦略は、本気で取り組んだら国民に不人気となる懸念がある。加藤勝信働き方改革担当・一億総活躍担当相や世耕弘成経産相によって、支持率が下がりそうになったらタイミングよく国民に受ける政治課題を出していく、単なる「支持率調整」のための「やったふり」に留まるだろう(第138回http://diamond.jp/articles/-/98279)。
■野党は「義務よりも人権」を自民党への対立軸として打ち出すべき
これから始まる憲法改正をめぐる攻防で、野党はどう行動すべきであろうか。民進党は、共産党と組む「野党共闘」を継続して、「万年野党」らしく改憲に反対するだけの「護憲」の姿勢を貫く、受け身な姿勢でいいのだろうか。
現在、民進党内で主流派の「左派」と共産党、社民党は、安倍政権との対決姿勢を貫くために「護憲」に拘っている。その結果、驚くべきことに「新しい人権」などを憲法に付け加える「加憲」にも反対している。
とにかく、憲法のすべての条文を一文字も変えさせない「護憲」の立場を守るために、「新しい人権」については、現行憲法の条文解釈で問題ないと主張しているのである。つまり、人権については「解釈改憲」でいいということなのだ。これは、「9条については解釈改憲を認めない」という立場と、完全に論理矛盾を起こしてしまっている。
日本は、人種差別撤廃委員会、女性差別撤廃委員会、子どもの権利委員会、障がい者権利委員会、移住労働者の権利委員会などの国連人権機関や国際労働機関(ILO)などから、さまざまな是正勧告を受けている。
(1)公共の福祉による人権制限があいまいかつ恣意的な基準でなされている(人権制限のための国際人権法上のルールを明確に法制化するよう勧告されている)、(2)刑事司法での無罪推定の徹底、(3)死刑制度の存在、(4)行刑施設の閉鎖性、(5)日本軍「慰安婦」問題、(6)外国人・在日・部落・先住民族への差別、(7)女性差別・性的マイノリティ差別、などが、国際社会で問題視されてきた。
日本では、人権保障のための明確な政策方針が存在せず、被差別当事者の声が反映されるための制度が設定されていない。そして、「差別禁止法」がないため、差別事例に対して行政的・司法的な救済ができなくなっていると、厳しく批判されているのが現状だ。
日本の基本的人権保障の状況は、自由民主主義の先進国としては恥ずかしいレベルにあるといえる。政治はもっと積極的に対応すべきである。関連の法律を整備するだけでは十分ではない。憲法改正で人権条項を充実させる必要があるのではないだろうか。
野党が、憲法改正で人権条項を充実させることを訴えるならば、自民党との間に大きな対立軸を打ち立てることになる。自民党の「憲法改正草案」は、基本的人権の保障よりも、国民の義務を重視しているからだ。
例えば、憲法改正草案第12条では、国民に保障する自由及び権利は、「国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」としている。また、第99条3項では、「緊急事態の宣言が発せられた場合には、国民は、国や地方自治体等が発する国民を保護するための指示に従わなければならない」ことを規定しているのだ(「【自民党憲法改正草案】見やすい対照表で現憲法との違いが分かる!」http://tcoj.blog.fc2.com/blog-entry-114.html)。
憲法改正草案の「人権よりも義務」という方向性には、「現行憲法は国民の義務規定が基本的人権の規定よりも少なすぎる」という自民党の主張が色濃く反映されている。しかし、これに対しては、そもそも、憲法とは「権力を縛るもの」であり、権力者に対して「国民のこうした人権は必ず守りなさい」という指示書であるべきだ、という反論が可能である(吉田利宏「元法制局キャリアが教える! 法律を読むセンスの磨き方・伸ばし方」第7回http://diamond.jp/articles/-/59523)。
他の自由民主主義国家においても、国民の基本的人権の保障の確立が優先されており、その上で国民に対する義務規定がある、という順番であることを忘れてはならない。国際人権機関からさまざまな勧告を受けている通り、日本は基本的人権の確立が不十分である。まずは、義務規定の充実よりも基本的人権の保障の確立が先に行われるべきである。
野党が憲法改正をめぐる攻防において、「義務よりも人権の確立が先だ」という自民党への対立軸を示すならば、有効な政権獲得戦略となるのではないだろうか。そして、「新しい人権」の加憲は、野党が絶対に阻止すべき軍拡路線の「歯止め」ともなるのだ。仮に、将来自民党が徴兵制の導入などを検討しようとする時が来ても、既に加憲で人権条項を増やしてガチガチに固めてしまっていれば、人権制限の条項を入れるハードルは非常に高くなる。それは「9条改正」のハードルを上げることにもつながるはずだ。
一方、自民党の憲法改正法案にも「新しい人権」の条項はある。自民党にとって新しい人権の加憲が、「9条改正」への改憲の実績作りになると考えられているからだ。それでも野党は、加憲から逃げるべきではない。加憲が9条改正のステップとなるのか、それを防ぐものになるのかは、政治の闘いなのである。「万年野党」に甘んじることなく、再び政権を目指そうとするなら、この闘いから逃げるべきではないだろう。
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