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天皇陛下の「お気持ち」は改憲への防波堤となるか〜大きく外れた安倍政権の目算 注目のフレーズとともに徹底解説
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49436
2016年08月13日(土) 歳川 隆雄「ニュースの深層」 現代ビジネス
■計算されたタイミング
8月8日にビデオメッセージを通じて発表された天皇陛下の「お気持ち」への国民の理解度は驚異的な数字を示した――。
『日本経済新聞』の世論調査(8月9〜11日実施)によると、現行皇室典範では認められていない天皇の生前退位を「認めるべきだ」との回答が何と89%に達した。
同紙(12日付朝刊)本記は、「生前退位を認めるべきだとの回答は、年代別、性別、職業別、支持政党別などでみて、あらゆる層で9割前後に上り、全国民的に満遍なく支持をえているといえる」と報じている。
極論とされるかもしれないが、天皇陛下の「お気持ち」は今、まさに「天の声」となったと言うべきだろう。これで安倍晋三政権は、実現の時期はともかく、皇室典範を抜本改正するか、今上天皇一代限りの退位を認める特別立法を準備する以外に策はない。
今回の「お気持ち」表明もまた、NHKの「生前退位のご意向」スクープ共々絶妙なタイミングであった。
「ご意向」スクープは、自民、公明など改憲4党が参院3分の2を獲得した参院選直後の7月13日。一方の「お気持ち」表明は、8月15日の終戦記念日1週間前であり、さらに憲法改正を巡る国会審議が予定されている秋の臨時国会召集を指呼に控えたタイミング。
筆者を含め政治ジャーナリズムに身を置く者は、こうした時宜を得たメッセージ発信の背景には必ず“政治判断”が働いたに違いないと深読みする癖がある。では、あったとすればどのような“政治判断”が働いたのか。
お断りしておくが、筆者は「国政に関する権能を有しない」天皇陛下が憲法に抵触するような「ご意向」を側近に発露した、あるいは「お気持ち」を国民に表明したのではないかと言いたいのではない。
まず指摘すべきは、今後の憲法改正論議は与野党が一致して衆参院憲法審査会で深めるべきだとの安倍首相言明通りに進まない可能性が出てきたことである。なぜならば、「お気持ち」には明らかに天皇の生前退位の強いご意向が盛られているからだ。
■女性・女系天皇という選択
憲法改正の是非をめぐる国会論議よりも生前退位のご意向を叶えるための皇室典範改正、特別立法制定を優先すべきではないか、という国民の判断に従わなければならなくなる。
安倍官邸は、とりわけ安倍首相ご本人は今回の「お気持ち」表明の内容に驚愕したはずだ。看過できないのは、当該の最終記述にある以下の件である。少し長くなるが引用する。
「これからも皇室がどのような時にも国民と共にあり、相たずさえてこの国の未来を築いていけるよう、そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ、ここに私の気持ちをお話しいたしました」
このフレーズにある意図は明白だ。天皇、皇后両陛下が共に女性・女系天皇の即位容認と女性宮家創設を強く求めておられるということである。
小泉純一郎政権下の2005年1月に発足した首相の私的諮問機関「皇室典範に関する有識者会議」(メンバーは佐々木毅元東大総長ら10人)が女性・女系天皇の即位容認の報告書を提出したが、当時官房副長官だった安倍首相を筆頭に自民党内保守派を中心に反対論が捲き起こった。その後、秋篠宮ご夫婦に長男・悠仁さまの誕生で議論は事実上、立ち消えとなった経緯がある。
今回は天皇陛下の生前退位問題も含めて改めて女性・女系天皇と女性宮家創設の是非を、新たに設置する有識者会議が議論することになる。宮内庁が推薦メンバー・リストを作成して、最終人選は首相官邸が決める。問題が問題だけに声が懸かる各界の有識者の腰が引けるのは目に見えている。
天皇陛下の「お気持ち」実現の成否と安倍官邸が描く政治行程表が、今後2年以内に交わることはないように思われる。何故、2年なのか。平成30年の節目である。天皇陛下がそれまでに皇太子に譲位したいと望んでおられるし、安倍首相の総裁任期切れもまた2年後の9月なのだ。
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