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データで振り返る2016年東京都知事選 2016年08月04日(木)島澤 諭 (中部圏社会経済研究所チームリーダー )
圧勝した小池百合子新都知事
今般の都知事選では、自民党・公明党等の推薦を受けた増田寛也氏、民進党、共産党、社民党、生活の党の推薦を受けた鳥越俊太郎氏、自民党を割って出馬し政党の支援を受けなかった小池百合子氏ら1999年の16人を上回る戦後最多の21人が立候補した(図1)。
(出典)東京都選挙管理員会資料をもとに筆者作成
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事前の予想では、自民党が分裂選挙となる一方、野党4党が統一候補を擁立できたことで、参院選比例区での政党別得票数(自公等295万票、野党4党248万票)から、鳥越氏が有利と見られたこともあったものの、野党統一候補として告示2日前に出馬を表明した鳥越氏は、事前準備不足に加えて「憲法改正阻止」「脱原発」等、都政というよりは国政に関する持論を展開するなどしたため、選挙戦後半には次第に失速した。また、各候補者ともイメージ戦略に終始し、抽象的な課題解決を唱えるのみで、猪瀬直樹氏、舛添要一氏と2代続けて任期半ばで辞職し、「2020年東京オリンピック・パラリンピック」「待機児童」「介護」「防災」等課題が山積するにもかかわらず都政の混乱が続く都政の安定を願う都民の失望を買うなど、終わってみれば、郵政解散時の「小泉劇場」を都知事選において再現させた小池氏が2,912,628票獲得し、次点の増田氏の1,793,453票に111万票余りの大差をつけて圧勝した。
実際、主要候補3氏の市区町村別の得票率の状況を図2により見てみると、62市区町村中、小池氏が55市区町村で勝利する一方(緑色)、増田氏は7市町村(水色)、鳥越氏に至っては勝利できた市区町村はなかった。
(出典)東京都選挙管理員会資料にもとに筆者作成
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次に、市区町村別の得票率の分布を示したものが図3である。同図によると、都内ほぼ全域で小池候補の得票率が40%超(緑色+水色)となっていることが確認できる。
(出典)東京都選挙管理員会資料にもとづき筆者作成
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都知事選の投票率の推移
今回の都知事選の投票率は59.73%となり、投票日前日に東京都心では20年振りとなる大雪に見舞われた2014年2月の前回都知事選の投票率46.14%を13.59%ポイント上回る大幅な上昇となった。
戦後の都知事選の投票率の推移について図4により見てみると、1947年4月5日に行われた初の公選都長官選挙(同年5月、地方自治法施行により都知事に移行)で61.7%を記録した後、投票率は趨勢的に上昇を続け1971年4月11日の戦後7回目の選挙で72.4%となりピークを付けた。それ以降、投票率は下降を続け1987年4月12日の第11回目の選挙では最低の43.19%となった。しかし、その時を底として趨勢的に投票率は回復し現在に至っている。
(出典)東京都選挙管理委員会資料をもとに筆者作成
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投票率と高齢化との関係
次に、しばしば指摘される高齢化率が高い自治体ほど投票率が高くなるという関係が東京都知事選においても存在するのか確認してみる。そもそも、後で見るように、投票には、もし投票に行かなければ実現できたであろう選択肢(レジャーが代表的)が存在するため、そうした未実現の選択肢から得られたであろう満足度を金銭換算した金額を投票にかかる目に見えないコスト(機会費用)として考えるのが(少なくとも経済学的には)一般的である。一般的にはこの機会費用は高齢者ほど低く、また自由時間も高齢者ほど相対的に多く保有するため、投票率が若い世代よりも高くなるものと考えられる。
まず、市区町村別の投票率をみると、23区の東側と中央部、多摩地方の中央部で相対的に低くなっていることが分かる。
(出典)東京都選挙管理委員会資料をもとに筆者作成
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さらに、市区町村別の高齢化率をみると、多摩地方等で高齢化が進行していることが分かる。
(出典)東京都人口統計課資料をもとに筆者作成
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図3と図6を比べてみると、小池候補は広範な年齢層から支持を集めていたことが確認できる。
本題に戻ると、図5と図6を見比べても、投票率と高齢化率の関係がいまひとつわかりにくいので、図7では、市区町村別男女別高齢化率と市区町村別男女別投票率を同一グラフ上にプロットしたうえで、傾向線を求めてみた。
(出典)東京都選挙管理委員会、人口統計課資料をもとに筆者作成
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図7によると、今回の東京都知事選においても高齢化率が高いほど投票率が高いことが確認できる。
最大だった投票率の上昇幅
次に、過去の選挙における投票率の変化幅を見ると、これまで20回の都知事選が行われ、前回選挙より投票率が上昇したのは9回、逆に前回選挙より低下したのは10回となっている。今回の選挙を除いてこれまで上昇幅が最も大きかったのは第4回目(1959年4月23日挙行)選挙の10.5%ポイントであり、今回の上昇幅はそれを上回っており、都知事選史上最大の上昇幅を記録したことがわかる(図8)。ちなみに、これまで最も大きな下落幅を記録したのは、2014年2月9日に執行された第19回目の選挙で前回選挙からの下落幅は▲16.5%ポイントであり、先述の通り、前日に降った大雪の影響が大きい。
(出典)東京都選挙管理委員会資料をもとに筆者試算
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投票率上昇の背景
投票率は、RikerとOrdeshookの理論にしたがえば、(1)政党もしくは候補者間の差が大きければ投票への参加可能性は高くなる、(2)有権者が自分の一票の価値を重く見るほど投票への参加可能性は高くなる、(3)有権者の義務感が強いほど投票への参加可能性は高くなる、(4)投票のコストが高いほど投票への参加可能性は低くなる、(5)それぞれの項目の絶対的水準が低いほど投票への参加可能性は低くなる、ことが知られている。
それぞれを今回の選挙に当てはめて考えると、(1)主要な候補者間では争点の違いがそれほど感じられなかった、(2)投票前には多くのメディアが主要3候補者が接戦を繰り広げていることを伝えており、自分の一票で主要3候補者の当落が決まるかも知れず自分の一票の価値が高まったように感じられた、(3)有権者の投票に対する考え方は年齢により異なるが、今回は18歳選挙権が導入された後の初めての都知事選であったため、主権者教育を施され投票に関する意識が高まった18歳有権者の政治参加へのモチベーションが参議院選挙後も保たれ続けた可能性がある、(4)前回選挙ほどは天候が悪くなく天候の面では投票コストが低くなった、などの点を指摘できるだろう。
投票率は上昇したのか
前回選挙から今回の選挙では投票率は先述した通り13.59%ポイント上昇したが、投票率は、上で見た通り、様々な要因に影響される。特に、気象条件や有権者の気分など必ずしも合理的とは言えないイレギュラーな要因から強く影響を受けてしまうのも事実である。しかし、投票率に影響を与える様々な要因がこれまでに行われた選挙とあまり違いがないと想定した場合の投票率−一種の潜在的投票率−を統計学的に求めることが可能である。ここでは、今回の投票率は本当に上昇したのか、もしくはどの程度上昇したのかについて、統計学的な手法を用いることで潜在的投票率を推計することにより、(1)今回の実績値と潜在的投票率との比較、(2)前回の潜在的投票率と今回の実績値とを比較することで検証してみる。
まず、投票率に与える種々の要因が今回の選挙とこれまでの選挙とでそれほど違いがなかったら実現されるであろう潜在的投票率を統計学の手法を使って推計すると55.20%となった。次に、昨年6月の改正公職選挙法の成立により、選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられ、都知事選では今回初めて導入された18歳選挙権による投票率上昇分については、現時点では確たるデータが入手できないため、第24回参議院議員選挙とほぼ同様の2%であったと想定する。この場合、今回の都知事選で真に上昇した投票率は、実績値の59.73%から潜在的投票率の55.20%と18歳選挙権導入により上昇した投票率2%を控除した2.53%(=59.73-55.20-2)と試算される。以上の計算をもとに考えると、今回の都知事選における投票率の上昇分は2.5%程度と見かけほど投票率が上昇した訳ではないことが分かる。
次は、前回の潜在的投票率と今回の実績値との比較である。繰り返しになるが、前回の都知事選においては投票日前日に東京都心では1994年以来20年ぶりの大雪となり、大きく投票率を落ち込ませる結果となった。もし仮にこうした特殊要因が存在しなかったとしたら実現していたであろう潜在的投票率を先と同様に統計学的な手法を用いて求めると55.53%となった。これは現実の投票率46.14%より9.39%ポイント高い数値である。この前回の潜在的投票率55.53%と今回の投票率59.73%から18歳選挙権導入による上昇分2%を控除した57.73%を比べると、2.2%ポイントの上昇に過ぎず、見かけ上の投票率の上昇幅13.59%ポイントより著しく低いことが確認できる。
これは、2代続けてカネの問題で都知事が辞職するという緊急事態においても、自民党の分裂や野党共闘を除けば、知名度や国政優先で都民置き去りの候補者選び、キャッチーなフレーズの連呼のみで具体的な政策論争が深まらなかったこと、「消極的な選択肢」しか与えられなかったことなどにより、都民の新都知事への期待が高まらなかった点等を考慮すると妥当な評価と言えるだろう。
投票率を上げたければ
投票にかかるコストの削減が必要
今回の投票率は前回選挙よりポイント上昇したとおおむね好意的に報道されているが、これまで見た通り、実際には、今回の投票率の実績値と潜在的投票率との比較によっても、前回の潜在的投票率と今回の実績値との比較によっても、高々2%ポイント程度の上昇に過ぎず、一般的な理解とは異なり、実は投票率は趨勢的な変化に沿って変動していたに過ぎないことが分かった。
政治経済学的には、投票率が高ければ高いほど喜ばしいことかといえば、必ずしもそうとは言えない。例えば、投票率が高くても過大なコストを社会や個人に課しているとすれば大きな問題であるし、投票率が低くても直接投票の場合と同じ結果が得られる場合には問題ないことが知られている。そうとは言うものの、もし、政策判断的に、あるいは社会的に、投票率は高いほど良いという共通認識がある場合どのような施策を講じればよいのだろうか。先に見た投票率に影響を与える要因のうち、立候補者の違いや提示される政策の違いについては政治側の課題であり、政党や政治家の努力に期待するほかないし、有権者側での一票の価値の感じ方についてもその時々の選挙における接戦度に依存してしまうため、投票率を確実に上げる施策にはつなげにくいきらいがある。
しかし、投票にかかるコストに関しては別であり、こちらは施策により低下させることは十分可能である。特に、日本の場合、天候要因によって投票率が左右されることが、これまでの経験上、国政選挙においても都知事選挙においても多い。天候要因に関しては、実際に投票所へ足を運ばなくとも投票できる仕組みを構築すれば解決可能であり、その有力候補がネット投票システムであろう。しかし、システム構築にかかるコストなど課題も多く実現されるのはもう少し先になるかもしれない。
そこでここでは在外の日本国民(ただし、在外選挙人証保有者のみ)には認められている郵便や宅配便による投票を日本国内の有権者に認めることを提案したい。郵便等による投票を認めれば、わざわざ多額のコストを用いてまで期日前投票所を設置する必要もなくなるし、天候不順であったとしても投票所へ足を運ぶ必要もないことから、投票にかかる心理的なコストを下げることが可能となり、投票率を高める方向に働くだろう。もっとも、郵送による投票を認めることで、選挙結果の確定まで相応の日数がかかることや、投票の自由・秘密が侵害される可能性も指摘できる。
まず前者の懸念に対しては、そもそも多額のコスト(人件費)をかけてまで投票日当日中に選挙結果を確定させる必要性はあるのだろうか。後者については、投票の秘密・自由が侵害されるケースは犯罪行為であるし、現在の日本においてそうした犯罪行為が大規模に行われる可能性は極めて低く都知事選のように大規模な有権者を抱える選挙にあっては選挙結果に対して微々たる影響しか与えられないだろう。有権者の投票コストを下げるため、また今後の一層の高齢化・過疎化の進展を睨んでも、郵便等による投票の受け付けは一考に値すると思う。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7462
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