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16/07/14
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web掲示板談話 斎藤美奈子・森達也 第五十二回
件名:都知事選について
投稿者:斎藤美奈子
次は参院選のことを書こうかと思っていましたが、気持ちが収まらないので緊急投稿します。都知事選の候補者選びについてです。
野党連合の統一候補者が、本日、決まりました。もめにもめたあげく、U候補者が出馬を取り下げ、(あとから出てきた)もう一人のT候補者に一本化されました。(私にはとてもそうは思えませんが)「Tは勝てる候補者である」という理由だった。
記者会見の中継を見て、正直、統一候補になったT氏の不真面目さ(都政をまるで研究してない)にもビックリし、ガッカリもしたけれど、仮に統一候補が非の打ち所のない人物だったとしても、野党連合のやり方には強い違和感を感じます。「よかったよかった、これで勝てる」。そう思っているだろう野党の幹部にも、反自民の野党支持者にも私は深く落胆しました。
至上命令は選挙に勝つこと。そのためには、都知事職に強い意欲をもって準備してきた候補者をつぶしてもいい。そういう判断だったわけですよね。
それは「組織の勝利のためには個人は犠牲になっても仕方がない」ってことでしょ。そういうのを何というか。全体主義というのよ。「個人の自由と権利は何にもまして尊重されるべきである」というリベラリズムの思想とは百八十度逆です。
最終的に下りる決断をしたのはU氏本人だったとはいえ、そこまで彼を追い詰めたのは誰だったのか。野党の幹部と、野党支持の市民だったわけよね。
「勝てる候補者」って何? 目的は選挙戦に勝つことなの? よい都政をやってもらいたいってことが目的じゃないの?
U氏は出馬断念の会見で、選対本部へのいやがらせがひどく、スタッフの疲弊を考えると、このままでは選挙戦を戦えないという意味のことをおっしゃった。
「おまえは下りろ」という有名無形の圧力が、四方八方からかかったのでしょう。
組織の論理のためには、個人の権利は尊重されなくてもいい。「おまえじゃ勝てないから、組織の犠牲になって死ね」っていうことですよ、それ。
野党共闘への通告もなく、先に出馬したのはUのフライングだという意見もあるけど、彼はべつに野党連合の支配下にあるわけではない。なんで、自由意志で選挙に立つことを非難されなければならないのだろう。
日本の野党とその支持者は、民主主義とは真逆のことをやったんだと思う。U氏の立候補を阻止し、U氏に投票したいと考えていた有権者の権利も奪った。
で、そういうことをいうと「おまえは野党連合を分断するのか」「せっかくの統一候補に水をさすのか」「おまえは自民党支持者か」とかいわれるわけよ。
「Uさん、下りてくれてありがとう。あなたの政策はTさんが受け継ぎます」とかいってる人たちは、「英霊のみなさん、お国のために死んでくれてありがとう。あなたの遺志は私たちが引き継ぎます」といってるのと同じだってことを胸に刻んでほしいよ。
「Uさんは副知事になればいい」っていうのも、ひどいよ。「おまえは能力はあるが知名度がないので、参謀をやれ」「おまえは下りて、応援団に回れ。そうすりゃ最強だ」って、何の権限があっていえるのかな。
都知事選は戦争かよ。たかだか都知事選じゃないか。
幸い与党側の候補者だって割れてたんだしさ。あそこはすっきり「四人の候補者でフェアプレーで戦おう」と提案するのがリベラルの取るべき態度じゃなかったの? 政策論争を堂々と戦わせれば、組織力のある候補2名と、ない候補2名で、おもしろい選挙戦になったかもしれない。
それを何? 千載一遇の勝てるチャンスだから、おまえは下りろ?
自民側は、K候補者の離反を止められず、正規の候補者に投票しろという圧力をかけたが、立候補までは止められなかった。しかし、野党側はどうよ。立候補それ自体を、圧力をかけてやめさせたんだよ。それで「これで勝てる、よかったよかった」とかいってるんだよ。ソビエト共産党かよ。これでは自民党のほうがマシじゃないか。
前回都知事選のときも、野党側が分裂選挙になって、あのときは私も「Uは下りたらいいのに」と思ったよ。でも、それはひどい発想だったんだって、今回わかった。前回も左派リベラル系の文化人が「下りろ」という記者会見まで開いたじゃない? あれは民主主義にもとるひどい行為だったんだって、改めて思った。
個人の権利をつぶしておいて、都知事選に勝ったところで、何もいいことはない。もうこの人たちに、自民党を攻める資格はない。「民主主義をふみにじるのか」「言論を弾圧するのか」って、もう言えないもんね。自分たちが個人の被選挙権をつぶし、彼に投票する機会を奪い、この経緯に疑問を呈する声にも「黙れ」って、民主主義をふみにじってるのはどっちなの? 自民党の改憲草案だって批判できないじゃん。憲法13条の「個人として尊重される」の文言にもとることをやったんだからさ、自分たちで。
こういう原理原則に反したツケは、必ず自分たちに跳ね返ってきて、敵に足元をすくわれ、ますます保守がはびこる土壌をつくることになると思う。
というわけで、私はもう日本の左派リベラルには何の期待もしないし、野党連合も応援しない。日本の民主主義は今日、死んだ、と思った。たいへん残念です。
斎藤美奈子
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