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外国人記者は、なぜ東京新聞を「ダントツ信頼できるメディア」に選んだのか〜独自記事の数から分析してみた
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49132
2016年07月08日(金) 牧野 洋 現代ビジネス
■外国人記者「信頼度ランキング」でダントツ首位
6月18日付の東京新聞朝刊。1面に4段見出しで「官邸前『脱原発』集会 200回に」という記事が載った。記事は次のように伝えている。
〈 脱原発を訴え首相官邸前や国会周辺で毎週金曜夕方に開かれている抗議集会が17日、200回目を迎えた。参加者はドラムを鳴らしながら『地震の国に原発要らない』『川内止めろ』『伊方原発再稼働反対』と官邸に向かって声を合わせた。 〉
官邸が発信する情報だけでなく、相対するデモや集会など市民側の動きも1面できちんと報じる姿勢はいかにも東京新聞らしい。1面題字の下に、「権力とともに」とは180度違う「読者とともに」というスローガンを掲げているのはダテではない。
だからこそ、雑誌プレジデント(7月18日号)が外国人記者の評価に基づいて「日本のマスコミ」 信頼度ランキングを実施したところ、東京新聞が断トツの首位に躍り出たのだろう。
具体的には、東京新聞は10点満点中の8.2点(米ニューヨーク・タイムズ紙の東京支局長を務めたマーティン・ファクラー氏ら3記者による平均値)。産経と朝日は5.0点で並んで2位、続いて毎日(4.3点)、日本経済(2.8点)、読売(2.3点)、NHK(0.7点)となった。評価した記者が3人と少ないのが気になるが、最下位NHKの0.7点はショッキングな数字だ。
ファクラー氏ら3記者は東京新聞のウォッチドッグジャーナリズム(権力監視型報道)を評価しているようだ。プレジデント誌上では「日本でベストの調査報道を展開している」「メディアの役割は権力側の話をオウム返しに繰り返すのではなく、それを監視し批判することであるのを理解している」「ニューヨーク・タイムズを読んでいるようなリベラルな価値観を持っている」などとコメントしている。
■「オリジナルジャーナリズム」でもトップを走る
東京新聞が高評価の要因はほかにもありそうだ。私が全国紙(読売、朝日、毎日、日経、産経)と東京新聞の6紙を選び、6月の1ヵ月間にわたって朝刊1面記事を点検してデータ化したところ、いくつかの指標で見て東京新聞がトップを走っているのだ。
例えば、6月24日公開の当コラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48990)で取り上げた「オリジナルジャーナリズム」。これは「ここでしか読めない」や「放っておいたら明らかにならない」といった基準を満たした独自報道のことで、発表モノや発生モノなどありふれてコモディティ化した「コモディティニュース」とは正反対の概念だ。
6月の各紙朝刊1面を比べたところ、記事全体に占めるオリジナルジャーナリズムの割合が最も高いのは、毎日新聞と並んで東京新聞であることが分かった(記事本数ベースで算出)。
記事「官邸前『脱原発』集会 200回に」が載った6月18日付朝刊1面を再び見てみよう。
トップ記事は「貧困の『実相』 サインなき飢餓」と題したルポだ。2千文字を超える長文記事であり、貧困家庭に無償で食料を配るフードバンクを記者が密着取材することで日本の貧困の現状を浮き彫りにした力作だ。同紙の場合、1面トップ記事がニュース記事ではなく読み物であることが少なくない。
国民生活に重要な影響を及ぼすと考えられるにもかかわらず、放っておいたら決して明らかにならないニュースを掘り起こすのはオリジナルジャーナリズム。鋭いニュース解説や衝撃的なルポもやはりオリジナルジャーナリズムだ。「貧困の『実相』」は簡単にはまねできないルポであり、東京新聞でしか読めない。
オリジナルジャーナリズムの割合で各紙を比べるとどんな違いが出てくるのか。6月の朝刊1面ベースで見ると、大きく上位グループの東京(32%)、毎日(32%)、産経(31%)、下位グループの日経(24%)、読売(22%)、朝日(21%)に区分けできる。外国人記者による信頼度ランキングと同様に、東京と産経がそろって上位なのは興味深い。
■「脱コモディティ」先駆者は米WSJ紙
ルポなど読み物が1面トップ記事を飾るスタイルは米国では珍しくない。先駆者は米経済紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)だ。すでに半世紀以上も前に「1面トップ記事はストレートニュース(速報ニュース)」という常識を否定している。
拙著『官報複合体』でも詳しく書いたように、同紙は1940年代に「過去24時間以内に起きた出来事を簡潔に伝えるだけではジャーナリズムの役割を果たしていない」と宣言。それ以降、同紙の1面トップ記事は米国流の読み物であるフィーチャー記事の指定席になった。
米メディア大手ニューズ・コーポレーションによるWSJ買収の内幕を描いた『ウォールストリート・ジャーナル陥落の内幕』をひもとくと、次のような記述がある(原書から引用)
〈 WSJの伝統に従って、朝の紙面会議に臨む編集幹部はその日の大ニュースについて議論しない。米国内はもちろん他国の新聞を見ても、WSJのような新聞はないだろう。何しろ、1面にニュース記事を載せないのだ。どんな大ニュースでも中面に回してしまう。3ページ目だ。
その日の1面に何を載せるのかは数週間前、場合によっては数ヵ月前の段階で決まっているのだ。フィーチャー記事や調査報道の大作だ。そんなことから、朝の紙面会議でその日の大ニュースについて騒々しく議論することなどない。前から用意されている出稿メニューを再確認するだけで終わりになる。 〉
言い換えると、WSJは半世紀以上も前から1面でコモディティニュースを脇に追いやり、オリジナルジャーナリズムを全面展開するようになったということだ。これによって読者からの信頼を高め、「ウォール街のゴシップ紙」から脱皮して米国を代表する一流紙になれたのである。
ただし、メディア王ルパート・マードック氏が率いるニューズ・コーポレーション傘下に入った2007年以降、WSJはフィーチャー記事の扱いを小さくするなど紙面内容を変質させている。
■「読み物」「コラム」が多いのは毎日、産経、東京
ネット時代を迎え、ストレートニュースのコモディティ化に拍車がかかっている。伝統的メディアが生き残るためにはコンテンツを差別化しなければならず、ここでカギを握るのはオリジナルジャーナリズムだ。米国ではニューヨーク・タイムズ紙が「脱コモディティニュース」の方針をはっきり打ち出している。
オリジナルジャーナリズムの一角を担うのは、ルポやキャンペーン企画、ニュース解説、論説、インタビュー記事など「読み物」「コラム」。力仕事になりがちなストレートニュースよりも文章力や専門知識が求められる。
試しに6月の主要紙1面記事のうち「読み物」「コラム」がどの程度あるかを調べたところ、毎日、産経、東京の3紙が25%前後で並び、17〜19%の日経、読売、朝日を上回った。
例えば6月30日付の産経朝刊は1面トップ記事で「中国機『前例ない接近』 空自機を正面から威嚇」と伝えている。これはストレートニュースでもないし、ルポでもない。東シナ海の軍事的緊張が海上のみならず上空でも高まっている状況について分析したニュース解説である。
もちろんオリジナルジャーナリズムに該当するのは「読み物」「コラム」だけではない。調査報道に代表されるスクープも重要だ。6月の主要紙朝刊1面を点検し、「発掘型スクープ(エンタープライズスクープ)」と「思考型スクープ(ソートスクープ)」の記事本数を調べたところ、ここでも東京と産経の2紙は際立っていた。これについてはまた別の機会で取り上げたい。
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