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後半戦に入った参議院選挙。野党の戦い方は? Photo:Rodrigo Reyes Marin/AFLO
与党に経済政策で対抗しても民進党は永遠に勝てない
http://diamond.jp/articles/-/94536
2016年7月6日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員] ダイヤモンド・オンライン
参議院選挙の選挙戦は後半戦に入った。
筆者は、残念なことに、今回、与党、野党のいずれをも積極的に応援したいとは思っていない。しかし、この選挙を通じて、より良い政策が実行されるようになる確率が高まるといいと思っている。以下の拙稿は、仮に野党側の立場を取るならという仮定で書いているが、筆者が野党側の議論と政策を全面的に支持しているわけではないことをご理解いただけると幸いだ。良い政策が実行される環境を得るためには野党側の戦略があまりに拙く、かつ野党が弱すぎる力関係は問題だと筆者は考えている。
以下、主に野党の利益の側から今回の参院選を見る。
民進党を筆頭とする野党勢力は、共産党の英断とも言える選挙共闘戦略(主に一人区で野党側の候補者を絞るために、共産党の候補者擁立を断念した)によって、「勝負になる」選挙区を増やしているようには見えるが、選挙の争点提示が成功していない。
この争点提示の失敗(と筆者が思う点)は、与党側に過剰な余裕を生んでおり、与党が政策を改善するインセンティブを失う懸念を生んでいる。
改憲に必要な勢力を確保したいと考えているらしい安倍政権側は、改憲の是非を争点とするのではなく、一般に「アベノミクス」と呼ばれている経済政策の成果を強調して「この道」を進むか否かを訴えている。
他方、野党第一党である民進党は、アベノミクスは失敗であったとして、安倍政権の経済政策面を批判しようとしているように見える。この対決の構図は、どちらに有利なのか。
■アベノミクスは順調ではないが失敗ではない
民進党の主張に耳を傾け、さらに昨今の経済情勢を見ると、「アベノミクスは上手く行っていないのではないか?」という疑問を持つ人が多くても不思議はない。
先般、英国の国民投票でEU離脱が決まった。これによって、円高と株価下落が起こり、経済が順調ではないというイメージは一層強化された。
実際、今年に入ってからの日本経済はとても順調だとは言えない。成長が鈍化し、賃金の伸びは期待外れで、かつて安倍政権が誇った株価は低迷し、アベノミクスが目指したはずの物価上昇(マイルドなインフレ)の達成が遠のいているように見える。
こうした状況を見ると、「アベノミクスは失敗した」と訴えることが野党側にとって効果的に見えるかもしれないが、筆者はそうではないと考える。
野党の側に立ったとして、なにはともあれ政権側を批判したいとする欲求を抑えて、日本経済に起こっている状況を考えてみよう。
アベノミクスの「第一の矢」である金融緩和は、結果から見てそれだけではデフレ脱却に対して不十分だった。しかし、主に円安と資産価格の上昇を通じて富裕層の経済状況を改善しただけでなく、失業率の下落やアルバイト・派遣社員などの時給改善を通じて、雇用市場にあって限界的だった貧困層の経済状況を改善した。これらだけで満足とはいえないが、無視できない成果である。有効求人倍率に端的に表れる雇用情勢の改善は、デフレ脱却のためには是非とも必要な条件だ。
一方、平均値としての実質賃金に表れる、いわゆる正社員勤労者の経済状況は改善していないのは、「第三の矢」のはずだった成長戦略が機能していないからだと言えるが、そもそも第三の矢は実現が難しい。官僚勢力その他の規制緩和に反対する力の強さもあるし、もともと生産性改善を通じた成長の原動力であるところのイノベーションは政策で計画的に起こせるような性質のものではない。
加えて言うなら、筆者の知る限り、第三の矢に関して野党勢力が有効な代替案を示したことがない。
リアリスティックに考えるなら、与野党両方に対して「成長戦略」に期待することは適切ではない。できれば規制が緩い方が良いとしても、適切なマクロ経済環境さえ提供されるなら、成長は、民間の努力と幸運によってもたらされるものなのだと考えておくことが現実的だ。
■国民の実感は「民主党政権時代よりはマシ」
現在の、景気も物価もパッとしない状況の原因は二つある。
一つ目は、中国経済の減速、ギリシャや英国の問題を含むEUの混乱と停滞、今ひとつ力強さに欠ける米国経済といった海外で起こったネガティブな変化の日本経済への悪影響だ。これらは、概ね、与党のせいでも、野党のせいでもない。
もう一つは、2014年に実施した消費増税の悪影響だ。こちらは、デフレ脱却を目指すさなかに「第二の矢」を自分に向かって逆方向に打つような愚挙であった。
こちらは、最終的には安倍政権の判断ミスだったと言えるのだが、消費増税を決めたのは愚かにも「三党合意」に絡め取られた当時の民主党政権だったし、民主党政権時代の幹部を有力ポストに残している民進党としては批判しにくい。
党派的な利害を離れて冷静に見るなら、株価はピークから見てずいぶん下がったし、物価上昇目標もまだ達成されていない。しかし、民主党政権時代の経済政策よりも、アベノミクスの路線はマシなのではないか、というのがおそらくは多くの国民の実感だろう。
安倍政権の支持率は、国民の「それにしても民主党政権はひどかった」という高下駄を履いているように思われる。民進党をはじめとする野党が、有効な対案のないままアベノミクス批判を争点化することは、有権者の民主党政権時代の失敗の記憶を呼び戻す逆効果の戦略になっているように思える。
国民の多くは経済の現状に満足していない。しかし、民進党の岡田代表が経済に言及するたびに、記憶から遠のきつつある民主党政権時代の状況を思い出すのである。総合的に、野党側にとって、アベノミクスの成否を争点とすることは、野党が与党の戦略に嵌っていると見ていい愚策だ。
例えば複数の海外要因によって円高・株安に動いた現在の状況で、金融緩和を民主党政権時代の状態まで戻そうとするなら何が起こるだろうか。おそらくは、超円高と株価・不動産価格の暴落だろうし、日本経済にはショック状態がもたらされるだろう。「危なくて、民進党に経済政策は渡せない」というのが、同党の参院選での訴えを聞いた筆者の感想だ。
民進党をはじめとする野党勢力は、金融緩和の維持ないし拡大の必要性を認めながら、民主党時代に消費増税を決めたことが「自分たちの間違いだった」ことを認めつつ、消費税率の10%への引き上げ延期に賛成するだけでなく、税率を暫定的に5%に引き下げるとでも主張すべきだろう。
デフレ脱却を確実にするためには、財政的な拡張を行いながら、円高を阻止するために金融緩和策の追加を用意しておくような組み合わせが適切だ。この点に関しては、安倍政権の言動の方により安心感がある。
加えて言うなら、民主党政権時代の残念な状況を有権者に思い起こさせる、岡田氏、枝野氏などの方々が民進党の要職にあって、選挙運動の前面に出る「顔」であることも野党側にとっていかにも不利な材料だ。
国民の心の中にある「民主党政権のトラウマ」こそが、支持率における安倍政権の最大の資産であることに野党勢力は率直に気づくべきだ。
■野党はどうしてもっと「舛添・甘利」を突かないのか
与党側は、安倍首相が本心では目指しているらしい憲法改正を、今度の参院選の争点にするつもりがない。
世論調査的に、改憲に反対がやや多いのだから、これは当然だろう。野党がこの点を訴えることに一定の有効性はあろうが、大手メディアは概ね政権側の味方なので、この点を強調しない。この点の訴えだけでは効果が乏しい。
選挙戦略として不思議なのは、野党が、舛添都知事や甘利前大臣を推したことを徹底的に批判しない点だ。米国並みの露骨なCMが可能なら、例えば安倍首相と舛添氏の顔写真を並べて、彼らはグルなのだと訴えるのが効果的だろう。
実際に、舛添氏はイメージが悪いが、前回の都知事選で自公両党は、「勝てそうな候補」として彼を推した。甘利氏に至ってはなぜ検察がもっと積極的に動かないのか、理解に苦しむ国民が多いのではないか。
経済で有効な対案を出せない野党側としては、「政治とカネ」の問題に対する批判は有効な争点だろう。日本にとって、それだけで前向きな改善をもたらすポイントではないが、それ自体が重要な問題でもある。ある意味では上品なのだが、野党側はイメージ的に使える資源を十分に使い切っていない。
■真の争点は再分配政策
マクロ経済環境の整備のために、デフレ脱却を財政再建よりも優先し、旧三本の矢で言うところの「第一の矢」(金融緩和政策)と「第二の矢」(財政拡張。消費税増税延期、補正予算)を用いるべきことについては、細かな手段の相違はあれ、与野党いずれが経済政策を決めるとしても、やるべきことに大差はない。
繰り返しになるが、野党勢力はこの点に早く気づいて、経済政策に関して是々非々で臨むべきだ。
「第三の矢」(成長戦略。規制緩和など)はアベノミクスのスタート時から必要性が強調されているが、実際に成長を伸ばすようなイノベーションは、計画してその通りに誘発できるものではない。また、既得権を持った勢力の抵抗が大きく、現実問題として急に進められるものではない。もちろん、特区の利用などを梃子とした規制緩和は進めていくべきだが、与野党どちらも「地道に進める」以外に手はないし、国政選挙の大きな争点には馴染みにくい。
野党勢力が政策を練り上げて真に訴えるべき分野は、年金や生活保護、教育費の補助などを中心とする「再分配政策」ではないだろうか。「成長」は政策によって人間がコントロールできないが、「分配」は人間が決められる。
現在、与党は、厚生年金などの公的年金を実質的に削減しつつ、確定拠出年金やNISAなどの自助努力制度を整備する方針であるように見える。これは、正しい方向の努力の一つに思えるが、改革のペースが遅いし、公的年金制度は全体として上手く行っているとは言い難い。
わが国でも経済「格差」に関心が高まっており、再分配政策の全体的な改善と適切なセーフティーネットの設計に対する必要性は大きい。ここは野党の知恵の絞りどころである。
他方、与党側には、マイナンバーを活用した給付付き税額控除(負の所得税)を推進するなど、再分配政策の合理的改善を図る道筋があるように思える。分配政策でも遅れを取るなら、近い将来、現在の野党勢力が消滅することも非現実的ではないように思われる。
今一度、野党の奮起を期待したい。
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