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公明党には誰も逆らえなくなると思わせる政治状況
http://bylines.news.yahoo.co.jp/tanakayoshitsugu/20160617-00058949/
2016年6月17日 23時41分配信 田中良紹 | ジャーナリスト
舛添辞任劇は極めて後味の悪いものになった。不信任案の採決を行おうとする東京都議会に対し、涙を流して秋までの続投を懇願した舛添知事が、その後自民党都連幹部と密室で協議し、一夜が明けると突然辞任を申し出て、その後は一切の沈黙を決め込んでいるのである。
私は舛添氏が辞任を申し出る直前にブログ『フーテン老人世直し録』で、「舛添公私混同疑惑は来月投票の参院選と絡んだため、選挙への影響を恐れる勢力が一日も早い辞任を求めてアメとムチを繰り出している」と書いた。
ムチは与党も不信任案に賛成のポーズをとることであり、アメは舛添氏の将来を保証することである。舛添氏はアメの値段を高めるため解散をちらつかせてぎりぎりまで辞任を言い出さないが、辞任を言い出した時には舛添氏の思い通りになったことを意味するとも書いた。
私が予想した通りだったのだとすれば、「舛添氏が辞めて良かった」という話ではない。舛添公私混同疑惑の背後で権力がどういう動きを見せていたのか、その政治の深層を探る必要がある。
問題の始まりは知事の豪華海外出張や公用車の私的利用である。しかしこれらは石原都政から一貫して問題にされてきたことで舛添知事特有の問題ではない。ただ舛添氏の対応には特有のものがあった。上から目線でメディアにお説教を垂れたのである。これがメディアの反発を買い、それが問題を大きくする。
一方、私は舛添氏のクビを取ろうとする勢力がまた現れたのかと思った。前任の猪瀬氏は安倍総理と森喜朗氏によって追い落としが図られ、東京オリンピックの言い出しっぺである石原慎太郎氏ともども影響力を消滅させられた経緯がある。
この石原・猪瀬と続く都政時代は自民党都連幹部と都知事との関係も最悪だった。猪瀬氏の後任に誰を当てるか。安倍総理の側近からは下村博文氏の名前が上がる。それを覆してかつて自民党を除名された舛添氏を選んだのは菅官房長官と公明党である。自民党都連も舛添氏の側に回った。森喜朗氏にも異存はない。
しかしここにきてメディアが舛添追及を始めた背景には、東京オリンピックの本番は舛添氏にやらせたくない意思が権力の側にあった可能性はある。そもそも舛添氏は安倍総理とはそりが合わず、特に憲法観がまるで違う。
また石原氏がそうだったように舛添氏にも総理を狙う可能性がある。石原氏は高齢だったが舛添氏は若い。そうした人間にいつまでも東京都知事をやらせておくのは危険だ。権力の側がそう考えたとしてもおかしくはない。
しかし自民党も公明党も、舛添公私混同疑惑に火が付いた後も、舛添氏の秋までの続投は了解していた。それはこの時点で都知事を交代させれば次の都知事選挙が東京オリンピックと重なってしまうからである。東京オリンピック終了後に都知事選挙を行うには秋までの続投が必要なのである。
それは舛添氏も了解して動いていたはずだ。だから舛添氏はリオに行って旗を受け取る儀式に出たいのではなく、自分を支える与党と五輪関係者のシナリオに乗って秋までの続投を主張し、メディアや野党の都議の追及に対して粘り腰を見せ時間稼ぎをしていた。
ところが途中から事情が変わった。変えたのは参議院選挙情勢だと私は思う。予想より自公に厳しい情勢を察知した官邸と公明党は「秋までの続投」から「今すぐ辞任」へとシナリオを変えた。
一方で自民党都連幹部は最後まで「秋までの続投」を支持していた。森喜朗氏にしても東京都の負担割合を決めるところまでは舛添氏にやってもらいたいと思っていた。しかし官邸と公明党にはその余裕がない。
「秋まで」派と「今すぐ」派が混在する与党の中で、都議会総務委員会の集中審議が13,20日の両日開かれることを決めた6月9日まではまだ古いシナリオが生きていた。しかし12日に安倍総理の側近下村博文氏が「自民も不信任案にノートは言えない」と記者団に語ったことで官邸と公明党の本音が表に出た。
13日の集中審議で自民党都議は都連幹部の意向を受け辞任要求はしなかったが、公明党都議がはっきり辞職を口にする。それでも舛添氏は古いシナリオを信じ込んでいたようだ。それが最終盤の無様な対応になる。そして舛添氏は周辺に「公明党に裏切られた」と口にした。
公明党にとって来月の参議院選挙と来年の都議選は衆議院選挙以上に重要な選挙である。そのため安倍総理に衆参ダブルを断念させ、参議院選挙区で公明党候補者に自民党の推薦を出させた。参議院選挙で自民党に逆風が吹いても公明党の議席を上積みさせ、安倍総理の公約である「与党で過半数」を達成させようとしている。
2014年の衆議院選挙で自民はマイナス4議席だったが、公明党がプラス4議席でメディアは「与党圧勝」と報じてくれた。安倍政権は公明党のおかげで面目を保ったのである。おそらくこの参議院選挙も同じ傾向が表れて安倍政権に面目を保たせる。そうなれば公明党は安保法案で身を切る思いをしたが、いずれ自民党を公明党の影響下に置くことができる。
私が見るところ公明党はそう考えていると思う。昨年末に消費税の軽減税率導入を安倍総理に決断させ、次に参院選の公明党候補者に自民党の推薦を出させ、さらに衆参ダブル選挙をやめさせた。そして公明党にとって最も重要な参院選と都議選に障害となる舛添都知事を「すぐ辞めさせる」ことにも同意させた。
公明党は安保法制での「貸し」を返してもらいながら最高権力者を操れるところにまで来たのである。その公明党と安倍総理は参院選で民進党と共産党の選挙協力を「野合」と批判するが、公明党のバックボーンとなる思想は「神道は邪教」とする創価学会の思想である。一方で安倍総理のバックボーンとなっているのは「日本会議」という神道系の団体である。
それが協力し合えるのは選挙の勝利という実利である。選挙での勝利がなければ敵対関係に陥ることは火を見るよりも明らかだ。しかし安倍政権が選挙で勝つためには公明党にすがるしかないのが現実である。この現実を追求していくと「神道は邪教」とする思想が日本古来の神道を影響下に置くことも可能になる恐れがある。
このところの安倍政権を巡る権力の動きを見てくると公明党の影響下に置かれた最高権力者の姿が私には見えてくる。公明党には誰も逆らえなくなる日がやってくるのかもしれない。
田中良紹
ジャーナリスト
1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、日米摩擦、自民党などを取材。89年 米国の政治専門テレビ局C−SPANの配給権を取得し、日本に米国議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年からCS放送で「国会TV」を放送。07年退職し現在はブログを執筆しながら政治塾を主宰
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