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世界危機を煽ることによって、消費税増税先送りの口実に伊勢志摩サミットを利用したとも言える安倍首相。「安倍演出」の巧拙を考えたい Photo:首相官邸HP
伊勢志摩サミットで世界危機を煽った「安倍演出」の巧拙
http://diamond.jp/articles/-/92487
2016年6月4日 嶋矢志郎 [ジャーナリスト] ダイヤモンド・オンライン
主要7ヵ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)は、世界経済の新たな危機回避に向けて政策を総動員する減速阻止策を柱とする首脳宣言と、テロや難民対策など6つの付属文書を採択して閉幕した。議長の安倍首相は2日間に及んだ討議を終えての議長総括の記者会見で、「世界経済は危機に陥る大きなリスクに直面している。G7は強い危機感を共有し、協調して金融政策、財政政策、構造政策を進め、3本の矢を放っていくことで合意した」と強調した。
しかし、この総括は安倍首相の我田引水である面が拭えない。安倍首相が政治決断を迫られている消費税増税の先送りを、公約に反して決断するための口実工作に、いわば利用したと言える公私混同の政略が丸見えであり、品位を汚している。G7内はもとより、広く国際社会の日本に対する信頼感を貶めても、止むを得まい。
■首脳宣言にも「3本の矢」を踏襲
腐心の「危機」認識に相次ぐ反論
安倍首相は、首脳宣言の中に「持続可能で、バランスの取れた経済成長の達成」に向けて、自ら強く主張した財政出動をはじめ、金融緩和と構造改革のいわゆる「3本の矢」を狙い通りに盛り込み、アベノミクスの3本柱を踏襲した。財政出動については、慎重な英国やドイツに配慮して、宣言の中では「財政戦略の機動的な運用」へと表現を変えている。
安倍首相は、世界経済に対する現状認識についても危機感を訴えるため、腐心した。首相は各国首脳に対し、世界経済の現状と8年前のリーマンショック前夜との類似点についてデータを用意して説明した上、「対応を誤ると危機に陥りかねない」として、同調を求めた。
しかし、各国首脳の閉幕後の記者会見によると、温度差が目立った。EUからの離脱懸念でリスクを過大視したくないキャメロン英首相が、「危機と呼ぶのはいかがなものか」と反論。首脳宣言には「新たな危機に陥ることを回避する」という表現を入れた。オバマ米大統領や安倍首相とはリスクへの認識を共有したが、「EUを離脱すれば、英国だけでなく世界経済に影響を与える」として、EU残留の必要性を訴えた。首脳宣言には、英国のEU離脱も世界経済を押し下げる下振れリスクとして盛り込まれた。
メルケル独首相にいたっては「世界経済は安定成長を続けている」として、危機感には水を差した。その上で同意したのは、「財政出動だけでなく、金融緩和や構造改革も含む政策の総動員が重要である」点を強調した。オランド仏大統領は、世界経済には「(リーマン)危機の影響が残っている」とした上で、「財政には一定の柔軟性が必要。余裕のある国は財政支出を積極的に増やしてほしい」と要望。カナダのトルドー首相も「財政出動、金融緩和、構造改革の全てが大切である」と同調した。
安倍首相は、サミットの討議の中で世界経済への危機感を訴え、各国首脳に同意を求めたが、一部の首脳から否定され、反論されたにもかかわらず、議長総括の記者会見でリーマンショックという刺激的な文言を7回も連呼して、消費増税の再延長に言及し、「その是非も含めて検討」し、近く再延長を表明することを示唆した。伊勢志摩サミットの場をその口実探しに利用した、と受け止めざるを得ない。
安倍首相がG7の各国首脳に訴え、記者会見でも「各国首脳は(リスクを)共有し、(政策対応に)同意した」と明言したように、世界経済は今、果たして「危機に陥る大きなリスクに直面している」のであろうか。その上、「G7が協調して政策対応すべきである」とも訴えたが、その必要性も果たしてあるのだろうか。世界経済の現状を見ると、この事実認識は間違っているとしか言いようがなく、サミットでの経済討議を大きく歪め、ミスリードしたのではないか、との懸念が拭えない。
■「リーマン級の危機」というミスリード
財政規律が緩い国と見られかねない日本
安倍首相が各国首脳に配布した資料の中に、原油や穀物などの商品価格が最近、リーマンショック時と同じく55%下落していることを示唆するグラフがあるが、その下落の要因と背景には構造的に決定的な違いがあり、看過してはならない。
リーマンショック時は需要が世界的に冷え込み、一気に減退したためであるが、最近は米国のシェール革命の急進展で原油の供給力が増強されるなど、構造要因の変化が大きい。リーマンショックの震源地であった米国経済も、今は堅調に推移しており、金融の引き締めを予定している。ごく限られた経済指標の動向を振りかざして、牽強付会に「リーマン級の危機前夜」と決めつけるには無理があり、軽率の誹りを免れない。
ましてや、「財政出動の必要は全くない。リーマンショック時には日米欧をはじめ、中国などがそろって財政を出動させたが、それも各国の事情に合わせるのは自然なこと。日本が今実施すれば、財政規律が緩い国と思われるだけだ」(2016年5月28日付け日本経済新聞電子版から)とは、経済学者の吉川洋・立正大学教授の手厳しいコメントである。
伊勢志摩サミットに臨んだ各国首脳には、安倍首相がサミットに先立ち欧州歴訪などで入念に準備したことも功を奏してか、消費増税の再延長を模索する安倍首相の思惑も見えていた。世界経済の現状認識や政策判断の認識などで多少の違和感があっても、議長国の顔を立てる配慮も働いていたに違いない。
■現状認識を共有し政策協調に同意
G7の意思と決意を再確認せよ
それにしても、世界経済の現状認識を共有し、政策協調に同意できた面があればこそ、首脳宣言をとりまとめ、発信することができたということも事実だ。中国経済の減速をはじめ、ブラジルなど他の新興国の勢いも薄れているなか、世界経済の新しい牽引役をいまだ見出せないでいる。G7など主要国の中間層にも格差の拡大や就職難など生活への不安や不満が広がり、ポピュリズムの台頭を許している。
今回のサミットでは、G7がこれらの厳しい現実に向き合いながら、世界経済の牽引役として引き続き成長を底上げさせ、持続させていかなければならないG7としての意思と決意を改めて再確認できた意味と意義は大きい。しかし、実際に成長の底上げをどこまで図れるか、その実効性は不透明である。
合意事項にも「国別の状況を考慮する」との但し書きがついている。G7版の3本の矢をどのように実行に移していくかは、各国の判断と事情に任されている。今回の首脳宣言は、世界経済の事実認識に多少の温度差はあったが、それも表現上の文言の微調整程度で済み、後は総論賛成の政策協調へ決意表明したというイメージが強い。
議長国である日本は、政策協調を率先垂範していく責務を担っている。とりわけ、成長の底上げ、維持に対して各国以上の努力が求められている。IMF(国際通貨基金)の経済見通しによると、日本の2016年の実質経済成長率は4月現在で0.5%である。米国の2.4%、英国の1.9%、ユーロ圏の1.5%に比べて、はるかに低い。
人口減少社会に突入している日本は今、初のマイナス金利に踏み切った金融緩和や一過性に近い財政出動だけでは、成長の下支えや持続可能性を追求していくことはできない。本命はやはりアベノミクスの第3の矢である成長戦略であり、構造改革であるが、その成果がいまだ乏しいため、今回のサミットの討論の場で「政策の総動員が重要である」(メルケル独首相)と指摘された。
今回のサミットでは、1日目の冒頭に最重要課題の世界経済問題を討議して、国際社会が直面する政治、外交分野の諸問題は1日目の夕食会から集中討議に入った。国際社会の最優先課題であるテロや難民問題では欧州の危機感を反映して、G7として足並みを揃えて対応していく道筋を敷いた。
具体的には、「テロ対策行動計画」を新たに採択、航空機の乗客名簿の共有を盛り込んだ。人権への配慮から消極的であったEUが方針を転換、すでに共有している日米両国に合流する。テロの予兆をつかむため、ICPO(国際刑事警察機構)のデータベースも活用する。難民問題では、「世界的な対応を取る必要がある地球規模の課題である」と明記、G7が一丸となって対応する決意を示した。
日本が先導した海洋安全保障や北朝鮮問題に対する言及が増えた点も、大きな特徴である。安倍首相は自ら提唱した「法に基づく主張」「力や威圧を用いない」「平和的な紛争解決」の3原則を首脳宣言に明記、南シナ海の緊張をはじめ、アジアの厳しい海洋安保情勢が欧州首脳にも伝わり、理解を得たことは収穫であった。ただ、中国を念頭に置いた厳しい表現が目立ったものの、中国を名指しする表記を避けるとともに、「深刻な懸念」とする案も実現しなかった。
北朝鮮問題では、核実験や弾道ミサイル発射を「最も強い表現で非難する」と強調し、「地域と国際社会の平和と安全に深刻な脅威を与える」と批判し、挑発行動を起こさないよう強く要求し、圧力をかけた。
■対中ロとの対話と連携が課題
問われるG7の役割と威信
温度差が目立ったのが、ロシアと中国への対応である。ウクライナのクリミヤを編入したロシアへの制裁を確認するまでは総論賛成であったが、停戦を定めたミンスク合意や対ロ制裁をめぐっては議論が沸騰したという。対ロ強硬派の米国と、ロシアとも協調したい欧州、さらには独仏伊の間でも対ロ認識をめぐり、激しい応酬があったと聞く。
結局、首脳宣言には対ロ制裁の強化と緩和の双方に配慮して、対ロ制裁を強めるか緩めるかは「ロシアの出方次第」で落ち着いた。中国への対応でも、中国の軍拡に直接晒されている日米両国に比べれば、欧州の危機感は薄い。このため、欧州勢からは首脳宣言に「法に基づく主張や航行の自由など、原則を書き込むのはいいが、名指しは避けてほしい」との要望があった。
ロシアが抜けてG8からG7になったことで、主要国の結束はさらに強まったとの評価もある。しかし、国際社会の成長と発展のためにG7の成果とその実効性をより高めていくには、G7が中国とロシア両国との対話・連携のパイプをいかにより太く、強靭に育て上げていくことができるか、その1点にかかっているといっても過言ではない。
G7のGDPは20年前の1986年時には全世界の68.5%を占めていたが、2016年には46.6%へと大幅に縮小している。一方、中国のGDPはこの間にわずか2.0%から15.6%へと急拡大している。国際社会の多様化が急進展する中で、G7の機能と役割とともに、威信もまた問われている。
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