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「沖縄」「消費税」から見えた「非自立国」日本の徒花
http://mainichibooks.com/sundaymainichi/column/2016/06/12/post-905.html
サンデー毎日 2016年6月12日号
倉重篤郎のサンデー時評 連載98
1995年、沖縄の女子小学生が複数の米兵に暴行され、21年後、今度は20歳の女性が米軍属によって乱暴、殺害された。
96年、日米両国は沖縄の負担軽減策として普天間基地の返還で合意するが、20年後の今、返還は一歩だに動かず、代替施設としてより高機能の辺野古新基地建設が唯一の解決策として進展中である。
沖縄でこの間、何がどう変わったのか。過去の犠牲が現在の改善に生かされているのか。むしろ、事は逆に進んでいるのではないか。そんな疑念が芽生えてくる。
犯罪を生む温床はどうか。日米地位協定の米兵・軍属に対する強力な保護権能と、その運用をめぐる日本政府の弱腰がますます米側の駐留軍的特権意識をのさばらせている、ということはないのか。
負担軽減をめぐる政治力学はどうか。中国怖し、と新安保法制で一層の対米依存強化に舵(かじ)を切った以上、軽減色は薄めざるを得ない。何よりも、普天間問題の決着のされ方に大きな構造問題が潜んでいる。基地返還が基地新設にすり替わる手品のような交渉だった。
この経過を検証し手品の種に迫った近刊本が『普天間・辺野古 歪められた二〇年』(宮城大蔵、渡辺豪著、集英社新書)である。
96年合意は、普天間の全面返還であった。代替施設については、「既存の沖縄米軍施設内にヘリポートを新設」「嘉手納基地に機能の一部を移設」とする程度で、普天間機能を沖縄県内の既存米基地に分散する案で、新設はヘリポートのみ、という低姿勢な合意だった。当時の反基地運動の盛り上がりからすると当然の流れだった。
ところが、現在進行中の代替施設案は、長さ1800メートルの滑走路2本を持ち港湾施設まで付帯する本格的新基地である。総工費は1兆円、すべて日本側負担である。
構想はなぜ、どう歪んだのか。
96年合意時点で、県内移設という大前提が政治的にぼかされていた。橋本龍太郎元首相が勲功を急ぎ、米側条件であった代替施設の詳細を詰めないまま大田昌秀元沖縄県知事に受け入れをせかした。大田氏は、不審、不安を感じつつも、側近の進言に従いそれに応じた。
◇米主導の沖縄問題、次世代に先送りする消費税 自助自立の政治を取り戻せ
米側から見ると、「返還」はむしろ米側が日本側を誘導した。米側はその代償として橋本氏から「在日米軍の機能は低下させない」「移転費用は日本が負担する」「日本周辺有事の際、米軍が日本国内の民間空港を使用できるよう整備する」との言質を取った。日米防衛指針を18年ぶりに改定させ、冷戦崩壊で漂流していた同盟関係に朝鮮半島、台湾海峡有事対応という新たな使命を吹き込んだ(自衛隊の対米後方地域支援を盛り込んだ周辺事態法として立法化)。
代替施設も、「嘉手納統合案」「洋上浮体案」と二転三転、現行案に膨れ上がっていく。小泉純一郎政権では、埋め立て工事の増量を求める沖縄利権が蠢(うごめ)き、鳩山由紀夫政権では、「県外移設案」を米と外務官僚が一体となり、いかにつぶしたかが点描されている。
驚くべきは、現行案なるものは、実は60年代から米側にあった構想に酷似している、ということだ。交渉を担当した当時の防衛官僚によると、米側はこの案を96年合意直後から持ち出してきていた、という。「びっくりして冗談じゃないと思ったが、最終的にはそこに行った」と彼は述懐している。「返還」を機に強烈な政治力を行使して、20年越しで日本側負担による夢の新基地を勝ち取った米海兵隊物語でもあるのだ。
消費増税問題にも言及したい。
民進党が消費増税を2年先送りすべきだとの方針を打ち出した。安倍晋三政権の機先を制し、アベノミクスの失敗を問わんとする狙いはわかる。だが賢策ではない。
私はあくまでも予定通り消費税率を来年4月から10%に引き上げるべきだと思っている。理由は簡単だ。国家予算は、96兆円の支出に対し税収は57兆円しかない。34兆円は依然として国債発行による借金である。収入とは不釣り合いな過大なサービスを受給し、子々孫々に借金を負わせている。しかも、現役世代の特権としての投票権を行使して、それを持たない次世代に平気でつけ回しをする。それが1000兆円を超えた。GDP(国内総生産)の2倍強である。
これほど不道徳なことがあろうか。1年でも早く是正するのが、今を生きる我々国家国民の責任ではないか。支出(福祉サービスや軍事費)を減らすか、収入を増やす(増税)しかない。成長による税収増で是正するのも一手だが、アベノミクスという異次元緩和実験の3年間は、税収増より出口政策不全という負の方が大であることを証明しつつある。増税すれば成長が阻害され元も子もなくなる、という議論以前の問題である。
支出を削れないとすれば、オーソドックスに増税するしかない。しかも、その国民に不人気なことを4年前の民主党政権が税と社会保障の一体改革という形の法制度として作り上げてくれたではないか(結果、民主議員が大量落選)。安倍政権は、その犠牲に手を合わせ予定通り増税すべきである。民進党は民主党時代の過去の政治遺産を簡単に手放すべきではない。
さて、沖縄と消費税。共通するのは何か。それは国家としての過度な他力依存、非自立性である。
基地返還を基地新設に変えた手品の仕掛けは、戦後日本保守政治の従米路線という構造問題にある。日米安保体制におんぶに抱っこであり続けた非自立体質が普天間や犯罪問題に顕在化している。
増税先送りは財政に対する度を過ぎた次世代依存を示すものに見える。米国は怒らすと怖い。次世代は物言わぬ。そこには益もリスクも自分たちで引き受ける、という自助自立精神の衰亡がある。
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