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沖縄で何度悲劇が起きれば、私たちは気付くのだろう〔photo〕gettyimages
世界的にもこんなの異常だ! 在日米軍だけがもつ「特権」の真実 沖縄女性遺体遺棄事件から考える
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48780
2016年05月31日(火) 伊勢ア 賢治 :現代ビジネス
文/伊勢ア 賢治
■日米は「対等」ではない
沖縄で、また悲劇が起こってしまった。
被害者への思いは当然だが、ある怒りが、静かに、こみ上げてくる。それは、米軍属の被疑者へというより、我々日本人の「不感症」への怒りだ。
今回の悲劇を、同胞女性を守れない男子の"男気"、もしくは凶悪犯罪の"比率"の問題に置き換える向きがあるが、非常に遺憾である。
これは、国内に国内法が及ばない世界を内包するという、一つの異常事態をどう捉えるか、の問題である。
いわゆる外交特権の話ではない。外交官が享受する外交特権は、その在留国の国内法による訴追の免除であるが、大使館を置き合う国同士が、それぞれの外交官に対して、「互恵的」、つまりお互いに認め合うものである。つまり、関係は、対等。
日米地位協定は、互恵的、つまり対等ではない。軍事基地を置き、同協定で定める特権を受けるのは、アメリカのみで、その逆はない。日本の自衛隊がアメリカ国内に基地を置き同じ地位協定の特権を得られる、という話ではない。
今回の沖縄の遺体遺棄事件は、日米地位協定上の「公務外」のものだ。それに対して「公務内」の事件であれば、軍事業務上の過失であるから、アメリカに第一次裁判権があり、軍人であれば米軍法で。今回の被疑者のように軍属(米軍と契約関係にある米国籍の民間人)であれば軍事域外管轄権法で裁かれる。
「公務外」つまり軍事業務上の過失でない場合は、軍人も軍属も、日本に第一次裁判権があるが、米軍が被疑者を先に確保したら、身柄は日本側に渡さなくてもいいことになっている。
つまり、被疑者にとっては犯行後即座に基地に逃げ込むのが一番なのだが、今回の事件では、米軍より先に県警が身柄を確保したので地位協定特権が壁にならなかった。それは単に、この仕組みのお陰なのだ。
だから、今回の事件を、日米地位協定の問題ではないという言説は、根本的に間違っている。
■「民営化」された戦争
一方で、近年、この仕組みに、プレーヤーがもう一つ加わった。民間軍事会社である。
これは軍属とは違う。米軍と契約関係にあるのは、あくまで、その会社であり、そこで働く個人は米軍の直接的な管理下にない。その業種は、軍事訓練、軍事物資調達、運搬、要人警護等、多岐にわたるが、一番分かりやすいのが傭兵である。
2001年の9.11同時多発テロを契機に始まり、アフガニスタンのタリバン、そしてアルカイダ、今では「イスラム国」を照準に継続している「テロとの戦い」おいてアメリカは、この民間軍事会社を大々的に活用し「戦争の民営化」を進めてきた。そして、それが、地元住民に対して殺傷、拷問等の、数々の非人道的な事件を引き起こし、国際問題を引き起こした。
その主戦場のアフガニスタンで米・NATO軍は、アメリカ建国史上最長の戦争を戦った挙句、軍事的勝利を挙げられず2014年に主力部隊を撤退。その後、残留部隊を置くにあたって、アメリカはNATO軍として、アフガン政府と地位協定を締結した。
アフガニスタンはいまだ戦場なので、軍関係者が基地の外で「公務外」の生活ができる状態にない。だから、この地位協定では、「公務外」の規定はなく、全ての事件が「公務内」として扱われ、第一次裁判権は米・NATO側にある。
しかし、軍事法廷を含むその裁判権の行使全般にアフガン政府関係者を立ち会わせることなど、アフガン側に非常に気を遣う内容になっている。
さらに、米・NATOが契約する民間軍事会社については、全ての事件において、第一次裁判権をアフガン側に与えている。
1960年以来一字一句変わらない日米地位協定には、民間軍事会社の記述はない。しかし、イラクで人権侵害の国際問題を起こした民間軍事会社の一つが、日本で軍属として地位協定の特権を得て活動していたことが分かっている。
この意味で、裁判権における日本の地位はアフガニスタンより低いと言える。
■際立つ日米地位協定の特異性
世界各地に基地を持つアメリカの地位協定は数多あれど、その中には外交特権と同じように互恵的なものがある。それが1951年調印のNATO地位協定、つまりアメリカを含む欧米軍事同盟のそれだ。
お互いに軍事基地を置き合う前提で、同じ地位協定特権を認め合う。協定文面の主語は、あくまで「派遣国」と「受け入れ国」だ。締結した国家間の関係は対等で、不平等さはない。その中に、敗戦国のドイツとイタリアもある。
NATO地位協定における裁判権に関しては、日米地位協定と基本的に同じである。だからといって、同じ敗戦国のドイツとイタリアと比べて日本は特段不利な立場にない、と結論するのは間違いである。日本との決定的な違いは「互恵性」なのだ。
さらに、ドイツとイタリア両国は、特に冷戦後だが、補足地位協定として、第二次大戦後の占領時代からある米軍基地の管理権と制空権を全面的に回復している。訓練を含む米軍の全ての行動は、ドイツとイタリア政府の主権下に統制される「許可制」である。
加えて、それらの基地を抱え色々な損害を被るのは地方政府であるから、補足地位協定では、米軍に、そういう地方政府との公的な協議の外交チャネルをつくることを義務付けている。同じ敗戦国の中で、占領時代から脱していないのは、日本だけである。
発効以来、こんなに長期間一字一句も変わらないのは、日米地位協定しかない。
お隣の韓国もすでに二度改定している。1966年調印の韓米地位協定において、韓国は、日米地位協定の日本より裁判権において不利だったが、日本でと同じような様々な事件を経て、地位協定の改定を二回にわたって達成。アメリカの譲歩の理由は、「日本並みに」という韓国側の激しい国民運動の隆盛である。
日本において地位協定の問題への対処が、「運用」ではなく改定を求める国民運動にならないのは、ひとえにそれが「沖縄の問題」になっているからである。地位協定の問題を「不可視化」させるという政治意志が存在するならば、沖縄への米軍基地集中は、見事に功を奏していると言える。
■フィリピンとアメリカの「対等」な関係
同じようにアメリカの占領時代を経たフィリピンのケースは、特記に値する。
アメリカの植民地であった同国は、現地の経済や文化と深い関係を築いてきたスービック湾海軍基地やクラーク空軍基地を含め、大規模な米軍基地を維持していた。日本の「思いやり予算」とは真逆に、アメリカは毎年数百億円もの「家賃」をフィリピン政府に支払っていた。
この「実入り」にもかかわらず、フィリピン米軍基地は植民地主義の名残だとするフィリピン国内の民族運動の高まりと、ピナツボ火山の噴火で基地の大部分が使えなくなったことを契機に、フィリピン政府は米軍基地の全閉鎖を決めた。1992年のこと。
その直後だ。中国が南沙諸島の実効支配を始めたのは。米軍基地は、やはり「抑止力」になっていたのだ。
その後、フィリピンは、アメリカとの関係修復に奔走する。それでも、以前のような地位協定ではなくVisiting Forces Agreement(VFA)、アメリカ軍はあくまで客人として訪れてフィリピンの基地を使ってもいい、という関係の協定を締結した。
基地の主権はフィリピン側にある(ちなみに、上記のアフガニスタンとNATOの地位協定でも、アフガニスタンの主権が明記されている)。ドイツやイタリアと同様、米軍が何をするか、何を持ち込むかは、フィリピン政府の「許可制」である。
さらに、フィリピンは、裁判権における「互恵性」も部分的に確保している。(米連邦諮問委員会Federal Advisory Committee任命の国際治安諮問会議2015年報告書”Report on Status of Force Agreements”, p25, http://www.state.gov/documents/organization/236456.pdf )
アメリカとの同盟関係を維持強化しながらも、対等で、かつ「(主権の及ばない)基地なき同盟」の一つの形であろう。
最後に、実は、日本は、”加害者”の側として地位協定を持っている。2009年成立のソマリア沖の海賊に対処するいわゆる「海賊対処法」の一環で、自衛隊が駐留するジブチ政府だ。
日ジブチ地位協定では、「公務内」「公務外」の両方で、日本は第一次裁判権を獲得している。これを、日本外交の勝利だ、最大限の国益達成だ、と閣僚に言わしめたのは、当時の民主党政権だ。
その国益に、沖縄の被害者は勘案されていない。そして、自衛隊の海外派遣に一番敏感でなければならない当時のリベラル、そして護憲派が、この「不平等さ」に反応しなかった。
日本人の「不感症」は極地に来ている。
伊勢ア 賢治(いせざき・けんじ)
1957年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。インド国立ボンベイ大学大学院に留学中、現地スラム街の住民運動に関わる。2000年3月 より、国連東チモール暫定行政機構上級民政官として、現地コバリマ県の知事を務める。2001年6月より、国連シエラレオネ派遺団の武装解除部長として、 武装勢力から武器を取り上げる。2003年2月からは、日本政府特別顧問として、アフガニスタンでの武装解除を担当。現在、東京外国語大学教授。プロのト ランペッターとしても活動中(https://www.facebook.com/kenji.isezaki.jazz/)。著書に『武装解除 紛争屋が見た世界』、『本当の戦争の話をしよう』などがある。
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