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サミットで浮上した「日本の弱点」〜こんなに低い潜在成長率で先進国と言えるのか アベノミクスに募る不信感
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48787
2016年05月31日(火) 町田 徹「ニュースの深層」 現代ビジネス
■肝心の経済連携はお粗末
先週金曜日(5月27日)、サミット・ウィークがオバマ米大統領の歴史的な被爆地・広島訪問で幕を閉じた。
『G7伊勢志摩首脳宣言』は、中国やロシアの力による現状変更を認めないことを再確認したほか、テロや難民、租税回避問題に協調して対処すると明言、政治イベントとしてのG7サミット(主要7ヵ国首脳会議)は概して成功したと評価できるのだろう。
だが、肝心の経済連携はお粗末だ。『首脳宣言』に明記されたのは、世界経済の低成長リスクに7ヵ国が共同で対処するという総論だけである。議長を務めた安倍晋三首相が目指した財政の協調出動は盛り込まれず、財政政策、金融政策、構造改革という選択肢の中で具体的に何をするかは各国の裁量に任された。これでは実効性に疑問符が付く協調と言わざるを得ない。
集まった先進7ヵ国の顔触れを見て、改めて想起したのが、群を抜く日本の潜在成長率の低さだ。財政出動に慎重なドイツが高い優先順位を付けていた構造改革を、どの国よりも必要としているのは、他ならぬ日本なのである。消費増税の再延期はある種の痛み止めに過ぎない。生温い「1億総活躍プラン」や骨抜きの「骨太計画」など、経済政策の練り直しが急務となっている。
「リーマン・ショック直前の洞爺湖サミットは危機を防ぐことができなかった。その轍(てつ)を踏みたくない」――。
こう述べて、安倍首相が世界経済の下振れリスクを指摘したのは、サミット初日(5月26日)のセッションだった。
■国内政治のためのスタンドプレー
確かに、8年前の洞爺湖サミットは、土砂降りの経済状況で開かれた。初日は月曜日で、その前週末まで東京株式市場が12日間連続安と54年ぶりの長期的な下げに翻弄されていた。
筆者は当時、ある連載コラムに、『「G8(主要8ヵ国)サミットは「第3次オイルショック」「食糧危機」「米プライム・ローン危機」「新興国の成長神話の崩壊」と、連鎖的に増幅する世界的な経済危機に対してまったく無力であることを露呈した』と書いている。
今回、安倍首相は、当時の経験を踏まえて、消費増税の再延期のお墨付きにもなる、G7諸国による財政の協調出動に同意を得ようと試みた。下落が目立つ国際商品市況のグラフなど4種類の資料を示して、首脳たちに理解を促したとの報道もあった。
しかし、結果は空振りだ。『G7伊勢志摩首脳宣言』は、安倍首相が拘ったフレーズ「3本の矢のアプローチ」の英語版である「the three pronged approach」という文言を盛り込み議長国・日本に花を持たせたものの、肝心の細部では「すべての政策手段―金融、財政及び構造政策―を個別的(individually)にまた総合的(collectively)に用いるとの我々のコミットメントを再確認する」と記すにとどまった。
つまり、実際に、どの政策をどの程度実施するかは、各国が独自の裁量で行うとしたのである。
安倍政権は数ヵ月前から、日本の消費増税再延期を含む各国の財政出動という経済協調路線をサミットで演出し、G7諸国のお墨付きを錦の御旗に、ダブル選挙に打って出て、憲法改正の道筋を付けるという壮大なシナリオを描いていたといわれる。そのため、サミット直前に欧州を歴訪するなど、根回しに奔走した。だが、そうした議長工作は不発に終わった。
ドイツや英国を取材する日本人記者に聞くと、非公式の取材の場では「各国にはそれぞれの事情がある。安倍政権の国内政治のためのスタンドプレーに巻き込まないでほしい」と不満をあらわにする政府当局者が少なくなかったという。
■サミット空振りの遠因
一方で、『G7伊勢志摩首脳宣言』には盛り込まれなかったものの、日銀のマイナス金利や量的・質的金融緩和策を円安誘導と警戒する見方がG7諸国内に根強いことも改めて浮き彫りになった。
オバマ米大統領が26日の記者会見で、「すべての国・地域に悪影響を与える保護主義や競争的な通貨の切り下げ、近隣窮乏化政策を避けることが重要だ」と語り、サミットの討議の中であえてこの問題に言及したことを明らかにしたのだ。この問題では、首脳会議に先立つG7財務大臣・中央銀行総裁会議でも、日本はフランスから釘を刺されている。
「3本の矢」と言いながら、政権発足以来、肝心の構造改革で抜本策を先送りし続け、その場しのぎの財政政策や金融政策を繰り返してきたアベノミクスへの不信感が、今回、サミットで空振りする遠因になったことを、政府は自覚する必要がありそうだ。
ちなみに、サミットメンバーである先進7ヵ国の中で、日本の潜在成長率の低さはネガティブな意味で特筆に値する。
例えば、国際機関のIMF(国際通貨基金)の最新の経済見通しをみると、日本の2016年の実質経済成長率は0.5%で、米国の2.4%、英国の1.9%、ドイツ、カナダ各1.5%、フランス1.1%、イタリア1.0%と比べて圧倒的に低い。
しかも、この予測は消費増税が予定通り行われて、ある程度駆け込み需要が喚起されることを前提にしている。それでも日本は潜在成長率が0%前後と極端に低いため、先進7ヵ国の中で6強1弱の構図になってしまうのである。
このIMFの予測では、消費増税で個人消費が落ち込むと見られる2017年の日本の実質経済成長率はマイナス0.1%に下落する。これに対して、他の先進国は米国が2.5%、英国が2.2%、カナダが1.9%、ドイツが1.6%、フランスが1.3%、イタリアが1.1%と安定成長が見込まれる。つまり、潜在成長率の低い日本だけがマイナス成長に転落するとみられているのだ。
こうした状況では、他の先進国から見れば、日本の消費増税の再延期は、「世界経済の下振れリスクに対する予防策」ではなく、「日本のマイナス成長への転落防止策」としか映らない。
■第2次補正予算に注目
以前から繰り返して述べているように、財政健全化は必要だ。
しかし、経済がマイナス成長に転落し、税収が落ち込んでは財政再建も覚束ない。IMFの予測を見れば、財政健全化が遅れても、消費増税を再延期せざるを得ないのは明らかだろう。
報道によると、首相はサミット閉幕の翌日にあたる5月28日夜、麻生太郎財務大臣、菅義偉官房長官、谷垣禎一自民党幹事長と会談し、税率を10%に引き上げる消費増税を2年半先送りする意向を伝えたという。本稿が掲載される頃には、その調整が完了しているかもしれない。消費増税の再延期は、もはや避けて通れない状況だ。
そこで注目すべきは、サミットが終了した途端、安倍政権が検討を始めた今年度の第2次補正予算の中身である。消費増税の再延期によって来年度の税収不足が確実になる中で、相変わらずのバラマキ予算を組むのはもってのほかである。
どうしても補正予算を編成するなら、熊本地震対応で緊急を要するものと、経済の構造改革に直結する投資効果の高いものに使途を絞り込んだ超小型の予算にしていただきたい。
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