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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 盛り上がりを欠く伊勢志摩サミット
http://wjn.jp/article/detail/0171632/
週刊実話 2016年6月2日号
伊勢志摩サミットが5月26、27日に開催される。それに先立って安倍総理は欧州各国を歴訪し、地ならしに務めた。
ところが、いまひとつサミットに向けての動きが盛り上がらない。課題がないわけではない。最大の課題は、昨年まで世界経済をけん引してきた米国経済が、昨年末のゼロ金利解除以降低迷し、世界同時不況の様相を呈していることだ。
その経済低迷を打開するために、先進国が協調して財政出動を行い、景気浮揚策を採るというメッセージを世界に発信するというのが、議長である安倍総理の腹積もりだろう。欧州訪問のあと、サミット参加国ではないロシアを訪問したのも、領土問題以前に、日本の支援でロシアの投資を拡大する思惑があったものとみられる。
ただし、サミットで協調財政出動を完全に合意するのは、非常に困難だろう。財政健全化を信条とするドイツのメルケル首相が同意するとは、到底思えないからだ。
しかし、本当は財源を心配せずに財政出動をする方法がある。それは、現在問題となっているタックスヘイブンへの資金移動を制限することだ。いまや、海外投資の3分の1が、タックスヘイブンに流れ込んでいると言われる。日本からケイマン諸島に向かっている投資資金だけで60兆円に達するというのだから、逃避している資金に課税ができれば、日本だけで10兆円単位の税金が入ってくるのは確実だ。
しかも、タックスヘイブンに流れ込んだ資金は、極めて怪しい使途に向かっている。
例えば北朝鮮は、36年ぶりに開いた労働党の党大会開催に合わせて、世界のメディアに平壌の街並みを取材させた。そこで見られた風景は、頻繁に行き交う車であり、店舗にあふれる商品だった。大通りには、摩天楼がずらりとそびえ建ち、科学者は豪華なマンションに住んでいた。
いいところばかりを見せたにせよ、世界中からの経済制裁を受けて、外貨が自由にならない状況の中で、なぜそんなことが可能なのか。その唯一の答えは、タックスヘイブン経由で資金を調達できているからだろう。
北朝鮮の暴走を食い止めるためにも、タックスヘイブンを封じ込めることは、いま先進国にとって一番緊急性の高い課題だ。そして、先進国が協調してタックスヘイブンの利用を禁止すれば、大きな効果が期待できるだろう。
ところが、伊勢志摩サミットで、この問題が突っ込んで話し合われる可能性は皆無なのだ。なぜなら、参加する首脳たち自身にタックスヘイブン利用の疑いが掛かっているからだ。とくに、パナマ文書によってイギリスのキャメロン首相は、自身の関与が指摘されている。
証拠はないが、ほかの首脳もタックスヘイブンと無縁とは言い切れないだろう。叩けばホコリの出る首脳が集まって、タックスヘイブン撲滅などという話ができるはずがない。そんなことをしてしまえば、火の粉が自分自身に降りかかってくるからだ。
結局、一番大切な問題を避ける形で、サミットは「持続的成長の実現に向けて努力する」といったきれいごとを並べるだけに終わるのが関の山だろう。
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