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2016年05月23日
憲法学者の小林節氏が、政治団体・「国民怒りの声」を立ち上げて、2週間が過ぎた。クラウドファンディングも、出足は好調なようだ。筆者は、正直、小林氏が、なぜこのような行動に出たのか、充分理解出来ていなかったので、賛否は保留していた。しかし、もう直ぐ5月も終わり、6月1日は会期末なのだから、現行の野党勢力と新党「国民の怒りの声」との相関関係を考えてみようと思った。永田町的な連立2次方程式を解くことになるので、そう簡単に料理することは困難だろうが、一応考えてみた。
おそらく、小林氏の一番の怒りは、民進党と云う野党に対しての怒りが、新党結成と云う行動に繋がったのだろうと、推量している。民進党は、他の野党を結集するために、汗を流すべき立場にあった野党第一党であるにも拘らず、その労に取り組む意欲に欠けていた。オリーブの木、国民連合政府、さくらの木構想など、生まれては消えていったが、これらの野党協調構想に、最も消極的だったのが、民進党であることは、第三者でも理解していた。本来、政権を奪取する積りの野党であるならば、自らの身を削ってでも、野党勢力の勝利を目的に戦略を練る筈だが、民進党に、その気配は皆無だった。
*政党「国民怒りの声」の基本政策
基本政策は―
1、言論の自由の回復(メディア、大学への不介入)
2、消費税再増税の延期と行財政改革
3、辺野古新基地建設の中止と対米再交渉
4、TPP不承認と再交渉
5、原発の廃止と新エネルギーへの転換
6、戦争法の廃止と関連予算の福祉・教育への転換 / 改悪労働法制の改正等により共生社会の実現
7、憲法改悪の阻止
保守論壇の盟主であった小林氏が打ち出した“基本政策”は、あきらかに、民主社会主義をベースとした、地域主権型の共生社会の実現だと言える。経済政策論は、直接的に書かれていないが、行財政改革と云う概念がメインテーマとなる経済政策になる。つまり、定常経済と云う概念が底流に流れ、一定の限られた財源を、綿密に再配分し、国家の闇会計である特別会計を一般会計に落とし込むことを想定しているのだろう。この政党は、霞が関にとっては、敵そのものなので、霞が関の邪魔が入ることは想定しておくべきだ。また、憲法に関しては、教条的な護憲主義ではないが、個人より国家がより優位になる憲法改正には、断固反対と云う立場である。
09年の政権交代以降、多くの出来事をウォッチしてきたわけだが、民主党が権力を維持できなかった一番の理由は、権力を駆使したことがある小沢一郎を内閣の要に重用しなかった結果だと分析している。小沢を裁判で立ち往生させておく戦略が功を奏してと云うことだ。また、霞が関と云う組織が、自分たちの権益を犯されると確信した時には、白いものも黒にしてしまう、行政・司法上のパワーが握られている点も、現時点では判っている。そして、最大の民主党の欠点は、既得権益内の労働組合を背骨として持っていることである。このことが、7年後になって、完全に理解できたことである。つまり、政党の体質が、共産党と自民党のどちらに近いか?と比較すれば、自民党に近いのである。
行政、司法の権力構造の知識に弱く、権力の使い方が判っていない政党が、民主党であり、現在の民進党と云う評価は、概ね国民のコンセンサスと言っても過言ではない。護送船団方式の貿易立国時代の遺物のような“経団連と連合”によって、実は我が国政治は、停滞させられていると云うことだ。安倍自民党政権の論理矛盾もここに元凶がある。民進党(民主党)も、ここに元凶がある。つまり、コインの裏表のような関係で、悪く言えば、エスタブリッシュメント内での、立場の違いを表明しているだけで、同じ船に乗り合わせているのだから、どっちみち似たような答えしか出せない。
“世に倦む日々さん”は、以前、ブログ(20015.06)の中で、思い切った小林節内閣閣僚名簿と云う構想を提示された。なかなか興味深い名簿だが、谷岡、福島、船山は反対だ。蓮舫、嘉田由紀子、亀井亜紀子も頭を捻る。大臣室で、一人悶々と過ごすだけの閣僚になりかねない。結局、女性政治家が少ないことから、人材不足が露呈するのは致し方ないか。ただし、“世に倦む日々さん”は、一年近く前に小林氏が新党を立ち上げていれば、立憲主義への熱波があったので、インパクトがあったが、2016.06では、立憲主義も減価償却されているので如何か、と云う判断に傾いているようだ。
総理大臣 小林 節 外務大臣 国谷裕子 (民)
官房長官 長妻 昭 文科大臣 谷岡郁子
財務大臣 金子 勝 (民) 厚労大臣 福島瑞穂
総務大臣 片山善博 (民) 農水大臣 舟山康江
法務大臣 枝野幸男 経産大臣 蓮 舫
防衛大臣 柳澤協二 (民) 国交大臣 辻元清美
国公委員長 平岡秀夫 環境大臣 嘉田由紀子
復興大臣 山本太郎 沖縄担当相 糸数慶子
経済再生相 藻谷浩介 (民) 地方創生相 亀井亜紀子
官房副長官 山井和則 官房副長官 森 裕子 ≫(世に倦む日々様のブログより)
参考URL
http://critic20.exblog.jp/24315153/
たしかに、あまりにも唐突な新党立ち上げで、準備不足は甚だしい。また、民進党も共産党も、票の食い合いが起きるだけじゃないかと、危惧する声が多数を占めている。現状の永田町の勢力図の中に、この「国民怒りの声」を嵌め込めば、民進党や共産党の主張も肯ける。しかし、現在の永田町勢力図は、日本の活断層同様に、判っているものだけが書き込まれているわけで、何も書いていないところには活断層がないのではなく、調べていないと云うだけのことだ。この理屈を日本の国政選挙に落とし込むと、無党派層は、調べられたことがない活断層だと考えることも可能だ。
小林節氏の「国民怒りの声」は、現時点で“小林ひとり”と云う状況なので、酷くひ弱に見える。しかし、嫌民主(嫌民進)、嫌共産と云うハードルを越えるには、どうしても、新たな新党が必要不可欠だったのは、時代の要請だろう。民進党では、自民党よりも、少しだけ国民よりだが、所詮、戦後日本の枠組みを変えようと云う意思はない。共産党は、大道を置いてと云う事は、最終的に、その大道を目指すのだとなると、それも困る。真面目に考えれば、「国民怒りの声」が誕生する社会背景は存在している。
経済政策と云うか、世界経済における日本経済と云う意味で、成長経済幻想と決別し、定常型経済を前提にした、富の再配分を主張する政党は、時代の要請として、絶対に必要だから、おそらく、生まれてきたと、筆者は善意に解釈する。無理な目標を立てて、二進も三進も行かず、ヤケクソ気味に戦争経済に突入するリスク回避のためにも、成長しない経済の中で、どのような遣り繰りが可能か、それを提示できる政党には、21世紀は生き残り、次のステップを踏む資格が与えられるのだと思っている。小林氏以外の著名人、例えば古賀茂明、吉永小百合氏、田中康夫、膳場貴子、国谷裕子、石田純一、益川敏英、上野千鶴子などの名前が公表されれば、ニュースバリューも跳ね上がるのだろう。最後に、東京新聞の小林新党の解説と古賀茂明氏が、「国民怒りの声」に対して、評価するコラムを書いていたので以下に紹介しておく。
≪ 小林氏ら団体設立 反安倍、でも野党不信の「あきらめ票」発掘狙う
政治団体「国民怒りの声」を立ち上げる小林節・慶応大名誉教授が九日に発表した安全保障関連法廃止など七つの基本政策は、安倍政権が推進する政策とは逆方向で、民進党や共産党に近い。小林氏は、参院選での野党共闘を分断するものではなく、新たな政権批判票を掘り起こす役割を果たせると強調した。 (宮尾幹成、清水俊介)
◆立ち位置
「安倍政権は、世界のどこででも戦争のできる法律を成立させてしまった」
小林氏は会見冒頭に読み上げた設立宣言で、安保法に真っ先に言及し、廃止を訴えた。安保法は安倍政権が成立・施行させたが、民進(当時は民主と維 新)、共産、社民、生活各党は廃止法案を今国会に共同提出した。安保法が違憲との議論に火を付けた小林氏自身が出馬することで、安保法の廃止が参院選の争点として注目が高まりそうだ。
自らの専門の憲法を巡っても、小林氏は「改正はいいが、改悪は駄目」という表現で、安倍政権による改憲の動きを批判した。
安倍政権が「知る権利」を脅かす特定秘密保護法を成立させたことや、放送界への政治介入とも取れる圧力に触れ「言論統制を止めなくては駄目だ」と訴えた。野党側が一貫して問題視してきた点だ。
原発は廃止を主張。沖縄県名護市辺野古(へのこ)への米軍新基地建設の中止も打ち出した。これらも野党側の主張に近い。政策的に「反安倍政権」の立ち位置は明確だ。
◆役割分担
過去の国政選挙では、同じ主張を掲げる野党が個別に候補者を立て、共倒れになってきた。夏の参院選はどうなるのか。
「国民怒りの声」は民進党を支持してきた人は民進党を、共産党の支持者は共産党を支持してほしいと明言。自分たちは「『どうせ政治は変わらない』と諦めて棄権してきた無党派層」をターゲットにすると説明する。
安倍政権には投票したくないが、民進党にも共産党にも拒否感がある層の票を掘り起こす役割分担を目指しているとみられる。
だが、「国民怒りの声」が棄権票を拾うのにとどまらず、これまで両党に入っていた政権批判票の一部が流出する可能性は否定できない。民進党幹部は「野党が分裂しているようなイメージを与えてしまう」と話した。
民進党の長妻昭代表代行は九日の記者会見で「できる限り、連携しながらやっていく必要がある」と述べた。共産党の小池晃書記局長は「今の時点でコメントする中身はない」とだけ話した。
小林節・慶大名誉教授の会見の要旨は次の通り。
【冒頭発言】 (安倍政権では)権力を一時的に託されただけの政治家が憲法を無視し、勝手に行動を始めた。安倍政権の暴走は止めたいが、いまだに民主党政権の失政をゆるせず、共産党に投票する気にもなれない多数の有権者の代弁者たらんとして、第三の旗を立てることにした。
基本政策は(1)言論の自由回復(メディアへの不介入)(2)消費税再増税の延期と行財政改革(3)辺野古新基地建設の中止(4)環太平洋連携協 定(TPP)不承認(5)原発廃止と新エネルギーへの転換(6)戦争法(安保法)廃止と関連予算の福祉・教育への転換、改悪労働法制の改正(7)憲法改悪の阻止。
【質疑】
−野党票を奪い合うのでは。
「組織政党に勝つために裾野を広げるには、中間層の受け皿がなければいけない。投票率が上がる装置がないといけないと思い、苦肉の策でこの挙に出た」
−参院選で改選一人区に候補者を出す予定は。
「ない。お互いが納得できたら喜んで(他の野党系候補を)推薦する」
−選挙資金は。
「世論の支持なしにやってもしょうがない。クラウドファンディング(ネットを使った献金)で反応を試し、駄目だったらやめるぐらいの考えだ」
−参院選の目標は。
「野党全体で(改憲勢力に)三分の二を取らせないことが唯一の関心事だ」 (関口克己)
≫(東京新聞)
≪ 古賀茂明「日本再生に挑む」 「国民怒りの声」が国民の支持を得る唯一の方法
今、新党が本当に必要なのか…
5月9日、政治団体「国民怒りの声」設立というニュースが各紙で報じられた。
安全保障法制を「違憲」として廃止を訴える憲法学者の小林節慶応大名誉教授が設立するという。「設立宣言」を読むと、「政府自身が公然と憲法を破った」「立憲主義の危機」などという言葉が並ぶ。基本政策も他の野党と大きな違いはない。
夏の参院選に小林氏を含め全国比例区で10人以上の擁立を目指すというのだが、早くも野党側からは、「今頃新しい野党を作っても票を奪い合うだけ、自民党を利する」という批判が聞こえてくる。
小沢一郎氏が提唱した地域政党との連携策である「オリーブの木」構想が頓挫し、同じく、亀井静香氏が提唱する「さくらの木」構想も挫折してしまった。
これらの「統一名簿方式」では、各野党が小選挙区での独立は維持したまま、反安倍政権というその一点で協力するために、全国比例区だけは政党を超えて候補者を統一の名簿で立候補させる。当選した議員は、選挙後、元の所属政党に戻るという方式だが、死票が少なくなり野党の議席が増えるという利点がある。
では、「オリーブの木」、「さくらの木」の動きや野党共闘の動きと今回の「小林新党」の違いは何か、そして、今頃新党が本当に必要なのか。とりあえずの評価をしてみよう。
「差別化」のポイントと「存在意義」
まず、野党共闘と言うと聞こえがいいが、実際は、民進党議員を統一候補として、市民に応援させるだけという選挙区がほとんどだ。無所属の形を取って も、一皮剥けば民進党という例も多い。共産党は嫌だけど、民進党も同じくらい嫌だと考える無党派層は非常に多いが、彼らから見ると、そんな野党共闘は何の魅力もない。
また、元は純粋な市民候補という場合も多少はあるが、素人だけでは選挙運動ができず、結局は政党の中に取り込まれていく例も多い。
次に、「オリーブの木」も「さくらの木」も、実は、落ちぶれた政党・政治家の生き残り策でしかなかった。このため、民進党は、どう考えても世論の支持を得られないと判断し、参加を拒否。どちらの構想も頓挫した。
小林氏の新たな動きが既成政党に頼らない市民の運動体を目指すとすれば、まさにそこが「差別化」のポイントだ。
既成政党に幻滅し、民進も共産も嫌だという無党派層の受け皿となれれば、この運動の「存在意義」が見えてくる。今後、世間が驚くような著名人が合流し、認知度が上がれば、大きなうねりが生まれる可能性は十分にある。
逆に言えば、魅力的な有識者候補が集まらず、最終段階で落ちぶれた既成政治家が入ってくるようなことにでもなれば、世間は見向きもせず、安倍政権に押さえ込まれたマスコミにも泡沫候補扱いされて終わりだろう。つまり、この構想は大失敗に終わることになる。
そうなれば、既成政党に頼らない新たな政党の設立という運動に大きく水を差し、日本の民主政治にとって深刻なダメージを与える可能性がある。
最後まで、既成政党・政治家に頼らないという姿勢を堅持できるのか。 まさにこれから1ヵ月が正念場。その帰趨に注目したい。 ≫(現代ビジネス:古賀茂明「日本再生に挑む」−『週刊現代』より)
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