(時時刻刻)熊本復興へ柔軟支出 補正7780億円成立、大半使途定めず 2016年5月18日05時00分 朝日新聞 熊本地震の復旧に充てる総額7780億円の補正予算が17日、参院本会議で全会一致で可決、成立した。激甚災害の指定で復興への足がかりは整いつつあるが、被災自治体の財政負担は大きい。与野党からは、さらなる自治体への支援を求める声が出た。 成立した補正予算のうち7千億円は使途を限定しない「熊本地震復旧等予備費」で、地震で損壊した道路や橋といったインフラ復旧やがれき処理、中小企業の事業再建などに充てられる。政府は東日本大震災後の2011年度にも補正予算で8千億円の予備費を計上。東京電力福島第一原発事故の除染や、中小企業の事業再建のための経費などに使われた。この時と同様に、柔軟な財政支出で迅速な復旧をめざす姿勢を示した。 このほかに「災害救助等関係経費」として、仮設住宅の建設費などに573億円▽自宅が壊れた世帯の生活再建のための支援金(最大300万円)に201億円▽地震で家族を亡くした遺族に支払う弔慰金など6億円――を盛り込んだ。 安倍晋三首相は補正予算成立を受けて「安心して暮らせる生活を取り戻すことができるその日まで全力を尽くしていきたい」と語った。ただ、補正予算成立で足並みをそろえた与野党からは、さらなる財政支援を求める声も出ている。 17日の参院予算委員会では、東日本大震災並みの特別措置法を作り、国の全額負担を求める意見が相次いだ。いまの激甚災害指定では復旧事業に取り組む自治体の実質的な負担率は1%以下だが、それでも財政規模の小さい自治体にとっては負担が重いからだ。熊本選出で自民党の松村祥史氏は「市町村の財政負担がゼロになる特別立法が必要だ」と主張。民進党の福山哲郎氏も「(首相に)熊本県について特別立法の準備をしろと指示を出してもらいたい」と訴えた。 これに対し安倍首相は「(被災自治体が)財政的に立ちゆかなくなることには絶対にならないように対応したい」と追加支援の可能性に触れたが、特措法の制定には言及しなかった。特措法により全額国費で地元負担がなかった東日本大震災では、一部で復興と直接関係のない道路や施設の整備に予算が使われて批判を受けた経緯もあり、政府は慎重な姿勢とみられる。 (横枕嘉泰、大津智義) ■県「財政負担なくして」 「財政支援なしには必要な予算が確保できず、熊本の復旧・復興が実現できません。復旧・復興の前に財政が破綻(はたん)してしまいます」。今月9日、熊本県の蒲島郁夫知事は官邸で安倍晋三首相に面会し、約350項目の要望を伝えた。 熊本県内では17日現在、一連の地震で49人が亡くなり、ほかに関連死の疑いが20人。住家の損壊は8万7797棟で、約1万人がなお避難を続ける。4月26日の中間集計で公共土木施設の被害額は1700億円を超え、今月9日に公表された農林水産業の被害額も1072億円にのぼる。 復旧・復興をめぐり、蒲島知事は「創造的な復興」を掲げ、元に戻すだけでなく発展につなげる考えを強調。9日の首相への要望では、財政基盤が弱い町村部の被害が大きいため、東日本大震災並みに自治体の負担をなくす特別立法を強く求めた。さらに、阿蘇大橋など本来は自治体が行う復旧事業の代行▽仮設住宅の建設費の限度額引き上げ▽医療施設の早期復旧支援▽被災者や被災企業への支援の拡充――など幅広い分野で国の支援を求めた。 それだけに発生1カ月余りでの補正予算成立に、蒲島知事は「不安を抱える県民に安心感を与える」と歓迎する談話を出した。 一方で、予備費が7千億円を占めたことから、県は関係省庁からの情報収集を急ぐが、県の財政負担が必要な事業がどの程度あるかなど、見えないことが多いという。県の補正予算案は政府が個別事業への配分を決めないと編成できないといい、ある幹部は「どこにどれだけ使えるのか、早く知りたい」と気をもむ。 すばやく柔軟姿勢を示そうとした国と財政負担を軽くしたい地方――という構図の中で成立した今回の補正予算。ただ、立命館大法学部の大西祥世教授(憲法学)はこう釘を刺す。「国会が事後に使い道を厳密に確認する必要がある」 ■被災者「住宅・道路を早く」 この補正予算を、具体的にはどう使うべきか。熊本県内の被災者からは、住まいの確保に加え、農業施設や交通網の復旧を求める切実な声が聞かれた。 震度7が2度襲った益城町。大工の道畑敬治さん(51)は「一日も早く元の町並みにしてほしい」。自宅は「危険」の判定で、今も家族6人でテント暮らしだ。「仮設住宅の建設でも町の対応は後手。国の予算が自治体を通じて迅速に地元に届くのか」と不安も口にした。同町の嶋田一徳さん(69)は、田植えを前に用水路の補修を続ける。「ひび割れや段差を直す予算をもらえたら、農業をあきらめなくて済む」 一方、南阿蘇村は、阿蘇大橋の崩落で村の東西の分断が続き、国道57号やJR豊肥線も途絶したままだ。土産物店の店主、三森俊昭さん(71)は「客は震災前の1割もない。観光客がスムーズに来られるようにまず道を整備するのに補正予算を使ってほしい」と訴えた。 http://www.asahi.com/articles/DA3S12362351.html
|