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「オバマ広島訪問」を手放しで喜ぶメディアへの違和感 トランプ発言はどう受け止めるのか
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48651
2016年05月13日(金) 長谷川 幸洋「ニュースの深層」 現代ビジネス
■オバマ訪問を称えるメディアへの疑問
オバマ米大統領が5月27日、伊勢志摩サミットに合わせて広島を訪問する。歴史的訪問であるのは確かだが、一方で米大統領選の共和党候補に確定したドナルド・トランプ氏が日本の核武装を容認する発言を繰り返している現実をどう受け止めるのか。
オバマ大統領は来年1月に任期が切れる。レームダック状態の大統領にとっては、広島訪問を自らのレガシー(遺産)にする思惑もあるだろう。大統領は「核なき世界」を訴えてノーベル平和賞を受賞している。広島訪問はレガシーに一段と花を添えるはずだ。
大統領の思惑がどうあれ、私は広島訪問を歓迎する。くさすつもりはまったくない。だが、大統領が広島に来たところで、世界の平和と安定が核抑止力に頼っている現実は変わらない。それどころか、むしろ事態は悪化している。そちらのほうがよほど心配だ。
まず、北朝鮮は言葉だけ「非核化」を言い出したが、実際には核開発をあきらめてはいない。本音と建前はまったく違う。
米国も本音と建前が違う。オバマ政権は核兵器削減に取り組んでいるが、だからといって核を放棄したわけではない。加えて最近のトランプ発言だ。私はトランプ氏がいまや日本にとって「最大のリスク要因」になったとみる。
オバマの広島訪問を大々的に報じる一方、同じ紙面でトランプ発言について1行も論評がない新聞にも違和感を感じてしまう。まるで理想の世界しか見えていないかのようだ。
そこでトランプ発言を振り返ろう。
トランプ氏は日本に対して米軍駐留経費の負担増を求めている。CNNのインタビューでは、駐留経費の全額負担を求め、応じなければ「在日米軍の撤収を検討する」と述べている。背景には「米国の経済力が低下している」という認識がある。
日本はどう反論するのか。
■トランプが突きつけた「新たな取引」
石破茂地方創生相は訪米先のシンポジウムで、日米安保条約の下で米軍は日本だけでなく「極東における平和と安全」を守るために駐留していると指摘して、だから「条約の内容から論理必然として出てこない」と反論した。
こんな反論で十分かといえば、もちろん十分ではない。
米国がなぜ日本と極東を防衛するのかといえば、米国自身の安全保障に関わっているからだ。冷戦時代、日本や極東地域が共産主義勢力の手に落ちれば、自由主義陣営の盟主である米国は東アジアで橋頭堡を失ってしまう、と心配した。
「極東」とはどこか。条約では明示されていないが、1960年の条約改定時には日米両国が当時の韓国や台湾、フィリピン、ベトナムなどを念頭に置いていた。日韓に加えてベトナムやフィリピンまで共産化してしまえば、米国の勢力圏はグアムやハワイまで後退せざるをえなくなる。
それは米国の敗北であり、当時の超大国である米国には到底、受け入れがたかった。だからこそ、米国は泥沼状態になるまでベトナム戦争も戦った。つまり米軍の日本駐留は共産主義勢力から米国自身を守るためでもあった。
この認識は冷戦終結後も基本的に変わっていない。旧ソ連の崩壊後、たしかに共産主義の脅威は減ったが、だからといって、いま中国や北朝鮮が東アジアの平和と安全を脅かしているのは明白である。
ところが、である。
トランプ氏は議論の前提である「駐留米軍は米国を守るため」という点を認めていない。彼は「在日米軍を撤収させてもいい」、つまり「米国を守るためなら、何も日本に駐留させておく必要はない」という認識なのだ。
米国には日本や韓国、ドイツに米軍を駐留させる経済的余裕はないのだから「日本がカネを出さないなら、オレたちは撤収する。それでも米国は自分で自分を守れる」という論理である。
初代のジョージ・ワシントン大統領以来、もともと米国は他国の問題に関わりを持たず、自分自身の平和と繁栄を追求すればよいとする「不介入主義(孤立主義)」が建国の原点だ。
第二次大戦後、民主主義の理想を掲げて世界の問題に積極的に介入する「国際主義」が主流になったために忘れがちだったが、トランプ氏の主張は「建国の理念に戻った」面がある。しかも単に理念だけを言っているわけではない。
これまで米国が表立って認めたくなかった経済力の低下を認めたうえで、ではどうするのが現実的か、と考えて「新たな取引」を打ち出している。
■日米の危険な駆け引き
米軍が撤収すれば、日本や韓国は自力で中国や北朝鮮の脅威に対抗しなければならなくなる。だからトランプ氏は「日韓が核武装を選ぶなら、私は容認する」という。主張は首尾一貫している。実にシンプルだ。
「カネを出さないなら、オレは帰るよ」という言い分に対して、日本はどうするか。
まず「日本はいまも十分、カネを出している」という反論がある。米国防総省が2004年にまとめた報告書によれば、日本は駐留経費の74.5%を負担しており、韓国の40.0%やドイツの32.6%よりずっと多い。
だが「全額出さないなら帰る」とまで言われると、日本が「帰られた場合はどうするか」について考えないわけにはいかない。それは必ず、日本独自の防衛を考えるという話になる。
そういう議論はすでに始まっている。私が目にした限り、何人かの有識者が「独自防衛」に言及し始めた。ずばり言えば、やがて選択肢として日本の核武装も真剣に議論されるようになるのではないか。
トランプ氏が大統領にならなかったとしても、あれだけの支持を集めた現実はあなどれない。米大統領選が示しているのは、旧来の共和党vs民主党ではなく「支配階層」vs「反支配階層」という新しい構図である。
反支配階層の勢力は「世界よりアメリカだ」という演説に熱狂している。米国の撤退論は勢いを増しこそすれ、弱まることはないのではないか。ましてトランプ大統領が誕生すれば、米軍撤退論と日韓の核武装論に火を点けてしまう可能性が高い。
トランプ大統領が米国を東アジアから撤退させ、日韓の自主防衛に任せてくれたら、一番喜ぶのは中国である。中国の勢力圏を一挙に拡大する絶好のチャンスになるからだ。
安倍晋三政権が昨年来、安保関連法を見直して日米同盟の強化に動いたのは「米国の弱体化と東アジアからの撤退」というシナリオが予想外ではなかったからでもある。だが、トランプ氏は日本の米国抱き込み戦略を承知のうえで「オレに逃げられたくないならカネを出せ」と言っている。
トランプ発言とそれを受けた日本の核武装論は、言ってみれば日米が切り札を出しあう「瀬戸際作戦」のようなものだ。だからこそ危険なのだ。
■喜んでいる場合ではない
トランプ氏は日本が米国牛肉に高関税を課すなら、代わりに米国は日本の自動車に高関税を課すとも主張している。環太平洋連携協定(TPP)交渉では、まさにその点が焦点になった。
日本は牛肉関税を16年かけて9%に引き下げる一方、米国は乗用車関税を協定発効から25年後に撤廃する。これでは米国が不利とみたのだろう。だからトランプ氏はTPPに反対している。中国についても「中国製品の輸入関税を45%にする」と言っている。
だが、極端な保護主義に走って自由貿易を縮小させるなら、トランプ氏が目指す「強い米国の復活」は望むべくもない。iPhoneやiPadをはじめ多くの米国輸出製品には、日本や中国からの輸入部品が入っている現実を知っているのだろうか。
米国が世界との壁を高くして、米国だけの繁栄を達成できると考えるのは夢物語だ。米国の経済的孤立→一層の弱体化→安全保障の孤立化→東アジアの不安定化→核を含む日本の独自武装という悪夢のシナリオが頭をよぎる。
それを思うと、オバマの広島訪問を喜んでいる場合ではないのだ。
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