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2つのジンクスを前に安倍総理は衆院解散を決断するか?ー(田中良紹氏)
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26th Apr 2016 市村 悦延 · @hellotomhanks
夏の参院選の前哨戦と位置づけられた衆院北海道5区と京都3区の補欠選挙は予想通りの結果となった。
故町村信孝前衆議院議長の「弔い合戦」となる北海道5区で与党は何とか議席を守り抜き、
与党が候補を立てなかった京都3区では民進党候補が大勝した。
この結果を受けて安倍総理が夏に衆参ダブル選挙を仕掛けられるかどうかが
今後の政治の見どころとなる。この夏の参院選には2つのジンクスがあり、
それを考えると安倍総理はどうしても衆院解散に踏み切りたいと思うだろうが、
その解散戦略には狂いが出始めており、乗り越えなければならない壁がある。
安倍総理はこれからいよいよ正念場を迎えるのである。
2つのジンクスとは、1つは日本で主要国首脳会議(サミット)が開かれる年には
必ず衆院解散があるというジンクス、
もう1つは1989年以来9年ごとの参院選で自民党総理は必ず退陣に追い込まれるというジンクスである。
日本で初めてサミットが開かれたのは1979年だが、
その年に大平総理は財政赤字を解消するため消費税導入を掲げて衆議院を解散した。
次の1986年には中曽根総理が自らの任期延長を目論んで衆参ダブル選挙に打って出た。
3回目となる1993年は政治改革を巡り宮沢総理への内閣不信任案が可決され、
宮沢総理は総辞職ではなく解散を選択して、選挙戦の真っ最中にサミットは行われた。
4回目の2000年サミットは小渕総理の強い意向で開催場所を東京から沖縄に移したが、
小渕総理は直前に病で亡くなり、
後を継いだ森総理はサミットを前に自公保連立の是非を問うため衆議院を解散した。
そして前回となる2008年洞爺湖サミットは第一次安倍政権の下で安倍総理によって決められたが、
2007年の参院選惨敗によって安倍総理は退陣に追い込まれ、福田総理が議長を務めた。
その2008年にも衆院解散は想定されていた。
福田総理はサミットを終えると、選挙の顔には麻生総理がふさわしいとして退陣する。
しかしリーマンショックが起きて麻生総理は解散を躊躇し、解散は2009年に持ち越された。
その間に自民党は支持率を下げ、2009年の総選挙は日本で初の政権交代をもたらす結果になった。
このようにサミットが日本で開かれる年には必ず衆院解散か解散を模索する動きがある。
そしてもう一つのジンクスは安倍総理が思い出したくもないジンクスだ。
1989年以来9年ごとの参院選で決まって自民党総理が退陣するのである。
自民党が結党以来初めて参院選に敗れたのは1989年の宇野政権下である。
前年の消費増税強行採決とリクルート事件の金銭スキャンダルで退陣した竹下総理に代わり、
中曽根元総理を後ろ盾にした宇野宗佑氏が総理に就任すると、
すぐさま女性スキャンダルが明るみに出て自民党は参院選で歴史的惨敗を喫した。
与野党の議席数が初めて逆転、社会党の土井党首に「山が動いた」と言わしめた。
宇野総理は責任を取って総理を辞任する。
それから9年後、橋本政権下で自民党の支持率は回復し衆議院で単独過半数を確保するまでになり、
野党と連立を組む必要がなくなった。
橋本総理は財政再建路線から景気対策に力を移す方針で、
1998年の参院選は自民党の勝利が予想されていた。
ところが前年の3%から5%への消費増税や、
恒久減税を巡る総理の発言にぶれが出たことなどから自民党は予想を下回る議席しか獲得できず、
橋本総理は責任を取って辞任した。
自民党はそれ以来、単独で政権を維持することができなくなり自公連立が常態化する。
それからまた9年後、第一次安倍政権下の2007年参院選は、
小泉総理による郵政解散で自公が衆議院で三分の二以上を確保し、
参議院でも過半数を維持する盤石の体制の下で行われた。
ところが小泉構造改革によって格差が広がる中、
安倍自民党が「成長を実感に」と訴えたのに対し、
「国民の生活が第一」を掲げた小沢民主党に大差で敗れ、衆参に「ねじれ」が生まれた。
政治未熟の安倍総理は退陣を拒んだが、
小泉元総理や二階国対委員長らによって退陣に追い込まれる。
海上自衛隊のインド洋での給油活動ができなくなるよう国会を開催させず、
国際公約を果たせない総理になることが確実になって安倍総理は退陣を決断した。
表向きは体調のためとされたが、実際は与党が巧妙に安倍総理をやめさせたのである。
その悪夢から9年後が今年である。
したがってジンクス通りなら、安倍総理は夏の参院選に敗北して総理をやめなければならなくなる。
安倍総理は何としてもそれを避けたい。
そこで参考にしたくなるのが1986年の中曽根総理による衆参ダブル選挙である。
サミットがある年に行われた衆院解散で唯一最良の結果を出した。
しかも中曽根総理の目的は自らの任期を延長するためで、
ダブル選挙に圧勝して自民党の党則を変え、
2期までしか認められていない総裁任期を3期まで認めさせようとした。
安倍総理が同じことをやって成功すれば2018年までの総裁任期を
東京オリンピックの2020年まで延ばすことができる。
そのための解散戦略を安倍総理は練ってきたはずである。
アベノミクスの成長戦略に陰りが見えてきたことから、
経済政策の軸足を成長路線から分配路線に転換した「一億総活躍社会」構想を打ち出す。
弱者にもやさしい顔を見せて選挙を有利にしようというわけだ。
また今年はサミットの議長国として自らが世界のリーダーと肩を並べることになるため
「外交」を最大限にアピールすることを考えている。
昨年の集団的自衛権行使容認が国内に分断と対立を生み出したことから、今年はそれを薄める効果を狙う。
その一つとしてアメリカべったりではないことを印象付ける目的でプーチン大統領と首脳会談を行い、
北方領土問題が前進するかのような印象を国民に与える。
またオバマ大統領の広島訪問を実現させ、
平和外交の主導的役割を安倍総理が果たしている印象を国民に持たせる。
そのうえで消費増税先送りを表明して会期末に解散を断行、
衆参ダブルによって野党共闘を分断する戦略を考えていたと思う。
参議院選挙単独なら進展する可能性のある野党共闘も衆参ダブルとなれば
主義主張の異なる野党間の共闘は難しくなるからだ。
しかしこの戦略にはリスクもある。安倍総理の対ロ外交をアメリカは好ましく思っておらず、
一方でプーチンの外交術にからめとられる恐れもある。
またオバマ大統領の広島訪問が実現すれば、サミットの主役はオバマ大統領に集中し、
安倍総理の存在感が薄くなるうえ、下手をするとこれが第二次世界大戦を巡る「歴史認識」問題に
火をつける可能性がある。
そもそも安倍総理の「歴史認識」をオバマ政権は嫌っており、第二次安倍政権誕生以来、
終始、冷ややかな態度を取り続けてきた。
それに対して安倍総理はTPPへの積極参加と
集団的自衛権行使容認というアメリカの国益に協力する態度を見せ、
アメリカ議会の演説では「歴史認識」も含めてアメリカに「完全従属」する姿勢を表明した。
それでオバマ政権は一時的に安倍政権を持ち上げたが、現在では再び冷ややかな態度に戻っている。
そして熊本地震の発生が与党内にダブル選挙慎重論を生み出した。
復興に全力を挙げなければならない時に「政治空白」を生むダブル選挙は避けるべきだというのである。
安倍政権に対するアメリカの態度に変化が現れたと同時に、
これまで安倍総理に逆らうことのなかった与党内に変化が表れてきているのである。
特に注目すべきは二階総務会長がダブル選挙をどう見るか、
第一次安倍政権を終わらせた張本人であるだけに気になる存在である。
そして官邸を取り仕切る菅官房長官もダブル選挙には慎重だと報道されている。
そうした力のベクトルがどう動くか、
それを見極めながら安倍総理は衆院解散の是非を判断しなければならないが、
決断までの時間はあと1か月以内とほとんど残されていない。
シナリオの再構築は可能なのか、あるいは当初の構想通りに突き進むのか、
安倍総理は政治家としていよいよ正念場を迎える。
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