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DOL特別レポート
2016年4月26日 松井雅博 [政治ジャーナリスト]
衆参同日選を見送った安倍総理の真の思惑
北海道は自民、京都は民進が勝利
2つの補選結果は何を物語るか?
北海道5区と京都3区の補欠選挙と、安倍総理が決めた衆参同日選の見送り。参院選を睨んだ駆け引きが続くなか、足もとの政局が持つ意味を考えよう
4月24日、北海道と京都で2つの衆議院議員補欠選挙が行われた。
7月に迫る参議院議員選挙の前哨戦として注目を集めるなか、北海道5区(札幌市厚別区、江別市、千歳市、恵庭市、北広島市、石狩市、石狩振興局管内)では自民党の和田義明氏が勝利。京都3区(京都市伏見区、向日市、長岡京市、乙訓郡)では民進党の泉健太氏が勝利した。
民進党が誕生して初の国政選挙。北海道では接戦に持ち込み、京都では初の白星をあげ、勢いづいているようにも見える。
実際、比例復活当選だった泉氏が晴れて小選挙区で当選したことによって、民進党は比例の1議席を増やした形となった。だが、本当に民進党は諸手をあげて喜んでよいのだろうか。
一方、安倍総理はかねてから噂されていた衆参同日選を見送る方針を固めた。筆者は当初から「あり得ない選択肢」だと主張し続けていたが、今回の2つの補選の結果をきちんと総括した上で、改めてそれを論じたい。
筆者は、マッキンゼーでコンサルタントとして働いた後、国会議員政策担当秘書として政治の世界へ飛び込んだ。与野党の国会議員事務所で2年半働いた後、兵庫県第10区(加古川市、高砂市、稲美町、播磨町)より衆議院議員選挙へ出馬し、5万1316票を獲得するも落選。一民間人の感覚で政治の現場や裏側を見た経験を活かし、政治をできる限りわかりやすく、面白く、読者にお伝えしている。
北海道5区は、もともと町村信孝・元衆議院議員の地盤であった。2015年6月1日に脳梗塞で亡くなったため、今回の補選が行われた。
町村元衆議院議員と言えば、安部総理や小泉元総理も所属していた自民党最大派閥「清和政策研究会」の元会長であり、名実共に大物議員だ。その弔い合戦ともなれば、自民党としては負けられない戦いであろう。
自民党の候補者は、和田義明氏(44)。亡くなった町村元議員の娘の夫にあたる。早稲田大学を卒業後、三菱商事へ入社。絵に描いたようなエリートキャリアである。
一方、和田氏に挑んだのは「無所属」の池田真紀氏(43)。シングルマザーとして2人の子どもを育てている。高校中退、福祉職場勤務。2014年12月の衆院選では北海道2区(札幌市北区・東区)で出馬し落選しており、選挙区を鞍替えしての挑戦となる。実質的には、民進党と共産党の野党連携による統一候補者ということになり、この対照的な2人による一騎打ちの模様が目を引いた。
安保法制とTPPへの関心に見る
「参院選の前哨戦」としての補選
さらに、この選挙が参院選の前哨戦として注目される理由は、争点とされている安保法制やTPPに対して有権者の関心が強い選挙区であるということだ。北海道5区の一部、千歳市の人口のうち4人に1人は自衛隊関係者(家族や退職者含む)とも言われる。また、北海道という土地柄ゆえに、農業に対する関心は高く、自由貿易に対しては不安や反対の声も根強い。自民党からしてみれば、安保法制とTPPについて有権者の信を得るためにも、重要な一戦だったと言える。
結果的に、有権者の審判は以下のようにくだった。
2016年4月24日の衆議院議員補欠選挙(北海道5区)
・当 和田義明(自) 135,842
・落 池田真紀(無) 123,517
確かに、一見池田氏は和田氏を接戦に追い込んでいるように見えた。だが、2014年12月の衆院選とほとんど投票率が変わらないなかで、和田氏の得票数は前回選挙の町村元議員のそれを上回っている。つまり、今回の選挙で票を積み増したのは自民党であって、民進党への支持の広がりはなかったことが露呈してしまった。そもそも国政で「無所属」というのも、支持が伸び悩んだ一因かもしれない。当選後のビジョンが伝わらなかったとも言える。
一方で、池田氏の得票数は前回の民主党と共産党の得票数のそれを足し算した数字とほぼ同じであり、野党共闘が一定の有効性を持つことも明らかになった。これでは自民党も、衆院を解散するには勇気がいる。
衆議院を解散する戦略的意義は、参院選での票の積み上げである。そう考えるならば、下手に衆院を解散せず、このまま手堅く参議院議員選挙に集中した方がよいはずであり、所属議員たちの反対論を押さえるのは難しい。不用意に解散すれば、むしろせっかく3分の2の議席を与党が押さえている衆院で議席を減らす危険性さえあり、本末転倒である。
「一応勝ってほっとした。でも野党共闘はある程度怖い」
これが、自民党が衆議院を解散できない理由の1つ目である。
京都3区は不倫辞任の穴埋め戦
民進党は「勝利」と言えるか?
京都3区は、育休宣言から一転、不倫辞任で話題になった宮崎謙介議員の辞職に伴う補選であった。辞任の理由が自党議員の不祥事だったこともあり、自民党は候補者を擁立しなかったため、乱立する野党候補から野党第一党を決める不思議な戦いとなった。
結果は、民進党の泉健太氏の圧勝で終わった。次点となったおおさか維新の会の森なつえ氏と比べ、ほぼトリプルスコアでの勝利だ。これにより、比例復活当選だった泉氏は晴れて小選挙区で議席を得て、民進党は1議席を増やすことになる。
2016年4月24日の衆議院議員補欠選挙(京都3区)
・泉健太(民) 65,051
・森夏枝(維) 20,710
・小野由紀子(日)6,449
・田淵正文(無) 4,599
・大八木光子(幸)2,247
・郡昭浩(無) 370
確かに、これは民進党の勝利である。しかし、それは対与党に対する勝利と言えるのだろうか。2014年12月に行われた前回の衆議院議員選挙の得票数と比較しながら、考察してみよう。
2014年12月14日 衆議院議員選挙(京都3区)
・小当 宮崎謙介(自) 59,437票
・比当 泉健太(民) 54,900票
・落 石村和子(共) 26,655票
・落 清水鴻一カ(維) 24,840票
こうして比較すると、泉氏は一万票積み上げているが、これはおそらく共産党票の流入の結果であって、実は前回自民党を支持した有権者はほとんど投票を棄権している。これでは、次の選挙で自民党が新しい候補者を擁立したら、勝負の行方はわからなくなる。
つまり民進党としては、今回の結果はあくまでも一時的な勝利にすぎない、ということは肝に銘じておかねばなるまい。
一方の自民党からすれば、一刻も早くこの選挙区の議席を取り戻したいという衝動に駆られるだろうが、自ら候補者擁立を自粛しておき、すぐに衆議院を解散することが受け入れられるとは思えない。
北海道5区と京都3区では、2012年12月、2014年12月、2016年4月と、この4年間で3回も衆院選が行われている。これで7月にまた解散するとなると、「いったい何回選挙をやれば気が済むんだ」という批判は避けられない。
「あまりに選挙が多すぎる」
これが、自民党が衆議院を解散できない2つめの理由である。
失速するおおさか維新の会
大阪以外で受け入れられるのか?
今回の京都3区補選で打撃を受けたのは「おおさか維新の会」であろう。ここまで注目された戦いの中で大敗を喫してしまった以上、勢いの低下は否めない。
この選挙区では、前回の選挙でも維新候補は最下位であったため、こうなることは予めわかっていたはずで、せめて次につながる戦略を描けないならば、候補者を擁立しない方がよかったのではないか、と思う。
おおさか維新の会は民進党と共産党の連携を強く批判していたが、それは有権者の人々が投票によって判断することであり、正直あまり意味があるとは言えない批判である。そもそも、愛媛で二度衆院選に出馬した候補を京都に連れてきて「おおさか」と叫ばせるのは、まるでコントである。維新を支持する人の中にも、首を傾げる人は多かったのではないか(実際、得票数は4000票以上減少)
たとえば、サッポロ・ビールのように特定の地域の名前を社名に冠する会社もある。しかし、ビールのような飲料であれば、消費者は日々異なるものを求める傾向が高く、「今日はキリン、明日はエビス」と色々な種類を飲む人が一定数以上いる。しかも飲料や食料品は、地域の名前と結びつけるのがわりと一般的だ。
だが、政党の名前については、まず有権者がそれを求めていない。それゆえ、政党の名前に他の地域の名前を付けるのも異例中の異例であり、いくら「大阪の改革を全国に広めたい」と主張したところで、それを一般の人に連想してもらうのには無理があろう。
参院選立候補予定の片山氏を直撃
おおさか維新の「正念場」を占う
神戸にて開催された、おおさか維新の会の支部「兵庫維新の会」の決起大会
4月24日、2つの補選と時を同じくして、神戸にておおさか維新の会の支部である「兵庫維新の会」の決起大会が開催された。併せて橋下徹・元大阪市長の講演会も行われ、1000人以上の人で会場は埋め尽くされた。
だが、京都3区では維新が大敗。出鼻をくじかれた形になった。筆者は、夏の参院選に兵庫県選挙区から立候補する予定の片山大介氏に、今後の戦略について直接聞く機会を得た。次に紹介するのは、そのやりとりの一部だ。
――決起大会には橋下徹・前大阪市長も駆けつけた。橋下氏は今後も維新に影響力を持つのか。
片山(以下同) 維新は橋下徹氏が大阪で実現してきた改革が原点。当面、橋下徹氏は言論人として世論に直接影響を与えると思う。維新は「身を切る改革」などの改革の実現を迫る政党として、橋下氏の理念を踏襲する。
――今回の京都3区補選では厳しい審判が下された。下馬評では、兵庫県は3人区になったこともあり、維新優勢との見方が強いが、実はさほど楽な選挙ではないのでは。
そのとおり。兵庫県は、自民、公明、民進、共産、維新が3つの議席を争う激戦区。決して楽な選挙ではない。
――京都補選の敗因の1つに、大阪以外の場所で有権者が「おおさか」を受け入れにくいのでは、という意見もある。京都では17%も得票数を下げたが、兵庫県での有権者の反応は?
実際に兵庫県を回ると、兵庫では受け入れられていると感じる。兵庫は大阪の職場に通勤されている人が多いからかな、と思う。その一方で、兵庫の北部や播磨地区などは厳しいかもしれない。
――日本は二大政党時代を迎えるか。おおさか維新の会の存在意義は? 有権者に何を訴える?
自民党一党独裁はよくないが、二大政党時代は遠ざかっていると感じている。野党は常に多様な意見を反映する存在であるべきで、しがらみのない政党として維新は必要。関西に軸足を置くことで、日本を東京一極集中から東京と大阪の二輪で前進させることの重要性を訴えたい。
京都で敗北を喫した維新にとっては、「兵庫県」が「正念場」なのだ。
衆参同日選をやっている場合ではない
「万歳」は真の志を遂げた後に
ここまで、2つの補選の結果を分析しながら、「初勝利」が大きく報道されるわりには民進党がまだ手放しで喜べない現状、維新にとっての兵庫県の重要性、安倍総理が衆議院を解散できない理由について論じてきた。
「衆参同日選の方が与党にとって有利」と主張する有識者や議員もいるが、正直、これは環境分析を怠った単なる印象論に過ぎないと思う。衆議院を解散することに、自民党にとって選挙戦略上のメリットはない。
しかも、熊本で震災が起き、多くの人が被災地で苦しんでいるなか、政治は無駄な選挙や足の引っ張り合いは極力避け、超党派で震災対応に取り組むべきである。4年の任期のうち1年半しか経過していないのに、衆議院の解散総選挙に数億円という税金を使えば、それこそ非難の嵐であろう。これが、自民党が衆議院を解散できない最後の理由である。
そもそも、選挙戦略や天災の話を出さずとも、このタイミングで衆参同日選はあり得ない、というのが筆者の当初からの主張だ。原則として、国会は国の最高権力機関であり、有権者が選んだ議員を行政が一方的にクビにすることは、議会民主制を否定することになる。
ただ、唯一憲法上明確に定められた例外は、国会が内閣不信任案を議決した場合(または信任案を否決した場合)である。その場合、内閣は対抗手段として衆議院を解散することができるとされている。
だが現実の政治では、少なくとも21世紀に入ってからは、衆議院議員が4年間の任期を迎える前に与党によって行われた一方的な解散ばかり。その憲法上の根拠とされているのが、7条3項の「内閣の助言と承認により天皇が行う国事行為」である。衆議院が解散されると、議員たちは「万歳」と叫んで両手を挙げるが、「万歳」とは本来、中国で皇帝に対して使う賛辞の言葉であり、解散が天皇の行為であるが故に行われている。だが、この条項を根拠にするのは正直、屁理屈感が強いと個人的には感じている。
今はまだ万歳などしている場合ではない。与党は真摯に目の前の課題に向き合うべきときだし、民進党も足を引っ張るパフォーマンスはやめて建設的な議論を提起すべきだし、おおさか維新の会も国民政党を目指すための戦略を明確化し、地に足のついた活動をすべきときだ。
熊本の皆さんが安心した日々を取り戻してからでも、万歳は遅くない。政治家は万歳を、解散や当選の瞬間ではなく、志を遂げたときだけにしていただきたい。
http://diamond.jp/articles/-/90280
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