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大モメTPP!日本はアメリカに欺かれたのか? やっぱり「聖域」なんてなかった
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48489
2016年04月20日(水) 磯山 友幸「経済ニュースの裏側」 現代ビジネス
■石原伸晃が右往左往
TPP(環太平洋パートナーシップ協定)を承認する法案を審議している衆議院のTPP特別委員会の質疑で、TPPの実態が「聖域なき関税撤廃」であることが改めて浮き彫りになった。
民主党の玉木雄一郎議員が4月19日の委員会質疑で、コメや牛肉などいわゆる重要5品目に含まれる594の関税について、「従前通りの無傷で残ったものがいくつあるか」と質問。これに対して、「ゼロ」という答えが政府から返ってきたのだ。
特別委員会での玉木議員の質問には当初、石原伸晃・TPP担当相も森山裕農水相も答えられなかった。おそらく知らなかったからではなく、答えてよいものかとっさに判断が付かなかったのだろう。西川公也委員長から「基本的な事ですからきちんと答えてください」と答弁を促されたが、それでも答えられず、午前中の委員会審議は止まってしまった。その後、午後に再開された委員会で、森山農水相が「ゼロ」と答弁したのである。
もともとTPPは例外なき関税撤廃を目指す貿易交渉の枠組みだ。各国間の交渉が本格化したのは民主党政権時代だったが、TPP参加は日本の農業などに大打撃を与えるとして当初は参加を見送っていた。
自民党もTPPには反対の立場だったが、2012年末に政権を奪還した安倍晋三首相は、「聖域なき関税撤廃を前提とする限り反対」というスタンスを取った。もともと安倍首相自身はTPP交渉には参加すべきという意見を持っていたとされるが、自民党議員の多数がTPP反対を掲げる中、苦慮したうえでの表現だった。
というのも、この表現ならば、聖域なき関税撤廃が前提でないならば、交渉に参加できる、という読み方もできる。心中にはTPP交渉に参加することを秘めながら、いわば「方便」として打ち出した表現だったわけだ。
実際安倍氏は首相に就任すると、日米関係の改善に取り組み、就任後わずか三カ月でTPP交渉参加に舵を切った。その際に言い訳として使ったのが、バラク・オバマ大統領との間で、「聖域なき関税撤廃は前提ではない」という合意ができた、というものだった。
■オバマと組んで日本国民を騙した?
それ以来、TPP交渉では関税撤廃に聖域はあり得る、という解釈になり、重要五品目を中心に関税を守るという農林水産委員会での決議まで行われた。そこには一番目の項目としてこう書かれている。
「米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物などの農林水産物の重要品目について、引き続き再生産可能となるよう除外又は再協議の対象とすること。十年を超える期間をかけた段階的な関税撤廃も含め認めないこと」
つまり、これらについてはTPP交渉から除外するよう政府に注文を付けたのだ。これによって自民党の農林族も矛を収める格好になった。
だが、オバマ大統領との合意自体を疑う声は根強くあった。民主党政権で経済閣僚を務めた民進党のベテラン議員はこう振り返る。
「アメリカと交渉している過程で、日本の国益を考えたら到底受け入れられない要求を突き付けられていた。安倍さんに代わった途端にアメリカが聖域を認めたとは思えない」
つまり、TPP交渉に参加するために、オバマ大統領と語らって日本国民を「騙した」のではないか、というわけだ。
これまでの国会質疑でも、重要5品目の「除外と再協議」はどうなったか、という質問に対して石原大臣が、「もともとTPP交渉ではそのようなカテゴリーはない」と答弁していた。今回、死守できたものが「ゼロ」だと分かったことで、「交渉当初から、要求から捨てていた疑いも濃厚だ」(民進党議員)という疑念が生じている。
■自民党がグラつく?
政府は、「国会決議を背景に国益を背負って必死に交渉した」と繰り返し説明してきたが、実際は初めから要求などせずに「聖域なき関税撤廃」を受け入れて交渉に臨んでいたのではないか、というわけだ。
自動車など工業製品を輸出している日本にとって、TPPによる巨大な自由貿易圏の創設はプラスに働く可能性は大いにある。一方でこれまで過剰に保護されてきた農業などが、苛烈な国際競争にさらされるのは間違いない。TPP参加については民進党など野党にも賛成論者はいる。もろ手を挙げて賛成でなくても、米国を中心とする自由経済圏に背を向けて日本が自立していけるわけはないと見ている議員は少なくない。
だが、現状では、7月の参議院選挙に向けてTPP法案が「安倍内閣批判の具」になっている。TPPが日本にとって必要かどうかではなく、7月の選挙に向けてTPP批判を展開することが得策だと見ている。
聖域なき関税撤廃は前提ではない、としてきた安倍首相を「ウソつき」だと糾弾し、TPP交渉は結局は「敗北だった」として安倍内閣を批判したいわけだ。TPPが争点になれば、TPP反対派の農家や農協の批判票も期待できる。
注目すべきは、「聖域なき関税撤廃は前提ではない」という詭弁によって何とかまとまっていた自民党内がどうなるか、だ。話が違う、ということで批判が噴出し、安倍首相の足元がグラつくことになるのかどうか。そうなれば、野党にとっても願ったりかなったりの展開だろう。
もっとも就任当初の党内勢力図とは違い、安倍首相は高い内閣支持率を背景に党内基盤を着々と固めてきた。とはいえ、TPPを選挙の争点にしたくない安倍政権が、早々にTPP法案の今国会成立を断念してしまう可能性は十分にありそうだ。
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