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待機児童問題の視点
(下)保育料・新規参入自由化を
利用券配り負担軽減
鈴木亘 学習院大学教授
匿名ブログを契機に、待機児童問題への不満が再燃している。参院選の争点に浮上したことから、与野党ともに異例の早さで緊急対策を打ち出した。野党5党は保育士給与を月額5万円引き上げる「保育士処遇改善法案」を衆院に提出。一方、政府も与党の提言を受け、小規模保育や一時保育などの受け皿拡大を基本とする緊急対策を公表した。
野党案については待機児童対策というよりも、保育園・幼稚園向けの補助金バラマキが狙いといわざるを得ない。給与引き上げの対象は、待機児童が深刻な都市部だけでなく、無関係の地方部にも及ぶ。待機児童とは直接関係のない事務員や調理師、幼稚園教諭、児童養護施設職員も対象だ。
保育士給与は月額22万円で全産業平均より11万円も低いとされるが、これは私立保育園のみで計算された数字だ。認可保育園の約半分を占める公立保育園は計算に含まれない。公立保育園の正保育士は地方公務員なので、給与は全産業平均をはるかに上回る。問題の本質は、産業全体の低賃金ではなく、公立・私立間格差、正規・非正規間格差など、分配のゆがみだ。
対象は、都市部の無認可を含む私立保育園の保育士と、公立保育園の臨時保育士に限るべきだ。予算額も与党と折り合える現実的水準となる。
一方、政府の緊急対策は全く物足りない。一時保育の活用も小規模保育の定員拡大も数量的にはわずかだ。国の基準を超えるぜいたく保育の是正や、事業所内保育支援、送迎バス運行、無認可保育園の認可園化支援など、現場の知恵を数多く集めているが、一つずつが小さすぎる。
政府案が期待外れとなった理由は、予算案の国会提出後だったことに加え、根本的には保育関係予算の拡充が消費税率引き上げにひもづけられている仕組みにある。待機児童対策はいわば消費税増税の「人質」とされており、増税なしに予算拡充は難しい。
そもそもなぜ待機児童問題が起きるのか。経済学的には理由は明白で、認可保育園の保育料が安すぎるからだ。都市部の認可保育園での児童1人当たりの費用は月額15万〜20万円ほどだ(東京都のケース)。特に0歳児は高く約40万円もかかるが、親たちが実際に支払っている保育料は月額平均で2万〜3万円にすぎない。その差額はすべて自治体が公費で穴埋めしている。
保育料が安いので入園希望が殺到するが、自治体も莫大な公費負担を伴う認可保育園を次々つくれない。そのため大量の待機児童が発生し、割り当てをせざるを得ない。
この割り当ては理不尽なうえ不公平だ。各自治体ともポイント制を導入しており、生活保護世帯など貧困世帯を除き、両親ともに正社員の場合に有利となり、非正社員の場合には不利となる。非正社員の多くは無認可保育園を選ばざるを得ないが、公費の補助が乏しいためサービスの質の割に保育料が高い。図は、認可保育園を利用する親とそれ以外の親の所得分布をみたものだが、認可保育園には高所得世帯が多いことがわかる。
待機児童問題の解決策も経済学的には明らかだ。保育料を自由化し新規参入も自由化する。価格メカニズムが働き、需要に応じて供給が増えるので、割り当ては不要となる。
保育料は無認可保育園並みに高くなるが、保育園の利用者には政府が「バウチャー」という子育て利用券を配る。保育料が月額8万円に上がっても、5万円分のバウチャーを配れば、実質負担は3万円で済む。低所得世帯には特にバウチャーの金額を手厚くする。筆者の試算によれば、財源は認可保育園の公費投入を廃止すれば十分に賄える。
また、親たちはこのバウチャーを使って自分の好きな保育園を選べる。無認可保育園は親たちに選ばれようと必死にサービス水準を高める。認可保育園は高コスト体質を改めようと必死に経営努力する。公費の使い方として、極めて公平で効率的だ。
しかしこの経済学の改革案には業界団体が猛反対している。既得権が奪われるからだ。岩盤規制を突破するのは政治的に極めて難しいだろう。
そこで以下では現行制度の範囲内で、消費税率を上げなくてもすぐに実行できる提案をする。もちろん待機児童が深刻な都市部限定の施策だ。具体的には、国家戦略特区を活用するのが現実的だろう。
第1に保育士資格者割合の緩和だ。現在、認可保育園の保育士は全員、合格率1〜2割という難関の国家試験に合格するなどして保育士資格を有する必要がある。保育士不足が深刻化する中で、この規制は厳しすぎる。現に同じ認可園である小規模保育(B型)では、資格者割合は5割でよく、残りは一定の研修を経た子育て支援員などが担っている。東京都認証保育所も昔から資格者割合は6割だが、特に問題は生じていない。
認可保育園についても都市部に限り資格者割合を6割とする。それだけで定員も新設園も大幅に増やせる。余った公立保育園の資格者には、自治体が従前の給与を保証したうえで新設園に出向させる。無資格者を含む保育従事者数を今よりも1割増やせば、親たちも安心できるだろう。
第2に育休給付金の緩和だ。0歳児保育にかかる費用は極端に高い。1歳児以上に比べ2倍以上の保育士を配置する必要があるからだ。親が育児休業を利用し1歳児になるまで育てれば、その分、大幅に保育園定員を増やせる。
そのために育休給付金の給付基準を緩和し、正社員と非正社員が分け隔てなく使えるようにする。財源は雇用保険なので、消費税とのひも付けを回避できる。また雇用保険の積立金は現在、過去最高の6兆円を超える状況だから、財源の確保も容易だ。
ただ問題は、認可保育園の割当枠が多い0歳児のうちに親たちが無理に入園させようとすることだ。そこでたとえ0歳児で入園しても、1歳児になれば新しく割り当ての審査をし直す仕組みに改める。むしろ0歳児を家庭で育てた方がポイントを高くする。0歳児の保育料も費用を反映して、今よりも引き上げる。
第3に無認可保育に対するバウチャーだ。高コストの認可保育園が簡単に増やせない現状を考えると、東京都認証保育所のような一定の質が確保された無認可保育園を増やす方が現実的だ。現在、東京都内の自治体の多くは、無認可保育園利用者に対する助成制度を持つが、これは一種のバウチャーである。
この無認可保育園バウチャーの金額を国が補助して増やす。これは一種の景気対策でもあるから、補正予算を使う名目が立つ。無認可保育園の採算性が高まれば、実施主体は株式会社やNPO法人なので、すぐに供給が増える。その際、バウチャーを使える施設の条件として、一定の質基準をクリアすることを求めれば、劣悪施設対策にもなる。
第4に高所得者の保育料の引き上げだ。低所得者はともかく、高所得者については保育料を引き上げるべきだ。国の基準では年収1130万円以上の世帯には月額約10万円の保育料を課すことになっているが、自治体が独自に保育料を大幅軽減している。国が予算上のペナルティーを課して是正を迫るべきだ。高所得者の保育料が高くなれば、認可保育園ではなく、教育内容を充実させた高級保育園に移る可能性がある。その分、待機児童数は減少するだろう。
〈ポイント〉
○消費増税なしに保育関係予算拡充難しい
○認可保育園の保育料が安すぎるのが問題
○高所得者については保育料を引き上げよ
すずき・わたる 70年生まれ。上智大卒、大阪大博士。専門は社会保障論、医療経済学
[日経新聞4月15日朝刊P.27]
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